医療

医療事業所様向け情報(労務)10月号③

厚生年金保険の標準報酬月額の上限の改定

このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。

社労士:

健康保険・厚生年金保険では、会社や被保険者が負担する保険料額の決定や、傷病手当金等の給付額の決定、老齢年金額の計算等に標準報酬月額が用いられますが、2020年9月分から厚生年金保険の標準報酬月額の上限が改定されました。

総務部長:

少し前に日本年金機構から届いた案内で見たような覚えがありますが、どのように変更されたのでしょうか。

社労士:

1等級から31等級まであったものに、新等級である32等級(標準報酬月額650千円)が追加されました。31等級に該当するのは報酬月額が60万5,000円以上63万5,000円未満の場合となり、32等級に該当するのは報酬月額が63万5,000円以上の場合となっています。

総務部長:

なるほど。当社でも取締役クラスで数名の被保険者が該当しそうですね。ところで、なぜ上限が改定されたのでしょうか。

社労士:

標準報酬月額の上限は、厚生年金保険法で年度末(3月31日)の状態により見直すと規定されています。具体的には、年度末における全厚生年金被保険者の平均報酬月額の概ね2倍が上限額を超え、その状態が継続するときには、その年の9月1日から上限を改定することになっています。

総務部長:

そうですか。てっきり厚生年金保険の保険料収入が不足しているので、上限を改定するのかと思ってしまいました。

社労士:

確かにそのように感じられるかもしれませんね。厚生労働省が公表している資料を確認すると、2016年3月末から先ほど説明した平均額の概ね2倍を超えていたようです。

総務部長:

ちなみに今回の上限の改定に伴って、会社で何か手続きすることはあるのでしょうか。

社労士:

改定された上限である32等級に該当する被保険者がいる場合には、日本年金機構で自動的に変更され、9月下旬に会社へ通知が届くようです。そのため、手続きは必要ありません。ただし、厚生年金保険料は当然変更になるため、給与から控除している厚生年金保険料は変更してくださいね。

総務部長:

承知しました。それでは日本年金機構からの通知を待ちたいと思います。

【ワンポイントアドバイス】
1. 2020年9月1日より厚生年金保険の標準報酬月額の上限が改定されて32等級(標準報酬月
額650千円)が追加された。
2. 新等級に該当する被保険者がいた場合でも届け出は不要であり、日本年金機構から通知
が届く。
3. 新等級に該当する被保険者がいた場合には、給与から控除する厚生年金保険料を変更し
なければならない。

(次号に続く)

医療事業所様向け情報(労務)10月号②

短縮される雇用保険の基本手当の給付制限期間

会社を退職し転職活動をするような場合には、雇用保険の基本手当を受給するケースが多いかと思います。基本手当は就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、職業に就くことができない状態にある場合に支給されるものですが、離職理由によっては一定の期間、基本手当を受け取れない期間が設けられています。今回、この取扱いが変更されることとなりました。

1.待期期間と給付制限期間

雇用保険の基本手当は、会社がハローワーク(公共職業安定所)で手続きをした雇用保険被保険者離職票を、従業員が退職後にその住所地のハローワークに持参し、受給手続きをすることにより支給されます。

受給手続きを行った後には7日間の待期期間があり、待期期間後に原則として4週間に1回失業していることの認定を受けて、基本手当が支給されます。

ただし、自己の責に帰すべき重大な理由で退職した場合(以下「懲戒解雇による退職」という)と、正当な理由のない自己都合により退職した場合(以下「自己都合による退職」という)には待期期間後、一定期間基本手当が支給されない給付制限期間が設けられています。

2.短縮される給付制限期間

給付制限期間は3ヶ月間となっていますが、2020年10月1日以降の自己都合による退職の場合、この給付制限期間が2ヶ月間に短縮されます。短縮される退職は5年間のうち2回までであり、3回目の退職以降の給付制限期間は3ヶ月間となります。

なお、懲戒解雇による退職の給付制限期間は、これまでどおり3ヶ月間のままです。

3.正当な理由のある自己都合退職

給付制限期間が設けられるのは、1.で示したとおり正当な理由のない自己都合による退職ですが、退職理由には「正当な理由のある自己都合退職」もあります。例えば結婚に伴う住所の変更や、会社が通勤困難な場所へ移転したこと等がこれに該当します。正当な理由のある自己都合退職の場合には、給付制限期間は設けられていません。

 

