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【介護・保育】人材定着ブログ1月号~ 「福祉事業所のキャリアパスとは⑦」

【介護・保育】人材定着ブログ12月号~ 「福祉事業所のキャリアパスとは⑥」の続きです。

先月号から、介護施設の人事評価についてお伝えしていますが、今月号も引き続き人事評価です。先月号では、「介護事業者が陥りやすい、人事評価の5つの問題点」についての2つ目までお伝えしましたので、今回は「その3」から始めたいと思います。

 

その3:評価項目は抽象的な方が、いろいろな側面から評価が出来てよいと考えていないか?

評価することは非常に難しくて、評価者訓練を受けないと評価は出来ないと言われています。しかしそれは、評価項目が抽象的で何を評価すればいいのかわからないという原因が考えられます。

評価を行う難しさには、①人によって評価が変わる、②評価項目が不明確なので評価する人も、される人もわかりにくい、さらに③誤評価の原因(ハロー効果、偏り傾向、寛大化など)から、評価するということに困難さが付きまとっています。例えば「協調性」という表現で終わってしまう評価項目の場合、何が協調性なのか評価者が判断しなければなりません。抽象的な表現は職員をいろいろな視点から評価できることになり有用の要ですが、評価の公平性や客観性からみるとかなり深い問題が含まれています。具体的な行動表現にすることで、だれでも同じ理解とすることが大切です。

その4:行動評価は、年に1回か2回の評価時期だけで行っていてはダメ

評価することが目的で行われる評価の場合は、年に1回か2回の評価で十分だと思います。しかし、職員を変革させ、組織風土を変えようとするならば、月1回のチェックが必要です。人を育てる人事評価とするためには、期末になって評価時期が来た時だけ思い出したように評価しても人は変わりません。長年続けてきた習慣がそんなに簡単に変わるはずはないからです。部下を成長させるという事は、この習慣を変えるということに他ならないのですから。習慣を変える為に必要なことは、変えようとしている良い行動を繰り返すしかありません。いくら頭でわかっていても何度も行動することが習慣を変える為には欠かせません。

従って、月1回自分の行動を振り返る機会を設け(自己評価)、月1回上司と面談を行うことを運用責任者の方にはお勧めをしています。

 

その5:個人の成績を個人の責任であると断定してはいけない

評価制度の底には、「成績が悪いのは個人の能力不足だ」という考えがあります。しかし、個人の成績は会社や上司にも左右されているのです。われわれが目指す「人を育てる人事評価」では、成績の悪い職員には、上司や会社の支援・協力でこの職員をカバーしなければなりません。責任は全体にあります。個人の成績に帰してしまっては、組織として力は低下していくばかりで、こちらの方が重大問題あることを認識すべきです。
成果主義による評価制度に生まれがちな「個人責任主義」から是非脱皮をして、チーム全体の成果を求める「全体責任主義」に移行しなければなりません。全体責任主義は組織の「温かさ」が基本なのです。この「全体責任主義」はメンバー間の信頼、協力、思いやり、誠意などがその根底に流れる考え方・価値観になっている必要があります。

人の能力不足を指摘するだけでは信頼関係は生まれません。信頼関係や職員同士の絆が強い職場として「全体責任主義」を作り上げていく必要があります。

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人 

【介護・保育】人材定着ブログ1月号~ 「福祉事業所のキャリアパスとは⑥」

【介護・保育】人材定着ブログ12月号~ 「福祉事業所のキャリアパスとは⑤」の続きです。

2、人事制度を整備することによるメリット

 それでは、人事評価制度を中核とした人事制度を整備することで、法人全体にどのようなメリットが生まれるのでしょうか。それを今一度、下記に整理をしてみたいと思います。人事制度の整備により、公平な人事処遇(昇格、昇給など)が可能となる。

  1. 職員の自分の人事処遇への納得感が高まる。
  2. 法人への信頼感が高まり、帰属意識が高まる。
  3. 仕事に集中する環境が出来、「達成感」やモチベーションにつながる
  4. 採用時に人事制度を説明する事により、信頼できる法人であることをアピールできる。
  5. 人材不足の時代に求人活動がしやすくなり、人材の確保が出来る。

以上のように、人事制度の整備は「人材の確保と育成」につながる効果が期待できるものです。
それでは、その効果を発揮させるために必要な評価制度構築に向けた考え方、評価制度の設計方法、さらには運用方法について以下に述べていきたいと思います。

 

3、キャリアパス(人事制度)の中の人事評価

ここでは、人事制度のなかで人事評価の役割をみていきます。

  • 経営理念に基づく行動基準(規範)を「見える化」する。
  • 期待する職務・役割に基づく職務基準・職能要件を「見える化」する。
  • ①と②を日々の業務への取り組みの中で具体化する。
  • 人事評価(職能評価と行動評価)を行う。
  • 人事評価の結果により、達成感の醸成と今後の課題を明確にする。
  • 課題達成のための教育(能力開発・研修)を行う。
  • 評価を処遇に反映(昇給、賞与、昇格、昇進)させる。
  • 各人の能力に見合った処遇の実現を図る。

