介護
2026年6月施行予定の介護報酬改定は、「処遇改善加算の抜本的強化」を中心とした異例の期中改定として位置付けられています。人材不足が深刻化する中で、単なる賃上げではなく「人材確保と定着を両立させる制度」へと大きく進化しています。
1.最大月額1.9万円の賃上げインパクト
今回の改定では、介護従事者全体に対して月額1万円のベースアップを基本とし、生産性向上等の取り組みに応じて最大1.9万円まで引き上げる設計となっています。
これは従来の「一部職種・一部配分」から脱却し、業界全体の底上げを狙ったものです。特に重要なのは、「加算額=賃上げ原資として確実に充当」が原則化された点であり、経営判断の自由度はむしろ制限されています。
2.対象の拡大:介護職員から“介護従事者”へ
最大の制度変更は、対象範囲の拡大です。
従来の「介護職員中心」から、事務職や補助職も含む介護従事者全体へと広がりました。
さらに、これまで対象外だった
・居宅介護支援
・訪問看護
・訪問リハビリ
などにも加算が新設され、サービス横断型の処遇改善制度へと進化しています。
これは、現場のチームケアの実態に即した制度設計と言えます。
3.生産性向上との連動が鍵
今回の改定で最も重要なキーワードが「生産性向上」です。
ICT導入や業務効率化を進めた事業所には、
・訪問介護:最大28.7%
・通所介護:最大12%
といった高い加算率が適用されます。
つまり今後は、
「人件費を上げるために生産性を上げる」構造が制度として明確化されました。
これは裏を返せば、
・ICT未導入
・アナログ運営
・非効率なシフト
のままでは、加算の取りこぼしが発生することを意味します。
4.2027年改定への“布石”としての位置付け
今回の改定は単発ではなく、2027年度の本格改定への準備段階とされています。
したがって、短期的な対応ではなく、
・人事制度
・評価制度
・賃金体系
を含めた「構造改革」が求められます。
5.社労士視点:今後の実務対応のポイント
介護事業所が取るべき実務対応は以下の5点です。
① 配分ルールの明確化
・基本給への反映か
・手当配分か
・賞与対応か
→「見える賃上げ」にしなければ離職防止効果は薄い
② キャリアパス要件の再設計
処遇改善加算は引き続き
・キャリアパス
・研修制度
・昇給ルール
が必須です。
→ 名ばかり制度では監査リスクあり
③ ICT・DX投資の意思決定
・見守り機器
・記録システム
・ケアプラン連携
→ 加算取得の前提条件化
④ 全職種型人事制度への移行
対象拡大により、
「介護職中心の制度」は限界
→ 事務・リハ・看護を含めた統合設計が必要
⑤ 採用戦略との連動
「処遇改善=採用ツール」として活用
→ 求人票・LPでの訴求が重要
6.まとめ:処遇改善は“経営改革ツール”
2026年改定の本質は、単なる賃上げではありません。
✔ 人材確保
✔ 生産性向上
✔ 組織改革
これらを同時に進めるための政策です。
したがって今後は、
「加算を取るかどうか」ではなく
「どう活かして経営を変えるか」
が問われる時代になります。
新年度の介護報酬の臨時改定で拡充する「処遇改善加算」について、厚生労働省は19日、申請に欠かせない計画書の記入方法を解説する動画をYouTubeの公式チャンネルに投稿した。
動画は約9分。全4シートからなるエクセル様式の具体的な入力手順を解説している。まずは「基本情報入力シート」から、4・5月分の個表、6月以降分の個表と続き、最後に総括表をまとめるプロセスが提示されている。
フォーマットは、必須の入力項目が自動で色付けされる仕組み。記載漏れや要件の未達があれば、濃いオレンジ色のセルに「×」が表示される仕様となっている。
今回留意すべきことの1つは、対象月によるシートの使い分けだ。6月から臨時改定で処遇改善加算が拡充されるため、4・5月分(別紙様式2-2)と6月以降分(別紙様式2-3)で記入先が分かれている
人工知能(AI)を活用し、介護に関する人手不足問題を打破する中小企業がある。これまで膨大な人手が必要だった介護支援計画の作成や事務処理にかかる作業をAIに代替させることで、新しい施設の開業や現場サービスの向上につなげる考えだ。