給付制限期間は従業員が退職した後のことになるため、会社に直接関係はしませんが、自己都合による退職の場合であっても、給付制限期間なく基本手当を受け取りたいという従業員は多くいるものです。離職理由についてはトラブルになりやすいため、退職時にしっかりと確認するとともに、給付制限期間のルールも押さえておきましょう。

(次号に続く)

医療事業所様向け情報(労務)10月号①

2020年度の最低賃金40県で1円~3円の引上げに

1.最低賃金の種類と改定タイミング

賃金は都道府県ごとに最低額(最低賃金)が定められており、企業はその額以上の賃金を労働者に支払うことが義務付けられています。

この最低賃金には、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。このうち「地域別最低賃金」は毎年10月頃に改定されることになっており、2020年度についても全都道府県の各地方最低賃金審議会で調査・審議が終了し、「地域別最低賃金」の改定額が決定しました。

2.今年度の地域別最低賃金と発効日

2020年度の地域別最低賃金と発効日は、下表のとおりとなっています。今年度は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、大幅な引上げはされず、40県で1円~3円の引上げ、7都道府県で据え置きとなりました。

パートタイマー・アルバイト等の時給者の賃金が最低賃金を下回っていないかを確認するとともに、月給者についても1時間あたりの賃金額を算出し、最低賃金を下回っていないかを確認するようにしましょう。

(次号へ続く)

医療事業所様向け情報(経営)9月号③

医療機関でみられる人事労務Q&A
『職員が退職する際の業務引継ぎと年次有給休暇の取得』

Q:

先日、職員から1 ヶ月後に退職したいと申し出がありました。その職員には重要な業務を任せていたので、後任への引継ぎを確実に行ってもらう必要がありますが、残りの年次有給休暇(以下、年休)をすべて取得してから退職したいという希望が出ています。年休を取得することによって、後任への引継ぎが終えられない事態となる場合、年休の取得を拒否することはできるでしょうか。

A:

医院には、年休取得時期を変更できる権利がありますが、退職日までまとめて年休を取得し、退職日以降に変更する出勤日がない場合、本人からの年休取得を拒否することはできません。よって、まずは退職日が変更できないか、年休を取得しながら引継ぎに協力してもらえないか、など職員と十分話し合いましょう。また、こうした事態を避けるためにも、重要な業務を分担できる体制を整備する、日頃から年休の取得促進をはかる、などの対策を講じておくことが重要です。

詳細解説:

1.退職日までの年休取得

日常的に年休を取得しない職員のなかには、年休が数十日も残っているというケースが少なくありません。医院には、事業の正常な運営を妨げる場合、年休取得日を変更できる「時季変更権」がありますが、退職時にまとめて年休を取得するケースでは、変更する出勤日がないため、時季変更権を行使することはできません。

そのため、まずは退職日を変更できないか本人と話し合いを行い、可能であれば、引継ぎをしながら、並行して本人の希望する範囲で年休を取得してもらうようにします。

2.退職時に引継ぎを確実に行ってもらうために

就業規則等へ「1 ヶ月前までに退職の申し出をすること」と規定している医院が多いと思いますが、年休の残日数の多い職員の退職や、1 ヶ月に1 回しか実施しない業務の引継ぎがあると、十分な引継ぎが実施できないことがあります。退職の申し出は、自身の業務内容や年休取得の予定を考慮して、場合によっては1 ヶ月前より前に行うよう、あらかじめ職員に周知しておきましょう。

また、特定の人にしかわからない業務を作らない体制や、業務内容や作業手順がわかるようなマニュアルを整備しておくなど、業務の属人化を回避し、急な引継ぎとなった場合であっても、滞りなく進められるよう、日頃から対策を講じておくことが重要です。

 

職員の退職時に引継ぎを確実に行ってもらわないと、後任担当者が困ることになり、ひいては患者様へ悪影響を及ぼすことになりかねません。職員それぞれに事情があるため、やむを得ず急な退職の申し出となる場合もありますが、業務に支障が出ないよう確実に引継ぎを行いながら、本人の希望する年休取得ができるような職場づくりが求められます。

(来月に続く)

医療事業所様向け情報(経営)9月号②

医療法人1 法人あたりの交際費等支出額

令和2 年度税制改正で、交際費等の損金不算入制度の適用期限が2 年延長されました。ここでは、今年5 月に発表された国税庁の「会社標本調査※」の最新版などから、直近3 年度分の医療法人1法人あたり年間の交際費等支出額の推移をご紹介します。

