コラム
電子カルテや電子カルテ情報共有サービスの2030年に向けた普及スケジュールを公表
厚生労働省は1日、電子カルテや電子カルテ情報共有サービスの2030年に向けた普及スケジ
ュールを公表した。電子カルテを未導入や導入予定の一般病院には、院内にサーバーを設置せ
ず低コストな「クラウド・ネイティブ型」のシステムの導入を促す。また、「オンプレミス型」
の電子カルテを導入済みの一般病院に対してもクラウド・ネイティブ型への移行を促す方針
国は25 年度中をめどに、システムの標準仕様(基本要件)を作る。電子カルテや電子カルテ情
報共有サービスの具体的な普及計画を26年夏までに取りまとめる。
厚労省の調べでは、23年10月現在、電子カルテを導入している一般病院は4,638施設、未導
入は2,427 施設で普及率65.6%。一方、医科の一般診療所は10万4,894施設の55.0%が導入
していた。
電子カルテを遅くても 30 年にはおおむね全ての医療機関に導入することを目指す
医療 DX の工程表では、患者の医療情報を共有できる電子カルテを遅くても 30 年にはおおむ
ね全ての医療機関に導入することを目指すとされていて、電子カルテの導入状況を踏まえて医
療機関に働き掛ける。
電子カルテを未導入や導入予定の病院には、クラウド・ネイティブ型システムの導入を促す。
一方、厚労省によると、電子カルテを導入済みの病院の多くは、サーバーや通信回線を院内に
整備してコストがかさむとされるオンプレ型のシステムを使用し、特に400床以上(650病院)
はこれから30年まで毎年100病院前後が更改の時期を迎えるという。
そのため、電子カルテ情報共有サービスや電子処方箋への対応に必要な改修をシステム更改
のタイミングで医療情報化支援基金を活用して後押しする。クラウド型システムを既に導入している
一部の病院では当面、それらのサービスに対応するためのアップデートを進める。
国の標準仕様に準拠したクラウド・ネイティブ型の病院向けシステムは28年度以降に登場す
る見通しで、それ以降に順次、移行を進めるとしている。
医科診療所向けクラウド型システムの標準仕様(基本要件)を25年度中に作る
一方、オンプレ型電子カルテを導入済みの医科診療所は23年10月現在、約4.7万施設ある
とみられ、国が開発する標準型電子カルテに準拠したクラウド型への移行を27年度以降、シス
テム更改のタイミングで促す。また、電子カルテを未導入の医科診療所(4万7,232施設)では
標準型電子カルテの普及を進める。標準型電子カルテはクラウド型のシステムで、医科診療所
向けにデジタル庁が現在、開発を進めている。26年度中の完成を目指すとしている。
国は、標準型電子カルテの要件を参考に医科診療所向けクラウド型システムの標準仕様(基
本要件)を25年度中に作る。電子カルテ情報共有サービスや電子処方箋への対応のほか、デー
タの引き継ぎを可能にするための互換性確保などを盛り込む見通し。
保育の現場に広がるスポットワーク(スキマバイト)の全国調査に国が乗り出す。「スキマバイト保育士」は人手不足に悩む現場で重宝されているが、短時間や単発で働くため子どもの特性に合わせた保育が難しく、保護者や働く側からは不安や戸惑いの声が上がる。専門家は、保育所任せの現状を改めるため、国によるルール作りの必要性を指摘する。
詳しい説明なし
出勤してみると人手不足なのは明らかだった。職員は十分な休憩時間をとれず、園児を寝かしつけながら昼食をかき込んでいた。女性も寝かしつけを任され、その中に障害のある子どもがいた。「ちょっと障害がある」と言われただけで具体的な説明はなく、どのようにあやしても泣き叫ばれて途方に暮れたという。
女性は介護を機に昨年3月、それまで働いていた保育所を退職。以後は時々、スキマバイトをしている。「時間の融通が利くし、人間関係に悩まなくていいのも気楽だ」。ただ、事前に子どもに関する詳しい説明はなく、周りを見ながら手探りで働いているといい、「保育の質は担保されていないと感じる」と明かす。