関西中心に100以上の介護付き有料老人ホームを運営するチャーム・ケア・コーポレーションは1月から、半年ごとに更新する入所者の介護スケジュールの原案を生成AIが作成するシステムを試験導入した。
新規開業に人材
従来はケアマネジャー(介護支援専門員)が介護記録や睡眠データ、本人・家族・かかりつけ医師へのヒアリングをもとにケアプランを手作業で策定していた。新システムでは、人は原案の確認や修正を担う。1人あたり最大4時間ほど要していたプラン作成は2時間程度まで短縮した。
1人のケアマネジャーがプラン作成を担当する入所者数は、現在の約60人から100人程度まで増やせるとみる。6月末には全施設で本格導入を予定する。遠藤圭太・経営企画室長は「ケアマネジャーは業界全体で不足感が強い。省人化できれば質の高い人材を吟味して採用できる」と語る。
2026年6月期の売上高は前期比4%増の485億円、営業利益は16%増の44億円を見込む。既存施設の省人化は利益率を高め、新規開業の施設に人を回すなど成長も追い求めやすくなる。
現在はケアマネジャーごとにプランの作成手法にばらつきがあるものの、大野世光・介護DX推進室長は「AIを使えば質を標準化できる」とみる。将来はAIが過去の記録を分析し、入所者の行動変化を介護職員に伝えるような機能を導入する構想を持つ。
高齢化が進む日本では介護の需要が急増している。厚生労働省によると、要介護(要支援)認定者数は24年3月末時点で初めて700万人を突破した。過去20年の間に約300万人も増え、介護給付によって国の財政負担が増している。
同時に介護関連の人手不足は一段と進む恐れがある。厚労省は26年度に必要な介護職員は約240万人とみる。40年度には約272万人に跳ね上がる見通しだ。待遇面や働きやすさなどの問題から、人手の確保は年々厳しくなっている。
介護関係職種の有効求人倍率は24年度に4.08倍。この指標は1倍を超えると求人の数が多いことを示し、全職業の倍率は同年度に1.14倍だった。介護の求人数が突出して高い現状を映す。人手が極端に足りない業界だからこそ、AIを賢く導入し現場サービスを高める知恵が欠かせない。
九州で介護付き有料老人ホームや訪問介護事業などを手掛ける、あおぞらケアグループ(鹿児島市)は25年11月、介護業界をAIで支援するケアチャット(大阪市)と資本・業務提携した。
介護施設で負担が重い作業の一つは、ファクスで届く利用者ごとの書類の整理だ。利用者ごとに介護器具や服薬指導など、最大60種類に及ぶ異なる書類を受け取らなければならない。
約800人の利用者がいる、あおぞらケアのある施設では、これまで月1万枚程度の書類をファクスで受信。介護職員が書類を手作業で仕分けするのに月約190時間かかっていた。
ファクスで受信した書類をAIが自動で解析・整理するシステムを導入し、事務処理時間を約9割削減した。ケアチャットの城戸勇人社長は「AIで生まれた時間を利用者のサービス改善につなげなければいけない」と力を込める。
あおぞらケアの大牟禮康佑代表は「現場の残業はほとんどなくなった。介護人材の不足を防ぐためにも、やりがいと経済的豊かさの両立が欠かせない」と話す。実業家の堀江貴文氏らと組み、介護業界で生成AIをどう使うか教えるオンラインスクールも25年から運営している。
意識改革に時間
ロボットを活用し、介護現場で専門人材不足に対応する中小もある。
精密部品メーカーのサンコール(京都市)は歩行学習支援ロボットを開発した。足に装着するロボットが人の歩行を感知し、タブレットで事前に設定した最適な足の動かし方に導くよう設計した。歩行に障害を抱える人がリハビリテーションなどで使っており、介護施設や病院への納入を進めている。
介護施設でリハビリにつきそう理学療法士らの専門人材は地方に少ない傾向がある。こうした現状を踏まえ、遠隔操作型のロボットを試験している。理学療法士が離れたところからロボットを設定し、標準的な介護職員が歩行を支援できる環境整備を目指す。個人により適合するようAIの活用を視野に入れる。
もっとも、介護の事務と異なり現場にAIが浸透するにはなお時間がかかるとの見方もある。
