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保育事業所様向け情報(労務)8月号④

同一労働同一賃金への対応でいま行うべきこと

働き方改革の本命である同一労働同一賃金は、大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月に改正法が施行されます。実際にこの対応に着手すると、最終的には人事制度の見直しまで必要となることもあり、早めに取り掛かることが重要です。そこで今回は同一労働同一賃金の基礎知識と、当面求められる実務対応についてとり上げます。

1.同一労働同一賃金とは何か

同一労働同一賃金について、一般的には「正社員と同じ仕事をしている非正規社員に同じ額の賃金を支給しなければならない」と考えられていますが、この理解は正確ではありません。パートタイム・有期雇用労働法では、この「同じ仕事」であるかどうかを判断する要素として、以下の3つが挙げられています。

①職務の内容(担当する業務の内容と業務に伴う責任の程度)
②職務の内容・配置の変更の範囲(職種転換・転勤の有無および範囲)
③その他の事情(定年後の雇⽤であること、労働組合等との交渉の状況など)

正社員と非正規社員の仕事を比較して、①と②がまったく同じ場合には「均等待遇」として、非正規社員であることを理由とした差別的取扱いが禁止されます。しかし、現実的には、非正規社員は正社員と比べ、担当する仕事の内容が定型的である、責任の程度が低いといった状況も多く存在し、①と②がまったく同じというケースはさほど多くないと思われます。
その際に求められるのが「均衡待遇」です。①または②が異なる場合の非正規社員の待遇は、①と②の違いに加えて③を考慮して、正社員との間に不合理な待遇差のない、バランスが取れた待遇であることが求められます。
つまり、①または②が異なるという理由で、非正規社員の待遇を不合理に低く抑えることは認められません。

2.当面求められる対応

実務上、当面求められる対応は、各雇用区分における待遇の差異をまとめることです。具体的には、正社員、パートタイマー、契約社員、嘱託社員など自社の雇用区分を横軸に、基本給、諸手当、賞与、退職金、福利厚生、安全衛生などの待遇を縦軸にした労働条件比較表を作成し、その差異を把握します。そして、雇用区分によって待遇に差異のある項目は、その差異が不合理ではないと説明できるか検証します。その差異が不合理であると考えられる場合には、次のステップとして、その待遇の見直しを検討することになります。

昨年6月に同一労働同一賃金に関する初めての最高裁判決が言い渡され、その後も様々な裁判が継続しています。そうした判例により、諸手当や福利厚生については概ね求められる対応法がわかりつつありますが、基本給、賞与、退職金、扶養手当など、最も重要な論点については未だ不明確な状態にあります。それらも今後、裁判を通じて対応すべき水準が明らかになっていくと予想されます。まずは労働条件比較表の作成を通じ、自社の課題抽出を優先して行っておきましょう。

(来月に続く)

保育事業所様向け情報(労務)8月号③

パートタイマーの所定労働時間を見直した際の随時改定の取扱い

このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。

総務部長:先月より1日の所定労働時間を6時間から7時間に延ばしたパートタイマーがいます。これにより給与の総支給額が増え、所定労働時間を変更した月から3ヶ月間の給与から判断すると、現在の標準報酬月額との差が2等級以上になりそうです。

社労士 :なるほど。社会保険の随時改定(月額変更)に該当するかということを、気にされ ているのですね。

総務部長:はい。給与は基本給と通勤手当で構成されており、基本給は時給、通勤手当は実際の出勤日数に応じて支給しています。今回、1日の所定労働時間は見直したものの、基本給・通勤手当ともに単価の変更はしていません。随時改定は、固定的賃金の変動があったときに該当すると認識しているのですが、このパートタイマーを対象にしなくてよいか、判断に迷いました。

社労士 :随時改定の要件の1つに「昇給または降給等により固定的賃金に変動があった」というものがあります。ここでの固定的賃金の変動とは、支給額や支給率が決まっているものをいい、日本年金機構は次のようなものが考えられるとしています。

①昇給(ベースアップ)、降給(ベースダウン)
②給与体系の変更(⽇給から⽉給への変更等)
③⽇給や時間給の基礎単価(⽇当、単価)の変更
④請負給、歩合給等の単価、歩合率の変更
⑤住宅⼿当、役付⼿当等の固定的な⼿当の追加、⽀給額の変更