大阪府の女性(31)は今春、長男が通う保育所で、他の保護者からスキマ保育士が働いていると聞かされた。保護者から説明を求められた保育所は、「常勤の保育士が休みの際など一時的な利用に限っている」とするお知らせを配布したが、不安になって保育所を退園した家庭もあるという。女性は「(スキマ保育士を)ゼロにしろとまでは思わない」としつつ、「経歴を含めて問題ないと判断した保育士のみにしてほしい」と求めた。
トラブル防止策
保育所がスキマバイトに頼る背景には、深刻な人手不足がある。
都内の別の認可保育所では毎日2人のスキマバイトを募集している。園長(40)は「給食や夕方のお迎えなど、人手が手薄になりがちな時間帯に入ってもらえて助かっている」と説明する。
スキマバイトの仲介アプリ最大手「タイミー」(東京)では、保育所に対し、採用した保育士が子どもと1対1にならないようにするなど、トラブル防止の取り組みを推奨している。広報担当者は「一度は保育の現場を離れたが、よい職場に出会えたらまた働きたいという人は少なくない。スポットワークだからこそ人が集まるというメリットもある」と強調した。
ただ、面接を行わず、履歴書の提出も求めないで採用を決める保育所も多く、「無資格者歓迎」とうたって求人を出すところもある。スキマバイトを定期的に活用している千葉県の保育所に勤める保育士の女性(49)は「どんな人が来るかは当日にならないとわからず、問題のある人が紛れていても排除しようがない」と懸念を口にした。
議会でも疑問
こうした現状を疑問視する声は、自治体の議会でじわじわと広がってきた。
千葉県の柏市議会では昨年9月、一般質問で市議が「履歴書も出させず、面接もせず、当日すぐに採用する。子どもの安全上、問題はないのか」と述べ、スキマバイト保育士の雇用をやめさせるよう市に求めた。
東京都の文京区議会でも昨年11月、「頻繁な人員の入れ替えは子どもたちのストレスにもなり、健やかな成長を妨げる」と指摘が出た。
区によると、区内では昨年度末時点で6か所の保育所がスキマバイトを活用していた。区の担当者は「常態化は望ましくない。目的や運用の実態を確認しておく必要がある」と話した。
多様な働き方に詳しい立教大の首藤若菜教授は、「スキマバイトの運用を現場任せにしていては、安全な保育ができないだけでなく、雇用の不安定化と人材の使い捨てにもつながり、保育業界全体が不健全になりかねない。採用や運用について、国が具体的なルールを整えるよう検討するべきだ」と話した。(読売新聞 オンライン)
「福祉用具サービス提供における適切なPDCAの実現に向けた手引き」
厚生労働省は10日、福祉用具専門相談員が一段と質の高いサービスを提供できるよう、「福祉用具サービス提供における適切なPDCAの実現に向けた手引き」を公表した。
福祉用具貸与・販売の現場で、PDCAサイクルを実際に回すポイントや記録作成の意義、他職種との連携のあり方などを解説する実践的な内容。介護保険最新情報のVol.1402で関係者に広く周知している。
この手引きは、2023年11月にまとめられた国の検討会の報告書を踏まえ、昨年度の調査・研究事業の一環として作成されたもの。厚労省は福祉用具貸与・販売事業所に対し、手引きの積極的な活用を呼びかけている。
手引きは9本の柱(章)で構成。例えば「PDCAの各プロセスで専門相談員に求められる役割」「疾患別・利用者の状況別の留意点」「他職種の役割」「実践用チェックシート」などが収録されている。
厚労省は現場での活用
(1)新人や若手職員の教育・指導ツール
(2)ベテラン職員の自己研鑽・振り返り
(3)他職種・保険者の専門性や役割の理解
などを想定。「利用者ごとに介護の見通しを予測し、予測に基づいて適時適切なタイミングでモニタリングを実施しながら、その結果を踏まえて福祉用具サービス計画の継続・見直しを検討するといった、PDCAサイクルを実施していくことが強く求められている」と促した。
このほか、厚労省は今回の通知で、「福祉用具の事故防止に向けた体制強化に関する報告書」「専門相談員指定講習の指導要領」なども周知している。
