介護

介護事業所様向け情報(労務)11月号④

高校生を雇用する際の留意点

人材確保が難しいことから、これまで高校生等の満18歳未満の年少者(以下、「高校生」という)を雇用していなかった企業でも、長期休暇や土曜日・日曜日等に高校生を雇用することを検討しているケースが増えています。高校生を雇用するときには、労務管理上の留意点があるため、その内容を確認しておきます。

1.労働基準法における主な保護規定

労働基準法は高校生にも当然に適用されます。雇用契約は高校生本人と行い、給与も高校生本人に支払います。ただし、年齢区分に応じて取扱いが異なるものがあり、高校生を雇用するにあたっては、特に以下の3項目について注意が必要です。

①年齢証明書等の備付け
②労働時間・休日の制限
③深夜業の制限

①年齢証明書等の備付け

事業場に、高校生の年齢を証明する公的な書面(戸籍証明書や住民票記載事項証明書等)を備え付ける必要があります。

②労働時間・休日の制限

労働基準法の原則である1週40時間、1日8時間を超えて労働させることはできず、いわゆる変形労働時間制により働かせることもできません。例外として、以下の2つがあります。
ア)1週40時間を超えない範囲で、1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮する場合において、他の日の労働時間を10時間まで延長する場合

イ)1週48時間、1日8時間を超えない範囲内において、1ヶ月または1年単位の変形労働制を適用する場合

③深夜業の制限

原則として、午後10時から翌日午前5時までの深夜時間帯に働かせることはできません。ただし、以下の場合は例外となっています。
ア)交替制の満16歳以上の男性
イ)農林業、水産・養蚕・畜産業、保健衛生業または電話交換の業務に従事する高校生
ウ)災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合

2.その他の留意点

雇用契約は高校生本人と行うことになりますが、雇用契約をする際には、親権者に働くことを伝えてあるかを確認し、学生の本分である勉強がおろそかにならないような配慮が必要です。
また、高校生であっても労災保険の対象となります。そのため、業務中にケガをしたり通勤途中で事故にあった場合は、労災保険が適用されます。会社としては、このような場合には自身の健康保険証が使えないことを事前に伝えておくといった細かな配慮もしたいものです。

4月に新入社員として入社する前の冬休みや春休みに、高校生にアルバイトとして勤務してもらうこともあるでしょう。高校生の雇用については、新入社員として雇用する予定であっても、満18歳に満たない場合は、保護規定が適用されるので、勤務する前に、年齢の確認をしておきましょう。

(来月に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

【介護・保育】人材定着ブログ11月号~介護・保育 「福祉事業に必要なキャリアパスとは③」

【介護・保育】人材定着ブログ11月号~介護・保育 「福祉事業に必要なキャリアパスとは②」の続きです。

7.資格等級制度

先月号の内容を踏まえて、今月号からは、実際に事業所にキャリアパス構築支援を行う際の、手順とポイントについてお伝えしたいと思います。まずは、その骨格とも言うべき資格等級制度から始めます。

資格等級制度のフレーム事例

ステップ1、階層と業務レベルを決める

ますは何よりキャリアアップするための階層を設けなければなりません。この階層が、キャリアパスの「骨組み」になります。この骨組みの上に、いろいろな要素を載せていくのがキャリアパス制度の構築の作業となります。

ある介護老人保健施設の事例をご紹介いたします。

  1. 9級は経営層で施設長レベル
  2. 8級は経営層で副施設長、事務長レベル
  3. 7級は上級管理者層で課長レベル
  4. 6級は中級管理職層で、副課長レベル
  5. 5級は中級管理職層で、主任レベル
  6. 4級は初級指導職層で、副主任レベル
  7. 3級は一般職員で、上級職員レベル
  8. 2級は一般職員で、中級職員レベル
  9. 1級は一般職員で、初級職員レベル

一般職員の間も、いくつかの階層を設けたほうが、従業員にとっては、キャリアアップの一里塚となり、成長や定着のモチベーションの源泉になります。また、階層を設定したら、その階層に要求される「業務レベル」の定義をいれます。各階層に求める業務のレベルを言語化するとどんな表現になるのかを検討していくのです。一般に、「一人前」といわれるレベルを一般職としての上位に置いた上で、その下位層の定義づけを行います。
また、業務の具体的な内容については、別紙に、職能要件書として示した方が分かりやすいものと思います。職能要件書については、人事評価(職能評価)の項目にて解説いたします。
因みに 1級から3級までの業務レベルの事例をご紹介いたします。

