介護

【介護・保育】人材定着ブログ11月号~介護・保育 「福祉事業に必要なキャリアパスとは④」

【介護・保育】人材定着ブログ11月号~介護・保育 「福祉事業に必要なキャリアパスとは③」の続きです。

ステップ2、求められる能力を設定する

能力についての基本的な考え方は、「仕事をするために必要な能力」です。例えば、報告、連絡、相談を円滑に行う「コミュニケーション力」、リーダー業務に必要な「リーダーシップ力」、業務計画の進捗を管理するための「財務会計の知識」等です。

これらの能力についても法人でプロジェクトを立ち上げ、職員間で議論すれば様々な内容が出てくると思いますが、一般的に良く使われるものを下記しますので参考にしてほしいと思います。

  1. 初任クラス:コミュニケーション力・自己管理力・理解力・実行力・整理力・計張力等
  2. 上級クラス:創造力・改善力・提案力・リーダーシップ・問題提起力
  3. 指導職員:指導力・育成技術・判断力・目標設定力・進捗管理能力・説得力等
  4. 管理経営職:決断力・問題解決能力・計画実行力・説明力・折衝力・情報能力等

 

ステップ3、必要な研修を設定する

キャリアパスについては、「仕組みの構築だけが事業者の責務であり、それをどう活用するかは職員次第」という訳にはいきません。職員にキャリアアップの機会を意図的に提供することも事業者の重要な責務です。事業者は人材育成方針を踏まえた上で、「各階層において求められる仕事がきちんとできるようになるための研修」「その仕事に必要な能力を身につける研修」「資格を取得するための研修」という視点で、研修を整理、体系化しなければなりません。

  • 留意点1

研修には「直面するニーズ」と「育成に必要なニーズ」の双方があります。差し迫った必要性を感じるという意味では、どうしても専門性を優先しがちになります。専門性が重要であることは言うまでもありませんが、問題なのが、「組織性の研修」が軽視されがちなことです。指導職、監督職という階層から上は「専門職の階層」でなく「組織マネジメント」の階層です。「介護主任にはなりたくない」「主任に抜擢したら期待外れだった」という経験がある法人では、そもそも主任業務が務まるだけの研修機会を職員に提供しているかどうか、検証してもらいたいと思います。

 また、研修体系の構築と充実は、担当者の配置や委員の設置が不可欠になります。

組織が小規模の場合は、代表者や管理者が兼務でも構いません。要は研修の責任者を明確にすることが必要です。

  • 留意点2

研修には、「OJT」「OFFJT」「SDS」の3つの手法があります。

OJTとは、職場の上司や先輩が実務を通じて、または実務と関連させながら、部下や後輩を指導育成するものです。OFFJTは、業務命令である一定期間通常業務を離れて行う研修で、職場内の集合研修と職場外研修の二つがあります。そしてSDSは、職員の自主的な自己啓発活動を職場として認め、経済的、時間的な援助や施設の提供などを行うものです。研修については、既に行われているケースが多いので、その内容を階層別で体系化することがポイントです。

ステップ4、昇格条件を設定する

何をどのように頑張れば、階層を上がっていくことができるのかを決めるのが、キャリアパスの中で最も重要なルールのひとつである「昇格条件」です。昇格要件では、次の6つの視点で検討をすすめれば良いと考えています。但し、重要なことは、5つ全てを設定しなければならないわけではなく、この中から、自社の昇格要件として、どれを導入すべきかを検討していくことです。

 

  • 前等級における最低勤務年数
    「リーダーを最低3年やらないと主任は務まらない」というような発想があると思いますが、このような考え方を昇格の条件として、1級は2年以上、2級は3年以上などのような形で採り入れます。そして各階層の滞留年数を決めます。つまり昇格を考えるときにも、この年数経過が一つの要件になります。

 

  • 資格
     それぞれの等級で取得してほしい資格を昇格の条件として用いるという考え方です。

 

