介護
企業に求められる従業員の精神障害発症を防ぐための対応
従業員が精神障害を発症した際、その原因が長時間労働や職場のパワーハラスメントによるものだと考え、労災請求をしたいと会社に相談する従業員が増加しています。実際、どのくらいの件数の請求があり、労災の認定がされているのか、厚生労働省が発表した平成30年度の労災補償状況に関する集計結果を見てみましょう。
1.精神障害の労災補償状況
平成30年度の精神障害に関する労災請求件数は1,820件となり、前年の1,732件から88件増加し、過去最多となりました(下図参照)。
支給決定件数は465件で、認定率は31.8%となっています。認定率は過去5年間の中で最低となっていますが、それでも申請の3件に1件の割合で労災として認定されていることが分かります。
2.精神障害発症の理由
精神障害の集計では、精神障害を発症した理由と考えられる支給決定事案における具体的な出来事別の分類がされていますが、上位項目は次のとおりとなっています(「特別な出来事」を除く)。
第1位に、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」と「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」があることを考えると、企業は、異動により仕事の内容が変わったり、同僚の退職等で業務量が増えたりする等、大きな変化があるときには過重な負担となっていないか面談を行ったり、管理職や一般職向けにパワーハラスメントに関する研修を定期的に実施する等、必要な措置をとることが重要となります。
パワーハラスメントについては、先に行われた国会で、パワーハラスメント防止対策が法制化され2019年6月5日に公布されました。施行は公布後1年以内の政令の定める日(中小企業は公布後3年以内の政令で定める日までは努力義務)とされています。施行はまだ先の予定ですが、日々の労務管理を行う上で、パワーハラスメントの防止に向けた取組みを進めていきましょう。
(来月に続く)
人材確保施策と活用を検討したい助成金
企業規模、業種に関わらず、人材確保に悩まれている企業は多く、また、少子化による労働力人口の減少は避けられない状態にあることを前提とすれば、今後必要な人材を確保していくことはさらに難しくなっていくでしょう。
そこで今回は、人材確保施策とその際に活用できる助成金をとり上げます。
1.人材確保施策
人材確保に向けて、会社が行う施策にはさまざまなものがありますが、主なものとして処遇面の見直しと採用ルートの拡充が考えられます。
処遇面の見直しについては、初任給を引き上げるなど処遇の改善を行う、求人内容の情報を充実するなどして、多くの求職者の就職先の選択肢に含まれるようにすることがあります。
採用ルートの拡充については、従業員の紹介制度や、一度、退職した従業員を再雇用する制度(以下、「再雇用制度」という)を設けること等により、採用ルートを広げることがあります。このうち再雇用制度は、過去に自社で働いた経験がある者であるため、組織のことを理解している、業務経験があるため即戦力になりやすいといった利点があります。
2.再雇用を行う際に活用できる助成金
退職者の再雇用を行う際に活用できる助成金として、両立支援等助成金(再雇用者評価処遇コース)があります。この助成金は、育児・介護等を理由とした退職者が復職する際、従来の勤務経験が適切に評価され、配置・処遇が行われる再雇用制度を導入した上で、希望者を再雇用した事業主に対して助成されるものです。
退職者の要件として、妊娠、出産、育児、介護または配偶者の転勤等を理由として、再雇用先の事業主または関連事業主の事業所を退職した者であることが必要になります。また、離職期間を制限する場合、3年以上で設定することが必要で、再雇用の退職年齢は定年を下回る制度を設けていないことが必要になっています。
[支給額]
支給額は、以下のとおりとなります。
助成金の活用にあたっては、再雇用制度規程を作成しておくこと等の要件があります。
助成金の活用に関わらず、再雇用制度を設ける場合、退職時に再雇用を希望する旨の申出をしてもらう、求人を出すタイミングで希望者にその情報を知らせるなど流れを作っておく必要があります。制度の検討にあたって、お困りのことがございましたら当事務所までご連絡ください。
(次号に続く)
従業員の退職時に交付する退職証明書と解雇理由証明書の違い
このコーナーでは、人事労務管理で頻繁に問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。
総務部長:先日退職した従業員から、国民健康保険に切り替えるために「退職証明書」を発行して欲しいという依頼がありました。この退職証明書とはどのようなものですか。