  • 留意点1

階層設計の留意点として、階層は「現状の姿」でなく、「あるべき姿」で構築することが重要です。キャリアパス制度の構築は、現状の組織をベースとしながらも、将来の組織のあり方も同時に検討していくことが必要です。
例えば、現状のリーダーの上は、主任だ、という場合でも円滑に運営するためには、その中間に「副主任」クラスの階層を設けた方は良ければ、当面は該当者がいなくてもいいのです。階層の設定は、現状そのような社員がいる、いないということではなく、「こうあるべきだ」「こうありたい」という方を判断基準として構いません。その結果、階層の数が実際の社員数を上回る、というようなことも起こりえます。さらに、等級に対応する業務レベルも同様で、該当等級の現状のスタッフは、現在そのようなレベルの仕事はしていない状況でも、法人が要求している業務の内容を明確にすることで、社員の能力向上を促すものとなりますので、ここでも「あるべき姿」を記載することをお勧めいたします。

  • 留意点2

留意点の2つ目は、所謂「キャリアの複線化」です。現場では、「優秀な職員ほど役職にはつきたがらない」とか、「知識・技術面でわからないことについて、皆が教えてもらえる職員は決まっており、しかもその職員は役職者ではない」、といった話がよく聞かれます。
そこで考えるべきなのが、キャリアパスにおける「複線化」です。つまり、キャリアパスに描かれた昇格ラインによらずに、役職にはつかずに専ら専門性を高め、組織に貢献するキャリアパスを作ることです。この階層を「専門職」として、上級介護職の水準を超える水準をもって処遇します。この場合、当該職員はマネジメント業務を行わず、もっぱら好きな介護の道を追い続けても、相応の処遇が保障されることになります。専門性の高さを認められてこその処遇なので、職員のプライドも充足することができます。
福祉職場には「一般層」「指導監督層」「管理者層」といったマネジメントの階層の他に、「スキル」による階層が存在するとし、「指導監督層」に相当する「エキスパート職」や、管理者層に相当する「スキルリーダー」といった定義づけを行っている事業所もあります。
また優秀な人材を滞留させては、離職につながりかねません。中小企業の中には職員が自らポストの数を読んで、諦めムードが漂っているようなケースも散見されますが、「専任職」を設けて、「当法人は、管理上の役職だけがポストではない。専任職というスキル面のリーダーもあり、相応に処遇する」と周知すれば閉塞感が一気に変わるはずです。

以上

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

介護事業所様向け情報(労務)11月号③

パートタイマーの社会保険の加入要件と今後の適用拡大の方向性

公的年金は少なくとも5年ごとに財政見通しと、マクロ経済スライドの開始・終了年度の見通しの作成を行い、年金財政の健全性を検証することになっています。2019年8月にはこの財政検証が実施され、財政を支えるために今後の社会保険の適用の拡大について検討する必要性を示しました。そこで、以下ではパートタイマーやアルバイト(以下、「パート等」という)の社会保険の加入要件について確認しておきます。

1.特定適用事業所と被保険者

現在、正社員のほか、パート等であっても1週間の所定労働時間(勤務時間)および1ヶ月の所定労働日数(勤務日数)が正社員の4分の3以上のときは社会保険に加入します。
これに加え、厚生年金保険被保険者数の合計が常時501人以上の企業(特定適用事業所)では、勤務時間や勤務日数が、正社員4分の3未満であっても、以下の①~④のすべてに該当するときには被保険者となります。

①週の所定労働時間が20時間以上である
②雇用期間が1年以上見込まれる
③賃金の月額が88,000円以上である
④学生ではない

ここで②については、雇用期間が1年未満であっても、雇用契約書に契約が更新する旨または更新する可能性がある旨が明示されている場合も、含まれることになっています。また、③については、賞与等、1ヶ月を超える期間ごとに支給されるものの他、通勤手当や家族手当といった最低賃金法で算入しないことになっている賃金は、含めずに考えます。

2.任意特定適用事業所

2017年4月からは厚生年金保険被保険者数が少なく、特定適用事業所には該当しないときであっても、地方公共団体に属する事業所や、会社と従業員が合意し日本年金機構に申し出たときには、任意で特定適用事業所として認められる制度が設けられました。