  • 受講しておくべき研修
     本来、昇格前に、昇格後に必要になる能力を身につける研修を受けておく、というのが望ましい研修の受け方ですが、なかなかそのように次のキャリアを意識した研修受講というのは難しいため、研修受講を昇格条件にする場合は、「新入職員研修を受講しないと2等級にはなれない」というように、現階層の必須研修を受講していないのに、先にはすすめません、といった観点で行います。

 

  • 実務経験
     「優秀なケアスタッフだったのに、リーダーにしたらプレッシャーから力を発揮できず、結局もとの立場に戻さざるを得なくなった・・・」などというミスマッチをなくすために、指導監督職(主任等)になる前に、一般職の間に、一度でも委員会の委員長や行事のリーダー等をつとめた経験がある事などを、昇格条件にするケースもあります。
     少し大きな事業所では、複数の事業所を経験していないと(異動していないと)管理者になれないというルールもこの類です。

 

  • 人事評価
     人事評価制度を取り入れている事業所では、必ずといっていいほど、その結果を昇格の条件に用いています。「階層に求められる業務ができているか」を評価しているのであれば、その結果を次の段階に進めるか否かの判断基準に加えるというのは、極めて合理的な方法です。

 

次回からは、キャリアパスの中心である「評価制度」に入っていきたいと思います。

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人 

介護事業所様向け情報(経営)11月号③

福祉施設でみられる人事労務Q&A
『受診を拒む職員に健康診断の受診を強制してもよいのか』

Q:

当施設では毎年健康診断を実施していますが、ある職員がその受診を拒否しています。本人の意向に沿って健康診断を受診させなくても問題はないのでしょうか。受診させるとした場合、強制しても問題ないのでしょうか?

A:

法律には、施設が定期健康診断を実施することと職員が健康的に業務を行えるよう必要な措置を講じるといった安全配慮義務の2 つが定められているため、必ず健康診断を行わなければなりません。また、職員も自身の健康を管理する自己保健義務が課されているため、施設が受診を強制することは基本的に問題とはなりません。

詳細解説:

施設は、職員に原則1 年に1 回健康診断を実施しなければなりません(労働安全衛生法第66 条1 項)。また、職員の健康状態が悪い場合には必要に応じて業務時間を短縮する等の具体的な措置を講じることによって、職員が健康的で安全に業務を行うことができるようにする、安全配慮義務が定められています(労働契約法第5 条)。そのため、今回のケースのように健康診断を受診しない職員がいる場合は、施設に罰則が適用される可能性があります。また、例えば健康診断を受診していない職員に健康上の問題が生じた場合、施設が職員の健康状態を適正に把握できていなかったことが安全配慮義務違反と判断される可能性があります。さらには、施設が行うべき職員の健康管理が不十分な状態にあり、職員の健康状態を悪化させたと判断されるような場合は、損害賠償責任を負わなければならないことも考えられます。そうしたことから、施設は健康診断を受診しなければならない職員全員が確実に受診しているようにすることが必要です。ただし、職員には医師を選択する自由があるため、施設が指定する医療機関で健康診断を受けずに、他の医療機関で受けた健康診断結果を施設に提出する方法でも問題ありません。
職員については、健康診断の受診を拒否しても罰則はありませんが、法的に受診が義務づけられています(労働安全衛生法第66 条5項)。また、職員も自身の健康を守るための努力をしなければならないとする自己保健義務に基づいて、事業主が行った懲戒処分が認められた裁判例があります(愛知県教育委員会事件)。施設が職員に自己保健義務を果たすよう求めるために、就業規則に以下のような規定を定めることも検討したいところです。

就業規則への記載例:

  • 職員は、正当な理由なく健康診断の受診を拒否してはならない。
  • 職員は、⽇頃から⾃らの⼼⾝の健康の維持・増進及び傷病の予防に⾃ら率先して努めるとともに、⾃らの⼼⾝の健康管理に責任を持たなければならない。
  • ⼼⾝の健康に⽀障を感じた時は、速やかに上司等に相談し、また医師の診察を受けるなどして早期の回復に努めなければならない。