社労士 :退職証明書とは、従業員が退職するときに、①使用期間、②業務の種類、③その事業における地位、④賃金、⑤退職の事由を記載の上、会社が証明し従業員に交付するものです。
総務部長:これまでそのような証明書を渡したことはありませんが、常に発行が必要なのでしょうか。
社労士 :従業員が請求したときには、遅滞なく交付することが労働基準法で義務付けられています。今回のように、国民健康保険に加入する日を確認するための資料として求められることがあります。請求されたときに交付が必要なものであり、最初から退職者全員に交付する必要はありません。
総務部長:安心しました。ちなみに証明書のひな型はありますか。
社労士 :任意の様式ですが、厚生労働省から「退職事由に係るモデル退職証明書」が出ていますので、参考にしてみてください。なお、会社が従業員を解雇したときに従業員から解雇の理由について証明書の請求があった場合は、解雇予告をした日から退職日までの間に、証明書を交付する必要があります。一般的にこれを「解雇理由証明書」と呼んでいます。
総務部長:従業員は解雇理由証明書により、解雇理由を確認できるということですね。
社労士 :そうですね。証明書を発行するときは、退職証明書・解雇理由証明書のいずれも、従業員が請求しない(証明書に記載を希望しない)事項は記載しないことになっています。
総務部長:なるほど、作成するときには注意します。
社労士 :退職証明書の活用事例として、転職活動のときに、求職先の会社で提出を求められることがあります。退職証明書の①使用期間、②業務の種類等から、これまでの実務経験を把握でき、⑤退職の事由では、前職をどのような理由で退職しているかを把握できますので、求職先の会社が提出を求めたりするのです。
総務部長:確かに弊社では履歴書と職務経歴書を提出してもらうことで確認をしていますが、あくまでも求職者の自己申告ですので、退職証明書を提出してもらうことも一つとして考えることができますね。今後の採用活動の参考にします。
(次号に続く)
確認が求められる育児休業の延長・再延長の申出理由
育児・介護休業法では、原則として子どもが1歳に達するまで育児休業が取得でき、その後、保育所等に入所できない場合に、子どもが1歳6ヶ月まで(再延長で2歳まで)延長することができるとされています。これに関連して、延長・再延長の申出において制度の趣旨に則った運用を求める通達が厚生労働省より発出されましたので、確認しておきます。
1.育児休業の延長・再延長の理由
育児休業を延長・再延長する理由は、雇用の継続のために特に必要と認められる場合に限られます。よって、例えば育児休業の延長を目的として、保育所等への入所の意思がないにも関わらず入所を申込み、その保育所等に入れなかったことを理由として育児休業の延長を従業員が申し出ることは、育児・介護休業法に基づく育児休業の制度趣旨に合致しているとは言えず、育児休業の延長の要件を満たさないとされています。
2.「保育所入所保留通知書」の内容の確認
保育所等の入所申込みを行い落選したときには、「保育所入所保留通知書」が申込みをした従業員に届きます。この際、第一次申込みで保育所等の内定を受けたにも関わらずこれを辞退し、第二次申込みで落選した場合には、自治体によって違いはあるものの「保育所入所保留通知書」にこうした事実が付記されることがあります。
こうした付記がある「保育所入所保留通知書」については、第一次申込みの内定辞退にやむを得ない理由(※)がない場合には、育児休業を延長する要件を満たさないこととなり、従業員は育児休業の延長の申出はできません。そのため、会社は従業員から適正な手続きが行われているかを確認する必要があります。
※「やむを得ない理由」とは、内定の辞退について申込み時点と内定した時点で住所や勤務場所等に変更があり、内定した保育所等に子どもを入所させることが困難であったこと等が該当します。
3.育児休業給付金への影響
育児休業中に支給される雇用保険の育児休業給付金は、やむを得ない理由により育児休業を延長・再延長するときに引き続き支給されるものであることから、2.のような内定辞退の旨が付記された「保育所入所保留通知書」が提出された場合、ハローワークでは保育所等の内定を辞退した理由について従業員に確認が行われます。そして、確認に基づき、やむを得ない理由がない場合には、育児休業給付金が支給されません。
なるべく長く育児休業を取得したいという従業員もいるかとは思いますが、入所の意思がないにも関わらず保育所の申込みを行うことは、待機児童の問題にも影響します。制度趣旨を理解し、会社として適切な対応をとるようにするのと共に、従業員にもあらかじめ意識付けをするようにしましょう。