この流れの順序でキャリアパスの運用を実際に行うことが、「人材の確保と育成」を

目的にした人事評価には、非常に重要な要素であると考えています。

ポイントは、日々の業務を行う前に、期待される役割、職務内容、行動基準を理解したうえで、業務をスタートさせることです。つまり、職務基準、行動基準を事前に整備することで、職員はその内容を知識として知り、そしてOJTで習得し、実践するということになります。

 そして、数か月後の職場での実践状況を評価するものが、人事評価です。つまり、業務スキルの習得・実践状況は「職能評価」で、行動基準の理解と実践の状況は「行動評価」で評価を行うことになります。

評価が良ければ、処遇に反映され、評価が水準を満たさなければ教育・指導(研修・OJT指導)によりレベルアップを図り、達成できれば処遇に反映させます。その結果として、各人の能力・役割と処遇のバランスが取れるようになるのです。

 

4、介護事業者が陥りやすい、人事評価の5つの問題点

その1:評価は出来る職員とダメな職員を分ける事ではない

職員相互を比べて評価するのではなく、多くの職員が成長できる評価制度にすることが重要です。いつも優秀な職員が良い評価で、そうでない職員がそのままでは「人を育てる」

評価制度とは言えません。

評価では、職員が行うべき「努力を具体的に」示すことが大切です。上司が部下にこう言ったとします。「もっと仕事を効率的にしてもらわないと困るよ」。すると部下は「わかりました、そうします。ところで効率的に仕事をするってどうすればいいですか」と聞き返してきました。この時の回答として「明日使う予定の・・・」といったものであれば、効率的に行うコツがわかるわけです。どうすれば良い結果がでるのか、そのコツを着眼点として明確に記載し、そのコツ、つまり努力をしたかどうかを評価する仕組みとすれば、それは結果そのものではなく、「良い結果を生むであろう行動と努力」を明確にすることにより、職員の成長が期待出来ます。つまり、評価制度で諦める職員をつくらない、なかなか良い結果を生み出せない職員が「出来る職員」に育つ仕組みを評価制度に盛り込むことが大切なのです。

その2:期末に評価するというやり方では、職員は育たない

一般的に評価は期末に行われることが多いのですが、問題は、その時の評価者が「彼はどんな行動をしたのか、それはなぜか」そして「あの行動は、どの評価要素で判断すればいいのか」そして「評価は何が適切なのか」と考えてから評価を決定する方法です。そして期末の評価で良かった点、悪かった点を通告される。部下からすれば、先に「こんな行動をしてくれればS評価にするからね」と言ってくれればそうしたのに・・・と思ってしまうかもしれません。つまり、評価が人を育てる目的ならば、人がどんな行動をすれば良い評価になるのかをあらかじめ明示しておくべきなのです。「そのような行動・努力がS評価になり、どのような行動がA評価・・・になるのか」を示すことで部下は期待される行動や努力の仕方がわかるので、実践するようになるわけです。

また、これを意識して仕事をしてもらう為のツールとして、各個人に職員ノートを持ってもらい、その中に期待する行動・努力を記載したシートを入れ、週に一度は自分で見直してみることを行っている法人もあります。年に一度や二度の評価では人は変われません。大切なことは「習慣づけ」ということです。

評価制度の目的を「人材育成」とするには、上記のような視点をもって評価制度の仕組みを構築していく必要があります。次回は、今回の引き続き、人事評価制度をお伝えします。

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人 

 

介護事業所様向け情報(経営)1月号③

福祉施設でみられる人事労務Q&A
『業務中の事故でケガをした場合どのように対応すればよいか』

Q:

さきほど、職員が業務中に階段から落ちてケガをするという事故が発生したという連絡がありました。本人の意識はありますが、頭を打っているかもしれないので、念のため検査のできる病院へ行くよう指示したところです。このように労災が発生した場合、施設としてどのような対応をすればよいでしょうか。

A:

業務中に事故が発生しケガをしたときに最優先すべきことは、被災した職員の救護・治療です。可能であれば、労災保険指定の医療機関等(以下「労災指定病院」という)を受診するよう指示をします。その後、労働基準監督署等への手続きを行うため、ケガをした状況や事実関係を把握しておくことが重要です。

詳細解説:

1.ケガをした職員への対応

業務中の事故により職員がケガをしたときには、ケガをした職員の状況確認と救護・治療が最優先になります。治療が必要になる場合は、可能であれば、労災指定病院へ行くことが望ましいです。労災の治療費等は、原則として労災保険から支払われます。労災指定病院の場合は、窓口等で「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5 号)」を提出し、労災であることを申し出ることで、治療費を直接負担する必要はありません。労災指定病院以外へ行く場合は、治療費の全額をいったん負担し、後日、労働基準監督署へ「療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第7 号)」を提出することにより請求します。いずれの場合であっても、健康保険は利用できないため、窓口等で健康保険証を提示しないよう注意を呼びかけましょう。

2.労働基準監督署への報告・手続き

こうしたケガにより、仕事を休まなくてはならない場合は、労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」の提出が必要になります。休業が4 日以上であれば様式第23 号、休業が4 日未満であれば様式第24 号となり、休業日数によって書類の種類と提出期限が異なります。この報告は、災害の発生状況等を記載するため、災害発生時の目撃者の有無や事実関係を確認しておきます。