3.今後の適用拡大の流れ

厚生労働省では「働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会」が開催されており、その中で社会保険の更なる適用拡大が議論されています。2019年9月20日にはこの懇談会における議論がとりまとめられましたが様々な意見が出ているため、調整には時間がかかり、また、拡大するときの要件についても、いくつかの案で検証が行われることになるでしょう。

社会保険の適用拡大が行われることで、年金財政の支え手となる人が増えることは年金制度の安定につながりますが、従業員や企業にとっては社会保険料の負担が大きくなり、被保険者となる要件に該当しない範囲に労働時間を短縮する働き方を選択するパート等の発生にもつながります。今後の議論の動向を注視していく必要がありそうです。

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

介護事業所様向け情報(労務)11月号②

労働基準監督署の調査でよく聞かれる36協定(一般条項)に関する事項

このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。

総務部長来月、労働基準監督署の調査が行われることになりました。事前の準備物に「時間外・休日労働に関する協定届」(以下、「36協定」という)とありますが、どのようなことを確認されるのでしょうか?

社労士まずは以下の3点について確認が行われるでしょう。 
①各事業場で36協定の届出が行われているか。
②36協定に記載された延長することができる時間数を遵守できているか。
③過半数代表者が適正に選出されているか。

総務部長①について当社は本社のみですが、今後、支店や営業所を出す場合、そこでも36協定の届出が必要ということですね。

社労士そのとおりです。36協定は会社単位ではなく、事業場(本社、支店、営業所など)ごとに締結することが必要です。次に②については、例えば36協定の延長することができる時間数として1ヶ月45時間、1年360時間と協定していた場合、実際の時間外労働時間数がこれらの基準に収まっているかの確認がされます。

総務部長当社は、多くても残業は1ヶ月40時間程度なので、大丈夫かと思います。

社労士なるほど、1ヶ月の時間外労働は収まっているということですね。となると1年を確認する必要がありますね。例えば、1年の起算日から1ヶ月40時間の時間外労働が連続6ヶ月あった場合、累計は240時間になります。1年360時間を遵守するためには、残りの6ヶ月は1ヶ月当たり平均20時間以内の時間外労働に収める必要があります。

総務部長1年での残業時間は気にしていませんでした。一度確認し、状況に応じ、次回の36協定を締結する際の時間数を検討します。

社労士そうですね。最後に③については、36協定を結ぶときの代表者について、従業員の過半数を代表しているか、選出にあたってはすべての従業員が参加した民主的な手続きがとられているか、管理監督者に該当していないかということが確認されます。
この他、36協定を従業員に周知する義務があり、見やすい場所に掲示するなどの対応が必要になっていますので、これらについても確認されるかもしれません。

総務部長確認するポイントが細かくあるのですね。他の準備物とあわせて事前に確認して調査に対応します。

【ワンポイントアドバイス】
1. 36協定は事業場ごとに締結し、届け出る必要がある。
2. 36協定で締結した内容を遵守しなければ36協定違反となるため、法令を遵守しつつ、実
態に合った内容とする必要がある。
3. 36協定は、見やすい場所への掲示などを行い、従業員に周知する必要がある。

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

介護事業所様向け情報(労務)11月号①

育児短時間勤務を運用する際のポイント

育児・介護休業法では、3歳未満の子どもを育てる従業員が希望したときは、1日の所定労働時間を原則として6時間に短縮することを企業に義務付けています(育児短時間勤務)。育児休業から復帰した後にこの制度の利用を希望する従業員は多く、また、制度を使いやすいものにして欲しいという要望も多く寄せられることから、以下では制度のポイントを確認しておきます。

1.対象となる労働者

育児短時間勤務は、3歳未満の子どもを育てる従業員が対象となる制度ですが、そもそも1日の所定労働時間が6時間以下の従業員は制度の対象外となっており、労使協定を締結することで、入社1年未満の従業員や、業務の性質や実施体制により制度の対象とすることが難しい従業員は、制度の対象から除外することができます。なお、制度の対象から除外した業務の性質や実施体制により制度の対象とすることが難しい従業員については、育児短時間勤務の代わりとなる制度の導入が義務付けられます。
厚生労働省の「平成30年度雇用均等基本調査」から、育児短時間勤務制度の最長可能期間を企業ごとに見ると、3歳未満が25.6%、小学校就学の始期に達するまでが19.1%で上位2つになっています。子どもの保育所の送迎などに時間を要することもあり、法令を超えた子どもの年令まで制度の対象とする企業も一定数あることがわかります。