利益計上法人の平均は210 万円台に

上記調査結果から、直近3 年度分の医療法人1 法人あたり年間の交際費等支出額を、資本金階級別にまとめると、右表のとおりです。

利益計上法人の資本金階級計は210 万円台で推移しており、3 年間の平均は213.2 万円となりました。

最新版の2018 年度の結果では、資本金階級計が217.3 万円、1 億円以下計が214.1 万円と同様な金額になっています。1 億円超計は451.0 万円で、資本金階級計の2 倍程度です。2016、2017 年度もおおむね同様な傾向がみられます。

欠損法人の平均は160 万円程度に

欠損法人の資本金階級計は、160 万円程度で推移しており、3 年間の平均は161.3 万円になりました。利益計上法人より50 万円ほど少なくなっています。

2018 年度の結果では1 億円以下計が160.3万円で、資本金階級計と同様な金額になっています。1 億円超計は343.3 万円と資本金階級計の2 倍程度になっており、2016 年度、17 年度もおおむね同様です。

自院の交際費等支出額は、同規模の他医院と比べてどうなのか、このデータと比較してみてはいかがでしょうか。

※国税庁「会社標本調査」
内国普通法人(休業、清算中の法人や一般社団・財団法人及び特殊な法人を除く)を対象に、4 月1 日から翌年3 月31 日までの間に終了した調査対象法人の各事業年度について、翌年7 月31 日現在でとりまとめたものです。ここでの交際費等支出額は、資本金階級別に集計された合計金額を法人数で除して求めた数字になります。詳細は次のURL のページから確認いただけます。
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/kaishahyohon/toukei.htm#kekka

(次号に続く)

医療事業所様向け情報(経営)9月号①

オンライン資格確認の医療機関向け支援

健康保険証の資格確認がオンラインで可能となる「オンライン資格確認」が、来年3 月にスタートします。医療機関ではシステム等の準備が必要となりますが、これについて、無償提供や補助金による支援が始まりました。

まずは専用ポータルサイトで登録を

オンライン資格確認により、受付、診療・調剤・服薬指導、診療報酬請求が効率化でき、特定健診情報や薬剤情報の閲覧も可能となります(薬剤情報は来年10 月~)。医療機関や薬局におけるシステムの準備には、右の①②の支援を受けることができます。

申請は、専用ポータルサイトから行います。まずはアカウント登録をお済ませください。

【医療機関・薬局向けの支援策】

① 顔認証付きカードリーダーの無償提供

オンライン資格確認は、マイナンバーカードのIC チップや健康保険証の記号番号によって行われますが、その際に使用する「顔認証付きカードリーダー」が無償提供されることとなりました(診療所や薬局の場合、1 台が無償提供)

② それ以外の費用も補助の対象に

また、オンライン資格確認の導入に伴うシステムの導入や改修、ネットワーク環境整備についても、補助の対象となります(診療所、薬局(大型チェーン薬局以外)の場合、事業額の3/4
を補助。補助の上限は32.1 万円)。

(次号に続く)

 

医療事業所様向け情報(労務)9月号④

改めて確認したい休憩時間の基礎知識

労働時間管理では時間外労働に注目が行きがちですが、意外な落とし穴となるのが休憩時間です。休憩時間に業務をしていれば労働時間として扱う必要があり、賃金の不払いの問題につながります。労働基準法の規定を知り、従業員に休憩時間を確実に確保してもらうことも重要となることから、ここでは休憩時間の与え方と確保についてとり上げます。

1.休憩時間の与え方

休憩は、労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも60分を与えなければならないと、労働基準法で規定されています。

この休憩時間は、労働時間の途中に与えなければなりませんが、その休憩時間数について、一括して与えなければならないという定めはありません。そのため、例えば60分の休憩を15分と45分に分けたり、午前に10分、お昼に40分、午後に10分といったように3回与えることでも差し支えありません。

一方で、休憩時間は食事の時間や疲労の回復を目的としているため、過度に細かく分断するとその目的を達成することが難しくなります。どのようなタイミングで、どのくらいの時間数を設定するのが良いのか、確実に休憩時間を確保するためにはどのようにするとよいのかについて検討する必要があります。

2.生産性向上のための活用法

所定労働時間が6時間で、時間外労働が発生しないときには、労働基準法で定める休憩時間を与える必要はありませんが、6時間を継続して勤務することで、疲労が蓄積したり、空腹になり生産性が低下したりすることが想像されます。