なお、仕事を休んだ日に対し、休業4 日目から休業補償給付が支給されます。その他ケガの状態によっては障害や遺族に関する給付も行われますので、すみやかに給付が行われるよう労働基準監督署への届出を行うようにしましょう。

業務中の事故によるケガなどが発生すると、突然の事態にどのように対応すればよいか戸惑う場面があります。日頃から職員に対して報告体制を周知したり、近隣の労災指定病院をあらかじめ調べておくとよいでしょう。あわせて、事故の発生原因の究明や、改めて施設内の安全衛生教育を行うことにより、再発防止策を立案・実行することが求められます。

(来月に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

介護事業所様向け情報(経営)1月号②

都道府県別にみる介護保険第1 号被保険者の現状

高齢化の進展により、65 歳以上の介護保険の第1 号被保険者(以下、1 号被保険者)数は増加しています。ここでは1 号被保険者数と要介護(要支援)認定者数を都道府県別にみていきます。

被保険者数は3,500 万人が目前に

2019 年8 月に厚生労働省が発表した報告書※によると、全国の1 号被保険者数は増加を続け、2017 年(平成29 年)度末で3,488 万人となりました。前年度から1.4%の増加です。また人口に占める割合は28%程度となっています。都道府県別の状況は下表のとおりですが、各地の人口の多い地域で100 万人を超えています。

1 号被保険者に占める要介護(要支援)認定者(以下、認定者)数は628 万人で、前年度より0.6%の減少となりました。

認定率は18.0%に

認定率(1 号被保険者に占める認定者の割合)は、全国計で18.0%でした。都道府県別では、和歌山県が21.8%で最も高くなりました。その他、大阪府や島根県、長崎県、愛媛県、岡山県、京都府で20%以上になっています。
最も低いのは埼玉県で、14.6%でした。

ここで紹介した都道府県以外にも、市町村別等のデータが発表されています。興味のある方は、自施設の所在地の状況を確認されてはいかがでしょうか。

※厚生労働省「平成29 年度介護保険事業状況報告(年報)」
介護保険事業の実施状況について、保険者(市町村等)からの報告数値を全国集計したものです。詳細は次のURL のページからご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/17/index.html

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
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介護事業所様向け情報(経営)1月号①

来年度の介護人材確保対策の計画

今年度は10 月に処遇改善のための介護報酬改定が施行されました。来年度の取組計画は、令和2 年度の概算要求からも方向性を掴むことができます。厚生労働省の発表資料※から、現在検討されている主要項目をご紹介します。

介護分野への元気高齢者等参入事業

介護分野人材のすそ野を広げるべく、元気な高齢者の活躍を促進する取組です。既に実施されている研修等を更に深め、介護分野への関心を持ってもらうためのセミナーや、入門的な研修等への受講を誘導し、介護助手として介護施設にマッチングするまでを想定しています。

介護職員の悩み相談窓口設置事業

介護職員が職場の悩み等を相談できる窓口を都道府県に設置し、介護職員の離職を防止する取組です。心理カウンセラーや経験年数の長い介護福祉士を専門の相談員として配置し、来所や電話だけでなく、メールやSNS、施設への出張相談等、幅広い方法で受け付ける計画です。

若手介護職員交流推進事業

介護関係職種の離職の6 割超が勤続3 年未満の職員で、小規模事業所ほど離職者の勤続年数が短いという調査結果を受け、入職時や3 年目の節目のタイミングで、他施設の若手介護職員と交流できるネットワークを構築し、介護職の魅力等を再確認する取組が検討されています。

介護職チームケア実践力向上推進事業

多様な人材の参入促進や外部コンサルタントの活用によるリーダー職の育成等で、多様化・複雑化する介護ニーズに対応するチームケアを更に推進し、介護職員の不安払拭、定着促進と、利用者の自立支援、満足度向上を図る取組です。

介護のしごと魅力発信等事業の拡充

若年層や子育てを終えた層、アクティブシニアに対する介護の仕事の魅力発信等について、来年度は小中高生等の10 代、大学・専門学校生等の20 代前半、退職前や退職まもない時期のアクティブシニア層への訴求も目指します。

福祉人材センターのマッチング機能強化

都道府県福祉人材センターによる職業紹介や就職説明会等に加え、新たにブロック研修を開催し、マッチング機能強化を図ります。

(※)厚生労働省「令和2 年度概算要求について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000549672.pdf

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

介護事業所様向け情報(労務)1月号④

男性も利用できる厚生年金保険の養育特例

従業員に子どもが生まれ、子どもを育てながら働くときには、育児短時間勤務制度を利用したり、時間外労働を減らしたりすることで、子どもを育てる前と比較し、従業員が受け取る給与額が減少することがあります。このようなときには将来の年金額に関する厚生年金保険の特例措置が適用できる場合があります。ここではその内容や要件等を確認しておきましょう。

1.特例措置である「養育特例」とは

子どもを養育することにより給与額が減少すると、将来の年金額の計算の基となる標準報酬月額が、子どもを養育する前より下がることがあります。このように標準報酬月額が下がることで、最終的に従業員が将来受け取る年金額が減少することにつながります。そこで、3歳未満の子どもを養育することに伴い標準報酬月額が下がった場合、より高い養育前の標準報酬月額を、養育期間における標準報酬月額とみなして年金額を計算する措置が設けられています。一般的には、これを「養育特例」と呼びます。