現場の記録とその確認を効率化する新たな音声アシスタント
介護ソフト大手のNDソフトウェアが、現場の記録とその確認を効率化する新たな音声アシスタント「ほのぼのVoice」を正式にリリースした。
介護事業所・施設向けの「ほのぼのNEXT」と連携し、スマートフォンとワイヤレス軟骨伝導ヘッドホンなどを通じた音声入力だけで、いつでも、どこでも、誰でも簡単に、記録の入力や内容の確認を行えるのが最大の特長だ。「ほのぼのNEXT」があれば無料で利用できる。
記録業務の負担軽減は、多忙を極める現場の喫緊の課題。NDソフトウェアは今回、音声操作に特化した「ほのぼのVoice」の無料提供でその解消を後押しする。
設計のコンセプトは「記録をケアに限りなく近づける」。
入力は利用者の名前や記録内容などを話しかけるだけ。利用者の過去の状態やバイタル、食事量、排泄状況などの情報も、声かけのみで瞬時に引き出すことができる。
設計のコンセプトは「記録をケアに限りなく近づける」。歩きながら、手を洗いながら、片付けながらといった場面で、スムーズに記録の入力・確認が可能。介護職の手を止めることなく、ケアの質を損なうことなく、様々なシーンで記録・確認を済ませることができる。
実際に記録する際は、音声アシスタントが内容を復唱してくれるため、入力ミスの不安はない。間違いに気付いた際は、送信前にアプリで修正できる仕様。当然、入力データは「ほのぼのNEXT」と即時に連携・共有されていく。
単に正確に残すだけでなく、リアルタイムで簡単に入力でき、誰もがすぐに活用できるもの。NDソフトウェアは「いい記録」をこう定義する。「ほのぼのVoice」で日々の記録を効率的に蓄積し、「ほのぼのNEXT」で利用者の傾向などを正確に把握することで、次の予測・改善につなげるというデータ活用の好循環を目指す。
NDソフトウェアの開発担当者は、「AI技術を活用した介護システムの開発をさらに推進し、製品力の強化を図ることで、介護分野におけるリーディングカンパニーとして発展し続けたい。今後も現場の声に耳を傾け、笑顔あふれる介護の未来を皆さまと共に築きたい」と述べた。
また、松山庸哉代表取締役社長は、「記録が、未来を変える。NDソフトは、AIの力で“記録”を“価値”へと昇華させます。過去の記録を振り返り、今に活かすことで、介護・障害福祉の現場に新たな可能性を。記録 × データで、ケアの質と経営力の両立を支援し、事業所の未来をともに築いていきたい」と語った。
A、キャリアパスは個人の能力・適正に応じて、「指導・監督層」になるコースとは別に「専門職」コースを準備し、専門職のキャリアステップと昇給制度で運用していきます。
現場では、「優秀な職員ほど役職にはつきたがらない」とか、「知識・技術面でわからないことについて、皆が教えてもらえる職員は決まっており、しかもその職員は役職者ではない」、といった話がよく聞かれます。そこで考えるべきなのが、キャリアパスにおける「複線化」です。つまり、キャリアパスに描かれた昇格ラインによらずに、役職にはつかずに専ら専門性を高め、組織に貢献するキャリアパスを作ることです。この階層を「専門職」として、上級介護職の水準を超える水準をもって処遇します。この場合、当該職員はマネジメント業務を行わず、専ら好きな介護の道を追い続けても、相応の処遇が保障されることになります。専門性の高さを認められてこその処遇なので、職員のプライドも充足することができます。
「専任職を設けて相応に処遇する」と周知すれば閉塞感が一気に変わるはず
また、優秀な人材を滞留させては離職につながりかねません。中小企業の中には職員が自らポストの数を読んで、諦めムードが漂っているようなケースも散見されますが、「専任職」を設けて、「当法人は、管理上の役職だけがポストではない。専任職というスキル面のリーダーもあり、相応に処遇する」と周知すれば閉塞感が一気に変わるはずです。
在職中の職員より高い給与で求人をだすことを検討しているが、問題ないか?