チャームケアは24年に携帯型エコーを全施設で導入。AIがエコー画像を深層学習し、ぼうこうの大きさを計測して尿のたまり具合を判定したり、直腸での便の位置を知らせて予期せぬ排せつを防いだりする。しかし「エコーは医療従事者が使う」との意識が現場での普及を阻み、導入から1年半がたっても使用率は6割弱にとどまる。
介護業界に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの丹羽麻一子氏は「AIを積極的に導入することは業務の効率化に加え、採用面でも若年層へのアピールにつながる」と話す。そのうえで「現場の抵抗感を軽減するため、業務フローを踏まえて導入を進める必要がある」とみる。(3月18日 日本経済新聞)
介護事業所、保育園、クリニックの経営者から、近年特に増えている労務相談があります。それが「問題社員への対応」です。
例えば次のようなケースです。
-
何度注意しても遅刻や欠勤を繰り返す
-
職場の人間関係を悪化させる
-
利用者や患者への対応が不適切
-
指導しても態度が改善しない
人手不足の業界では「辞められると困る」という理由で、問題社員を放置してしまうケースも少なくありません。しかし実務経験上、問題社員を放置すると職場環境が悪化し、優秀な職員から先に辞めていくという現象が起こります。
労働政策を所管する厚生労働省も、職場環境改善やハラスメント対策を重要な政策課題として掲げています。つまり、問題社員への適切な対応は、これからの組織運営において避けて通れないテーマなのです。
本稿では、介護・保育・クリニックなど医療福祉分野の現場を支援してきた社労士の視点から、問題社員への適切な対応方法を解説します。
問題社員とはどのような職員か
まず整理しておきたいのは、「問題社員」とは必ずしも能力が低い職員だけではないということです。実務上、問題社員と呼ばれるケースにはいくつかのタイプがあります。
第一に、勤務態度に問題があるケースです。遅刻や欠勤を繰り返す、指示に従わないなど、基本的な勤務姿勢に問題がある職員です。
第二に、職場の人間関係を悪化させるケースです。陰口や対立を生み、チームワークを乱すタイプです。介護・保育・医療の現場はチームワークが重要なため、この問題は非常に深刻です。
第三に、業務遂行能力に課題があるケースです。ミスが多い、指導しても改善しないなどのケースです。
このような職員がいる場合、経営者や管理職は早期に対応を検討する必要があります。
問題社員を放置するリスク
問題社員を放置すると、次のようなリスクが発生します。
まず職場のモラルが低下します。「あの人は注意されないのに、なぜ自分だけ」という不公平感が生まれるためです。
次に、優秀な職員の離職につながります。真面目に働いている職員ほど、職場環境の悪化に敏感です。
さらに、利用者・患者・保護者へのサービス品質が低下する可能性があります。介護・保育・医療の分野では、サービス品質の低下はそのまま経営リスクにつながります。
つまり、問題社員への対応は単なる人事問題ではなく、経営問題なのです。
問題社員への対応で重要な3つの原則
問題社員への対応には、感情的な判断ではなく、法的リスクを踏まえた手順が必要です。
① 事実を記録する
最も重要なのは、問題行動を客観的に記録することです。
例えば
-
遅刻の回数
-
業務ミスの内容
-
指導内容
-
面談の記録
などを文書として残しておく必要があります。
記録がない場合、後にトラブルになった際に会社側が不利になる可能性があります。
② 指導と改善機会を与える
いきなり解雇などの厳しい処分を行うことは、労務リスクが高くなります。
まずは
-
口頭指導
-
文書指導
-
改善計画
という段階的対応が重要です。
このプロセスを踏むことで、職員本人にも改善の機会を与えることができます。
③ 就業規則に基づく対応
懲戒処分や退職勧奨などを行う場合は、就業規則の規定に基づく必要があります。
例えば
-
懲戒規定
-
指導規定
-
ハラスメント規定
などです。
就業規則が整備されていない場合、適切な対応が難しくなるため注意が必要です。
【事例】問題社員対応で職場環境が改善したケース
ある介護事業所では、遅刻や勤務態度に問題がある職員がいました。