2.養育特例の手続き

養育特例は、従業員が会社を通じて申し出るものであり、「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書・終了届」に「戸籍謄(抄)本または戸籍記載事項証明書」(以下、「戸籍謄本等」という)および「住民票の写し」(以下、「住民票」という)を添付して提出します。
「養育」とは同居し監護することを指し、戸籍謄本等により、従業員と子どもの身分関係および子どもの生年月日(3歳未満の期間)の確認、住民票により従業員と子どもが同居していることの確認が行われます。

3.養育特例が適用される事例

養育特例に該当する代表的な事例は、産前産後休業および育児休業を取得していた従業員が、育児休業の復帰に際し、育児短時間勤務制度を利用し、給与額が減少するというものです。
この事例では、育児休業等終了後の月額変更に該当し、標準報酬月額の改定にかかる届け出を提出する際に、養育特例にかかる届け出もあわせて提出することが一般的になっています。
ただし、養育特例の適用はこのような育児休業等終了後の月額変更に該当する場合のみでなく、また、従業員の性別に関係なく適用されます。
そのため、例えば男性の従業員が育児休業の取得や育児短時間勤務の利用はしないものの、3歳未満の子どもの養育のために時間外労働を減らした結果、定時決定において、養育前の標準報酬月額よりも低いものに決定された場合にも適用されます。

養育特例は、従業員からの申出を受けた会社が日本年金機構へ提出するものではありますが、制度の周知が十分ではないこともあり、申出を行っていないケースもあると思われます。従業員に子どもが生まれた際には、会社から制度の説明を行うことで、申出の漏れを防ぎたいものです。

(来月に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

介護事業所様向け情報(労務)1月号③

2020年4月から限度額の記載が必要となる身元保証書

従業員が会社に何らかの損害を与えたときには、従業員は会社にその損害を賠償する責任を負う旨の規定を就業規則に設けていることは多いでしょう。さらに、この規定とあわせ従業員が入社するとき等に、従業員の家族等を保証人とする身元保証書の提出を求めることがあります。
今回、民法が改正されたことに伴い、この身元保証に関し限度額を定める必要がありますので、その内容を確認しておきましょう。

1.労働基準法における損害賠償の規定

労働基準法では、賠償の予定を禁止する規定がありますが、この規定は、雇用契約期間の途中で退職したときに違約金を払わせる定めをしたり、会社に損害を与えたときに○○円を払わせるといった定めをしたりすることを禁じたものです。
これらの定めをすることで、従業員の退職の自由を不当に奪うことを禁止したものであり、あらかじめ違約金や賠償額の金額を決めず、現実に従業員の責任により発生した損害について、賠償を請求すること自体を定めることは問題ありません。

2.民法の「保証」に関する改正

労働基準法では、従業員に対し賠償の予定を禁止していますが、保証人に対し賠償を求めることや、その賠償額について定めることを禁止する規定はありません。ただし、民法等に保証人に関する規定があり、これに従う必要があります。
今回、その民法が改正され、個人の根保証(一定の範囲に属する不特定の債務について保証すること)に関する規定が変更となり、限度額(極度額)の定めが必要となりました。

3.民法改正に伴い必要な対応

入社するとき等に提出を求める身元保証書を考えてみると、一般的に「従業員が会社に損害を与えたときで、従業員が賠償できないときは、保証人が連帯して賠償する責任を負う。」というような文言になっており、多くは具体的な賠償額を定めていないと想像されます。

このような規定では、保証人が、保証人となる時点でどれだけの債務(賠償額)が発生するかが明確になっていないため、実際に保証すべき損害が生じたときに、想定外の債務を負うことになります。
そこで、2020年4月1日以降に締結する身元保証書には、保証人が想定外の債務を負うことを避けるために、「○○円」等と明瞭にその限度額を定めることが求められます。

今回の身元保証に関する改正は、2020年4月1日の施行であり、2020年3月31日までに締結された身元保証書は、改正前の民法が適用となるため、既に提出されている書面をすぐに取り直す必要まではありません。この改正のタイミングで、そもそも身元保証書の提出を求めるのかということから、検討してもよいかもしれません。

(次号に続く)

社会保険労使法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

介護事業所様向け情報(労務)1月号②

育児休業終了日の繰上げ変更

このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。

総務部長
5月に復帰予定の育児休業中の従業員から、4月から保育園に子どもを預けることができる予定となり、4月に復帰したいという相談がありました。この場合、4月に復帰させる必要があるのでしょうか。

社労士
育児休業を終了する日を繰上げできないかというお話ですね。結論を先に述べると、総務部長復帰させる義務まではありません。育児休業は、開始する日の繰上げと終了する日の繰下げができるようになっています。

総務部長
開始する日の繰上げと終了する日の繰下げに限られているということですね。これらの変更は、事由を問わずできるのでしょうか?

