医療

医療事業者様向け情報(経営)10月号②

今年の医療機関等の賃金改定状況

ここ数年、賃金の引上げを実施する企業が多くなっていますが、医療機関等の状況は
どうなのでしょうか。ここでは今年7 月に厚生労働省が発表した資料※から、医療機関等の
賃金改定状況をみていきます。

賃金引上げ事業所割合は60%を超える

平成30 年1~6 月に賃金引上げを実施した事業所(以下、引上げ事業所)割合は60.3%と
なりました。産業計よりも15.5 ポイント高い割合です。ただし29 年よりは7.1 ポイント
減少しました。
賃金引下げを実施した事業所(以下、引下げ事業所)割合は0.3%で、産業計よりも
0.2 ポイント少なくなりました。また、29 年よりも0.3ポイント減少しました。
賃金改定を実施しない事業所割合は24.8%で、産業計より12.9 ポイント少なくなっています。
ただし、29 年よりも6.0 ポイント増加しています。

賃金引上げ事業所の改定率は2.5%に

30 年の改定率は引上げ事業所が2.5%、引下げ事業所は-2.6%となりました。
産業計の改定率は引上げ事業所が2.7%、引下げ事業所が-5.5%なので、引上げ事業所は
0.2 ポイント低い一方で、引下げ事業所は2.9 ポイント下げ幅が小さくなりました。
なお、1 時間当たり賃金額は、医療,福祉の一般労働者(以下、一般)が1,518 円、
パートタイム労働者(以下、パート)が1,318 円となっています。
産業計は一般が1,621 円、パートが1,085 円ですので、一般は全体の平均よりも低く、
パートは平均よりも高いという結果になりました。
医療,福祉では、引上げ事業所割合が低下し、賃金改定を実施しない事業所割合が
高まっています。
毎年賃金引上げを行うことが難しい医療機関等で、今年は賃金改定を実施しない
ところが多くなっていることがうかがえます。

※厚生労働省「平成30 年賃金改定状況調査」
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000331611.pdf

医療事業者様向け情報(経営)10月号①

10 月から始まる改定項目に注目

4 月に行われた平成30 年度診療報酬改定。一部は経過措置等により10 月1 日
からのスタートとなります。中でも歯科の新施設基準は、注意を要する重要
項目。5 月号でも概要をご紹介しましたが、今号にて改めて確認しましょう。

歯科院内感染防止のための新施設基準

歯科診療は、日常的に唾液や血液等に触れるため、今回の改定では院内感染防止対策を
強く推し進める方針が打ち出されました。これにより創設されたのが、新しい施設基準です。
これに伴って歯科の初診料と再診料の引上げも行われました。適用されるのは、上述の
施設基準を満たしていることを届出た施設のみです。
未届の場合、10 月1 日以降、初診料、再診料の点数が大幅に下がることとなります。
なお、既に歯科外来診療環境体制加算(以下、外来環)を届出済の施設についても、
10 月1 日以降も外来環を算定するには、施設基準の届出を行うとともに、再度外来環の
届出を行う必要があります。

急性期一般入院基本料の入院料も

上記のほか、急性期一般入院基本料を届出ている病棟における急性期一般入院料2~6 の
変更の届出の様式の簡略化も、10月1 日から開始となります。
改定は一般に4 月1日から実施されますが、中にはここでご紹介したような例外も
あります。
適用開始時期、手続きの期限にはご留意ください。

(次号に続く)

医療事業者様向け情報(労務)10月号④

入院などで医療費が高額になるときに利用できる限度額適用認定

このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社会保険労務士と その顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。