2.労働時間数の選択

育児短時間勤務では、1日の所定労働時間を6時間とすることが求められますが、通常の1日の所定労働時間が7時間45分である企業もあることから、1日の所定労働時間が5時間45分から6時間までであれば、6時間に短縮していることと認められます。

なお、従業員から1日の所定労働時間を5時間や7時間にしたいという要望が聞かれますが、法令では6時間に短縮することを求めており、それ以外の選択をできるようにすることまでを求めてはいません。1日の所定労働時間を6時間とできるようにしつつ、所定労働時間数を選択できるようにしたり、隔日勤務のように所定労働日数を短縮する制度を選択できるようにすることも可能です。企業の状況によって導入を検討してもよいでしょう。

3.始業・終業時刻の選択

保育所に子どもを預けながら働く場合、保育所の開所時間によって従業員が働くことのできる時間が左右されることもあります。そのため、1日の所定労働時間を6時間に短縮しつつ、短縮後の始業・終業時刻を選択することを希望する従業員がいます。法令では始業・終業時刻を選択できるようにすることまでを求めていないため、始業・終業時刻については企業の状況に応じて決めることができます。

育児短時間勤務の制度内容を柔軟にすることで、育児をする従業員にとっては働きやすい環境になりますが、その反面、周囲の従業員に過度の負荷が掛かることもあります。従業員の要望により法令を上回る制度とするときには、従業員全体のバランスも考慮にいれておきたいものです。

(次号に続く)

社会保険労務士法人
ヒューマンスキルコンサルティング
林正人

【介護・保育】人材定着ブログ11月号~介護・保育 「福祉事業に必要なキャリアパスとは②」

介護・保育】人材定着ブログ11月号~介護・保育 「福祉事業に必要なキャリアパスとは①」の続きです。

5、キャリアパス制度に関する介護事業者の実際

それでは、介護事業所のキャリアパスの整備状況はどのようになっているのでしょうか。もちろん、事業所の規模、サービスの内容によって状況は異なっているものの、概して、多くの課題を抱えている状態といっても過言ではないでしょう。

  • 人事評価を行っていない。または、行っているが、給与、賞与に反映されていない。
  • 資格等級を導入しても、各等級の職能や能力要件が明記されていない。
  • 給与水準と職能、職責が連動していない。

上記のように、未だに整備されていない事業所であったり、制度はあっても運用されていなかったり、キャリアパス全体としてうまく機能していない事業所がまだまだ多い、というのが私の実感です。

6、キャリアパスに関する3つの質問

ここで、介護事業所の経営者の方からキャリアパスに関して、よく聞かれる質問をご紹介します。

  • 「キャリアパス制度」って採用や定着に効果があるの?

職員の採用という点では、就職にあたって自分の将来がイメージできるというのは、求職者がここで働きたい、働き続けたいと感じる為の要因として、大きなウェイトをもっています。また、就職してからは、将来の事というより、当面の事、例えば新入職員からしてみれば、職場にはどのような仕事があるのか、自分はどこまで求められているのか、全くわかりません。確かに、当面やらなければならない仕事のやり方は次々に教わるけれど、すぐにそれを完全にできるわけでもなく、とりあえずどこまでできればいいのかもわからない、こういう状態では、全くモチベーションが上がらない、働きづらい状況に他なりません。

以上のようなことにならないために「キャリアパス制度」が存在します。この制度をつかうことによって、まず自分に求められる仕事の範囲が示され、その為に必要な能力も示されますので、当面の努力の方向性が定まります。しかもその能力が体系的に身につくよう、仕事を教わり、研修も受けられます。そして評価によって業務が習得したと認められ、自分自身の成長の実感につながります。

 結果として、「ひとつ上のマスにあがった」ということになれば、就職時に描いたイメージがいよいよ現実なものになりますし、この積み重ねは確実に定着に繋がります。

 

一般社員口コミサイトのVorkersの調査によれば、平成生まれの社員の退職理由トップは、「キャリア成長が望めない」ということでした。このことからも、これからの世代は、自らのキャリアを高めることに大きな関心を持っていることがわかります。つまり、「キャリアパス制度」は、今後益々、職員の採用や人材定着に直結していく重要な制度ということになっていくでしょう。

                  

  • 小規模事業所でもキャリアパスを作ることができるの?