また、午前9時始業、正午から1時間の休憩を挟んで、午後6時終業という8時間労働の会社が多くあります。

こちらも法的には何の問題もありませんが、午後の勤務時間を見ると、途中休憩もなく、5時間の勤務となっています。一般的に、人の集中力が持続する時間は長くても2時間と言われています。午後の5時間連続勤務の場合には、集中力がとぎれた状態で仕事を続けることにもなりかねません。

こうした場合には例えば昼休憩を45分とし、午後3時から15分間に休憩を設けることで、集中力の低下を防止し、午後の勤務の生産性を向上させることもできます。

製造現場や建設業では、事故等を防止するため午前と午後にそれぞれ10分の休憩が設定されていることがよくありますが、ホワイトカラーなどでも同様の休憩の設定を検討し、生産性の向上を目指すとよいでしょう。

労働基準監督署が事業所の調査を行うときには、労働基準法で定める休憩時間を与えているかの確認が行われ、与えていないときは是正勧告が行われることがあります。この機会に休憩時間が確保されているか点検し、問題があればその改善に向けて取組みを行いましょう。

(来月に続く)

医療事業所様向け情報(労務)9月号③

2020年9月より変わる複数就業者の労災保険給付の取扱い

このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。

社労士:

働き方改革の一つとして兼業・副業が推進されていますが、それに関連して、9月より複数就業者の労災保険給付の取扱いが変わります。

総務部長:

実は、ある従業員から副業したいという相談があったところです。どのように変わるのでしょうか?

社労士:

労災事故が発生した場合、これまでは発生した勤務先の賃金額のみを基礎に給付額等が決定されていました。これが、9月よりすべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎として給付額等が決定されることになります。

総務部長:

当社で25万円、副業先で5万円の賃金が支払われている場合、当社で災害に遭った場合には25万円、副業先の場合には5万円が基礎となり労災給付がなされたものが、9月からはどこで被災したとしても合算した30万円が基礎となるということですね。

社労士:

その通りです。労災事故が発生した場合のセーフティネットを強化するために今回の改正が行われています。脳・心臓疾患や精神障害に関する労災認定についても、勤務先ごとに労働時間やストレス等の負荷を個別に評価して、労災認定の判断をし、それぞれの評価で労災認定されない場合は、すべての勤務先の労働時間やストレス等の負荷を総合的に評価して労災認定の判断が行われます。

総務部長:

なるほど。当社では残業がほとんどなく、労働時間やストレス等の負荷がないと判断されても、副業先での労働時間やストレス等の負荷を加味して、労災認定が判断されるということですね。今後、当社で副業を認めていく方針となった場合、どのようなことに注意が必要でしょうか?

社労士:

やはり過重労働とならないように注意が必要です。例えば副業先で働くことができる時間数を設定し、その範囲で働いてもらうといった対応が考えられます。その他、副業を始めた後には、定期的に面談を行い、本来の業務に支障が出ていないか、過重労働となっていないか、状況を確認した方がよいでしょう。

総務部長:

確かに、継続的に管理していくことは重要ですね。ただ、実際に副業先も含めた労働時間の管理や把握をすることは難しく、副業を認めることに対して慎重になりますね。

社労士:

そうですね。2020年7月に行われた未来投資会議の成長戦略実行計画案の中では、兼業・副業の普及に向けて、労働時間の管理方法が議論されていました。今後の動きに注目しましょう。

【ワンポイントアドバイス】

  1. 2020年9月より、労働災害が発生した場合、すべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に給付額等が決定される。
  2. 労働時間やストレス等の負荷についても、勤務先ごとに評価して労災認定できない場合は、総合的に評価して労災認定の判断が行われる。

(次号に続く)

医療事業所様向け情報(労務)9月号②

新型コロナで休業手当が支払われなかった人に支給される新型コロナ支援金

従業員を所定労働日に休業させ、その理由が会社の責に帰すべきものであったときには、会社は従業員に休業手当を支給しなければなりません。新型コロナウイルス感染症およびそのまん延防止措置の影響により多くの企業が休業をしていますが、休業手当を支給されなかった従業員が発生したことに伴い、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金(以下、「新型コロナ支援金」という)の制度が設けられました。

1.新型コロナ支援金の概要と申請

新型コロナ支援金は、2020年4月1日から9月30日までの間に会社の指示により休業したにも関わらず、その休業に対する休業手当が支給されなかった中小企業の従業員に、休業する前の賃金の8割(1日あたりの上限11,000円)が、休業した日数に応じて国から直接支給されるものです。