総務部長:昨日、従業員から「今度、家族が大きな手術をすることになったので、
     医療費負担が高額になりそうです」という相談がありました。
     何かその負担を軽減するよい方法はありませんか。
社労士 :まずは、健康保険の高額療養費ですね。ご家族の年齢や従業員の方の
     標準報酬月額によっても異なりますが、一定の自己負担限度額を超える分は、
     高額療養費の申請をすることで後日、払い戻されます。
総務部長:やはりそうですよね。私も高額療養費の説明をしたのですが、毎月、住宅ローンを
     払っている関係で、一時的にでも医療費を立て替えることに負担を感じるとのこと
     でした。
社労士 :確かに高額療養費の払い戻しは、医療機関等から提出される診療報酬明細書
     (レセプト)の審査を経て行われるため、診療を受けた月から3ヶ月以上
     かかってしまい、その間、立て替える必要があります。ですので、今回のように
     事前に高額療養費に該当するような医療費がかかることが分かっているのであれば、
     限度額適用認定証の発行の手続きをするとよいでしょう。
総務部長:限度額適用認定証ですか?
社労士 :はい。これは、あらかじめ保険者に限度額適用認定証を発行してもらい、
     医療機関の窓口に提示することで、医療機関ごとに1ヶ月の支払額を
     自己負担限度額までとしてもらうことができる制度です。
総務部長:なるほど。自己負担限度額まではいずれにしても支払う必要がありますが、
     それを超える部分の医療費を立て替える必要がなくなるということですね。
     早速、手続きを進めようと思いますが、どのような流れになりますか。
社労士 :限度額適用認定証の申請書を保険者に提出すると、1週間程度で指定した場所に
     限度額適用認定証が届きます。これを医療機関の窓口で提示することになります。
     なお、限度額適用認定証は最長1年間(※)が有効期間となりますが、
     申請書に1年以内の療養予定の期間を記入することになっており、申請月の初日から、
     申請書に記入した期間が有効期間となります。
総務部長:承知しました。それでは早速、説明して手配することにします。
社労士 :そうですね。なお、申請書には会社の証明はありませんので、従業員の方が直接、
     保険者に申請することも可能ですし、自宅以外の場所を送付希望先(※)として
     指定することもできますので、できるだけスムーズな発行ができる手順を考えると
     よいでしょう。
総務部長:ありがとうございました。

【ワンポイントアドバイス】
1. 医療費が高額になるときは、限度額適用認定証を発行することで、医療機関の窓口での
 支払いを自己負担限度額までにすることができる。
2. 限度額適用認定証は最長1年間の有効期間が設けられている(※)。
3. 限度額適用認定証は従業員が希望する場所に送付される(※)。
(※)保険者が健康保険組合の場合には健康保険組合の定めによる。

(11月号に続く)

医療事業者様向け情報(労務)10月号③

労働時間を自己申告制で把握する際の注意点

来春の法改正により、年間720時間以下、単月で100時間未満などを内容とする
時間外労働の上限規制が行われます(中小企業は1年遅れの2020年4月より適用)。
これに向けて時間外労働の多い企業は、時間外労働を減らす取組みが必要となり、
併せて労働時間を適正に把握する方法が重要になります。そこで、今回は労働時
間を自己申告制で把握する際の注意点を確認しておきます。

1.労働基準監督署の指摘事項

2017年度に長時間労働が疑われる事業場に対して実施された労働基準監督署による
監督指導の実施結果を見てみると、指導事項として「実態調査の実施」が挙げられています。
この実態調査の実施とは、2017年1月20日に策定された「労働時間の適正な把握のために
使用者が講ずべき措置に関するカイドライン」(以下、「ガイドライン」という)の
4(3)ウ・エのことで、以下の内容になります。
ウ自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、
必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かる
データを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで
分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、
所要の労働時間の補正をすること。
エ自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に
報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。
その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと
報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の
指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければ
ならないこと。

2.実務上必要な対応策

このガイドラインの内容を踏まえ、例えば定期的にパソコンの使用時間の記録と
自己申告との時間の突き合わせを行い、乖離があるものについては確認を行うなどの
取組みを行うことが求められます。また、休憩時間に休憩が取れずに仕事をしていないか、
自主的な研修といっているが実際は強制参加で、参加しなければ業務に支障が出る研修が
行われていないかなど、実態は労働時間として扱うべき時間が労働時間から除外されて
いないかを点検し、問題があれば取扱いを見直すなどして改善しましょう。
時間外労働の上限規制により、企業が従業員に時間外労働を減らす取組みを命じると、
時間外労働を削減するのではなく、実際に業務を行い労働時間であるにもかかわらず、
業務を行っていないように見せることで、時間外労働の上限時間に抵触しないように
することも見受けられます。
時間外労働の上限規制の一番の目的は過重労働対策であることを、従業員自身が認識し、
業務改善を通して時間外労働の削減に取り組むようにしなければなりません。