もちろん、小規模事業所でも導入することができますし、導入している成功事例はたくさんあります。例えば、パートさんやヘルパーさんを含めて10人規模の訪問介護事業所や、通所介護(デイサービス)事業所でも十分にキャリアパスは構築できます。規模が小さい事業所は職責や組織のポジションが少なく、また給与財源が限られているという理由で、キャリアパスを作っても、「昇進」「昇格」ができないとお考えの事業所は多いようです。ただ、社内のポジションで考えてみると、資格等級制度における「昇進」と「昇格」は異なります。「昇進」は確かにポジションが空かなければ上に進むことはできませんが、「昇格」は等級要件がクリアできれば全員昇格するのが、キャリアパスにおける資格等級制度の考え方です。例えば、取得した資格のレベル、勤続年数、人事評価などで、各等級の要件をあらかじめ定め、その昇格要件を決め、給与や時給に連動させれば、立派なキャリアパスです。昇給財源については、前述の処遇改善加算金を、財源に充当させることも十分可能ですし、むしろ国もそれを奨励しています。従業員教育に時間をかけられない小規模事業所だからこそ、その制度により従業員の自発的な働きや能力を高め人材定着に大きな効果を得られるでしょう。

  • 「キャリア段位制度」とキャリアパスの関係は?

国が導入を推奨している制度に「キャリア段位制度」という制度があります。これは、これは、成長分野における新しい職業能力を評価する仕組みであり、企業や事務所ごとにバラバラでない共通のものさしをつくり、これに基づいて人材育成を目指す制度です。現場での技能だけでなく、資格取得や研修受講の座学もレベル認定の要件にしています。

実はこの制度は介護職のキャリアアップ制度と多くの部分で重複しています。この制度のレベル認定項目は、介護職の事業所内評価にも十分活用できる内容なので、自法人のキャリアパス制度の人事評価項目(職能評価項目)で積極的に活用されることをお勧めいたします。

 

次号からは、資格等級制度から、順次キャリアパスを構成する各制度について、具体的にお伝えしていきます。

以上

介護事業所様向け情報(経営)10月号③

福祉施設でみられる人事労務Q&A
『多く支払い過ぎた給与の返還を求めることは可能か』

Q:

先日、ある職員に支払っていた家族手当が、施設の確認ミスにより2 年にわたって多く支払い過ぎであったことが判明しました。過払い分の返還を求めたいのですが問題ないでしょうか。また、返還を求めるに際し、返還額が多額となることからトラブルにつながるのは避けたいと考えています。どのように対応したらよいのでしょうか?

A:

誤って支払い過ぎとなっている給与について返還を求めることは民法の規定により可能です。しかし、返還額が多額になるような場合には職員に負担を強いることにもなるため、返還を求める前に返還額の減額や分割での返還を認めるなど、無理のない返還方法について検討しておくことが望まれます。

詳細解説:

給与計算においてはミスのない確実な支払が求められますが、現実的にはミスが起きやすいポイントが複数存在します。今回のケースのような家族手当をはじめとする諸手当の変更は、その一つに挙げられるでしょう。

こうした不当に多く支払い過ぎた給与の取り扱いについては、民法第703 条に「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う」と規定されています。つまり、職員が不当に利益を得て、その一方で施設が損をしている(不当利得)とき、職員は施設に対してその相当分について返還義務があるとされており、その義務は原則10 年間消滅しないと定められています。

家族手当の誤支給が発生してしまう要因には、職員の連絡忘れなどの施設に責任がない場合もありますが、申し出のルールがはっきりしておらず、結果的に施設が管理しなければならない状態であることが多くみられます。このような状況で誤った支給をすると、施設に落ち度があるため、職員に過支給していた期間の全額を返還するように求めづらい状況になることが通常です。返還するように求められた職員も必ずしも快く応じるとは言い難く、場合によってはそうしたことを理由に不信感を募らせ、退職を決意する可能性も否定できません。そのため、施設はミスを認め、すべての期間ではなく例えば1 年間のみとするなど、減額措置を検討することもあるでしょう。

また、多額の返還を一括で求めることは職員に大きな負担となり、生活に支障をきたす可能性があるため、分割により複数月にわたって返還するなど、その返還方法については職員と相談して決めることが望まれます。