初回の申請は「支給申請書」および「支給要件確認書」に、①申請者本人であることが確認できる書類として運転免許証等のコピー、②振込先口座を確認できる書類の写しとして通帳等のコピー、③休業前および休業中の賃金額が確認できる書類の写しとして給与明細等のコピーの3点を添付して、指定先へ郵送します。

申請は従業員が行う方法と、会社経由で行う方法がありますが、いずれも申請する従業員の休業に関する事項を会社が証明する必要があります。会社がこの証明を行わず従業員が申請したときは、後日、会社は労働局から報告を求められます。

2.休業手当との関係

新型コロナ支援金は、会社の指示により休業したにも関わらず、休業手当が受けられない従業員の生活の安定および保護を図ることを目的として創設されました。

一方で労働基準法では、会社の責に帰すべき事由により休業する場合に、休業手当として平均賃金の6割以上の支払いを義務付けています。新型コロナ支援金の支給対象となる休業が会社の責に帰すべき事由であったときには、従業員に新型コロナ支援金が支払われたとしても休業手当を支払う義務が免除されるものではないため、新型コロナ支援金は矛盾した制度という指摘があります。

そのため、厚生労働省では、まずは会社が休業手当を支払うこと等で受給できる雇用調整助成金の活用を検討するよう周知しています。

なお、従業員が新型コロナ支援金を受け取った後に、休業手当を受け取ったときは、新型コロナ支援金を返還する仕組みとなっており、新型コロナ支援金と休業手当を二重では受け取れません。

複数事業所の休業について申請する場合、複数事業所分の情報をまとめて申請する必要があります。1つの事業所分の申請をした期間については、その申請以外すべて無効になります。休業手当を支払っていないときには、従業員から証明を求められる可能性がありますので適切に対処するようにしましょう。

(次号に続く)

医療事業所様向け情報(労務)9月①

新型コロナウイルス感染症に伴う月額変更の特例

新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」という)の影響で休業し賃金が著しく下がったときには、会社から日本年金機構等へ届け出ることで健康保険料・厚生年金保険料の標準報酬月額を、翌月から改定できる特例(以下、「特例改定」という)が設けられました。

1.月額変更の原則

社会保険では標準報酬月額を用いて保険料額等を決定しています。この標準報酬月額は、1年に1度、定時決定(算定基礎)で見直される他、昇給や降給等の固定的賃金の変動に伴い、賃金の額が大幅に変わったときに行う月額変更により見直しが行われます。

月額変更では固定的賃金が変動した月から3ヶ月間に支払われた賃金の平均額が大きく変動している場合に、4ヶ月目より標準報酬月額を改定しますが、今回の特例改定では、休業により賃金の額が大幅に変わった月1ヶ月で判定し、翌月より標準報酬月額を改定することができます。

2.特例改定の条件

特例改定は、以下の3つの条件をすべて満たす場合に行うことができ、また通常の月額変更と異なり任意の届出とされています。

  1. 新型コロナの影響による休業(時間単位を含む)により、急減月(2020年4月から7月までの間の1ヶ月であって、休業により賃金が著しく下がった月として会社が届け出た月)が生じている
  2. 急減月に支払われた賃金の総額(1ヶ月分)に該当する標準報酬月額が、既に設定されている標準報酬月額に比べて、2等級以上下がっている※固定的賃金の変動がない場合も対象
  3. 特例により標準報酬月額を改定することについて、従業員が書面により同意している

特例改定を行うことで、社会保険料の負担は減りますが、同時に将来受給できる年金や傷病手当金、出産手当金が減少する可能性があるため、c.のように従業員の十分な理解に基づく事前の同意を前提としています。

3.特例改定を利用する際の手続き

特例改定を利用するときには、日本年金機構等のホームページで公開されている専用の様式と申立書により届け出ます。

従業員の同意は書面で行う必要がありますが、届出の必要はなく、届出日から2年間保管する必要があります。なお、同意書は任意の様式となっていますが、日本年金機構のホームページで参考様式が公開されています。

特例改定には細かな留意点があり、また、休業が複数の月に亘っている場合には、どの月を急減月として届け出るかにより社会保険料の負担額が異なってきます。特例改定は、同一の従業員について複数回申請を行うことはできませんので、急減月の候補が複数あるときには慎重に判断しましょう。なお、届出期限は2021年1月末(※)となっています。
※2021年1月31日は休日のため、厳密には2021年2月1日までに受け付けられたものが対象。

(次号に続く)

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