医療

医療事業者様向け情報(経営)6月号①

電話・オンライン診療、特例措置から 1 年

新型コロナウイルス感染症の拡大防止に関する特例措置として、初診からの電話による診療やオンライン診療が時限的に認められています。開始から 1 年。厚生労働省が 3 ヶ月毎に実施している調査※1より、実施状況を探ります。

初診から実施可能 15%、実施報告数 1%

初診から電話やオンラインによる診療を実施できる、として登録した医療機関数は、今年1 月末時点で 7,089 でした。これは、全医療機関数 110,898※2(以下、全体)に対して、6%程
度の数です。
また、実施報告をした医療機関数は、昨年 4月~12 月のうち、5 月の 1,313 と 7 月の 962 を除き、600~700 前後で推移しています。これは全体の 0.6%前後に相当します。
なお、実施報告件数の大半が電話診療です。

利用者は 10 歳以下とサラリーマン世代

受診者の年齢階層別の割合をみると、10 月~12 月の受診者のうち最も割合が高いのは、電話診療、オンライン診療ともに 0~10 歳で、電話診療が 38.6%、オンライン診療が 42.0%です。
電話診療は11~20歳の14.7%が次いで高く、20 歳以下で過半数を占める結果となりました。
他方、オンライン診療は 31~40 歳の 16.8%が次いで高く、21~30 歳の 13.2%や、41~50歳の 11.1%を加えると 41.1%と、労働者中心の年齢層(21~50 歳)での利用も多い、という結果となりました。この労働者中心の年齢層は、電話診療でも利用が多く、33.4%ありました。
なお、61 歳以上は、電話診療 7.8%、オンライン診療 4.9%でした。高齢者の利用がほとんど見られない結果となっています。

対応は「薬剤の処方+自宅待機」が大半

この特例措置は、対面による診療が必要と判断される場合は、速やかに対面診療に移行することを要件としています。他方で、報告された医師の対応方針の大半が、薬剤を処方して自宅
待機させるものでした。この傾向について、疾患による対応の差はほぼ見られません。
特例措置は「感染が収束するまでの間」とされていますが、継続も検討されています。今後の展開にもご注目ください。

(※1)厚生労働省 オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会資料「令和 2 年 10 月~12 月の電話診療・オンライン診療の実績の検証の結果」https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000759845.pdf
(※2)医療施設動態調査(2020 年 4 月末概数)における病院及び一般診療所の合計数

 

(次号に続く)

医療事業所様向け情報(労務)6月号④

改定されたテレワークガイドライン

新型コロナウイルス感染症対策のため、テレワークを導入する企業が急増し、更なる感染拡大により、今後も導入を予定する企業は多いのではないかと思います。厚生労働省では、新たな日常・生活様式に対応する一層良質なテレワークの導入・運用を推進することを目的としてテレワークに関するガイドラインを改定し、2021年3月に公開しました。このテレワークガイドラインでとり上げられている労務管理上の留意点の中から、テレワークにおける人事評価制度とテレワークに要する費用負担の取扱いについて紹介します。

1.テレワークにおける人事評価制度

テレワークは非対面の働き方であるため、個々の従業員の業務遂行状況や、成果を生み出す過程で発揮される能力を把握しづらい側面があるとの指摘があります。そのため、企業が従業員に対してどのような働きを求め、どう処遇に反映するかといった観点から人事評価を実施することが基本となります。

具体的には、上司が部下に期待する役割やその達成水準等をあらかじめ具体的に示し、必要に応じてその達成状況について上司と部下が共通の認識を持つための機会を設けるなど、非対面の働き方において適正な評価を実施できるように、人事評価者訓練を実施する等の工夫が考えられます。

2.テレワークに要する費用負担の取扱い

テレワークを行うことによって、通信費や電気料金などの面で、従業員に過度の負担が生じることは望ましくありません。企業ごとの業務内容、物品の貸与状況等によって費用負担の取扱いは様々であり、労使のどちらがどのように負担するか等についてはあらかじめ労使で十分に話し合い、企業ごとの状況に応じたルールを定め、就業規則等で規定しておくことが望まれます。

