「人生は美しいことだけ覚えていればいい」

幅広い世代から支持を集める
作家の佐藤愛子さん。

『致知』2003年1月号より
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「人生は美しいことだけ覚えていればいい」

 佐藤愛子(作家)
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私の場合、言葉によって支えられたと
いうことはないですね。

言葉が先にあって、その言葉で力づけられ
自分の人生が決まったというのではなく、
自分の人生が先にあって、
人生観なり自分の気質なりに
ぴったり合う言葉を見つけた時に、
嬉しくなってそれが力杖になる、
ということだと思うんですね。

そういう意味で気に入った言葉の一つに、


「人生は美しいことだけ覚えていればいい」

という沢田美喜さんの言葉があります。

ご存じのように沢田美喜さんは
エリザベス・サンダース・ホームを創設し、
たくさんの戦災混血孤児を育てた方ですが、
私はテレビで沢田さんが
この言葉を言ってらっしゃるのを見て、
非常に感動したんです。

ホームで育った黒人の混血孤児なんですが、
成長して二十七、八歳の青年になって、
アメリカへ自分のお父さんに会いに行く。

ところがお父さんは喧嘩か何かして
監獄に入っているんですね。

胸が潰れるような思いでその青年は、
沢田さんが来るのをニューヨークの
公園のベンチに座って待っている。

沢田さんの姿が見えると青年は駆け寄って、
抱きついて、思わず泣くんです。

その時に沢田さんが英語でね、


「泣いてはいけない、
 人生は美しいことだけ覚えていればいい」


と言って、青年を励ますという場面が
あるんです。

長いこと生きてくると、
いろいろな経験をしてきますけど、
楽しいことよりも、美しいことのほうが
心に残るということが分かります。

美しい自然、人の美しい心。

そういう美しいことだけ覚えていれば、
人生捨てたものじゃない、というふうに
思えるわけでしてね。

さすがに沢田さんはいいことを
言われるなあと、感銘を受けましたね。


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