(次号に続く)
介護・保育業界における導入に向けた取り組み
事業所の経営者の方々と話していると、こんな声をよく聞きます。「大切な取り組みであることはわかっているけども、ただでさえ人手不足なのにそのうえ、残業削減、有給休暇取得促進によって現場が回っていくのか、サービスの低下につながるのではないか」。初めての取り組みゆえに、このような心配はよくわかります。しかし、取り組まないことへのデメリット、取り組むことへのメリットを考えて判断していくことが大切なのではないでしょうか。業界を取りまく環境の変化への対応と、人材の確保(採用と定着)、今後の法人イメージなどについて、それぞれに影響を洗い出したうえで考えてみてはいかがでしょうか。まずは、出来ることからスタートすることが大切だと思います。
それでは、その取り組み方について、大まかなステップについて説明させていただきます。
(1) ステップ1
まずは、ワークライフバランスや働き方改革への取り組みについて、その目的を明確にして、それを社員に伝えていくことです。例えば、なぜワークライフバランスや働き方改革が必要なのか、なぜわが社はとり組むのか、どんなメリットがあるのか等をしっかり伝え、理解浸透を深めることが必要です。
例えば、ワークライフバランスを実現するための手段の一つである「ロボット・ICT導入」でも、重要なことは「なぜ導入するのか?」「導入して何を目指すのか?」など目的や目標を含めた「定義づけ」をあらかじめしっかりと行っておくことです。そのうえで導入後の「あるべき姿」を職員間で共有することです。さもないと「面倒だ」「邪魔だ」などの理由で、使用を拒絶されることもあります。ロボット・ICT導入に限らず、「導入の定義づけ」、「あるべき姿」を共有していき、それを実現する為の手段という位置づけで推進することがとても重要です。
(2) ステップ2
意識や風土の醸成から取り組みを始めることです。よく、こんな声を聴きます。育児介護と仕事の両立に向けて制度を整えたが実際には使ってもらえない、または、業務効率化に向けて従業員に「インカム」を持たせてコミュニケーションの円滑化をはかったが、実際にはあまり使用されない。これらは、「制度」から入った失敗例といえるのではないでしょうか。制度を導入して、取り組みを行ったつもりでいるのは上層部だけで、実際にはそのような制度を活用できる「風土」がないと制度は機能しません。言ってみれば、「上」からの指示でスタートしても、「やらされた感」的な印象で取り組む限りそれは長続きしません。社員がその目的と必要性をよく理解し、主体的に取り組めるような状況(組織風土)が必要なのです。
それでは、組織風土の醸成にはどのような取り組みが必要なのでしょうか。例えば、ある法人では「理念」の共通理解を促進するためにセミナーや研修、ワークショップなどを行い、さらに職員満足度調査を行ってアンケート調査やヒアリング、座談会などを行っている組織もあります。それらに共通している取り組みは、「一方通行ではないコミュニケーションの充実化」です。職場におけるコミュニケーションの充実化が最も重要であると言われる経営者や管理者の方々は非常に多いのですが、それを具体的な取り組みとして、どれだけの時間と人的パワーを捻出しているでしょうか?大事だとわかっていても、社員との面談も行えていないという職場も多いのではないかと思います。熱心に取り組む法人のなかには、毎月1回上司との面談を行い、管理者に向けては施設長や理事長とも定期的に面談する機会を設けているところもあります。なんとこの介護施設は延べで年間4000回の面談を設けているそうです。また別の法人では社員の意見に耳を傾け、その中で貴重な意見があれば、経営にも取り込むといった真摯な姿勢、また面談だけではなく、説明会・研修会・小グループでの懇談会などを通じて、社員全員の理解と共有化を推進しているところもあります。そのような取り組みを継続して行っていくことで、徐々に良好な風土が醸成されていき、その結果として、働き方改革やワークラーフバランスなどの「新しい取り組み」に対しても前向きな姿勢で「やってみよう」という雰囲気が生まれ、自主的な取り組みにつながっていくのではないかと思います。
・・・次回は引き続き、事業所の取り組み状況につぃてお伝えいたします。
7月に公表された「科学的介護」のポイントをおさえておきましょう
2019年7月16日「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」取りまとめ報告書が上梓