また、従業員自身が契約した電話回線等を用いて業務を行わせ、通話料、インターネット利用料などの通信費が増加する場合や、従業員の自宅の電気料金等が増加する場合、実際の費用のうち業務に要した実費の金額を在宅勤務の実態を踏まえて合理的・客観的に計算し、支給することも考えられます。これに関連して、費用負担等に関する源泉所得税の課税関係については、国税庁から「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」が出ています。

日本年金機構の「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」が変更され、在宅勤務・テレワーク時の交通費や在宅勤務手当の社会保険の取扱いが示されました。この事例集によると、テレワークを実施するために必要となる費用を従業員に支払う場合には、社会保険の対象となる報酬等には含まないものの、在宅勤務手当として、例えば毎月5,000円を渡し切りで支給する場合には報酬等に含むとしています。支給方法によって取扱いが変わるなど複雑な内容となっていますので、不明点等は、弊所までお問い合わせください。

(次号に続く)

新型コロナウイルス感染症に係る 介護サービス事業所の人員基準等の 臨時的な取扱いについて

「在宅高齢者のワクチン接種、経過観察は訪問介護も担うことが可能」

・・・・

厚労省からの発出情報の概要です。

関心をお持ちの皆様は、下記をご確認下さい.

https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2021/0609091742699/ksvol.990.pdf

医療事業所様向け情報(労務)6月号③

従業員から無期転換の申込があった場合の対応

このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。

総務部長

先日、パートさんの1人から期間の定めのない契約に変更して欲しいという希望がありました。変更しなければならないのでしょうか。

社労士

そのパートタイマーの方との契約はどのようになっていますか。

総務部長

1年ごとの契約にしており、確か10年位、働いてもらっています。

社労士

なるほど。すでに長く雇用されており、今回、無期転換の申込をしてきたのですね。無期転換の概要を説明すると、①有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときに、②従業員が申込むことにより、③無期労働契約(期間の定めのない労働契約)に転換できるというものです。今回申込があったパートタイマーの方は、いずれの要件にも該当していると思いますので、労働契約を無期にする必要があります。

総務部長

そうなのですね。契約更新の時期は毎年4月ですが、いますぐ無期契約に変更する必要があるのでしょうか。

社労士

いいえ。いまの有期労働契約は有効ですので、その内容を変更する必要はありません。次の労働契約から無期労働契約に変更することになります。

総務部長

それでは来年4月の契約時に無期契約に変更すればよいのですね。ちなみに、パートさんからの申込は口頭だったのですが、書面を提出してもらう必要がありますか。

社労士

従業員からの申込や会社の通知を書面で行う義務はありません。ただし厚生労働省は、トラブル防止のためにも「無期労働契約転換申込書」や「無期労働契約転換申込み受理通知書」のひな型を公開し、書面でやり取りすることが望ましいとしています。

総務部長

なるほど。今後、申込が増える可能性もあるので、書面を準備することにします。その他、何か注意点はありますか。

社労士

無期転換した従業員に適用する就業規則の整備が必要になります。パートタイマー就業規則は有期労働契約のパートタイマーの方にのみ適用となっていることもあるので、そのようなときは無期転換したパートタイマーの方に適用する就業規則を定めるとともに、特に定年の定めの部分をしっかり確認する必要があります。

総務部長

ありがとうございます。一度、確認してみます。

【ワンポイントアドバイス】

  1. 有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときに、従業員からの申込により、無期労働契約に転換する。
  2. 無期労働契約への変更は、申込時点の有期労働契約が満了した日の翌日から行われる。
  3. 無期転換の申込や受理の通知は書面で行うことが望ましい。

(次号に続く)

医療事業者様向け情報(労務)6月号②

新型コロナの小学校休業に係る休暇・妊婦の母性健康管理の休暇に対する助成金

昨年、新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」という)の感染拡大により設けられた小学校等の休業等に対応する助成金と、妊娠中の女性従業員の母性保護に対応する助成金は、職業生活と家庭生活が両立できる職場環境づくりのための「両立支援等助成金」として、再度整理されました。以下でその内容を確認します。

