福祉・医療向け人事評価コンサルティング

1、福祉業界における人事評価制度とは

筆者は社会保険労務士として、福祉事業所における人事労務関係業務の支援を専門に、全国多数の福祉事業所支援をさせて頂いております。特に最近の支援内容を見ると、処遇改善加算取得にキャリアパス要件が規定されたことから、人事評価に関する相談が増えており、評価に関する制度面、運用面に課題を抱えている事業所が、非常に多いことを実感しております。尚、世間では「人事評価」という表現と「人事考課」という表現の双方がよく使われますが、ここでは、より広い概念を表す「人事評価」という表現を使わせていただきます。

それでは、ご参考までに人事評価に関する相談内容の一例を下記に紹介いたします。

経営者・管理者の方から

  • 外部コンサルタントにお願いし、人事評価は作ったけれど・・・一般企業と同じ評価内容になっているので、介護の職場にはなんとなくしっくりこない。
  • 人事評価自体に信頼感がない
  • 人事評価が「給与を決める為の手段」という認識で評価のための評価になっている。社員のヤル気やモチベーションを促進するものにはなっていない
  • マイナス評価に該当する職員が本当はいた筈なのに、ほとんどマイナス評価は出ず、プラス評価の職員と現状維持職員ばかりになり、「横一線」から抜け出せない

職員からの意見

一方で、下記は職員側から見て現行実施している人事評価に対し、どのように思っているかをヒアリングしたものです。(社会福祉法人の職員に実施)

  • 頑張っても怠けていても同じ評価はおかしいのではないか
  • 自分の仕事が公平・公正に評価され給与に反映されていないのではないか。
  • 評価の中身をおしえてほしい。
  • いくら頑張っても認めてもらえないのでは。
  • 人を育成する仕組みになっていない
  • 評価のための評価になっていて意味がない、時間の無駄。

ところで、人事評価制度を導入する目的とは、いったい何でしょうか?経営者からは、処遇(給与)を決める為の物差し、処遇改善加算のキャリアパス要件を満たすため、達成感と働きがいのある職場を作る為、などの御意見をよく伺います。

もちろん、それらは大切な要素ではありますが、その先にある最終的な目的は「人財の確保と育成」にあると筆者は考えます。特に介護業界においては、人材の「質」と「量」で、事業運営の全てが決まってしまう、といっても過言ではないほど重要な課題です。

法人幹部の方々には、まず、人事評価制度導入の目的を法人内で共有していただきたいと思います。なぜなら、それにより評価内容、方法、ツールのあり方など、評価制度の中身が大きく変わってくるからです。例えば「職員の優秀層の選抜」を目的に行う人事評価制度と、「人財育成」を目的に行う人事評価では、その評価内容・方法は大きく変わってくるはずです。経営陣、管理者層の方々は、今一度、この視点で現状の評価制度を振り返ってみて頂きたいと思います。

一方で、職員の目線から見てみると、自分の仕事に良し悪しの判定基準が存在するのであれば、具体的に提示してほしいと思うでしょう。少なくとも行っている職務は正しく認めてほしいし、仮にそれが「未達」と判断される場合においても、客観的な根拠に基づく指摘を受けたいものです。さらに、今後どのような仕事の仕方や、技術、知識を身につければ良いのかを知り、習得の機会を得てそれが出来るようになりたい。そして職務能力が向上し、期待される役割が上がっていくに伴い、処遇も上がっていってほしい。こうした職員の思いに応えるのが、人事評価制度なのです。

2、人事制度を整備することによるメリット

それでは、人事評価制度を中核とした人事制度を整備することで、法人全体にどのようなメリットが生まれるのでしょうか。その代表的なものを挙げてみます。

  1. 人事制度の整備により、公平な人事処遇(昇格、昇給など)が可能となる。
  2. 職員の自分の人事処遇への納得感が高まる。
  3. 法人への信頼感が高まり、帰属意識が高まる。
  4. 仕事に集中する環境が出来、「達成感」やモチベーションにつながる
  5. 採用時に人事制度を説明する事により、信頼できる法人であることをアピールできる。
  6. 人材不足の時代に求人活動がしやすくなり、人材の確保が出来る。

以上のように、人事制度の整備は「人財の確保と育成」につながる効果が期待できるものです。
それでは、その効果を発揮させるために必要な評価制度構築に向けた考え方、評価制度の設計、さらには運用について述べていきたいと思います。

3、キャリアパス(人事制度)の中の人事評価

ここでは、人事制度のなかで人事評価の役割をみていきます。図表1をご覧いただきますと、人事評価制度は人事制度全体の中で、中核的な存在であることがわかりますが、大切なのは図表1に示す⇒の流れなのです。

この流れの順序でキャリアパスの運用を実際に行うことが、「人財の確保と育成」を目的にした人事評価には、非常に重要な要素であると考えています。

ポイントは、日々の業務を行う前に、期待される役割、職務内容、行動基準を理解したうえで、業務をスタートさせることです。つまり、職務基準、行動基準は事前に整備することで、職員はその内容を知識として知り、そしてOJTで習得し、実践するということになります。

そして、数か月後の職場での実践状況を評価するものが、人事評価です。つまり、業務スキルの習得・実践状況は「職能評価」で、行動基準の理解と実践の状況は「行動評価」で評価を行うことになります。