『「〇〇状態の要介護高齢者に、△△ケアを提供すれば、◎◎という効果が得られる」というような、“根拠に基づく介護サービス”が確立されれば、“自立支援に資するサービス提供”“介護現場の負担軽減(効率化)”等が実現できるだろう』──そのような期待のもとに現在、国で積極的に議論されている「科学的介護」。そんな折、先月の7月16日には「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」取りまとめ報告書(以下、「本報告書」と表記)が公表されました。本報告書では、介護に関するサービス・状態等を収集する新たなデータベース「CHASE(=Care, HeAlth Status & Events)」の 2020 年度本格運用開始を目指し、現場の負担も考慮しながら「CHASEにおいてどのようなデータを収集することが有効・有益なのか?」について議論を行ってきた結果がまとめられています。本情報を是非、事前に皆様にご認識いただきたく、今月のニュースレターでは、特に事業者に大きく関連してくるであろうポイントをピックアップし、皆様にご紹介してまいります。
「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」取りまとめ報告書の中身・ポイントとは
では、早速、中身に移ってまいりましょう。この場では大きく2点、即ち「ADLの評価指標」「認知症の評価指標」について確認を進めてまいりたいと思います。先ずはADLに関する情報集項目についてです。本テーマについて、本報告書の中では次のような文言が記載されています。
一方、ADL 維持等加算等で採用されている BI(Barthel Index=バーセル・インデックス)については、国際的にも確立した評価指標であり、既存の文献も数多くあることから、科学的検証には妥当な収集項目である最低限の ADL アセスメントツールとして用いることを基本とする。
上記を確認する限り、科学的介護を推進する上でのADLに関する評価指標としては「BI(Barthel Index)の活用が濃厚になる」と理解することが出来ると思われます。ちなみに、既に活用している等でご存じの方も数多くいらっしゃるかもしれませんが、BI(Barthel Index)の評価項目は下記の通りです。
【BI(Barthel Index)の評価指標】
※公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」より抜粋
続いて認知症に関する収集項目を見てまいりましょう。上記ADLの場合と同様、認知症については下記内容が本報告書に記載されています。
・「認知症」領域における介護事業所からの収集項目は、診断からケアの実施とその評価を一連の流れとして捉える必要がある。介護現場において、ケアニーズ等も含めて認知症の進行度を把握し、診断や状態別に適切なケアの内容を検討し実施することが重要であり、そのためには、認知症ケアの効果および認知症の身体的ケア効果を判定する項目の収集が必要である。
・認知症のスクリーニングに必要な項目として、認知症の既往歴(新規診断を含む。)、 認知症ケアに活かす項目として、認知症の周辺症状に係る指標であるDBD13、意欲の指標である Vitality Index については、基本的な項目とするべきである。ただし、DBD13とVitality Index については、並行して、項目の簡素化等、介護現場か らの収集のフィージビリティ等についてモデル事業等を通じた検証が必要である。
ADLと同様に考えた場合、“DBD13(=認知症行動障害尺度)”及び“Vitality Index(バイタリティ・インデックス)”が今後、認知症に関する評価指標として重要になってくることは間違いないと言えそうです。ちなみに両指標の概要は下記の通りです。
【DBD13の評価指標】
※平成25年度「認知症の早期診断、早期対応につながる初期集中支援サービスモデルの開発に関する調査研究事業」資料より抜粋
【Vitality Index(バイタリティ・インデックス)の評価指標】
※一般社団法人日本老年医学会ホームページより抜粋
国策の“風”を読み取り、早め早めの準備を