当初は人手不足のため、注意のみで対応していました。しかし、次第に職場の雰囲気が悪化し、複数の職員が退職を検討する状況になりました。
そこで管理者と社労士が連携し、
-
指導記録の作成
-
改善面談
-
文書による指導
を行いました。
結果として、その職員は改善が見られなかったため退職となりましたが、その後職場環境は大きく改善しました。
小規模事業所ほどルールが重要
介護事業所やクリニック、保育園は比較的小規模な組織であることが多く、経営者と職員の距離が近いという特徴があります。
そのため、感情的な判断や個別対応が増えやすい傾向があります。
しかし、小規模組織ほど
-
ルール
-
記録
-
手続き
が重要になります。
これらが整備されていれば、トラブルを未然に防ぐことができます。
社労士としての実務的アドバイス
問題社員への対応で最も多い失敗は、次の2つです。
一つは「我慢しすぎる」ことです。問題を先送りすると、状況は悪化します。
もう一つは「感情的に対応する」ことです。怒りに任せて発言してしまうと、後で労務トラブルになる可能性があります。
重要なのは、
冷静に、段階的に、記録を残しながら対応すること
です。
まとめ
介護、保育、クリニックなどの医療福祉分野では、人材不足の影響もあり、問題社員への対応に悩む経営者が増えています。
しかし、問題社員を放置すると
-
職場環境の悪化
-
優秀な職員の離職
-
サービス品質の低下
につながる可能性があります。
そのため、
-
問題行動の記録
-
段階的指導
-
就業規則に基づく対応
という基本的な対応を行うことが重要です。
もし問題社員への対応で悩んでいる場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。適切な対応を行うことで、職場環境を守り、組織の安定につなげることができます。
スポットワークの仲介を手掛けるタイミーは6日、介護分野の事業の最新動向や今後の展望をメディア向けに開示した。
介護に関する資格を持つ登録ワーカー数は、昨年10月時点で約51.3万人と50万人を超えた。
タイミーに掲載された介護分野のスポットワークの募集人数は、同じく昨年10月時点で前年同月比2.3倍。切実な需要の拡大を背景に、求人側と求職側の双方でユーザーが増えている状況が改めて浮き彫りになった。
タイミー全体の募集人数に占める介護分野の割合はまだ5%。それでも物流、飲食、小売、ホテルに次ぐ5番目で、同社は主力分野の1つに成長したと位置付けた。現状、募集人数の伸び幅は介護分野が最も大きいという。
タイミー執行役員の山岡和人氏は今後について、介護分野での活用は「必ず増えていく」との認識を示した。
そのうえで、「業界の関係者や有識者などの意見を参考にしながら、安心・安全の面でより充実した環境づくりを推進したい」と述べた。
タイミーの調査結果によると、介護に関する資格を持ちながら別の分野で働いている「潜在有資格者」のうち、4割以上がスポットワークを機に「介護分野に就業するハードルが下がった」と答えた。また、6割以上が「よい職場に巡り合ったら長期就業したい」と回答している。この日の記者説明会に登壇した淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授は、
「介護に関心を持ってくれる人を増やしたり、長期採用につなげるきっかけにできたりと、スポットワークは人材確保のチャネルの1つとして期待できる」
と指摘。「同時にサービスの質や安全性の確保が欠かせない。スポットワークを受け入れる事業所・施設の姿勢、体制づくりも問われる」と呼びかけた。
介護事業所の経営者・管理者の方から、次のようなご相談をよくいただきます。
「職員が自主的に始業時間より30分早く出勤しています。本人は“自主的です”と言っていますが、その時間分の時給は支払う必要がありますか?」
結論から申し上げます。
事業所がその勤務を黙認・容認している場合は、原則として賃金支払い義務が生じます。
本コラムでは、介護専門社労士の立場から、介護現場に特有の実務リスクと具体的な対応策を解説します。
1.「自主的出勤」でも労働時間になるケースとは?