(来月に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

介護事業所様向け情報(経営)11月号②

都道府県別 福祉施設等の入・離職率

業種を問わず慢性的な人手不足の状態が続いていますが、人材の移動はどのようになっているのでしょうか。ここでは、今年8 月に厚生労働省から発表された資料※から、福祉施設等の入職率と離職率を都道府県別にみていきます。

医療,福祉は入職超過の状態

上記調査結果から、2018 年(平成30 年)の福祉施設等(以下、医療,福祉)の入職率と離職率、入職超過率(入職率から離職率を引いたもの)を都道府県別にまとめると、下表のとおりです。

全国計をみると、入職率は16.2%、離職率は15.5%で、入職超過率が0.7 ポイントと入職超過になっています。なお、2017 年と比較すると、入職率は16.4%と0.2 ポイント減少、離職率は14.5%で1 ポイント増加、入職超過率は1.9 ポイントで1.2 ポイントの減少となり、離職率が高くなっています。

25 道県で入職超過の状態

都道府県別では、入職率、離職率、入職超過率のいずれも山口県が最も高くなりました。

それ以外では、入職率は北海道が40%を超え、栃木県、広島県、島根県、岩手県で25%を超えました。離職率では、広島県と北海道が30%を超えています。入職超過率では、山口県を含め
25 道県が入職超過です。残りの22 都府県のうち、10 ポイント以上の離職超過になっているのが、群馬県、長野県、鹿児島県、石川県、宮崎県の5 県です。

貴施設の地域の状況はいかがでしょうか。

※厚生労働省「平成30 年雇用動向調査」
日本標準産業分類(平成25 年10 月改定)に基づく次の16 大産業に属し、5 人以上の常用労働者を雇用する事業所のうちから、産業、事業所規模別に層化して無作為に抽出した約15,000 事業所と、その事業所に入職した常用労働者と離職した常用労働者のうちから無作為に抽出した者を対象にした調査です。詳細は次のURL のページからご確認ください。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450073&tstat=000001012468&cycle=7&year=20180&month=0&tclass1=000001012469&tclass2=000001063686&tclass3=000001063688&result_back=1

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

介護事業所様向け情報(経営)11月号①

介護現場の生産性向上ガイドライン

働き方改革や人材難から、介護の現場における生産性向上がますます求められています。今回は、今年3 月に厚生労働省が作成・公表した「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン※」について取り上げます。

介護現場における「業務改善」

生産性向上には、「業務改善」が不可欠。一般的な「業務改善」は、業務のやり方を工夫し「ムリ」「ムダ」「ムラ」を無くしていくことで、安全、正確性、効率や負担の軽減を目指しますが、介護は「人」が相手。単純に効率性や安全性を追求することは、サービスの質の低下につながります。介護現場での「業務改善」では、「介護の価値を高めること」も同時に重要となります。

ガイドラインでは、「介護現場における業務改善」を「改善で生まれた時間を有効活用して、利用者に向き合う時間を増やしたり、自分達で質をどう高めるかを考えること」と読み替え、
①人材育成、②チームケアの質の向上、③情報共有の効率化、の3 つの視点を重視し、サービスの向上と人材定着・確保を目指しています。

改善活動の手順とポイント

ガイドラインは「施設サービス」版、「居宅サービス」版、「医療系サービス」版の3 種類があり、業務改善の取組経験のない事業所でも実行できる「道案内のツール」として、分かりや
すくまとめられています。例えば、施設・居宅
サービスの改善活動手順は次のようにまとめられ、事例や書式ツールも紹介されています。

※厚生労働省「介護分野における生産性向上について」ガイドラインは、次のURL からダウンロードいただけます。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198094_00013.html