以上、「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」取りまとめ報告書より特に皆様にご認識いただきたいポイントを2点、ピックアップしてお伝えさせていただきました。前述の通り、本テーマについては2020年度から本格運用を実施し、その後、全国の事業所に対して情報提供が求められてくるのは2021年度から、と計画されています。「データ提供は決して義務ではなくあくまで任意」というのが現状のスタンスのようですが、とはいえ、次の報酬改定のタイミングにおいてはデータ提供を行う事業所に対して新たな加算の創設の検討を進める等、国としては「“科学的介護”の精度を高めていくためにも是非、データ収集に前向きに協力してほしい」というスタンスであることは間違いないと思われます。事業者としては上記内容を踏まえつつ、「これらの施策に対し、自社としてどう適応していくか?」について事前に頭を働かせておくと同時に、場合によっては上記に示したような各種指標について早めに自社の運営に取り込み、慣れておいた方が良い、という判断も必要かもしれません。是非、本情報を有効に活用していただければ幸いです。私たちも今後、引き続き、本テーマを含め、より有益な情報や事例を入手出来次第、皆様に向けて発信してまいります。
※紙幅の都合上、今回はADLと認知症の指標についてのみ抜粋して採り上げましたが、本報告書の中ではそれ以外にも「口腔」「栄養」等に対する評価について言及が為されています。より詳細の情報をお知りになりたい方は是非、下記よりご確認下さいませ。
「科学的裏付けに基づく介護に係る検討会」取りまとめ報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/12301000/000531128.pdf
(来月に続く)
厚労省は先月末の29日、
「2019 年度介護報酬改定に関する Q&A(Vol.3)」
を公表しましたね。
目を通しておいた方が良い方もいらっしゃるかもしれません。
関心をお持ちの皆様は、下記をご確認下さいませ。
https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2019/082918212670/ksvol738.pdf
職場のハラスメント対策が、新たな段階に入る。
パワーハラスメントの防止措置を義務付ける法律ができ、早ければ大企業には2020年4月から、
中小企業では22年4月から適用となる。
ハラスメントのうち、性的な嫌がらせのセクハラや妊娠・出産した女性へのマタニティーハラスメント対策は、すでに義務付けられている。だが、パワハラは企業の自主性に委ねられてきた。法制化は大きな一歩だ。
パワハラは働く人の人格、尊厳を傷つける。心身の不調を招き、休職や退職、自殺にまで至ってしまうこともある。
全国の労働相談のうち、パワハラを含む「いじめ・嫌がらせ」の件数は18年度、8万3千件だった。7年連続でトップを占める。
政府は年内をめどに、企業がどう取り組むべきかの指針をつくる。どこまでが適切な指導で、どこからがパワハラなのか。
線引きに迷って、職場が萎縮してしまってはいけない。分かりやすく、具体的な指針にしてほしい。
中小企業を中心に、ノウハウが乏しく、とまどう声もある。セミナーの実施など手厚い支援が必要だろう。
パワハラのない職場は、社員が安心して働くことができる職場だ。生産性の向上や人材確保にもプラスに働くだろう。
パワハラの温床になりそうな風通しの悪さ、過度の長時間労働やノルマはないだろうか。企業は攻めの姿勢で、点検と対策を急いでほしい。
国際労働機関(ILO)は6月の総会で、仕事上の暴力やハラスメントを禁止する条約を採択した。一方、日本の新制度は、禁止にまではいっていない。
国際基準に近づくうえでも、まずは防止措置の実効性を高めていかなければならない。セクハラ、パワハラ、
といった縦割りではなく、総合的な視点で対策を考えることも課題となる。なにより「ハラスメントは許さない」
という意識を、社会全体で共有することが大切になる。
2019年9月2日 日経電子版より
1、 働き方改革とワークライフバランス
みなさん、ご承知のとおり来年以降の法律改正の目玉となるであろう「働き方改革」関連法案。来年から、今まで特に規制がなかった労働法の分野に関して、一段と厳しい規制が法律となり導入されます。従来は当たり前であった「働き方」が、これからは、規制の対象になる時代が訪れようとしています。それでは、国が考えている働き方改革の本質とはいったいどのようなものなのでしょうか?それは「職場で働く従業員全員のワークライフバランスを考えながら、働きやすく、働きがいのある職場作りと生産性の向上を進めること」です。つまり、働きやすい職場や働きがいのある職場で生産性を向上させる為にも「ワークライフバランス」を進めていくことが必要不可欠なのであります。
2、ワークライフバランスの意義
従来、「仕事の成果」と「社員の私生活」とは、全く別物という発想で、どちらかを得るには、どちらかを犠牲にするしかないと考えられていました。しかしながら