数か月前から看護師の求人を行っているが、反応が悪く、面接までもなかなかいきません。そんな中で求人の給与を現職の職員より数段高い水準で出したいが、問題ないだろうかという相談です。
既存職員のモチベーションへの影響を考えなければなりません
職場の採用現場では、慢性的な人手不足の影響から売り手市場の状況が続いてます。各事業所は、それぞれ様々な施策を打ち出していますが、昨今の物価高や賃上げの状況から給与水準を引き上げるところも増えているようです。しかし、新規採用者の給与水準を引き上げた結果、在職者の額を上回ってしまっては問題が発生するでしょう。この場合には在職者の給与の引き上げが必要になります。各人の経験、キャリア、スキルを勘案して、どうみても給与水準が逆転してしまうのは、既存職員のモチベーション低下に繋がる恐れがあり、できれば避けるべきと思います。
給与情報については職員同士で、自然に共有化されてしまうと思ってください。
また新規採用者の給与を本人以外の職員に伝えなければ、在職者を昇給させなくても問題ないと思われるかもしれませんが、在職者も求人広告を目にすることはありますし、職員同士でお互いの給与明細を見せ合うことも増えているようです。在職者が、自分よりも新人の給与が高いと知った場合、苦情や昇給の要望を言ってくる可能性も高いでしょう。
対応策①として、その影響を想定した人件費を検討し判断する。
採用力を高める手段としての待遇引き上げは、新規採用者の引き上げだけでなく全体の給与水準に波及します。基本給などの固定給が上がるだけでなく、時間外手当の単価も上がりますし、社会保険料への波及も考慮しておくべきです。
このため、求人広告を出す場合、個々の在職者の給与額を確認して、実際に採用が決まった場合に、在職者のだれにどのくらいの昇給を見込むかを十分に検討し、人件費全体の増加を考慮しておくことが重要です。
対応策②として、人事制度(職能資格等級)を作成し給与水準のルールを決める
新人の給与が人事制度(職能資格等級)の中で決まったものであれば賃金水準を在職者に説明し、納得させることは十分可能です。人事管理として、経験年数、業務スキル、資格などを職種別で等級制度(職能資格制度)として設定し、そのルールの中で決めている給与であれば、今回の新規採用者の入職後の等級を想定して決められた給与ということになります。それが仮に在職者より高い水準だとしても、そこには公正な理由があるので在職者に説明することで納得感も得られるものと思います。その意味でも賃金設定を含めた人事制度を作成しておくことは極めて重要です。
四病院団体協議会は6月25日、2025年の病院の賃上げ率が189病院の平均で2.51%だった
速報値の2.41%から 0.1 ポイント上昇したが、一般産業平均(5%程度)のほぼ半分にとどまった。
調査の最終結果は同25 日、4 団体の幹部らによる総合部会後の記者会見で公表した。日本医
療法人協会の伊藤伸一会長は会見で、他産業への人材流出を防ぐため、「(病院の経営が)大変
厳しい状況にある中で、ぎりぎりのところで賃金を上げていることをご理解いただきたい」な
どと述べた。四病協では、病院の賃上げに必要な財源を確保するため、政府・与党への働き掛
けを秋以降に引き続き行う。
調査は、病院の25年の賃上げ状況を把握し、物価・賃金の上昇への国の適切な対応を促すの
が目的。国や自治体、医療法人などが運営する4団体の計321病院を対象に5月27日-6月13
日に実施し、189病院(58.9%)から有効回答があった。有効回答は6月6日に公表した速報の
163 病院から26病院増えた。
189病院のうち186病院(98.4%)で、3 病院(1.6%)は未実施
調査結果によると、25年に賃上げを実施したか、実施予定だと答えたのは189病院のうち186
病院(98.4%)で、3 病院(1.6%)は未実施だった。賃上げを行った 186 病院の内訳は、定期
昇給とベースアップ 104 病院(55.9%)、定期昇給のみ 77 病院(41.4%)、ベアのみ 5 病院
(2.7%)。定期昇給やベアを含む 189 病院全体での賃上げ率は平均 2.51%で、開設主体別では