総務部長:今回のパートタイマーはいずれにも該当しないように感じます。

社労士 :確かにそう感じられるかもしれませんが、日本年金機構は「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」を出しており、「時給単価の変動はないが、契約時間が変わった場合、固定的賃金の変動に該当するため、随時改定の対象となる」としています。

総務部長:ということは、今回のパートタイマーも随時改定の対象となるということですね。

社労士 :はい。随時改定となるかはすべての要件から判断することになりますが、少なくとも随時改定の対象になるかを確認すべきパートタイマーになります。

総務部長:承知しました。確認するようにします。ありがとうございました。

【ワンポイントアドバイス】
1. 随時改定における固定的賃金の変動とは、昇給や降給のほか、給与体系の変更なども含まれる。
2. 所定労働時間の変更も随時改定における固定的賃金の変動に含まれる。
3. 日本年金機構から定時決定と随時改定に関する事例集が出されており、実務の参考にするとよい。

(次号に続く)

保育事業所様向け情報(労務)8月号②

押さえておきたいマタハラの基礎知識

マタニティハラスメント(以下、「マタハラ」という)に関連するような労働トラブルを目にする機会が出てきています。そこで今回は、改めてマタハラとは何か、マタハラに該当しない業務上の必要性に基づく言動とはどのようなものかを確認し、効果的な防止対策を行いましょう。

1.マタハラとは

マタハラとは、職場において行われる上司・同僚からの妊娠・出産、育休等の利用に関する言動により、妊娠・出産した女性労働者や育休などを申出・取得した男女労働者等の就業環境が害されることを言います。このマタハラには「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」の2種類があります。

①制度等の利⽤への嫌がらせ型

育休などの制度の利⽤を阻害したり、利⽤したことにより嫌がらせなどをするものをいう。
[典型的な例]
上司・同僚が「⾃分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えていない。迷惑だ。」と繰り返し発言し、就業する上で看過できない程度の⽀障が⽣じている。

②状態への嫌がらせ型

妊娠などをしたことにより、嫌がらせなどをするものをいう。
[典型的な例]
上司に妊娠を報告したところ、「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と言われた。

2.マタハラに該当しない業務上の
必要性に基づく言動とは

1.でマタハラについてとり上げましたが、業務分担や安全配慮の観点から客観的に見て、業務上の必要性に基づく言動によるものについては、マタハラには該当しないとされています。このように業務上の必要性の判断については、状況に応じて慎重に判断し、対応することが求められます。例えば、妊娠中に医師から休業指示が出た場合など、従業員の体調を考慮してすぐに対応しなければならない休業についてまで、「業務が回らないから」といった理由で休業をさせない場合はマタハラに該当します。しかし、ある程度調整が可能な休業等(例えば、定期的な妊婦健診の日時)について、その時期をずらすことが可能なのか従業員の意向を確認する行為は、マタハラには該当しないとされています。

なお、従業員の意を汲まない一方的な通告はマタハラとなる可能性があるため、注意が必要です。

日ごろの労務管理を行う管理職にとっては、部下から妊娠や出産、育児に関する相談があったときに、マタハラを意識するあまりに、どのように対応したらよいのか困るケースも出てくるでしょう。そのため、管理職を対象に具体例を交えながら社内研修を実施するなどして、マタハラとなるような言動を防ぎ、適切な配慮がされるようにしていきたいものです。

(次号に続く)

保育事業所様向け情報(労務)8月号①

介護離職の防止に活用できる助成金

介護離職者数は1年間で10万人いるとされ、国は介護離職ゼロを目指し、介護離職を防止するための助成金(両立支援等助成金(介護離職防止支援コース))を設けています。この助成金は以前からありましたが、今年度、支給対象の変更、要件の一部緩和が行われています。そこで今回は、この助成金の概要をとり上げます。

1.介護離職防止支援コースとは

両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)は、中小企業を対象としたもので、介護支援プラン(以下、「プラン」という)を策定し、このプランに基づいて従業員の円滑な介護休業の取得・職場復帰に取り組んだ、または介護両立支援制度を導入し利用する従業員が生じた場合に、助成されるものです。

①介護休業

介護休業に対する助成は、休業取得時と職場復帰時の2つに分かれます。主な要件は以下のとおりです。


<休業取得時>

・介護休業の取得、職場復帰についてプランにより支援する措置を実施する旨を、就業規則等に規定し従業員へ周知すること。
・介護に直面した従業員との面談を実施し、面談結果を記録した上で介護の状況や今後の働き方についての希望などを確認の上、プランを作成すること。
・作成したプランに基づき、業務の引き継ぎを実施し、対象となる従業員に合計14日以上の介護休業を取得させること。