社労士
まず、開始する日の繰上げは、出産予定日よりも早く子が出生した場合や、配偶者の死亡、病気、負傷等の特別な事情がある場合となっています。終了する日の繰下げは、事由を問わず、1回に限りできます。

総務部長
なるほど。今回のような終了する日の繰上げは認めていないということですね。

社労士
そのとおりです。例えば、代替要員を受け入れているケースを想定すると理解しやすいかと思います。育児休業期間において代替要員を受け入れている場合、急に、終了する日を繰上げるとなると、その繰上げる期間について代替要員と復帰した従業員の2名を会社は抱えることになります。

総務部長
確かに、従業員の都合に合わせて、終了する日を繰上げると、どのような業務に就かせるのか、調整する必要も出てきますね。そのために制度として、開始する日の繰上げと終了する日の繰下げのみが認められているのですね。

社労士
そのとおりです。もちろん、このような難しい状況はなく、会社としても早く復帰してもらいたいということもあるでしょう。終了する日の繰上げを認めてもよいという考えがある場合は、それを制度化し、育児・介護休業規程に、どのようなときに、いつまでに申出をすることで、終了する日の繰上げを認めるのかといったルールを決めておくとよいでしょう。

総務部長
なるほど。規程にルールを定めることで、運用時に困ることも減りそうですね。一度、今後のことも検討し、従業員に返答することにします。

【ワンポイントアドバイス】

  1. 育児休業は、開始する日の繰上げと終了する日の繰下げのみが法令で規定されている。
  2.  開始する日の繰上げは、特別な事情がある場合に限られているが、終了する日の繰下げは、事由を問わない。
  3.  終了する日の繰上げを認める場合は、育児・介護休業規程にいつまでに申出をするのかなどルールを決めておくとよい。

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

介護事業所様向け情報(労務)1月号①

いよいよ2020年4月よりスタートする中小企業に対する時間外労働の上限規制

時間外労働の上限規制については、2019年4月より先行して大企業に適用されていましたが、いよいよ中小企業でも2020年4月より適用となります。そこで今回は改めて、上限規制の概要と実務上の注意点をとり上げます。

1.時間外労働の上限規制とは

時間外労働は、時間外労働の限度に関する基準が定められており、「時間外労働・休日労働に関する協定」(以下、「36協定」という)に特別条項を設けることで、実質無制限に時間外労働を行わせることができる仕組みとなっていました。それが法改正によって、罰則付きの時間外労働の上限が規定され、特別条項があったとしても上回ることのできない労働時間数が設けられました。具体的な上限は以下のとおりです。なお、この上限規制には一部、適用が猶予・除外される事業・業務があります。

〈時間外労働の上限〉

原則として月45時間・年360時間(※)であり、臨時的な特別の事情がなければ超えることができない。
※1年単位の変形労働制の場合、月45時間・年320時間

〈特別条項がある場合の上限〉

特別条項があるときでも、以下の1.から4.のすべてを満たす必要がある。

  1. 時間外労働が年720時間以内
  2. 時間外労働と法定休日労働の合計が月100時間未満
  3. 時間外労働と法定休日労働の合計について、2ヶ月平均、3ヶ月平均、4ヶ月平均、5ヶ月平均、6ヶ月平均がすべて1ヶ月当たり80時間以内
  4. 時間外労働が月45時間(※)を超えることができるのは年6ヶ月まで
    ※1年単位の変形労働時間制の場合、月42時間

2.実務上の注意点

実務上、特に注意が必要となるものは1の特別条項がある場合の上限における4.であり、1年のうち、少なくとも6ヶ月は時間外労働を月45時間以内に収めなければ、直ちに法違反となります。そのため、慢性的に時間外労働が月45時間を超えている場合は、時間外労働の削減に向けた取組みを行いましょう。

また、特別条項を設ける場合、1の特別条項がある場合の上限における③を理解しておく必要があり、この複数月の平均は、36協定の期間にしばられることなく、前後の36協定の期間をまたいで確認することになります。

例えば、36協定で2020年4月1日から2021年3月31日までの1年間で締結している場合、2ヶ月平均については2021年3月と2021年4月を確認することになります。

今回、36協定届の様式も変更となっており、特別条項を設ける場合と設けない場合の2つの様式が用意されました。また、特別条項を設ける場合、「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」を定める必要があります。そして、この措置の実施状況に関する記録は36協定の有効期間中と有効期間の満了後3年間保存することになっています。

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

介護事業所様向け情報(経営❷)12月号

「介護保険制度の見直しに関する意見(素案)」のポイントをあらためて確認しておきましょう

20191216日「介護保険制の見直しに関する意見」が上梓

2019年12月16日の介護保険部会にて素案が提示された、「介護保険制の見直しに関する意見(素案)」(以下、「本資料」という)。本部会では2021年度介護保険法改正・報酬改定に向けた論点整理、及び視点の提示が行われ、弊社としてもその議論内容を都度、皆様にも共有させいただいてまいりました。今回はあらためて介護事業経営にとって重要だと思われるポイント、加えて現時点で認識しておいた方が良いと思われる内容を抜粋し、皆様にお伝えさせていただきたく思います。