日赤や済生会など「その他公的」の 2.63%が最も高く、私立学校法人など「その他私的」の
2.12%が最低だった。
経済同友会(代表幹事=新浪剛史サントリーホールディングス取締役会長)は6月10日、少子化対策に関する提言を公表した。
労働力不足などの影響を踏まえ、少子化対策は経済政策としても最優先の課題で、子育てしやすい環境の整備が急務だと強調。
保育士不足への対策では、外国人保育士の受け入れ拡大を訴えた。 提言は現在こどもを育てながら働く家庭にとって、制度があっても使えない社会構造があると指摘。
社会全体で子育てを支えられるよう規制・制度・税制について提言している。 規制改革に関しては、保育サービスの拡充に向けて外国人保育士の受け入れ拡大を求めた。
具体的には特定技能1号と2号に保育を追加。日本特有の価値観や文化に対応するための研修体制の整備も求めた。
また、保育所の設置基準や運営のルールについては、自治体によるローカル規制があることを問題視した。国が主導して、面積要件などの過剰な独自基準を抑制すべきとしている。
さらに障害児などの受け入れ体制についても国が統一的な加配基準を設け、どの地域でも必要な支援員が配置されるよう財政支援が重要だと訴えている。
制度改革については、学童保育の拡充を挙げた。勤務形態が午後1時~7時の勤務形態が主流であることが、学童指導員の処遇が上がらない一因だとして、
少なくとも午後8時まで延長するよう求めた。同時に保育士と同様に処遇改善の対象とすることも要望している。
■「年収の壁」見直しも このほか提言には、年収が一定を超えると税負担が発生する「年収の壁」の見直しや、ベビーシッターや家事支援サービスの活用促進なども盛り込んだ。
提言は同会の規制改革委員会少子高齢化分科会がまとめた。委員長には、ポピンズの轟麻衣子取締役社長グループCEOや、健育会の竹川節男理事長、鉄祐会の武藤真祐理事長らが就いている。
「本気で取り組めばきっと人は来てくれると思ったんです」。
そう語るのは、社会福祉法人泉陽会(東京都)で人材対策室を率いる平本穣さん。5年前、自らの提案で新設した同室は、今や法人の人材確保を牽引する存在だ。
豊富な資金力や広報力を武器に、民間大手が人材確保を優位に進める時代。熾烈な採用競争の最前線で、社会福祉法人が劣勢に立たされるケースも少なくないなか、どう難局を打開しようとしているのか。平本さんに話を聞いた。
「人を採る」に専念を直談判
きっかけは、新卒採用の難しさへの強い危機感だった。法人全体の年齢構成が高まりつつあるなか、若手人材をどう確保するかは喫緊の課題。現場の声と自らの問題意識を重ね合わせ、「自分が人を採る。専念させてほしい」と当時の上司に直談判した。
「高度な採用スキルがあったわけではありません。でも、やってみれば道は拓けるという直感がありました」。最初はデイサービスの所長職と兼務で動き出し、翌年からは専任に。現場経験を生かした地道なアプローチが本格的に始まった。
当初から注力したのは地方での採用活動だ。法人の知名度では大手に敵わない。そこで都内での競争にこだわらず、自ら地方へ足を運んで福祉系大学や専門学校の教員に直接アプローチ。業界で培った人脈をたどって紹介を受け、授業やゼミの場で法人の魅力を伝える機会を設けてもらってきた。
「就職先の選択肢のひとつとして見てもらえれば、まずは十分だと思っています。大切なのは、丁寧に顔を合わせて話すこと。関心を持ってくれる人は必ず出てきます」
採用の成果も着実に現れている。たとえば愛媛県の専門学校では、主任教員に思いを伝えたところ、東京への就職を希望していた学生に声をかけてもらい、リモートで説明・選考を実施。結果として採用につながり、今も現場で戦力として活躍している。
平本さんは、採用後の「伴走支援」にも余念がない。地方から上京する場合、4年間の家賃補助を用意。引っ越しの初期費用も法人が支援している。住まいの確保も平本さんら人材対策室がサポート。本人の希望や予算を聞いて反映するほか、一緒に内見にも同行する。