評価が良ければ、処遇に反映され、評価が水準を満たさなければ教育・指導(研修・OJT指導)によりレベルアップを図り、達成できれば処遇に反映させます。その結果として、各人の能力・役割と処遇のバランスが取れるようになるのです。

4、事業者が陥りやすい、人事評価の5つの問題点

その1:評価は出来る職員とダメな職員を分ける事ではない

職員相互を比べて評価するのではなく、多くの職員が成長できる評価制度にすることが重要です。いつも優秀な職員が良い評価で、そうでない職員がそのままでは「人を育てる」評価制度とは言えません。

評価では、職員が行うべき「努力を具体的に」示すことが大切です。上司が部下にこう言ったとします。「もっと仕事を効率的にしてもらわないと困るよ」。すると部下は「わかりました、そうします。ところで効率的に仕事をするってどうすればいいですか」と聞き返してきました。この時の回答として「明日使う予定の・・・」といったものであれば、効率的に行うコツがわかるわけです。どうすれば良い結果がでるのか、そのコツを着眼点として明確に記載し、そのコツ、つまり努力をしたかどうかを評価する仕組みとすれば、それは結果そのものではなく、「良い結果を生むであろう行動と努力」を明確にすることにより、職員の成長が期待出来ます。つまり、評価制度で諦める職員をつくらない、なかなか良い結果を生み出せない職員が「出来る職員」に育つ仕組みを評価制度に盛り込むことが大切なのです。

その2:期末に評価するというやり方では、職員は育たない

一般的に評価は期末に行われることが多いのですが、問題は、その時の評価者が「彼はどんな行動をしたのか、それはなぜか」そして「あの行動は、どの評価要素で判断すればいいのか」そして「評価は何が適切なのか」と考えてから評価を決定する方法です。そして期末の評価で良かった点、悪かった点を通告される。部下からすれば、先に「こんな行動をしてくれればS評価にするからね」と言ってくれればそうしたのに・・・と思ってしまうかもしれません。つまり、評価が人を育てる目的ならば、人がどんな行動をすれば良い評価になるのかをあらかじめ明示しておくべきなのです。「そのような行動・努力がS評価になり、どのような行動がA評価・・・になるのか」を示すことで部下は期待される行動や努力の仕方がわかるので、実践するようになるわけです。

また、これを意識して仕事をしてもらう為のツールとして、各個人に職員ノートを持ってもらい、その中に期待する行動・努力を記載したシートを入れ、週に一度は自分で見直してみることを行っている法人もあります。年に一度や二度の評価では人は変われません。大切なことは「習慣づけ」ということです。

その3:評価項目は抽象的な方が、いろいろな側面から評価が出来てよいと考えていないか?

評価することは非常に難しくて、評価者訓練を受けないと評価は出来ないと言われています。しかしそれは、評価項目が抽象的で何を評価すればいいのかわからないという原因が考えられます。

評価を行う難しさには、①人によって評価が変わる、②評価項目が不明確なので評価する人も、される人もわかりにくい、さらに③誤評価の原因(ハロー効果、偏り傾向、寛大化など)評価するということに困難さが付きまとっています。例えば「協調性」という表現で終わってしまう評価項目の場合、何が協調性なのか評価者が判断しなければなりません。抽象的な表現は職員をいろいろな視点から評価できることになり有用の要ですが、評価の公平性や客観性からみるとかなり深い問題が含まれています。具体的な行動表現にすることで、だれでも同じ理解とすることが大切です。

その4:行動評価は、年に1回か2回の評価時期だけで行っていてはダメ

評価することが目的で行われる評価の場合は、年に1回か2回の評価で十分だと思います。しかし、職員を変革させ、組織風土を変えようとするならば、月1回のチェックが必要です。人を育てる人事評価とするためには、期末になって評価時期が来た時だけ思い出したように評価しても人は変わりません。長年続けてきた習慣がそんなに簡単に変わるはずはないからです。部下を成長させるという事は、この習慣を変えるということに他ならないのですから。習慣を変える為に必要なことは、変えようとしている良い行動を繰り返すしかありません。いくら頭でわかっていても何度も行動することが習慣を変える為には欠かせません。

従って、月1回自分の行動を振り返る機会を設け(自己評価)、月1回上司と面談を行うことを運用責任者の方にはお勧めをしています。

その5:個人の成績を個人の責任であると断定してはいけない

評価制度の底には、「成績が悪いのは個人の能力不足だ」という考えがあります。しかし、個人の成績は会社や上司にも左右されているのです。われわれが目指す「人を育てる人事評価」では、成績の悪い職員には、上司や会社の支援・協力でこの職員をカバーしなければなりません。責任は全体にあります。個人の成績に帰してしまっては、組織として力は低下していくばかりで、こちらの方が重大問題あることを認識すべきです。

成果主義による評価制度に生まれがちな「個人責任主義」から是非脱皮をして、チーム全体の成果を求める「全体責任主義」に移行しなければなりません。全体責任主義は組織の「温かさ」が基本なのです。この「全体責任主義」はメンバー間の信頼、協力、思いやり、誠意などがその根底に流れる考え方・価値観になっている必要があります。

人の能力不足を指摘するだけでは信頼関係は生まれません。信頼関係や職員同士の絆が強い職場として「全体責任主義」を作り上げていく必要があります。

5、評価制度作成・見直しのフロー

評価制度の構築はプロジェクトを組んで、次のステップで行うこととなります。

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