「介護保険制の見直しに関する意見」重要テーマ・ポイントの確認

では、早速、中身を確認してまいりましょう。先ずは一つ目の論点についてです。

【ポイントその1:介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)】

2040 年頃にはいわゆる団塊ジュニア世代が高齢者となり、高齢者人口がピークを迎える一方、現役世代が急激に減少する。このような中で社会の活力を維持、 向上しつつ「全世代型社会保障」を実現していくためには、高齢者をはじめとする意欲のある方々が社会で役割を持って活躍できるよう、多様な就労・社会参加 ができる環境整備を進めることが必要である。その前提として、特に予防・健康づくりを強化して健康寿命の延伸を図ることが求められる。

今後、いわゆる「生産年齢人口」が各地で減少する中、この“就労”“社会参加”というキーワードは「職員側」「ご利用者側」双方の視点において我々の業界においても大変大きな意味を持ってくるものと思われます。この“就労”“社会参加”というキーワードを何らか自社に取り組んでいくことが出来ないか、経営者の皆様には頭に置いておいていただきたく思います。続いて、2点目のポイントに移ります。

【ポイントその2:一般介護予防事業等の推進】

〇 一般介護予防事業等による介護予防の取組を推進していくことが必要である。特に住民主体の通いの場の取組について、一層推進していくことが必要である。このため、通いの場の類型化等を進めるとともに、ポイント付与や有償ボランティアの推進等、参加促進を図るための取組を進めることが重要である。

〇 一般介護予防事業を効果的・効率的に実施するため、地域ケア会議や短期集中予防サービス、生活支援体制整備事業を始めとする地域支援事業の他事業との連携を進めていくことが重要であり、実態把握とともに、取組事例の周知等により、連携した取組を促していくことが適当である。

〇 通いの場の取組をより効果的・継続的に実施するため、医療等専門職の効果的・効率的な関与を図ることが必要である。医師会や医療機関等との連携事例を把握し自治体に実施方策を示すことが必要である。通いの場に参加しない高齢者への対応が必要である。支援が必要な者を把握し通いの場への参加を含めて必要な支援につなげることも重要である。なお、高齢者の社会参加には通いの場以外にも多様なニーズや方法があることに留意が必要である。

「地域のすべての高齢者との接点をつくり、各々個別に適宜、必要な支援を提供していく」地域包括ケアの要諦の一つとも言えるこのコンセプトを実現していくためにも、「通いの場」の重要性はますます高まることになるでしょう。また、“町づくりへの貢献”を標榜する事業者にとっても、この領域は中長期的な視座に立って取り組みを検討すべきテーマかもしれません。心に引っ掛かりを覚えられた方は是非、頭に留めておくべき情報かと思います。続いて、3番目のポイントに移ります。

【ポイントその3:総合事業】

現在、総合事業の対象者が要支援者等に限定されており、要介護認定を受けると、それまで受けていた総合事業のサービスの対象とならなくなる点について、本人の希望を踏まえて地域とのつながりを継続することを可能とする観点から、弾力化を行うことが重要である。その際、認知症など利用者の状態に応じた適切な対応を行うことや、適正な事業規模とすべきことに留意が必要である。

〇 国がサービス価格の上限を定める仕組みについて、市町村が創意工夫を発揮できるようにするため、弾力化を行うことが重要である。その際、適正な事業規模とするよう留意が必要である。また、引き続き基準となる単価設定は必要との意見があることに留意が必要である。

〇 各市町村の事業規模については、その弾力化を求める意見がある一方、上限の枠内で効率的な事業実施を行うべきとの意見もある点に留意が必要である。

“朗報”という理解も成立しますが、一方では、「要介護1・2の方々の地域移行」の前哨戦、という見方も出来るかと思います。また、サービス単価や事業規模の弾力化が図られない中で、どこまで比較的高単価(総合事業と比べて)な要介護者の受け入れが可能になるか等、周辺環境の動きにも注視しておく必要があるでしょう。では、4番目のポイントに移ります。

【ポイントその4:ケアマネジメント】

〇 高齢者が地域とのつながりを保ちながら生活を継続していくためには、医療や介護に加え、インフォーマルサービスも含めた多様な生活支援が包括的に提供されることが重要であり、インフォーマルサービスも盛り込まれたケアプランの作成を推進していくことが必要である。

〇 適切なケアマネジメントを実現するため、ケアマネジャーの処遇の改善等を通じた質の高いケアマネジャーの安定的な確保や、事務負担軽減等を通じたケアマネジャーが力を発揮できる環境の整備を図ることが必要である。ケアマネジャー を取り巻く環境や業務の変化を踏まえ、ケアマネジャーに求められる役割を明確化していくことも重要である。

「質の高いケアマネージャーには相応の処遇改善が行われる」是非、そのような好循環を生み出してほしいものです。それでは、5番目のポイントに移ります。

【ポイントその5:地域包括支援センター】

〇 業務負担が大きいとされる介護予防ケアマネジメント業務について、要支援者等に対する適切なケアマネジメントを実現する観点から、外部委託は認めつつ、引き続き地域包括支援センターが担うことが必要である。外部委託を行いやすい環境の整備を進めることが重要である。介護報酬上の対応についても検討が必要である。

「外部委託を行いやすい環境の整備」是非、予防ケアマネジメントにかかる労力と整合性のつく単価設定についても検討いただきたいものです。それでは、6番目のポイントに移ります。