労働時間の考え方は、労働基準法に基づき判断されます。
ポイントは、
「使用者の指揮命令下にある時間」かどうか
です。
■ よくある介護現場のケース
例えば次のような行為は要注意です。
-
申し送りノートの確認
-
利用者情報のチェック
-
夜勤者からの引継ぎ対応
-
早朝の排泄・離床介助
-
ナースコール対応
これらは「業務そのもの」です。
たとえ本人が「自主的」と言っていても、
事業所がそれを知っていて止めていない場合、
👉 実質的に労働時間と判断される可能性が高い
のです。
2.介護事業所で未払い賃金が発生しやすい理由
介護業界は特に未払い残業リスクが高い業界です。
理由は以下の通りです。
① シフト制の曖昧運用
-
早番が実質「7:30開始」になっている
-
夜勤明けの申し送りが長引く
-
管理者が暗黙に早出を期待している
② 「善意文化」の存在
介護職員は責任感が強く、
「利用者様のために」
「申し送りをしっかりしたい」
という気持ちで早く来るケースが多いです。
しかし、善意は法的リスクを消してくれません。
3.支払い義務が発生する具体的な判断基準
以下に該当すると、賃金支払い義務が発生する可能性が高いです。
| 状況 | 支払い義務 |
|---|---|
| 業務をしている | ほぼ必要 |
| 管理者が知っている | 必要になる可能性高い |
| 業務指示が暗黙にある | 必要 |
| 完全に私的行為(休憩室で読書) | 不要 |
重要なのは、
「事業所としてコントロールできる状態にあったか」
です。
4.未払い賃金になった場合のリスク
未払い賃金は2年(※将来的には3年)遡って請求される可能性があります。
例えば、
-
毎日30分
-
月20日勤務
-
時給1,200円
の場合、
月12,000円 × 24か月 = 288,000円
これが職員10名なら約288万円。
さらに、
-
遅延損害金
-
付加金(裁判の場合)
-
労基署是正勧告
-
介護事業所の評判低下
という経営リスクも生じます。
5.介護事業所が取るべき実務対応策
① 始業前業務を明確に禁止する
就業規則に
「会社の許可なく始業前に業務を行ってはならない」
と明文化することが重要です。
② タイムカード打刻ルールの徹底
-
打刻=労働開始とする
-
始業5分前まで打刻不可設定
-
ICカード・勤怠システムの活用
③ 業務設計の見直し
そもそも早く来なければ回らない体制なら、
-
早番時間を前倒し
-
申し送り時間を正式労働時間に組み込む
-
人員配置を再設計
といった対応が必要です。
6.「支払わない」選択をする場合の条件
どうしても支払わない運用をしたい場合は、
✔ 明確な業務禁止命令
✔ 周知徹底(書面通知)
✔ 違反時の指導記録
が必要です。
それでも、実態として業務が行われていれば否認は難しいのが実務です。
7.介護専門社労士からの実務アドバイス
私が関与した特別養護老人ホームでは、
「自主的早出」が常態化していました。
調査すると、
-
申し送りが勤務時間内に終わらない
-
日勤者が早く来ないと不安
-
管理者が暗黙に期待
という構造問題がありました。
そこで、
-
申し送り時間をシフト内に組み込み
-
早出手当を制度化
-
勤怠ルールを再設計
した結果、未払いリスクを解消し、職員満足度も向上しました。
8.まとめ|自主的出勤=無料ではない
結論
業務をしている限り、原則として賃金は発生します。
介護事業所経営において重要なのは、
「払う・払わない」の議論ではなく、
👉 そもそも発生させない仕組みづくり
です。
介護事業所の労務リスクは“構造問題”
自主的早出問題は、
-
人員不足
-
シフト設計不備
-
申し送り文化
-
管理職の曖昧指示
という構造課題の表れです。
もし、
-
早出が常態化している
-
勤怠が形骸化している
-
残業申請が機能していない