(次号に続く)

医療事業所様向け情報(労務)10月号②

[3年連続で大幅な引き上げとなる最低賃金]

1.最低賃金の種類と改定タイミング

賃金については、都道府県ごとにその最低額(最低賃金)が定められており、
企業にはその額以上の賃金を労働者に支払うことが義務付けられています。
この最低賃金には、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、
特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の
2種類がありますが、このうち「地域別最低賃金」は、毎年10月頃に
改定されることになっています。
2018年度についても全都道府県の「地域別最低賃金」の改定額が決まりましたので、
確認しておきましょう。

2.2018年度の地域別最低賃金と発効日

2018年度の地域別最低賃金と発効日は、下のリンク先である厚生労働省でご確認ください。
すべての都道府県で24円以上の引き上げとなりました。
近年、大幅な引き上げが続いていますので、最低賃金を下回る金額の従業員がいないか、
確実にチェックしておきましょう。
なお、2017年3月28日に公表された「働き方改革実行計画」では、最低賃金について、
年率3%程度を目途として引き上げ、全国加重平均が1,000円になることを
目指すとされていますので、この引き上げは来年以降も続くことが予想されます。

2018年度の地域別最低賃金と発効日(厚生労働省のHPに飛びます)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/

(次号に続く)

医療事業所様向け情報(労務)10月号①

[2019年4月より新しい様式となる36協定届]

働き方改革では長時間労働の是正が大きなテーマとなっていますが、
中でも36協定の重要性が高まっています。
今回の法改正を受け、2019年4月より「時間外労働・休日労働に関する協定届」
(以下、36協定)の様式が変更となります。
ここではその変更点について確認しておきましょう。

1.変わる36協定の様式

36協定の新様式を確認すると、これまでの様式から大きく変更されたようには見えませんが、
労働保険番号と法人番号の記載が求められ、36協定で定める時間数にかかわらず、
「時間外労働及び休日労働を合算した時間数は、1箇月について100時間未満でなければならず、
かつ2箇月から6箇月までを平均して80時間を超過しないこと。」というチェックボックスが
設けられました。
また、特別条項を設ける場合と設けない場合の2つの様式が用意されており、
特別条項を設ける場合の様式は、限度時間までの時間を協定する1枚目と特別条項を定める
2枚目の2枚組となっています。
また、特別条項を設ける場合の様式には、これまで特別条項で定める必要があった項目が
整理され、「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」
を定める欄が設けられました。

2.新たに定めることになる健康確保措置

特別条項に追加された「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び
福祉を確保するための措置」には、限度時間を超えて労働する労働者に対する健康確保措置を
記載することになりますが、その内容は次の10項目の中から選択し、番号と具体的内容を
書くことになります。
①労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること。
②労働基準法第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を
 1箇月について一定回数以内とすること。
③労働時間を延長して労働させる者について終業から始業までに一定時間以上の継続した
 休息時間を確保すること。
④労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。
⑤労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること。
⑥年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を
 促進すること。
⑦心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。
⑧労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に
 配置転換をすること。
⑨必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に産業医等による
 保健指導を受けさせること。
⑩その他

特別条項を適用することが想定される労働者にとって、一番望ましい健康確保措置を
考えるとともに、来年に向けて対象者が出た場合の取組みについて、
いまから検討するようにしましょう。

36協定は時間外労働や休日労働を行う際のもっとも基本的な手続きであり、
時間外労働等が発生する前に労働基準監督署へ届出をしなければ労働基準法違反と
なるものです。締結はまだ先になりますが、いまから新様式の内容を確認しておきましょう。


(次号に続く)

お電話でのお問い合わせ

03-6435-7075(平日9:00~18:00)

営業時間外のお問い合わせはこちらから

相談・ご依頼の流れはこちら