<職場復帰時>

※休業取得時と同一の対象従業員であるとともに、休業取得時の要件かつ次を満たすことが必要です。
・休業取得時にかかる同一の対象従業員に対し、その上司または人事労務担当者が面談を実施し、面談結果を記録すること。
・上記面談結果を踏まえ、対象従業員を原則として原職等に復帰させ、原職等復帰後も引き続き雇用保険の被保険者として3ヶ月以上雇用し、支給申請日においても雇用していること。

②介護両立支援制度

介護両立支援制度についても、①の介護休業の主な要件と同様に、就業規則等に規定・周知し、作成したプランに基づき業務体制の検討を行うことが必要です。さらに、以下のいずれか1つ以上の介護両立支援制度を導入し、対象従業員に利用させ、制度利用終了後も引き続き雇用保険の被保険者として1ヶ月以上雇用し、支給申請日においても雇用していることが必要になります。

・所定外労働の制限制度・介護のための在宅勤務制度
・時差出勤制度・法を上回る介護休暇制度
・深夜業の制限制度・介護のためのフレックスタイム制度
・短時間勤務制度・介護サービス費⽤補助制度

2.助成額

①介護休業
<休業取得時>1人につき28.5万円(36万円)
<職場復帰時>1人につき28.5万円(36万円)
②介護両立支援制度1人につき28.5万円(36万円)
※①②とも1企業1年度5人まで助成
()内は生産性要件を満たした場合

上記のほか、助成金には様々な要件が設けられていますので、活用を検討される場合は事前にその内容を確認しておきましょう。

(次号に続く)

【介護・保育】人財定着ブログ8月号 「人が集まる介護事業所」とは・・・

「社員の紹介制度」を浸透させるコツ

スタッフに協力を要請し、新たな人員として友人を紹介してもらうシステムを「紹介制度」と言います。この制度と合わせて是非入れて頂きたいのが、入社が決まった場合に、紹介したスタッフとその友人に数万円づつ支給する「お祝い金」制度です。最近では導入する事業所も増えてきました。スタッフと求職者にとってはよい臨時収入ですし施設側もある程度信頼のおける人が採用でき、求人広告を掲載するよりも大幅にコストが改善されるので双方ともにメリットがあります。さらに、この制度は「口コミ」ならでは魅力があります。
 この紹介制度は、友人紹介の為、事業所のリアルなだけでなく、非常に信頼度の高い情報が得られます。そのため、入社後にギャップを感じることもなく、結果的に定着率も高くなります。この制度で大人数を採用することは難しいと思いますが、うまく制度が定着すれば大きなメリットがあります。


とはいっても、紹介制度が定着するまでには、ある程度時間を要します。「お金が欲しくて友達を紹介すると思われたくない」と抵抗を感じるスタッフも少なくないようです。では、実際に制度を浸透させるには、どのようなポイントを押さえておく必要が有るのでしょうか。


ポイント1
「職場にとってのメリットを説明する」
「紹介制度を導入するから、皆さん協力してください」と言ったアナウンスだけでは、スタッフは積極的に動きません。ポイントは、紹介者個人ではなく、職場全体にとってのメリットをきちんと説明することです。信頼できる人材の採用は「スタッフの働きやすさ」にもつながるはずです。その点をしっかり説明しましょう。

 


ポイント2
「紹介実績はオープンに」
いざ、紹介制度を通じて入社に至った場合は、全体のミーティングなどで公表することをお勧めします。運営側が公表しなければ、「あの人、○○さん紹介してお祝い金をもらったらしいよ」といった噂のような形で情報が広まる可能性があります。そうなると、紹介して「お祝い金」を受け取ることが、後ろめたいことに感じられてしまいます。ある事業所ではミーティングの際に、「今回は〇〇さんが新しいスタッフを紹介してくれました!」と発表し、みんなで拍手して讃える、という風土を作って成功しています。気持ちよく紹介と入社をしてもらえる素地を作ることが大切です。


ポイント3
「根気よく発信し続ける」
制度が浸透するまでは、申し送りやミーティングなど定期的にスタッフが集まる場で繰り返し発信し続けることが大切です。ある事業所では、一か月毎日申し送りで伝え続け、やっとスタッフに認知されてきたといいます。根気よく、浸透するまで紹介制度の協力してもらえるよう、発信し続けてみましょう。