また、同じようなミスが再度発生しないようにあわせて検討することも重要です。例えば、その年度に満18 歳に到達する扶養親族がいる職員とそのタイミングをリスト化し、必要なタイミングで職員に書面等で申し出てもらうなどの、仕組みの導入が考えられます。

(来月に続く)

【介護・保育】人材定着ブログ11月号~介護・保育 「福祉事業に必要なキャリアパスとは①」

1、はじめに

皆さん、こんにちは。

今月号から福祉事業所の資格等級制度・評価制度・賃金制度といった制度(これらの制度の総称をキャリアパス制度といいます)や職員の定着率に繋がる職場の環境改善といったテーマについて、毎回の連載でお伝えしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

2、法人がキャリアパス制度を整備することによるメリット

法人がキャリアパス制度を整備するメリットは、どのようなものがあるのでしょうか。以下のようなことが考えられます。

  • 公正な人事処遇(昇格・昇給)が可能になる
  • 職員自身の人事処遇に対する納得感が高まる
  • 法人への信頼感が高まり、帰属意識が高まる
  • 仕事に集中する環境ができ、達成感やモチベーションにつながる
  • 採用時にキャリアパスを説明することにより、信頼できる法人であることをアピールできる
  • 人材不足の時代に求人活動がしやすくなり、人材確保につながる

私が介護業界の各事業所にキャリアパスの支援を始めてから7年になりますが、キャリアパスを整備し、きちっと運用している法人では、上記の効果が発揮されていることを実感いたします。ただ、もちろんメリットばかりではなく、デメリット(課題)もあります。例えば、整備を進めるには、決して少なくない業務工数や人的なパワーがかかります。整備後に、いざ運用となっても、このような制度に不慣れな介護現場では、抵抗感を持つ職員が多いのも現実です。運用の仕方を誤ると、かえって職場の混乱を招くこともあります。多くの事業所では、キャリアパス制度の整備から運用まで約3年から5年程度の時間をかけながら、少しずつ組織への定着を図っているのが現状です。

3、キャリアパス制度とは

そもそもキャリアパス制度とは、どのような制度なのでしょうか。言葉の意味としては「職員のキャリア形成に関する道筋」などと訳されますが、具体的にはどのような制度のことなのか、ご説明いたします。

まずは、制度の構成と全体像を見ていきましょう。

ご覧の通り、資格等級制度を中心にして、人事評価制度・賃金制度・教育研修制度が、それに連動して整備された制度と言うことが分ります。

そこで、各制度とその目的を整理すると以下のようになります。

制度 目的
資格等級制度 役割(役職)と業務によって規定される「マス目」毎に求められる要件を明らかにする
人事評価制度 求める水準とその評価基準を明確にし、達成度を判定する
教育研修制度 仕事に必要な知識や技術・能力を身につけさせ、磨く
昇格制度、任用制度 評価の結果を踏まえワンランク上にあげる条件や基準を定める
賃金制度 役割(役職)と業務によって規定される「マス目」に応じた賃金水準を定める

すなわちキャリアパスとは、「介護職員についてどのようなポスト・仕事があり、そのポスト・仕事に就くために、どのような仕事能力、資格、経験が必要になるかを定め、それに応じた給与水準を定めること」ということになります。1人1人の職員は「自分がどこのマス目(資格等級)に属しているのか」や「そこでは何が求められるのか」を意識して仕事に取り組むことになることで、仕事のプロセスや成果、職員の能力が「該当するクラスの要求レベルを満たしているかどうか」が確認出来るようになります。また、ワンランク上のマスに進むために何が足りないのか明確になることで目標が出来、達成するために必要な研修等を受講し、スキルアップに努めるようになります。昇格すれば、それまでよりも重い職責、難しい職務内容を担うことになり、能力もより高いものが求められますが、その分、給与水準も高くなります。職員はあらたなステージで求められる水準を意識しながら仕事に取り組むようになります。

4、キャリアパス制度と介護職員処遇改善加算

ご承知のとおり、2017年の介護保険法改正で「介護職員処遇改善加算Ⅰの取得要件」に「キャリアパス要件」が具体的に明示されました。

  • 介護職員の職位、職責又は職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を整備すること
  • 資質向上の為の計画を策定して研修の実施または研修の機会を確保すること
  • 経験もしくは資格など応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること

