育児休業から復職した職員の昇給・賞与はどう扱う?違法リスクを避ける実務ポイントを社労士が解説
育児休業から復職した職員の「昇給」や「賞与」の取り扱いは、多くの企業・施設で悩みやすいテーマです。
特に介護・保育・クリニックなどの現場では、「長期間働いていないのに昇給させるべきか」「賞与はゼロでもいいのか」といった実務判断が求められます。
結論から言えば、育児休業を理由にした過度な不利益な取り扱いは違法となる可能性が高く、適切な“按分(あんぶん)処理”が重要です。
本記事では、法的な考え方と現場で使える具体例を交えて解説します。
育児休業者への「不利益取扱い」は法律で禁止されている
まず前提として、育児・介護休業法では、事業主に対して以下のような規制が設けられています。
- 育児休業の取得を理由とした解雇の禁止
- 不利益な配置転換の禁止
- 昇進・昇格・賞与等における不利益取扱いの禁止
ここで重要なのは、「一切減額してはいけない」という意味ではない点です。
ポイントは“合理的な範囲内かどうか”です。
昇給の考え方|「休業期間分の控除」はOKだが、それ以上はNG
育児休業期間中は実際に勤務していないため、その期間に対応する評価や昇給を反映しないこと自体は問題ありません。
しかし、次のような取り扱いは注意が必要です。
NGとなる可能性が高い例
- 復職したが昇給自体を行わない
- 他の社員と比較して過度に低い昇給額にする
- 評価対象期間を無視してゼロ評価にする
これらは「不利益取扱い」と判断されるリスクがあります。
【具体例】昇給の正しい計算方法
例えば次のケースで考えてみましょう。
- 昇給基準日:4月1日
- 育児休業期間:1月1日~10月31日
- 復職日:11月1日
- 通常昇給額:4,000円
この場合、
- 昇給そのものは実施する必要あり
- ただし評価対象期間のうち勤務していた期間で按分可能
計算式は以下の通りです。
4,000円 ×(勤務月数 ÷ 12カ月)
今回のケースでは、勤務実績は約9カ月と考えるため、
→ 4,000円 × 9/12 = 3,000円
このように、勤務実績に応じた合理的な減額であれば適法と考えられます。
賞与の取り扱い|「支給ゼロ」でもよいケースと注意点
賞与についても基本的な考え方は同じです。
① 支給ゼロが認められるケース
- 賞与算定期間中に勤務実績が一切ない場合
この場合は、賞与を支給しなくても違法とはなりません。
② 一部支給が必要なケース
一方で、
- 賞与算定期間中に1カ月でも勤務実績がある場合
この場合は、勤務期間に応じた支給(按分)が必要です。
例えば:
- 賞与算定期間:6カ月
- 勤務実績:1カ月
→ 賞与 × 1/6
このように、勤務実態を無視したゼロ支給はリスクが高いといえます。
現場でよくあるトラブルと対応策
よくある誤り
- 「休んでいたから評価できない」として一律ゼロ評価
- 復職後もしばらく昇給対象から外す
- 人事制度に明確なルールがない
これらは、後から労務トラブルに発展しやすい典型例です。
トラブルを防ぐ3つの実務ポイント
① 就業規則・賃金規程に明記する
- 昇給・賞与の算定方法
- 按分ルール
- 評価対象期間の考え方
→ ルールの明文化が最大の防御策です
② 「勤務実績ベース」で統一する
育児休業者だけ特別扱いするのではなく、
- 休職者
- 長期欠勤者
と同様のロジックで処理することが重要です。
③ 評価制度と連動させる
- 出勤率
- 業績評価
- 行動評価
これらを組み合わせ、客観的に説明できる仕組みにすることで、納得性が高まります。
介護・保育・クリニック業界での実務的な注意点
これらの業界では、
- 人手不足
- 女性職員比率が高い
- 育休取得率が高い
という特徴があります。
そのため、昇給・賞与の扱いを誤ると、
- 職員の不満増大
- 離職率の上昇
- 採用力の低下
に直結します。
「法的に問題ない」だけでなく、「職員が納得できる運用か」が極めて重要です。
まとめ|「公平性」と「合理性」が判断基準
育児休業から復職した職員の昇給・賞与の取り扱いは、次の2点に集約されます。
- 勤務していない期間分の減額はOK
- それを超える不利益はNG
つまり、
👉 “働いた分だけ評価する”というシンプルな原則が最も安全です。
最後に|制度設計に不安がある場合は専門家へ
育児休業対応は、単なる給与計算の問題ではなく、
- 人事制度
- 評価制度
- 就業規則
すべてに関わる重要テーマです。
特に介護・保育・クリニックでは、制度設計の良し悪しが経営に直結します。
「自社の運用が適法か不安」
「トラブルにならない制度を整備したい」
といった場合は、専門家によるチェックをおすすめします。