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

介護事業所様向け情報(労務)11月号④

高校生を雇用する際の留意点

人材確保が難しいことから、これまで高校生等の満18歳未満の年少者(以下、「高校生」という)を雇用していなかった企業でも、長期休暇や土曜日・日曜日等に高校生を雇用することを検討しているケースが増えています。高校生を雇用するときには、労務管理上の留意点があるため、その内容を確認しておきます。

1.労働基準法における主な保護規定

労働基準法は高校生にも当然に適用されます。雇用契約は高校生本人と行い、給与も高校生本人に支払います。ただし、年齢区分に応じて取扱いが異なるものがあり、高校生を雇用するにあたっては、特に以下の3項目について注意が必要です。

①年齢証明書等の備付け
②労働時間・休日の制限
③深夜業の制限

①年齢証明書等の備付け

事業場に、高校生の年齢を証明する公的な書面(戸籍証明書や住民票記載事項証明書等)を備え付ける必要があります。

②労働時間・休日の制限

労働基準法の原則である1週40時間、1日8時間を超えて労働させることはできず、いわゆる変形労働時間制により働かせることもできません。例外として、以下の2つがあります。
ア)1週40時間を超えない範囲で、1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮する場合において、他の日の労働時間を10時間まで延長する場合

イ)1週48時間、1日8時間を超えない範囲内において、1ヶ月または1年単位の変形労働制を適用する場合

③深夜業の制限

原則として、午後10時から翌日午前5時までの深夜時間帯に働かせることはできません。ただし、以下の場合は例外となっています。
ア)交替制の満16歳以上の男性
イ)農林業、水産・養蚕・畜産業、保健衛生業または電話交換の業務に従事する高校生
ウ)災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合

2.その他の留意点

雇用契約は高校生本人と行うことになりますが、雇用契約をする際には、親権者に働くことを伝えてあるかを確認し、学生の本分である勉強がおろそかにならないような配慮が必要です。
また、高校生であっても労災保険の対象となります。そのため、業務中にケガをしたり通勤途中で事故にあった場合は、労災保険が適用されます。会社としては、このような場合には自身の健康保険証が使えないことを事前に伝えておくといった細かな配慮もしたいものです。

4月に新入社員として入社する前の冬休みや春休みに、高校生にアルバイトとして勤務してもらうこともあるでしょう。高校生の雇用については、新入社員として雇用する予定であっても、満18歳に満たない場合は、保護規定が適用されるので、勤務する前に、年齢の確認をしておきましょう。

(来月に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

【介護・保育】人材定着ブログ11月号~介護・保育 「福祉事業に必要なキャリアパスとは③」

【介護・保育】人材定着ブログ11月号~介護・保育 「福祉事業に必要なキャリアパスとは②」の続きです。

7.資格等級制度

先月号の内容を踏まえて、今月号からは、実際に事業所にキャリアパス構築支援を行う際の、手順とポイントについてお伝えしたいと思います。まずは、その骨格とも言うべき資格等級制度から始めます。

資格等級制度のフレーム事例

ステップ1、階層と業務レベルを決める

ますは何よりキャリアアップするための階層を設けなければなりません。この階層が、キャリアパスの「骨組み」になります。この骨組みの上に、いろいろな要素を載せていくのがキャリアパス制度の構築の作業となります。

ある介護老人保健施設の事例をご紹介いたします。

  1. 9級は経営層で施設長レベル
  2. 8級は経営層で副施設長、事務長レベル
  3. 7級は上級管理者層で課長レベル
  4. 6級は中級管理職層で、副課長レベル
  5. 5級は中級管理職層で、主任レベル
  6. 4級は初級指導職層で、副主任レベル
  7. 3級は一般職員で、上級職員レベル
  8. 2級は一般職員で、中級職員レベル
  9. 1級は一般職員で、初級職員レベル

