遅刻を繰り返す職員に始末書は有効?介護・保育・クリニック経営者が知っておくべき正しい指導手順と労務リスク

【この記事のポイント】

  • 1〜2分のわずかな遅刻でも放置は厳禁!職場全体の士気低下を防ぐ初期対応

  • 「始末書」と「顛末書」の違いとは?就業規則がないとペナルティは課せない

  • 介護・保育・クリニックそれぞれの現場で起きやすい「遅刻トラブル」の具体例

  • 万が一の解雇・不利益変更を見据えた「証拠を残すステップ」

介護施設、保育園、医科・歯科クリニックを運営する経営者(施設長、園長、院長)の皆様、日々の現場対応お疲れ様です。労務管理のご相談を受ける中で、非常に多く寄せられるのが「遅刻を繰り返す職員への対応」です。

「何度注意しても『すみません』と言うだけで改善されない」

「たった数分の遅刻だし、人手不足だから強く言いにくい……」

「反省が見られないから始末書を書かせたいけれど、どう進めればいい?」

このように悩まれている経営者・管理職の方も多いのではないでしょうか。

結論からお伝えすると、「数分の遅刻だから」と黙認することは、職場崩壊の第一歩です。また、焦って正しくない方法で「始末書」を提出させようとすると、逆にパワハラを主張されたり、労使トラブルに発展したりするリスクがあります。

今回は、介護・保育・クリニック特化の社労士が、遅刻を繰り返す職員への「正しい教育的指導の手順」と「始末書・顛末書を活用した適切な労務対応」について詳しく解説します。

1. なぜ「わずかな遅刻」も黙認してはいけないのか?

診療所や保育園、介護現場において、「5分程度の遅刻なら、朝の引き継ぎにギリギリ間に合っているから……」と、注意をうやむやにしてしまうケースが散見されます。

しかし、勤務態度の不良を放置することには、経営上大きなリスクが潜んでいます。

① 職場全体の規律が緩む(真面目な職員の不満増大)

定刻通りに出勤して準備を整えている職員からすれば、「あの人はいつも遅刻しているのに怒られない」という不満が溜まります。やがて「少し暗黙の了解で遅れてもいいんだ」と職場全体の気が緩み、組織の規律が崩壊します。

② 現場の安全・サービス品質の低下

医療・介護・保育は「人の命や安全」を預かる現場です。1人の遅刻によって朝の申し送り(引き継ぎ)が不十分になると、投薬ミス、転倒事故、園児の見落としなど、重大なインシデントに直結します。

③ いざ処分(解雇など)を検討した時に不利になる

将来的に「改善が見られないため退職させたい」となった場合、過去の遅刻を事業主が黙認していた(注意・指導の記録がない)と、裁判や労働局の指導において「会社が遅刻を容認していた」と判断され、不当解雇とみなされる可能性が高くなります。

たとえ数分の遅刻であっても、「遅刻は労働契約違反であり、懲戒対象になり得る」というスタンスで初期から明確に指導することが重要です。

2. 業界別:現場でよくある「遅刻放置」の具体例

当事務所(介護社労士・保育園社労士・クリニック社労士)のもとに寄せられる、実際の現場トラブル例をご紹介します。

【クリニック(診療所)の例】

状況: 受付・医療事務の職員が、毎朝開院10分前の朝礼に3〜5分遅れてくる。

院長の悩み: 最初の頃は「気を付けてね」と注意していたが、本人は「患者さんの診察(9時〜)には間に合っています」という態度。院長も忙しくなり注意をやめてしまった結果、看護師や他のスタッフから「事務だけ優遇されている」と不満が爆発した。

【保育園の例】

状況: 7時半からの早朝保育担当(開園作業)の保育士が、5分〜10分の遅刻を月に何度も繰り返す。

園長の悩み: 鍵を開けて園児を迎える体制が整わず、保護者を外で待たせる事態が発生。注意しても「電車が遅れた」「子供の体調が」と理由をつけて反省がない。人手不足のため強く叱れず、始末書を書いてもらって意識を変えさせたい。

【介護施設の例】

状況: デイサービスや訪問介護のヘルパーが、送迎・訪問の直前になって遅刻してくる。

施設長の悩み: 1人の遅刻によって他のスタッフが送迎ルートを変更せざるを得なくなり、利用者へのサービス提供が遅れる。指導しても「道が混んでいた」と言い訳し、改善の兆しが見られない。

どの現場にも共通しているのは、「最初の段階で正しいステップを踏んで文書記録を残していないこと」が原因で、事態が悪化している点です。

3. 「始末書」と「顛末書」の決定的な違い

「何度も注意しても直らないから、始末書を書かせよう」と考えた際、経営者が必ず知っておくべき2つの文書(始末書・顛末書)の違いについて解説します。ここを混同して対応すると、違法性を問われることがあります。

項目 始末書(懲戒処分) 顛末書(業務命令)
主な目的 違反の事実を認めさせ、反省・不発誓約を行わせる 違反の事実に至る経過・顛末を報告させる
法的性質 懲戒処分(ペナルティ)の一環 業務上の指示(報告書の提出)
就業規則の要件 就業規則に「懲戒の種類」として明記が必要 就業規則の懲戒規定がなくても提出命令が可能
不提出時のリスク 始末書の強制は「思想の強制」になり得ないか注意が必要 正当な業務命令違反として追加指導が可能