この法改正を契機に、キャリアパス制度に関する必要性が本格的に広まることになり、制度整備の気運が一気に高まりを見せ始めました。

次回は「キャリアパス制度に関する介護事業者の実際」からお伝えしたいと思います。

以上

介護事業所様向け情報(経営)10月号②

福祉施設等における特別休暇制度の現状

労働時間や休日・休暇など賃金以外の労働条件は、職員の定着や採用に影響を与えます。ここでは今年6 月に発表された資料※から、福祉施設等における特別休暇制度の現状をみていきます。

種類別にみる特別休暇制度の有無

上記調査結果から、福祉施設等(以下、医療,福祉)における特別休暇制度の有無割合などをまとめると、表1 のとおりです。

特別休暇制度が有るとした割合は62.0%で、調査産業計よりも高くなりました。

特別休暇の種類では、医療,福祉は夏季休暇制度の有る割合が40.6%で最も高く、次いで病気休暇が30.9%となりました。調査産業計と比べると、医療,福祉は病気休暇制度の有る割合が高いことがわかります。

特別休暇中の賃金の支払い

次に医療,福祉における、特別休暇制度が有る企業を100 とした場合の特別休暇中の賃金の支給割合をまとめると、表2 のとおりです。

賃金の支給状況をみると、ボランティア休暇と病気休暇以外は、有給で全額支給する企業の割合が90%を超えました。病気休暇は、無給とする割合が40%を超えました。

特別休暇の利用状況

医療,福祉における特別休暇の利用の有無をまとめると、表3 のとおりです。夏季休暇は制度の有る企業すべてで利用有りとなりました。

特別休暇制度を設ける場合は、自施設に必要だと思われる休暇を導入するのはもちろん、職員に利用してもらうことが重要です。利用が増えれば職員の満足度が高まり、定着率の向上にも寄与する可能性があります。

※厚生労働省「平成30 年就労条件総合調査」
常用労働者30 人以上を雇用する民営企業(医療法人、社会福祉法人、各種協同組合等の会社組織以外の法人を含む)から、産業、企業規模別に層化して無作為に抽出した企業を対象とした調査です。「特別休暇」とは、週休日や法定休暇(年次有給休暇、産前・産後休暇、育児休業、介護休業、子の看護のための休暇等)以外に付与される休暇で、就業規則等で制度として認めている休暇です。ここでの結果は2017年度(または2016 会計年度)の結果です。詳細は次のURL のページからご確認ください。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450099&tstat=000001014004&cycle=0&tclass1=000001122175&tclass2=000001130885

(次号に続く)

介護事業所様向け情報(経営)10月号①

休息時間を設けて受けられる助成金

働き方改革の一環として、勤務間インターバルの導入が事業主の努力義務となりました。勤務間インターバルとは、勤務終了から次の勤務までの間に、一定時間の「休息時間」を設ける制度。導入には助成金が活用できます。

導入には助成金が活用できます

この制度の導入に取り組む中小企業事業主は、時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)が受給できます。受給額は最大100 万円。申請の受付は、令和元年11 月15日までです(それ以前に予算額に達した場合には、募集が締め切られます。ご注意ください)。
この助成金でいう「勤務間インターバル」は、休息時間数を問わず、就業規則等において「就業から次の始業までの休息時間を確保するこ
とを定めているもの」です。

  • 例えば、就業規則等において、「○時以降の残業は禁⽌、かつ、○時以前の始業を禁⽌」「所定外労働を⾏わない」等の定めによって、終業から次の始業までの休息時間が確保されている場合、「勤務間インターバルを導⼊している」とみなされます。
  • 「○時以降の残業を禁⽌」もしくは「○時以前の始業を禁⽌」のように、いずれか⼀⽅のみを定めている場合は、導⼊しているとはみなされません。

助成金の対象となる事業主

福祉施設のようなサービス業においては、資本または出資額が5,000 万円以下、もしくは常時使用する労働者が100 人以下の場合で、次のいずれかに該当する事業場を有する場合に、助成の対象となります。

  1.  勤務間インターバルを導⼊していない
  2.  既に休息時間数が9 時間以上の勤務間インターバルを導⼊しているが、対象労働者がその事業場の労働者の半数以下
  3.  既に休息時間数が9 時間未満の勤務間インターバルを導⼊している

福祉施設における活用例としては…

作業効率の向上やスタッフの負担軽減のための投資が対象です。例えば、次の場合に活用ができます。

(次号に続く)

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