一般職員の間も、いくつかの階層を設けたほうが、従業員にとっては、キャリアアップの一里塚となり、成長や定着のモチベーションの源泉になります。また、階層を設定したら、その階層に要求される「業務レベル」の定義をいれます。各階層に求める業務のレベルを言語化するとどんな表現になるのかを検討していくのです。一般に、「一人前」といわれるレベルを一般職としての上位に置いた上で、その下位層の定義づけを行います。
また、業務の具体的な内容については、別紙に、職能要件書として示した方が分かりやすいものと思います。職能要件書については、人事評価(職能評価)の項目にて解説いたします。
因みに 1級から3級までの業務レベルの事例をご紹介いたします。

  • 留意点1

階層設計の留意点として、階層は「現状の姿」でなく、「あるべき姿」で構築することが重要です。キャリアパス制度の構築は、現状の組織をベースとしながらも、将来の組織のあり方も同時に検討していくことが必要です。
例えば、現状のリーダーの上は、主任だ、という場合でも円滑に運営するためには、その中間に「副主任」クラスの階層を設けた方は良ければ、当面は該当者がいなくてもいいのです。階層の設定は、現状そのような社員がいる、いないということではなく、「こうあるべきだ」「こうありたい」という方を判断基準として構いません。その結果、階層の数が実際の社員数を上回る、というようなことも起こりえます。さらに、等級に対応する業務レベルも同様で、該当等級の現状のスタッフは、現在そのようなレベルの仕事はしていない状況でも、法人が要求している業務の内容を明確にすることで、社員の能力向上を促すものとなりますので、ここでも「あるべき姿」を記載することをお勧めいたします。

  • 留意点2

留意点の2つ目は、所謂「キャリアの複線化」です。現場では、「優秀な職員ほど役職にはつきたがらない」とか、「知識・技術面でわからないことについて、皆が教えてもらえる職員は決まっており、しかもその職員は役職者ではない」、といった話がよく聞かれます。
そこで考えるべきなのが、キャリアパスにおける「複線化」です。つまり、キャリアパスに描かれた昇格ラインによらずに、役職にはつかずに専ら専門性を高め、組織に貢献するキャリアパスを作ることです。この階層を「専門職」として、上級介護職の水準を超える水準をもって処遇します。この場合、当該職員はマネジメント業務を行わず、もっぱら好きな介護の道を追い続けても、相応の処遇が保障されることになります。専門性の高さを認められてこその処遇なので、職員のプライドも充足することができます。
福祉職場には「一般層」「指導監督層」「管理者層」といったマネジメントの階層の他に、「スキル」による階層が存在するとし、「指導監督層」に相当する「エキスパート職」や、管理者層に相当する「スキルリーダー」といった定義づけを行っている事業所もあります。
また優秀な人材を滞留させては、離職につながりかねません。中小企業の中には職員が自らポストの数を読んで、諦めムードが漂っているようなケースも散見されますが、「専任職」を設けて、「当法人は、管理上の役職だけがポストではない。専任職というスキル面のリーダーもあり、相応に処遇する」と周知すれば閉塞感が一気に変わるはずです。

以上

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

介護事業所様向け情報(労務)11月号③

パートタイマーの社会保険の加入要件と今後の適用拡大の方向性

公的年金は少なくとも5年ごとに財政見通しと、マクロ経済スライドの開始・終了年度の見通しの作成を行い、年金財政の健全性を検証することになっています。2019年8月にはこの財政検証が実施され、財政を支えるために今後の社会保険の適用の拡大について検討する必要性を示しました。そこで、以下ではパートタイマーやアルバイト(以下、「パート等」という)の社会保険の加入要件について確認しておきます。

1.特定適用事業所と被保険者

現在、正社員のほか、パート等であっても1週間の所定労働時間(勤務時間)および1ヶ月の所定労働日数(勤務日数)が正社員の4分の3以上のときは社会保険に加入します。
これに加え、厚生年金保険被保険者数の合計が常時501人以上の企業(特定適用事業所)では、勤務時間や勤務日数が、正社員4分の3未満であっても、以下の①~④のすべてに該当するときには被保険者となります。