1.小学校等の臨時休業等に対応する助成金

小学校等が臨時休業等になることで、子どもの世話のために会社を休まざるを得ない従業員がいます。これに係る助成金は、育児休業等支援コースの中で「新型コロナウイルス感染症対応特例」として設けられました。

主な要件は、以下のとおりであり、対象従業員1人あたり5万円で、1事業主あたり10人まで支給されます。

①次のいずれも実施していること

  • 小学校等が臨時休業等になり、それに伴い子どもの世話を行う必要がある従業員が取得できる特別有給休暇制度(賃金が全額支払われるもの)を、就業規則等に規定している
  • 小学校等が臨時休業等した場合でも勤務できる両立支援の仕組み(※)を社内に周知している

※テレワーク勤務/短時間勤務制度/フレックスタイムの制度/始業または終業の時刻を繰り上げまたは繰り下げる制度(時差出勤の制度)/ベビーシッター費用補助制度等のいずれか

②従業員1人につき、特別有給休暇を4時間以上取得させていること

2.妊婦の休暇取得支援のための助成金

妊娠中の女性従業員に対し、新型コロナに関する母性健康管理措置として休暇を取得させるときは、「新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援コース」に基づき助成金が支給されます。

具体的には以下のa.~c.のすべての条件を満たした事業主が支給対象となります。

  1. 新型コロナに関する母性健康管理措置として、医師等の指導により、休業が必要とされた妊娠中の女性従業員が取得できる有給(年次有給休暇で支払われる賃金相当額の6割以上)の休暇制度を年次有給休暇とは別に整備していること
  2. a.の有給休暇制度を新型コロナに関する母性健康管理措置の内容とあわせて従業員に周知していること
  3. 2020年5月7日から2022年1月31日までの間にa.の有給休暇を合計して20日以上取得させたこと

支給額は対象従業員1人当たり28.5万円で、1事業所(雇用保険の適用事業所)当たり5人までとされています。

更に、2.に関連する助成金として、「新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇制度導入助成金」が設けられています。これは2.と同様の母性健康管理措置として有給休暇制度の整備等を行い、2021年4月1日から2022年1月31日までの間に合計して5日以上の休暇を取得させた場合に対象となります。支給額は1事業場(労災保険の適用事業場)につき1回限り15万円であり、2.と併給することが可能です。

(次号に続く)

医療事業所様向け情報(労務)6月号①

5月から変更された雇用調整助成金の特例措置等

新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」という)の感染拡大により、雇用調整助成金に特例措置が設けられ、これまで多くの申請が行われてきました。現状でも一部地域で緊急事態宣言が発出されるなど、未だ新型コロナの感染拡大が収束する見通しは立ちませんが、5月からは雇用調整助成金の原則的な措置の縮減が行われる一方、感染が拡大している地域、特に業況が厳しい企業等についての特例が設けられました。

1.助成額と助成率の見直し

新型コロナの影響に伴う雇用調整助成金の特例は、2021年5月および6月について、①全国の原則的な措置、②地域特例(まん延防止等重点措置対象地域の知事による基本的対処方針に沿った要請を受けて、一定の営業時間の短縮等に協力する飲食店等の事業所)の措置、③業況特例(生産指標が前年または前々年の同期と比べ、最近3ヶ月の月平均値で30%以上減少した全国の事業所)の措置、の3つに分かれます。②③については2021年4月までの特例が、2021年5月および6月にも適用されることになりますが、①については、雇用調整助成金等の1人1日あたりの助成額の上限が13,500円に、事業主が解雇等を行わず、雇用を維持した場合の中小企業の助成率が9/10に引き下げられました(右表参照)。