これからのワークラーフバランスの考え方には、どちらも大切にすることが両者とって有益に働き、相乗効果を生むことが分ってきました。例えば、10時間の使い方として、バランスをとって「仕事5時間+私生活5時間」で過ごす方法があります。またすこしゆとりをもって「仕事4時間+私生活6時間」といった時間配分が良いように思われがちですが、それは誤解であり間違いです。なぜならこれは単にそれぞれの時間的な使い方のみにかたより、双方の相乗効果という視点では考えていないからです。相乗効果が生まれた状態とは、今まで10時間で100の仕事を行っていたが、同じ仕事を8時間で行った状態のことで、まさにそれは、「生産性向上」の取り組みにつながるのです。
また、私生活の充実は、精神的にもまた肉体的にもゆとりにつながり、それが仕事へのモチベーションにもつながります。さらに、私生活の充実が図れるような福利厚生制度などで会社からの後押しがあれば、それを活用しやすくなりますし、何より、会社に対する感謝の念や忠誠心が高まることで、結果的に職場における定着率も上がるということにつながります。
3、ワークライフバランスのメリット
それではここで、ワークワーフバランスの推進を図ることで、どのようなメリットがあるのか、当事者ごとで具体的に整理してみましょう。
● 会社
生産性の向上により人材の効率的活用が可能になり、結果として収益面のメリットが実現し、持続的な成長を可能にします。また、働きやすさと働きがいのある職場作りによる優秀な人材確保・定着さらには地域における法人のイメージが向上します。
●社員
ワークライフバランスの実現による人生の充実(心身の健康、家族との時間・趣味・自己研鑽・社会活動など)を図ることが出来、結果として、人間力の向上につながります。家族:家族時間確保により幸福度がアップし、社員の家事・育児への参画により配偶者も仕事や趣味などの人生の充実や世帯収入のアップにつながります。
●取引先
ワークラーフバランスを配慮した取引をすることにより、働き方改革の風潮の波及効果(取り組みのきっかけ作りなど)が見込まれます。
●お客様、ご利用者
働き方改革により生産性向上や多様な人材の活躍が実現すると、お客様が受給で
きるサービスの品質が向上します
以上がワークライフバランスの主なメリットなのですが、それがわかっていても、なかなか取り組みが進まないのが現状といった事業所も多いのではないかと思います。
次回は、介護業界事業所の現状について、お伝えしていきたいと思います。
福祉施設でみられる人事労務Q&A
『職員が持ち帰り残業をしているときのリスクと対応策』
Q:
先日、一部の職員が職員個人の判断で必要な資料を持ち帰って、自宅で作業をしているという話を聞きました。現時点でどのようなリスクが考えられるでしょうか。また、どのような対策を検討したらよいのでしょうか?
A:
明確な指示なく職員個人が判断して行った持ち帰り残業であっても、労働時間として判断され、それに応じた賃金を支払わなければならない可能性があります。また、利用者の個人情報をはじめとした機微情報を外部に持ち出している可能性があります。持ち出している場合は、紛失や流出等による情報漏えいのリスクを負うこととなり、施設が損害賠償の責任を負うことも考えられます。
詳細解説:
持ち帰り残業によって、施設には以下のようなリスクが考えられます。
1.未払い賃金の発生リスク
労働時間は、原則として施設の指揮命令に基づいて行われた業務の時間を指しますが、明確な指示がないものであっても黙示の指示により行われた業務についても、労働時間とみなされることがあります。
また、業務が行われた場所は施設内に限らず、自宅であっても労働時間と判断されるケースがあります。労働時間であれば当然に時間相当分の賃金を支払う義務が生じるため、持ち帰り残業を黙認しているような場合、時間外手当等の賃金の未払いリスクが発生する可能性があります。
2.情報漏えいのリスク
自宅で業務を行うために、利用者の機微な情報等を紙媒体やデジタルデータで持ち出すことがあるでしょう。このとき、これらの情報を紛失したり、流出するリスクがあります。仮に職員個人の判断で情報を持ち帰り、その際に紛失し、損害が出たとしても、施設の管理責任が問われ施設が損害賠償責任を負うことが考えられます。
いずれにしても、指示をしていないから、タイムカードに記録されていないから等の理由で職員が行う持ち帰り残業を放置することは避けるべきであり、施設にも大きなリスクが伴うことを認識し、管理を徹底することが必要です。
まずは、持ち帰り残業でどのようなことをしているのか、持ち帰り残業をしなければならない理由はあるのか、といったことを確認した上で、禁止するならば就業規則に定める等により周知するようにしましょう。
持ち帰り残業の必要があるならば、許可申請や、持ち出してもよい情報の範囲や持ち出し方法等を定めることが必要です。
(来月に続く)