【ポイントその6:保険者機能強化推進交付金】

〇 評価指標について、成果指標の拡大や配分基準のメリハリを強化することが必要である。また、判断基準を明確化するなど実態を適切に評価できる客観的・具体的な指標とすることが重要である。

〇 要介護認定率などのアウトカム評価は、プロセス評価とも適切に組み合わせながら行うことが必要である。現場で必要な介護サービスが受けられなくならないよう配慮が必要である

〇 調整交付金は保険者の責めによらない年齢構成等の要因による水準格差を調整するものであり、その趣旨を踏まえた形での議論が必要との意見、保険者機能の強化は、既に導入されている保険者機能強化推進交付金の活用で行っていくことが適切との意見があった。

「通いの場への高齢者参加率」や「要介護認定基準時間の変化率」「要介護認定者の変化率」等々、今後、具体的な定量実績が計測できるアウトカム指標への配点が高くなったりを含め、成果創出への意欲が向上されるような取り組みが強化されてくるものと思われます。もしそうなった場合、自治体の要介護認定マネジメントはどのように変化するのか・しないのか、、、、予め自保険者の目線に立った対応予測を立てておいた方が宜しい情報かと思われます。それでは、7番目のポイントに移ります。

【ポイントその7:データ利活用の推進】

〇 データの収集にあたっては、事業者等提供側に、質の向上や事業所へのメリット等効果を示し理解を得て普及を図っていくことや、負担軽減を図ることも重要である。VISIT CHASE については、当面は制度的な支援により協力事業所・施設を増やすことでデータの充実を図り、データの提出については事業所等から任意で求めることが適当である。

過去には「情報収集に協力してくれる事業者には相応のメリット(加算etc)が準備されるのでは?」という話も出てきています。以前のニュースレターでもお伝えしましたが、基本指標としてADL関連はバーセル・インデックス、認知症関連はバイタリティ・インデックスやDBD13等が活用されるとのこと、事業者としても早めにそれら評価指標に慣れておいた方が宜しいかもしれません。続いて、8番目のポイントに移ります。

【ポイントその8:高齢者住まいの在り方】

〇 有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の質を確保するため、都道府県に届け出られた住宅型有料老人ホームに関する情報について市町村に通知し、市町村がこれらを把握できるようにするなど、行政による現状把握と関与の強化を図ることが適当である。未届けの有料老人ホームへの対応や、介護サービス利用 の適正化を進めることも重要である。利用者の適正な事業者の選択につなげるため、事業者に係る情報公表の取組を充実させることが重要である。地域支援事業の介護相談員等も活用しながら「外部の目」を入れる取組を進めることも重要で ある。地域に開かれた透明性のある運営につなげることも重要である。

サービス付高齢者向け住宅には「外部の目」が入る仕組みが既に整備されていますが、住宅型有料老人ホームにはまだそこまでの仕組み・体制が整備されていないのが現状です。高齢者住宅における、いわゆる“囲い込み”の問題も疑問視される中、特に住宅型有料老人ホーム事業者としては頭に置いておいた方が良い情報かもしれません。それでは、9番目のポイントに移ります。

【ポイントその9:処遇改善】

〇 介護人材確保のためには、賃金制度の整備を進めることも含め、介護職員の更なる処遇改善を着実に行うことが重要である。

2019年10月にも大きな処遇改善が実施されましたが、更なる拡充施策が展開されるのか、、、注視しておきたいところです。それでは、10番目のポイントに移ります。

【ポイントその10:ロボット・ICT の活用】

〇 人手不足に対応していくためには、ロボット・ICT の活用が必要である。普及にあたっては仕様や業務の標準化や事業者への支援が必要である。なお、介護サービスの質や安全性の確保に留意することが必要である。

「(普及に向けての)事業者への支援」とは果たしてどのようなものなのか?導入助成金?加算?それとも(ITを促進している企業に対する)認証評価?これからの議論の動向を注視しておく必要があるでしょう。それでは、11番目のポイントに移ります。

【ポイント11:認知症予防】

〇 認知症の予防について、「通いの場」をはじめ、高齢者の身近な場における認知症予防に資する可能性のある活動を推進することが重要である。

〇 予防については可能な限りエビデンスに基づいて取り組むことが重要であり、予防に関するエビデンスの収集・分析を進めることが必要である。きちんとしたエビデンスを考慮しながら、国民にメッセージを発信していくことが必要である。

〇 予防については短期的な視点ではなく、長期的な予防、啓発、若いうちからの働きかけが必要である。企業における健康経営の推進という観点からも取組が必要である。

「予防」とは、「認知症にならない」という意味ではなく、「認知症になるのを 遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」という意味であり、誤った受け止めによって新たな偏見や誤解が生じないよう、取組を進める上で配慮が必要である。

〇 認知症高齢者グループホームについては、地域の中でさらに役割を発揮してもらうため、ユニット数や運営規模の弾力化を進めていくべきとの意見があった。

特に上記下線部分の定義・認識が重要だなぁ、とあらためて感じた次第です。それでは、12番目のポイントに移ります。

【ポイント12:被保険者範囲・受給者範囲】

○ 制度創設以降、被保険者・受給者範囲については、要介護となった理由や年齢の如何に関わらず介護を必要とする全ての人にサービスの給付を行い、併せて保険料を負担する層を拡大する「制度の普遍化」を目指すべきか、「高齢者の介護保険」を維持するかを中心に議論が行われてきた。