「東京で暮らし始められる、ということを1つの武器にしています。知らない土地での暮らしは誰でも不安なもの。物件の立地や設備まで一緒に確認しながら、納得して新生活を始められるようにしています」
学びと仕事、生活をトータル支援
今年度からは外国人材の確保でも新たな一歩を踏み出した。十文字学園女子大学(埼玉県)と連携し、外国人留学生を対象とした長期育成プログラムをスタート。4年間の学費を泉陽会が共同で負担し、在学中は介護現場でのアルバイト勤務も受け入れている。
「将来的に現場をリードできる人材を育てていくことが目的です。バイトで働きながら学校で学び、卒業後にはうちの職員として就職する。生活継続の見通しを立てられることが、外国人の学生にとって安心材料になっていると思います」
住まいの手配、生活支援も法人が担う。日用品の買い出しや地域の案内なども含め、生活立ち上げの不安を和らげるサポートを柔軟に提供している。
法人の枠を越えた挑戦
他法人との連携の輪も広げている。平本さんは現在、同じ志を持つ10の法人と共に人材確保の協働チームを結成。合同で就職フェアを開催しているほか、若手職員のネットワーク形成にも取り組んでいる。
「コストを抑えながら、法人の枠を超えて介護現場の魅力を発信したいという思いで始めました」
就職フェアでは介護食の試食体験や講演会も企画。若手職員が福祉の魅力や課題を率直に語り合う場も設けている。法人の垣根を越えた交流が、業界全体の魅力や働き続けるモチベーションの向上につながるという。
「業界内の情報交換は、自分の職場を理解するうえでもやっぱり重要。“友達の友達は友達”という気持ちで、横のつながりを大事にしています」
人材確保のハードルが年々高まる中でも、平本さんは「本気で取り組めば必ず道は開ける」と前を向く。
「仕事を探している人は皆、多かれ少なかれ不安を抱えています。だからこそ細やかに寄り添い、安定するまで一緒に歩む。そこに本気で向き合えれば、必ず信頼が生まれて定着につながります。この業界に人を呼び込む責任を、一人ひとりが自覚して行動していくことが大切だと思っています」
すべては現場の問題意識から始まった。それが今、確かな手応えとともに人をつなぐ力を生んでいる
「ICTやAIの活用がケアマネジメント業務の前提となる時代がやってくる」。
日本介護支援専門員協会は6月29日の社員総会で、今年度の事業計画を決定した。重点課題の1つに掲げたのはAIの有効活用。現場のケアマネジャーの支援に本腰を入れる方針を打ち出した。
協会の七種秀樹副会長は社員総会後の記者会見でこう語り、今後のAI活用の意義と重要性を強調した。「人材不足が深刻になる中で、業務負担の軽減や働きやすい職場環境の整備が欠かせない。協会としてケアマネジャーのリテラシー向上を本気で後押ししていく」。
協会は具体策として、会員への情報提供やセミナーの開催、ソフト開発会社との連携などに取り組んでいく。各ソフトの機能や使い勝手などを比較・評価し、分かりやすく提示していくことも検討。個々のケアマネジャーが置かれた状況に合ったツールを選べるよう発信を強化する。
今後のAIはケアプランの作成支援だけではない。ケアマネジャーの業務全般を支える存在になっていく
あわせて、協会が取り組んでいるケアマネジャーの「実践知の言語化」とも連動させる。ベテランのケアマネジャーが培ってきた知識、経験、技術、思考など(実践知)を言語化し、それをAIに学習させることで、業務全体をサポートできるような新たな仕組みの整備を目指す。
七種副会長は会見で、「今後のAIはケアプランの作成支援だけではない。ケアマネジャーの業務全般を支える存在になっていく。その過程で、現場のケアマネジャーがこれまで蓄積してきた“普遍的な実践知”も役立てられれば」と述べた。
現在、言語化した実践知のデータベースを構築中。協会はこのデータベースを、ケアマネジメントの質の向上や人材育成などに活用していく考えだ。
七種副会長は会見で、「AIやICTを活用する力が、ケアマネジメントの質の向上に大きく影響する時代になる。デジタル技術をしっかりと使いこなすことは、若い人たちにケアマネジャーの仕事を魅力的に感じてもらえることにもなる」との認識を示した。