なお、緊急事態宣言が発令された地域では、厚生労働省令の改正等が行われ、特例措置が設けられる予定です。

2.対象者と支給上限日数の見直し

1.のほか、支給対象者と支給上限日数について、以下の見直しが行われました。

  • 継続して雇用された期間が6ヶ月未満の雇用保険被保険者についても助成の対象者とすること等について、雇用調整助成金の対象期間の初日が2020年1月24日から2021年6月30日までの間にある場合に変更する。
  • 新型コロナの影響による休業等について、雇用調整助成金に係る支給上限日数に加えて支給を受けることができること等とする期間を、2020年4月1日から2021年6月30日までに変更する。

2021年3月25日の厚生労働省の発表によると、7月以降については雇用情勢が大きく悪化しない限り、1.の措置についても、それぞれさらに縮減される予定です。新型コロナの感染状況とともに、雇用調整助成金の情報についても確認することが求められます。(2021年5月6日現在の情報に基づき作成しています。)

(次号に続く)

(厚労省)介護記録の電子化・効率化を 規制改革会議 働き方の転換を強く要請

政府の規制改革推進会議は1日、日本のデジタル化の遅れを取り戻すことを柱に据えた今年度の答申をまとめ、菅義偉首相に具体化を要請した。

介護分野では現場の生産性向上、働き方の転換が不可欠と改めて指摘。職員が担う介護記録の作成・保存、それに基づく報酬請求事務の電子化を進めるべきと強く求めた。あわせて、行政へ提出する書類の簡素化、標準化、オンライン化も加速させるよう訴えた。

多くの現場でペーパーワークが重い負担になっている実態がある、と重ねて問題を提起。今後の働き手の減少、介護ニーズの増大を念頭に、「職員が必要な対人サービスに専心できる環境を早期に構築すべき」と強調した。

厚生労働省の現在の取り組みについては、「道半ば」と厳しく評価。事業所の指定申請・報酬請求の手続きをWebで一元的に行える新システムの構築などを急ぐよう注文した。

今回の答申ではこのほか、ICTやロボット、AIなどの活用を介護現場で幅広く普及させる観点から、引き続き報酬上の評価の見直しを検討すべきと提言。事業所間のケアプランの電子的な送付・保存を可能とする「ケアプランデータ連携システム」の運用を、できるだけ早く始めることも要請した。(介護ニュースより)

【厚労省発表】介護現場へ専門家を派遣して実地研修を行ってもらう 取り組み

介護現場へ専門家を派遣して実地研修を行ってもらう

取り組みについて、厚生労働省は531日、

 参加する施設・事業所の2次募集を開始しました。

 

希望日は71日から1224日までの間で選択可能、

 受け付け上限は200事業所ほどだとのこと。

 関心をお持ちの皆様は、下記をご確認下さい。

 

https://www.mhlw.go.jp/content/000786022.pdf

2021年5月に公表された「財政健全化に向けた建議」 介護事業に関わる内容を確認しておきましょう

骨太方針2021(仮称)を睨み、財政制度分科会(財務省)が建議を公表
今後の社会保障改革を睨み、“国の金庫番”とも呼べる財務省が介護業界に向けた改革論点の叩きをあらためて示したのが2021年4月15日(財政制度分科会にて)。その後、議論が更に精緻化される中、国の航海羅針盤とも表現できる“骨太方針2021(仮称)”への反映を念頭・目標に、財務省から正式な建議(正式名称:財政健全化に向けた建議)が5月21日に公表されました。今月のニュースレターでは、同省が作成した建議資料の中で特に介護事業者に関連するであろう9個の論点について確認してまいります。

「財政健全化に向けた建議」示された論点とは
では、早速、中身に移ってまいりましょう。ここでは本資料で示された資料を一気に紹介する形で進めてまいります。尚、重要と思われる部分には下線を引いておりますので、併せて是非、ご確認いただければ幸いです。

ア)利用者負担の見直し

介護保険制度の持続可能性を確保するため、利用者負担の更なる見直しといった介護保険給付範囲の見直しに取り組む必要がある。

利用者負担については、2割・3割負担の導入を進めてきたが、今般の後期高齢者医療における患者負担割合の見直しを踏まえ、令和6年度(2024年度)に開始する第9期介護保険事業計画期間からの実施に向けて、サービスの利用者負担を原則2割とすることや2割負担の対象範囲の拡大を図ることを検討していく必要がある。