〇 被保険者範囲・受給者範囲については、介護保険制度創設時の考え方は現時点においても合理性があり、基本的には現行の仕組みを維持すべきとの意見、第2号被保険者の対象年齢を引き下げることについては若年層は子育て等に係る負担があること、受益と負担の関係性が希薄であることから反対との意見、被保険者範囲・受給者範囲の拡大の議論の前に給付や利用者負担の在り方について適切に見直すことが先決との意見があった。

〇 その一方で、将来的には、被保険者範囲を 40 歳未満の方にも拡大し介護の普遍化を図っていくべきとの意見、60 歳代後半の方の就業率や要介護認定率も勘案し 第1号被保険者の年齢を引き上げる議論も必要との意見、65 歳以上の就業者の増加や 40 歳以上の生産年齢人口の減少を踏まえ、中長期的な見通しを踏まえて方向性を決めていくことが必要との意見もあり、介護保険を取り巻く状況の変化も踏まえつつ、引き続き検討を行うことが適当である。

大きな枠組みの議論となるため、引き続き、情報を注視していくべき内容かと思われます。それでは、13番目のポイントに移ります。

【ポイント13:現金給付】

○ 我が国では、介護保険制度創設時より、現金給付を介護保険給付として制度化するか否かについて議論を行ってきた。制度創設時においては、家族介護の固定 化に対する懸念、サービスの普及を妨げることへの懸念、保険財政が拡大するおそれ、介護をする家族には、デイサービスやショートステイなどの在宅サービスの普及により介護の負担軽減を図ることが重要である、といった考え方により、現金給付の導入を行わないこととした。

〇 現金給付については、介護者の介護負担そのものが軽減されるわけではなく、介護離職が増加する可能性もあり、慎重に検討していくことが必要との意見があり、現時点で導入することは適当ではなく、「介護離職ゼロ」に向けた取組や家族支援を進めることが重要である。

この制度が導入されれば非常に画期的だな、と感じる一方、既存の考え方とは相容れない仕組みであることも理解できるところです。現時点では実現の可能性は極めて低そうな印象ですが、こちらも今後の流れを追いかけてまいりたいと思います。それでは、14番目のポイントに移ります(こちらは目を通しておく程度で十分かと思われます)。

【ポイント14:要介護認定制度】

平成30年度の有効期間拡大後の有効期間の設定状況や、更新認定後の要介護度の変化状況等を踏まえ、平成30年度に更新認定の有効期間を拡大した際の考え方を参考に、更新認定の二次判定において直前の要介護度と同じ要介護度と判定された者については、有効期間の上限を 36 か月から 48 か月に延長することを可能とすることが必要である。なお、状態が重度化・軽度化した場合の区分変更申請が適切に行われるようにすることも重要である。

〇 認定調査員の要件について、認定調査を指定市町村事務受託法人に委託して実施する場合において、ケアマネジャー以外の保健、医療、福祉に関しての専門的な知識を有している者も実施できることとすることが適当である。認定調査員の質の確保には留意する必要がある。

最後に、15番目のポイントを確認しておきましょう。

【ポイント15:住所地特例】

〇 住所地特例の対象施設と同一市町村にある認知症高齢者グループホームを住所地特例の対象とすることについては、地域密着型サービスは住民のためのサービスであること、現行でも市町村間の協議で他の市町村でのサービス利用が可能で あること、また、制度が複雑になることも踏まえ、現時点においては現行制度を維持することとし、保険者の意見や地域密着型サービスの趣旨を踏まえて引き続き検討することが適当である。

〇なお、住所地特例の対象施設に入所する者が認知症高齢者グループホームに移ると住所地特例がはずれてしまうことについては問題であり、検討が必要との意見、認知症高齢者グループホームは利用を希望する方も多く、住所地特例の対象とすることについて検討が必要との意見もあった。また、今後の人口減少を鑑みれば、基盤整備やサービスの提供について、自治体間で広域的に連携していくことも重要との意見もあった。

「住所地特例対象施設から同一市町村のグループホームに移る場合に限り、例外として住所地特例が適応される」そんな改正案が出される可能性もなくないかもな、と感じた次第です。

タイムリーにキャッチアップしつつも、過度に振り回されないように

以上、今月は「介護保険制度の見直しに関する意見」の内容についてお伝えしました。この資料により、2021年の法改正・報酬改定へ向けての大きな方向性は概ね示されたと思われます。今後の手続きとしては、議論は介護給付費分科会へと引き継がれ、より細かな改正法案・改定報酬案に関する審議が展開されることになります。経営者・幹部の皆様は是非、ご自身でも情報を追いかけていただくと共に、制度の活用は重要である一方、そこにばかり心が奪われ、結果、制度に振り回される、ということがないよう気をつけていただく必要もあるかもしれません。

いずれにせよ2018年の改正・改定へ向け、2020年はさらに具体的な議論が始まります。

我々もしっかりと追いかけ、タイムリーな情報提供を心掛けてまいりますので、引き続きよろしくお願い致します。

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

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