①週の所定労働時間が20時間以上である
②雇用期間が1年以上見込まれる
③賃金の月額が88,000円以上である
④学生ではない

ここで②については、雇用期間が1年未満であっても、雇用契約書に契約が更新する旨または更新する可能性がある旨が明示されている場合も、含まれることになっています。また、③については、賞与等、1ヶ月を超える期間ごとに支給されるものの他、通勤手当や家族手当といった最低賃金法で算入しないことになっている賃金は、含めずに考えます。

2.任意特定適用事業所

2017年4月からは厚生年金保険被保険者数が少なく、特定適用事業所には該当しないときであっても、地方公共団体に属する事業所や、会社と従業員が合意し日本年金機構に申し出たときには、任意で特定適用事業所として認められる制度が設けられました。

3.今後の適用拡大の流れ

厚生労働省では「働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会」が開催されており、その中で社会保険の更なる適用拡大が議論されています。2019年9月20日にはこの懇談会における議論がとりまとめられましたが様々な意見が出ているため、調整には時間がかかり、また、拡大するときの要件についても、いくつかの案で検証が行われることになるでしょう。

社会保険の適用拡大が行われることで、年金財政の支え手となる人が増えることは年金制度の安定につながりますが、従業員や企業にとっては社会保険料の負担が大きくなり、被保険者となる要件に該当しない範囲に労働時間を短縮する働き方を選択するパート等の発生にもつながります。今後の議論の動向を注視していく必要がありそうです。

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

介護事業所様向け情報(労務)11月号②

労働基準監督署の調査でよく聞かれる36協定(一般条項)に関する事項

このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。

総務部長来月、労働基準監督署の調査が行われることになりました。事前の準備物に「時間外・休日労働に関する協定届」(以下、「36協定」という)とありますが、どのようなことを確認されるのでしょうか?

社労士まずは以下の3点について確認が行われるでしょう。 
①各事業場で36協定の届出が行われているか。
②36協定に記載された延長することができる時間数を遵守できているか。
③過半数代表者が適正に選出されているか。

総務部長①について当社は本社のみですが、今後、支店や営業所を出す場合、そこでも36協定の届出が必要ということですね。

社労士そのとおりです。36協定は会社単位ではなく、事業場(本社、支店、営業所など)ごとに締結することが必要です。次に②については、例えば36協定の延長することができる時間数として1ヶ月45時間、1年360時間と協定していた場合、実際の時間外労働時間数がこれらの基準に収まっているかの確認がされます。

総務部長当社は、多くても残業は1ヶ月40時間程度なので、大丈夫かと思います。

社労士なるほど、1ヶ月の時間外労働は収まっているということですね。となると1年を確認する必要がありますね。例えば、1年の起算日から1ヶ月40時間の時間外労働が連続6ヶ月あった場合、累計は240時間になります。1年360時間を遵守するためには、残りの6ヶ月は1ヶ月当たり平均20時間以内の時間外労働に収める必要があります。

総務部長1年での残業時間は気にしていませんでした。一度確認し、状況に応じ、次回の36協定を締結する際の時間数を検討します。

社労士そうですね。最後に③については、36協定を結ぶときの代表者について、従業員の過半数を代表しているか、選出にあたってはすべての従業員が参加した民主的な手続きがとられているか、管理監督者に該当していないかということが確認されます。
この他、36協定を従業員に周知する義務があり、見やすい場所に掲示するなどの対応が必要になっていますので、これらについても確認されるかもしれません。

総務部長確認するポイントが細かくあるのですね。他の準備物とあわせて事前に確認して調査に対応します。

【ワンポイントアドバイス】
1. 36協定は事業場ごとに締結し、届け出る必要がある。
2. 36協定で締結した内容を遵守しなければ36協定違反となるため、法令を遵守しつつ、実
態に合った内容とする必要がある。
3. 36協定は、見やすい場所への掲示などを行い、従業員に周知する必要がある。