イ)介護人材確保の取組と ICT 化等による生産性向上

今後、高齢化による介護需要の増加により、生産年齢人口が減少する中で、介護人材は増加が求められる。こうした中で、新型コロナの影響による離職者の介護分野への職業転換施策を一層強化し介護人材確保のための取組を進めるとともに、サービスの質を確保しつつ、より少ない労働力でサービスが提供できるよう、配置基準の緩和等も行いながら、業務の ICT 化等による業務効率化を進めていく必要がある。

また、介護サービスの経営主体は小規模な法人が多いことを踏まえ、令和4年(2022年)6月までに施行される社会福祉連携推進法人制度の積極的な活用を促すなど、経営主体の統合・再編等による介護事業所・施設の運営効率化を促す施策もあわせて講じていく必要がある。

こうした取組は、介護職員の働きやすい職場を実現するとともに、介護職員の処遇改善の余地をもたらす。今後、我が国において就業者数の大幅な減少が見込まれる中、介護サービスを安定的に提供していくために必要不可欠な取組である。

ウ)ケアマネジメントの在り方の見直し

居宅介護支援(ケアマネジメント)については、要介護者等が積極的にサービスを利用できるようにする観点から、利用者負担をとらない例外的取扱いがなされてきた。

しかしながら、介護保険制度創設から約20年が経ち、サービス利用が定着し、他のサービスでは利用者負担があることも踏まえれば、利用者負担を導入することは当然である。

そもそも、制度創設時、ケアプラン作成は「高齢者の自立を支援し、適切なサービスを確保するため、そのニーズを適切に把握したうえで、ケアプランを作成し、実際のサービス利用につなぐもの」とされていたが、その趣旨にそぐわない実情も見られる。具体的には、ケアマネ(居宅介護支援)事業所の約9割が他の介護サービス事業所に併設しており、「法人・上司からの圧力により、自法人のサービス利用を求められた」という経験を見聞きしたケアマネジャーが約4割いるなど、サービス提供に公正中立性の問題が存在することが窺うかがえる。さらに、ケアマネジャーは、インフォーマルサービスだけでなく、介護保険サービスをケアプランに入れなければ報酬を受け取れないため、「介護報酬算定のため、必要のない福祉用具貸与等によりプランを作成した」ケアマネジャーが一定数いることが確認されている。

利用者が自己負担を通じてケアプランに関心を持つ仕組みとすることは、ケアマネジャーのサービスのチェックと質の向上にも資することから、令和6年度(2024年度)に開始する第9期介護保険事業計画期間から、ケアマネジメントに利用者負担を導入すべきである。また、福祉用具の貸与のみを行うケースについては報酬の引下げを行うなどサービスの内容に応じた報酬体系とすることも、あわせて令和6年度(2024年度)報酬改定において実現すべきである。

エ)多床室の室料負担の見直し

制度創設時から、「施設介護については、在宅介護とのバランスや高齢者の自立が図られてきている状況から見て、食費等日常生活費は、利用者本人の負担とすることが考えられる」とされていた。

このため、平成 17 年度(2005 年度)に、食費と個室の居住費(室料及び光熱水費)を介護保険給付の対象外とする見直しを実施(多床室は食費と光熱水費のみ給付対象外)し、平成 27 年度(2015 年度)に、特養老人ホームの多床室の室料負担を基本サービス費から除く見直しを行った。しかしながら、介護老人保健施設・介護医療院・介護療養病床の多床室については、室料相当分が介護保険給付の基本サービス費に含まれたままとなっている。

居宅と施設の公平性を確保し、どの施設であっても公平な居住費(室料及び光熱水費)を求めていく観点から、令和6年度(2024年度)に開始する第9期介護保険事業計画期間から、給付対象となっている室料相当額について基本サービス費等から除外する見直しを行うべきである。