① 懲戒処分としての「始末書」

始末書は、本人の違反行為を自覚させ、反省と「二度と繰り返さない」という誓約をさせるための懲戒処分です。

【超重要ポイント】

始末書を提出させるには、あらかじめ就業規則に「懲戒の種類」として始末書の提出命令(けん責・戒告など)が定められていることが絶対条件です。

規律がないまま「ペナルティとして始末書を出せ」と命じることは、違法(懲戒権の乱用)となるため注意してください。

② 業務改善のための「顛末書」

顛末書は、「いつ・どこで・なぜ遅刻したのか」という事実に焦点を当て、その経緯を客観的に報告させる文書です。これは業務命令の一環として求めることができます。

反省の弁(「心からお詫びします」等)を強要することはできませんが、「事実の確認」と「今後の改善策(例:目覚ましを2個かける、1本早い電車に乗る)」を記載させることで、本人の自覚を促す効果があります。就業規則の懲戒規定が未整備な段階では、まず「顛末書(または理由書・業務改善計画書)」の提出を求めるのが安全な手順です。

4. 遅刻を繰り返す職員への具体的な進め方【5つのステップ】

では、具体的にどのような手順で指導・対応を進めればよいのでしょうか。法的に安全で、かつ実効性の高い5ステップをご紹介します。

【Step 1】その場での口頭注意(事実の確認)
  ↓
【Step 2】面談による指導と「指導記録」の作成
  ↓
【Step 3】業務命令としての「顛末書(改善計画書)」の提出
  ↓
【Step 4】就業規則に基づく懲戒処分(始末書の提出命令)
  ↓
【Step 5】出勤停止・普通解雇等の検討(労務の専門家へ相談)

Step 1:その場での口頭指導(放置しない)

遅刻があった当日に、「数分だから」と流さず「遅刻は困る」旨をハッキリ伝えます。言い訳を聞くのではなく、「何時に着いたか」という事実を認識させます。

Step 2:面談の実施と「指導記録」の保管

改善されない場合は、個別に面談の場を設けます。

「なぜ遅刻が続くのか」の原因をヒアリングしつつ、「○月○日○分遅刻:口頭注意実施」といった指導記録をメモ(エクセルや紙)に残しておきます。 これが将来のトラブル予防における強力な証拠となります。

Step 3:業務命令として「顛末書・改善対応書」を提出させる

面談を経ても改善が見られない場合、業務指示として「遅刻の理由」と「今後の対策」を書面(顛末書や業務改善回答書)で提出させます。

Step 4:就業規則に基づき「始末書(懲戒処分)」を命じる

就業規則に「戒告・けん責(始末書を提出させて将来を戒める)」の規定があることを確認した上で、正式な懲戒処分通知書と共に「始末書」の提出を命じます。

Step 5:改善されない場合は次の段階へ

始末書を出してもなお遅刻を繰り返す場合、減給や出勤停止、最終的には「普通解雇」を検討するフェーズに入ります。※解雇の手続きは慎重な判断が必要なため、必ず労務の専門家に相談してください。

5. 労務管理の「穴」を塞ぐために、今すぐ見直すべきポイント

「問題職員に指導したいけれど、自社の就業規則で対応できるかわからない……」

そう思われた経営者様は、以下のポイントをチェックしてみてください。

  • 就業規則に懲戒規定(けん責、始末書の提出等)が明記されているか?

  • 1〜2分の遅刻の扱い(控除やカウント方法)のルールが明確か?

  • タイムカードやシフト表など、遅刻の客観的な記録が残っているか?

  • 日常的な指導記録(いつ、だれが、どう注意したか)を残す仕組みがあるか?

介護・保育・医療現場は、一般的な企業以上に「急な欠勤や遅刻が現場のオペレーションに与える影響」が甚大です。だからこそ、現場の特性に合わせた明確なルールの構築と、法的に正しいステップでの対応が欠かせません。

まとめ:問題職員の対応・就業規則の見直しは専門家にご相談ください

遅刻を繰り返す職員への対応は、放置すれば職場環境の悪化を招き、焦って強引な対応をすれば労使トラブル(パワハラ主張や不当解雇の訴え)に発展するという、経営者にとって非常に頭の痛い問題です。

正しく解決するためには、「日頃の指導記録」「適切な就業規則」「段階を踏んだ文書化」の3つが揃っている必要があります。

介護・保育・クリニックの労務管理なら「当事務所」にお任せください!

当事務所は、医療・福祉業界の労務管理に特化した専門社労士(介護社労士・保育園社労士・クリニック社労士)として、これまで数多くの施設長・園長・院長先生方のお悩みを解決してまいりました。

  • 「今の就業規則で問題職員に始末書を書かせられるか確認したい」

  • 「改善されない職員への指導文書の書き方を相談したい」

  • 「現場の負担を減らし、規律を守るための労務ルールを作りたい」

このようなお悩みをお持ちの経営者様は、トラブルが大きくなる前に、ぜひ一度当事務所までお気軽にご相談ください。業界特有の事情を汲み取った、実践的で安全な労務サポートをご提案いたします。

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