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

介護事業所様向け情報(労務)11月号①

育児短時間勤務を運用する際のポイント

育児・介護休業法では、3歳未満の子どもを育てる従業員が希望したときは、1日の所定労働時間を原則として6時間に短縮することを企業に義務付けています(育児短時間勤務)。育児休業から復帰した後にこの制度の利用を希望する従業員は多く、また、制度を使いやすいものにして欲しいという要望も多く寄せられることから、以下では制度のポイントを確認しておきます。

1.対象となる労働者

育児短時間勤務は、3歳未満の子どもを育てる従業員が対象となる制度ですが、そもそも1日の所定労働時間が6時間以下の従業員は制度の対象外となっており、労使協定を締結することで、入社1年未満の従業員や、業務の性質や実施体制により制度の対象とすることが難しい従業員は、制度の対象から除外することができます。なお、制度の対象から除外した業務の性質や実施体制により制度の対象とすることが難しい従業員については、育児短時間勤務の代わりとなる制度の導入が義務付けられます。
厚生労働省の「平成30年度雇用均等基本調査」から、育児短時間勤務制度の最長可能期間を企業ごとに見ると、3歳未満が25.6%、小学校就学の始期に達するまでが19.1%で上位2つになっています。子どもの保育所の送迎などに時間を要することもあり、法令を超えた子どもの年令まで制度の対象とする企業も一定数あることがわかります。

2.労働時間数の選択

育児短時間勤務では、1日の所定労働時間を6時間とすることが求められますが、通常の1日の所定労働時間が7時間45分である企業もあることから、1日の所定労働時間が5時間45分から6時間までであれば、6時間に短縮していることと認められます。

なお、従業員から1日の所定労働時間を5時間や7時間にしたいという要望が聞かれますが、法令では6時間に短縮することを求めており、それ以外の選択をできるようにすることまでを求めてはいません。1日の所定労働時間を6時間とできるようにしつつ、所定労働時間数を選択できるようにしたり、隔日勤務のように所定労働日数を短縮する制度を選択できるようにすることも可能です。企業の状況によって導入を検討してもよいでしょう。

3.始業・終業時刻の選択

保育所に子どもを預けながら働く場合、保育所の開所時間によって従業員が働くことのできる時間が左右されることもあります。そのため、1日の所定労働時間を6時間に短縮しつつ、短縮後の始業・終業時刻を選択することを希望する従業員がいます。法令では始業・終業時刻を選択できるようにすることまでを求めていないため、始業・終業時刻については企業の状況に応じて決めることができます。

育児短時間勤務の制度内容を柔軟にすることで、育児をする従業員にとっては働きやすい環境になりますが、その反面、周囲の従業員に過度の負荷が掛かることもあります。従業員の要望により法令を上回る制度とするときには、従業員全体のバランスも考慮にいれておきたいものです。

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

【介護・保育】人材定着ブログ11月号~介護・保育 「福祉事業に必要なキャリアパスとは②」

介護・保育】人材定着ブログ11月号~介護・保育 「福祉事業に必要なキャリアパスとは①」の続きです。

5、キャリアパス制度に関する介護事業者の実際

それでは、介護事業所のキャリアパスの整備状況はどのようになっているのでしょうか。もちろん、事業所の規模、サービスの内容によって状況は異なっているものの、概して、多くの課題を抱えている状態といっても過言ではないでしょう。

  • 人事評価を行っていない。または、行っているが、給与、賞与に反映されていない。
  • 資格等級を導入しても、各等級の職能や能力要件が明記されていない。
  • 給与水準と職能、職責が連動していない。

上記のように、未だに整備されていない事業所であったり、制度はあっても運用されていなかったり、キャリアパス全体としてうまく機能していない事業所がまだまだ多い、というのが私の実感です。

6、キャリアパスに関する3つの質問

ここで、介護事業所の経営者の方からキャリアパスに関して、よく聞かれる質問をご紹介します。

  • 「キャリアパス制度」って採用や定着に効果があるの?