オ)地域支援事業(介護予防・日常生活支援総合事業)の在り方の見直し

地域支援事業の介護予防・日常生活支援総合事業は、保険者である各市町村が高齢者の伸び率を勘案した事業費の上限内で事業を実施し、その枠内で交付金を措置する仕組みとしているが、厚生労働省が定めるガイドライン上、「一定の特殊事情」がある場合には、個別の判断により事業費が上限を超えても交付金の措置を認めることとされている。

「一定の特殊事情」の判断要件は、「費用の伸びが一時的に高くなるが、住民主体の取組等が確実に促進され費用の伸びが低減していく見込みである場合」とされているが、相当数の保険者が3年連続で上限を超過している。また、「介護予防に効果的なプログラムを新たに導入する場合」をはじめ、当該要件を充足する場合として例示されているケースも、エビデンスに基づくものとは言い難い。さらに、判断要件が例示にとどまり、例示以外の理由での申請も認めていることから、単なる事業量や利用者数の増加等を理由とした申請が相当数行われ、「一定の特殊事情」とは認めがたい申請も含めてすべての上限超過が認められている

上限が機能せず、形骸化しており、重要な制度改革の根幹がこのような運用となっていることは看過できない問題であり、速やかに上限超過を厳しく抑制すべきである。

カ)区分支給限度額の在り方の見直し

介護サービスは生活に密接に関連し利用に歯止めが利きにくいこと等から、制度創設時に、「高齢者は介護の必要度に応じて設定された介護給付額の範囲内で、自らの判断と選択により実際に利用したサービスについて保険給付を受けることができることとすることが適当である」とされ、要介護度ごとに区分支給限度額が設定された。

しかしながら、制度創設以降、様々な政策上の配慮を理由に、区分支給限度額の対象外に位置付けられている加算が増加している。

制度創設時に企図したように、設定された限度額の範囲内で給付を受けることを徹底すべきであり、令和6年度(2024年度)に開始する第9期介護保険事業計画期間に向けて、特に生活と密接に関連している度合が高いと考えられる、居宅における生活の継続の支援を目的とした加算をはじめ、加算の区分支給限度額の例外措置を見直すべきである。

キ)居宅サービスについての保険者等の関与の在り方

居宅サービスについては、制度創設以来、事業所数が大きく増加している。また、居宅サービスが充実する中で、訪問介護や通所介護の1人当たり給付費が、全国平均と比べて極めて高い水準となっている地域もある。

こうした中、市町村が地域のサービス供給量をコントロールするための方策として、都道府県が指定権者である居宅サービスのうち、訪問介護・通所介護・短期入所生活介護について、市町村が、都道府県に事前協議を申し入れ、その協議結果に基づき、都道府県が指定拒否等を行う枠組み(いわゆる「市町村協議制」)がある。しかしながら、あくまで定期巡回サービス等を普及させる観点から、事前協議を申し入れ、競合する訪問介護等の一部サービスを指定拒否できることとされる扱いに留まっている。同様に、市町村が指定権者である地域密着型通所介護についても、あくまで定期巡回サービス等を普及させる観点から指定拒否ができることとされている。

一方で、定期巡回サービス等は創設から約10年以上経過し、サービスの普及が進んでいる。こうした点も踏まえ、全サービスの居宅サービス事業者及び地域密着型通所介護の指定に取り組む必要がある。定期巡回サービス等の普及の観点にかかわらず、サービス見込み量を超えた場合に、市町村が都道府県への事前協議の申し入れや指定拒否ができるようにし、保険者である市町村が実際のニーズに合わせて端的に地域のサービス供給量をコントロールできるようにすべきである。また、都道府県及び市町村がより積極的に制度を活用できるよう、国はガイドラインや取組例の発出等の支援を速やかに行うべきである。

ク)軽度者に対する居宅療養管理指導サービス等の給付の適正化

近年、居宅療養管理指導・訪問看護・訪問リハビリテーションといった医療系の居宅系サービス費用が、総費用や要介護者数の伸びを大きく上回って増加している。

居宅療養管理指導等のサービスは、原則、「通院が困難な利用者」に対して給付することとされているが、軽度者(要支援1・2、要介護1・2)の費用の伸びが顕著な状況であり、実態として「通院が困難な利用者」以外にもサービスが提供されていないか、速やかに把握を行う必要がある。