保育事業所様向け情報(労務)7月号④

いよいよ9月に発効となる日・中社会保障協定

諸外国の中で、日本と人的交流がもっとも多い中国との社会保障協定ですが、2018年5月9日に署名が行われ、今年9月に発効となることが正式に決定しました。
そこで、この社会保障協定の概要と、現在締結されている各国との社会保障協定についてとり上げます。

1.社会保障協定の前提にある課題

①年金制度への二重加入の課題

従業員を海外勤務させ、勤務している相手国の年金制度の加入要件を満たした場合には、海外で勤務している期間について日本と相手国の年金制度に二重で加入することが必要となります。
その結果、両方の制度で二重に保険料を負担することになります。これは、外国人労働者を雇入れた場合にも同様のことがいえます。

②年金受給資格と保険料負担の課題

老齢年金を受給するためには、通常、日本においても海外の年金制度においても一定期間、該当する年金制度に加入する必要があり
ます。
しかし、短期間海外勤務をさせた場合や外国人労働者を短期間雇用した場合には、その期間だけ年金制度に加入することになり、老齢年金を受給するためには加入期間が不足します。その結果、支払った保険料が掛け捨てになるという問題が生じます。

2.現在締結されている社会保障協定

これらの課題を解決するため、日本と相手国との間で社会保障協定を締結し、いずれかの国の年金制度の加入を免除したり、年金の加入期間を通算して、将来年金を受給できるようにするなどの対応が行われています。この社会保障協定の内容は、国ごとに内容が異なり、年金のみの場合と、年金と医療保険の両方の場合があるため、個別に内容を確認す
る必要があります。
2019年6月1日時点における、日本の社会保障協定の締結状況は下表のとおりとなります。

すでに社会保障協定が締結されている国は現在18ヶ国あり、中国についてもこの9月1日に発効予定となりました。

今回の中国との社会保障協定の実施にあたり、事務手続きの詳細や注意事項等について、6月下旬に日本年金機構のホームページに掲載されることになっています。また日本年金機構(年金事務所および事務センター)では、中国の年金制度への加入が免除されるために必要な書類である「適用証明書」の交付申請を、協定発効日の1ヶ月前(2019年8月1日)より受け付ける予定です。

(来月に続く)

保育事業所様向け情報(労務)7月号③

育児休業中に一時的に勤務した場合の育児休業給付金の取扱い

このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とその顧問先の
総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。

総務部長:現在、経理部門が決算業務で、とても忙しくしています。経理部門の従業員が昨年
     12月から育児休業を取っているので、短期間でもいいので一時的に出勤してもらお
     うと考えています。特に問題はないのですよね?

社労士 :繁忙期を乗り切るための一つの対策ですね。育児休業中のご本人はどのように考え
     ているのでしょうか。

総務部長:育児にも慣れてきて、短時間の勤務であれば問題ないとのことでした。ただし、雇
     用保険の育児休業給付金がもらえなくなってしまうのではないかと心配しています。

社労士 :確かに支給単位期間(※)に10日を超えて働き、かつ、80時間を超えて働いている
     ときは、育児休業給付金が支給されなくなるというルールがあります。

総務部長:ということは、引続き育児休業給付金が支給されるようにするためには、この基準
     を下回るような出勤日数や出勤時間にする必要があるということですね。

社労士 :育児休業給付金の受給ができるかという観点では、おっしゃるとおりです。もう一
     つは、勤務したときに支給される給与の額が関係してきます。

総務部長:一時的に出勤してもらうので、給与については休む前の月給を時給換算し、その時
     給額に勤務した時間数を掛けた額を支払う予定です。

社労士 :承知しました。育児休業給付金は、支給単位期間に、育児休業を開始したときに算
     出する賃金月額の13%を超える給与が支給されると調整の対象となり、80%以上の
     給与が支給されると支給されなくなります。

総務部長:休業している従業員が、休業する前にどの程度の給与の額をもらっていたかという
     ことが関係してくるのですね。今のところ、決算が終わるまでの2ヶ月弱の間、週2
     ~3回で1日当たり4時間程度の勤務を考えていましたが、育児休業給付金の支給額と
     の調整も含めて、どの程度、働いてもらうかを考えることにします。ありがとうご
     ざいました。