職員の採用という点では、就職にあたって自分の将来がイメージできるというのは、求職者がここで働きたい、働き続けたいと感じる為の要因として、大きなウェイトをもっています。また、就職してからは、将来の事というより、当面の事、例えば新入職員からしてみれば、職場にはどのような仕事があるのか、自分はどこまで求められているのか、全くわかりません。確かに、当面やらなければならない仕事のやり方は次々に教わるけれど、すぐにそれを完全にできるわけでもなく、とりあえずどこまでできればいいのかもわからない、こういう状態では、全くモチベーションが上がらない、働きづらい状況に他なりません。

以上のようなことにならないために「キャリアパス制度」が存在します。この制度をつかうことによって、まず自分に求められる仕事の範囲が示され、その為に必要な能力も示されますので、当面の努力の方向性が定まります。しかもその能力が体系的に身につくよう、仕事を教わり、研修も受けられます。そして評価によって業務が習得したと認められ、自分自身の成長の実感につながります。

 結果として、「ひとつ上のマスにあがった」ということになれば、就職時に描いたイメージがいよいよ現実なものになりますし、この積み重ねは確実に定着に繋がります。

 

一般社員口コミサイトのVorkersの調査によれば、平成生まれの社員の退職理由トップは、「キャリア成長が望めない」ということでした。このことからも、これからの世代は、自らのキャリアを高めることに大きな関心を持っていることがわかります。つまり、「キャリアパス制度」は、今後益々、職員の採用や人材定着に直結していく重要な制度ということになっていくでしょう。

                  

  • 小規模事業所でもキャリアパスを作ることができるの?

もちろん、小規模事業所でも導入することができますし、導入している成功事例はたくさんあります。例えば、パートさんやヘルパーさんを含めて10人規模の訪問介護事業所や、通所介護(デイサービス)事業所でも十分にキャリアパスは構築できます。規模が小さい事業所は職責や組織のポジションが少なく、また給与財源が限られているという理由で、キャリアパスを作っても、「昇進」「昇格」ができないとお考えの事業所は多いようです。ただ、社内のポジションで考えてみると、資格等級制度における「昇進」と「昇格」は異なります。「昇進」は確かにポジションが空かなければ上に進むことはできませんが、「昇格」は等級要件がクリアできれば全員昇格するのが、キャリアパスにおける資格等級制度の考え方です。例えば、取得した資格のレベル、勤続年数、人事評価などで、各等級の要件をあらかじめ定め、その昇格要件を決め、給与や時給に連動させれば、立派なキャリアパスです。昇給財源については、前述の処遇改善加算金を、財源に充当させることも十分可能ですし、むしろ国もそれを奨励しています。従業員教育に時間をかけられない小規模事業所だからこそ、その制度により従業員の自発的な働きや能力を高め人材定着に大きな効果を得られるでしょう。

  • 「キャリア段位制度」とキャリアパスの関係は?

国が導入を推奨している制度に「キャリア段位制度」という制度があります。これは、これは、成長分野における新しい職業能力を評価する仕組みであり、企業や事務所ごとにバラバラでない共通のものさしをつくり、これに基づいて人材育成を目指す制度です。現場での技能だけでなく、資格取得や研修受講の座学もレベル認定の要件にしています。

実はこの制度は介護職のキャリアアップ制度と多くの部分で重複しています。この制度のレベル認定項目は、介護職の事業所内評価にも十分活用できる内容なので、自法人のキャリアパス制度の人事評価項目(職能評価項目)で積極的に活用されることをお勧めいたします。

 

次号からは、資格等級制度から、順次キャリアパスを構成する各制度について、具体的にお伝えしていきます。

以上

お電話でのお問い合わせ

03-6435-7075(平日9:00~18:00)

営業時間外のお問い合わせはこちらから

相談・ご依頼の流れはこちら