例えば、居宅療養管理指導については、薬局の薬剤師による軽度者へのサービス費用が大きく増加している。「必要以上に居宅療養管理指導を利用するプランを作成した」ケアマネジャーが一定数いることが確認されており、「少なくとも独歩で家族・介助者等の助けを借りずに通院ができる者などは、居宅療養管理指導費は算定できない」と算定要件が明確化されたことも踏まえ、算定要件を満たす請求のみが適切に行われるようにすべきである。

ケ)介護サービス事業者の経営状況の把握

介護及び障害福祉サービス等事業者は、法令上、サービス提供内容等の運営情報について都道府県に報告を行い、都道府県は、厚生労働省が設置する「介護サービス情報公表システム」及び「障害福祉サービス等情報検索」で報告を受けた内容を公表することとされている。このうち、障害福祉サービス等については、すべての法人について、「事業所等の財務状況」の都道府県への報告及び「障害福祉サービス等情報検索」における公表が法令上義務化されている一方で、介護サービスについては、法令上何ら規定がなく、公表が義務化されていない。

このため、介護サービスについても法令改正を行い、損益計算書をはじめとする事業報告書等の報告・公表を義務化し、介護サービス事業者の経営状況の「見える化」を速やかに推進すべきである。

また、障害福祉サービス等については、法令上、報告・公表が義務化されているにもかかわらず、「障害福祉サービス等情報検索」での財務状況の公表が低調であるため、法令に従い、財務状況を公表するように徹底すべきである。

 

 

国策の“風”を読み取り、早め早めの準備を
以上、「財政健全化に向けた建議」より、介護事業者に直接関係のある部分から論点を幾つか抜粋してお伝えさせていただきました。本内容は国全体の方針ではなく、あくまで「財務省」という一省庁の視点に基づいた建議である、ということはしっかり認識しておく必要はあろうかと思いますが、それでも「財政健全化」が叫ばれる我が国としては、財務省の挙げる声に一定の重みがあることも否めない事実だと思われます。
事業者としては上記内容を踏まえつつ、「もしこれらの施策が実行された場合にどう対応するか?」について事前に頭を働かせておくことが重要だと言えるでしょう。私たちも今後、引き続き、本テーマを含め、より有益な情報や事例を入手出来次第、皆様に向けて発信してまいります。
※上記内容の参照先URLはこちら↓

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia20210521/01.pdf

介護の利用者負担、原則2割に 財政審が報告書 ケアプラン有料化も

財務省の「財政制度等審議会」は21日、財政健全化に向けた施策を提言する報告書(建議)を麻生太郎大臣に提出した。政府が来月にも閣議決定する今年度の「骨太方針」に反映するよう求めている。

介護分野では利用者の自己負担に言及。現行では全体のおよそ90%の利用者が1割負担となっているが、これを"原則2割負担"へ改めていくよう注文した。あわせて、居宅介護支援のケアマネジメントでも自己負担を徴収すべき(現行は10割給付)と主張した。次の2024年度の制度改正をめぐる大きな焦点となる見通し。

財政健全化に向けた建議

こうした提言は、これから高齢化が更に加速していくことを念頭に置いたもの。財務省は膨らみ続ける給付費をなるべく抑制したい考えだ。保険料の上げ幅を小さく留め、現役世代の負担の軽減につなげる狙いもある。報告書には、「制度の持続可能性を確保するためには、給付範囲の見直しに取り組む必要がある」と明記した。

居宅のケアマネジメントについては、「制度創設から約20年が経ちサービスが定着した。他のサービスに自己負担があることも踏まえれば自己負担の導入は当然」と持論を展開。「利用者は自己負担を通じてケアプランに関心を持つ。ケアマネジャーのサービスのチェックと質の向上にも資する」とも指摘した。(介護ニュースJOINT)

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