※育児休業を開始した日から1ヶ月ごとの期間(育児休業終了日を含む場合は、その育児休
業終了日までの期間)。

【ワンポイントアドバイス】
1. 会社の業務の繁忙等のため、育児休業中の従業員について、休業者本人の同意を得て一時的に労務の提供を受けることは可能である。
2. 育児休業中に、一定の出勤日数・出勤時間を超えて働くと育児休業給付金は支給されなくなる。
3. 育児休業中に一定額以上の給与が支給されたときは、育児休業給付金の一部が減額されたり、支給されなくなったりする。

(次号に続く)

保育事業者様向け情報(労務)7月号②

年次有給休暇の時季指定に関する実務上の注意点

4月より年10日以上の年次有給休暇(以下、「年休」という)が付与される従業員に対し、年休日数のうち少なくとも5日を取得させることが義務となりました。確実な取得に向けて、使用者(会社)が取得時季を指定して運用するケースもあることから、今回は、この使用者による時季指定に関する実務上の注意点をとり上げます。

1.就業規則の記載

今回の法改正では、従業員自らが年休を取得するなどして、5日の年休を取得すれば、改めて時季指定を行う必要はありません。しかし、取得日数が5日に満たない場合には、最終的には使用者が時季指定を行うことにより、確実に5日の年休を取得させる必要があります。
そもそも使用者による時季指定とは、会社が従業員の希望を聞いた上で、年休を取得する日をあらかじめ決めることをいいますが、これを行う際には、就業規則に時季指定を行う旨の規定が必要とされています。必ず記載しなければならない項目は、時季指定の対象となる労働者の範囲、時季指定の方法等です。

2.指定日までに退職した場合の対応

時季指定をしたものの、その指定した日までに従業員が退職するというケースが考えられます。このような場合には、従業員の希望を再度聞いた上で、退職日までに5日の年休を取得させることが原則的な取扱いになります。現実的には退職日までの期間が短いケースもありますが、このような場合も同様の取扱いとなります。
なお、実際に突然の退職により5日の年休を取得させることができなかったときは、労働基準監督署から個別の事情を踏まえた上で、会社に対して助言等が行われることになっています。

3.望ましくないとされる取扱い

この年休取得義務化の取扱いに関し、厚生労働省のリーフレット「年次有給休暇の時季指定を正しく取扱いましょう」において、以下のような取扱いは望ましくないとされています。

①法定休⽇ではない所定休⽇を労働⽇に変更し、その労働⽇について、使⽤者が年休として時季指定すること。
②会社が独自に設けている有給の特別休暇を労働⽇に変更し、その労働⽇について、使⽤者が年休として時季指定すること。

①は、実質的に年休の取得につながっていないことから、望ましくないとされています。
②は、今回の法改正をきっかけに特別休暇を廃止し、年休に振り替えることは、法改正の趣旨に沿わないとされています。特別休暇などの労働条件の変更は、従業員と会社が合意して行うことが原則になります。

年休の取得単位としては1日、半日、時間単位がありますが、この時季指定を行う際、従業員の意見を聴いた際に半日単位の年休の取得の希望があった場合、半日単位で行うことは差し支えないとされています。時間単位については時季指定を行うことはできず、また取得義務対象の5日の年休のカウントにも入れることはできないことから、誤った取扱いをしないようにしましょう。

(次号に続く)

保育事業所様向け情報(労務)7月号①

今国会で成立した人事労務に関連する改正法のポイント

2019年1月28日から開会されている通常国会も、まもなく会期が終了となります。今国会は働き方改革関連法のような大きな法案は提出されていないものの、実務で影響のある内容がいくつか成立しています。そこで今国会で成立した改正法のうち、人事労務管理に関連するものの概要を確認しておきましょう。

1.女性活躍の推進

2016年4月に女性活躍推進法が施行され、301人以上の従業員を雇用する事業主には、女性活躍推進法にかかる一般事業主行動計画を策定することなどが義務付けられました。今回の法改正により、義務となる事業主の範囲が、101人以上の事業主に拡大します。また、情報公表の強化のため、公表すべき項目が増えることになりました。

2.パワハラ防止対策の法制化

セクシュアルハラスメントと妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント(以下、「セクハラ等」という)は、既に法制化され、防止対策を取ることが事業主の義務となっています。今回、労働施策総合推進法が改正され、事業主に対して、パワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置義務が新設され、セクハラ等と同様に相談体制の整備等が求められることになりました。

3.健康保険の被扶養者の範囲変更

配偶者や父母を始めとした直系尊属等の一定の家族は、健康保険の被保険者と別居していても、その他の要件を満たせば被扶養者となることができます。そのため、国外に住む家族も被扶養者となることができました。これについて、医療費の抑制や不正受給の
防止の観点から、一定の例外を設けつつ、原則として、国内に居住していること等の要件が追加されました。

4.マイナンバーカードの取扱いの変更

①マイナンバーカードの健康保険証利用

現在、健康保険証とマイナンバーカードは別のカードとなっています。今回、健康保険法等が改正されたことにより、マイナンバーカードに健康保険の被保険者や被扶養者の資格に関する情報を記録させることができるようになりました。これにより、医療機関で診察を受けるとき等に、マイナンバーカードを提示し、医療機関等がオンラインで被保険者や被扶養者の資格を確認できることになります。

②マイナンバー通知カードの廃止

これまでマイナンバーは、マイナンバー通知カードにより通知され、マイナンバー通知カードとその他の証明書類を用いることで、マイナンバーの証明書として利用することができました。今後は、マイナンバーカードを普及させる目的等から、マイナンバー通知カードが廃止され、マイナンバーカードへの移行促進が行われます。

今のところ(2019年6月10日現在)、いずれの内容も国会で改正法が成立し、公布されたところであり、具体的な施行期日を含め、その詳細は明確になっていません。今後、政省令や指針が定められ、具体的に実務として対応が必要となる項目が出てきます。まずは概要としてこれらの内容を確認しましょう。

(次号に続く)

保育事業所様向け情報(労務)6月号④

働き方改革の一環として注目すべきフレックスタイム制

4月に施行された働き方改革関連法のうち、フレックスタイム制は導入が進んでいませんが、比較的大きな効果が見込まれることから、その改正のポイントと総労働時間に関する例外について確認しておきます。

1.フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、あらかじめ定められた総労働時間の中で、従業員が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めて働くことができる制度です。通常の労働時間制度であれば、始業が午前9時、終業が午後6時(途中1時間の休憩)の1日8時間労働というように、始業および終業時刻が固定的に決定されていますが、フレックスタイム制の場合、忙しい日については午前8時から午後8時まで11時間勤務し、比較的余裕がある日には午前11時から午後5時まで5時間勤務とすることなどにより、従業員が柔軟な働き方をすることができます。

2.清算期間を3ヶ月に延長

今回の大きな変更が清算期間の延長です。これまでフレックスタイム制は清算期間の上限が1ヶ月とされていましたが、これが3ヶ月に延長され、より柔軟に労働時間を調整することが可能になりました。例えば7月が繁忙期で9月が閑散期の場合、7月は法定労働時間の総枠を超えて働く一方、9月は7月の法定労働時間の総枠を超えた分だけ減らして働くことができます。ただし、時間外労働となる割増賃金の取扱いは複雑なため、厚生労働省のリーフレットなどを参考にあらかじめシミュレーションしておくことが求められます。

3.新設された完全週休2日制の例外

これまで完全週休2日制であっても、曜日の巡りによって、清算期間における総労働時間が法定労働時間の総枠を超えてしまい、総労働時間のみの勤務であっても、時間外労働が発生することがありました。
例えば清算期間の暦の日数が30日の月で所定労働時間が8時間、所定労働日数が22日(完全週休2日で当月8日の所定休日)であった場合、総労働時間は176時間となりますが、法定労働時間の総枠は171.4時間であり、4.6時間については時間外労働として割増賃金を支払う必要がありました。
この取扱いが改正され、週の所定労働日数が5日(完全週休2日制)の従業員を対象に、労使協定を締結することで、法定労働時間の総枠を清算期間内の所定労働日数に8時間を乗じた時間数を労働時間の限度とすることが可能となりました。これにより、上記の例では、所定労働時間を176時間とし、その時間を勤務したとしても、時間外労働は発生せず割増賃金の支払いも不要となります。

フレックスタイム制の活用は、育児や介護、病気の治療等と仕事との両立だけでなく、従業員のより効率的な働き方のひとつとして考えることができます。フレックスタイム制など、柔軟な労働時間制度の導入に関するご相談などがございましたら、当事務所までお問い合わせください。

(来月に続く)

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