という場合は、放置しないことを強くお勧めします。
介護事業所の未払い残業対策は専門家へ
介護業界特有の
-
処遇改善加算
-
人員配置基準
-
シフト設計
-
夜勤体制
まで踏まえた労務設計が必要です。
介護専門社労士として、
✔ 未払い残業診断
✔ 勤怠制度再設計
✔ 就業規則整備
✔ 管理者研修
を通じ、経営リスクの見える化を支援しています。
「自主的だから大丈夫」
この思い込みが、数百万円のリスクになる前に。
早めの見直しが、事業所と職員双方を守ります。
ぜひ一度、自事業所の勤怠実態を点検してみてください。
福祉医療機構(WAM)は20日、特別養護老人ホームの2024年度決算に基づく経営状況を明らかにする調査レポートを新たに公表した。
2024年度は運営コストの増加などを背景に赤字施設の割合が上昇した。
従来型は前年度から3.1ポイント増の45.2%、ユニット型は同0.4ポイント増の31.5%。特養の経営状況が一段と厳しくなっている実態が改めて浮き彫りになった。

WAMは今回の調査レポートで、2024年度の介護報酬改定の影響などで特養の収益は増加したものの、運営コストがそれを上回って上昇していると指摘。長期化する物価高騰や介護職の賃上げなどに伴う費用の増加ペースに、収益の増加が追いついていない状況が確認できると報告した。
収益構造をみると、黒字施設と赤字施設とでは利用率や加算の算定率などに差がある。
赤字施設は利用者の確保に苦戦しているうえ、各種加算の算定率も相対的に低い傾向にある。黒字施設はその逆。利用者を着実に確保しつつ、協力医療機関連携加算や看取り介護加算の上位区分などを積極的に算定し、利用者単価を高めている。
このほか、施設の定員規模による傾向も洗い出されている。WAMはレポートで、「小規模の施設は特に経営が厳しいことが確認できた」と指摘した。
この調査は、WAMが融資先の特養を対象に実施したもの。今回は全国の5834施設の2024年度決算などを分析した。
― 介護専門社労士が語る「辞めない組織」の設計図 ―
介護事業所の経営者から、最も多くいただく相談の一つがこれです。
「処遇改善もしている。研修もやっている。それでも人が辞めるのはなぜか?」
この問いに対する私の答えは明確です。
人が辞める本当の理由は、“給与の額”ではなく“将来の不透明さ”にある。
その鍵を握るのが、**人事制度(キャリアパス制度)**です。
介護業界における人材定着の現実
制度設計を行う厚生労働省は、処遇改善加算の要件としてキャリアパスの整備を求めています。
しかし、多くの事業所では「加算取得のために作った制度」がそのまま眠っています。
形式上はある。
しかし、機能していない。
この状態では、人材定着にはつながりません。
なぜキャリアパス制度が人材定着に直結するのか?
人が辞める理由の上位は常に次の3つです。
-
将来が見えない
-
評価が不透明
-
成長実感がない
キャリアパス制度は、この3つを同時に解決できる仕組みです。
① 将来が見える
「3年後にどんな役割になり、どれだけ給与が上がるか」が明示されている。
② 評価が透明
感覚評価ではなく、役割基準で判断される。
③ 成長が実感できる
昇格=責任と報酬の増加が明確。
【具体例】制度が機能していなかった特養のケース
ある特別養護老人ホームでは、離職率が18%。
処遇改善加算は取得済みでしたが、問題はここにありました。
-
主任と一般職の役割が曖昧
-
給与差が月1万円程度
-
昇格基準が不透明
結果、若手はこう感じていました。
「頑張っても変わらない」
そこで実施したのが、
-
役割等級の再設計
-
昇格要件の数値化
-
面談制度の導入
1年後、離職率は11%まで改善。
特に入社3年未満の離職が減少しました。
キャリアパス制度がない組織で起きること
① ベテラン依存が進む
② 中堅が育たない
③ 管理職が疲弊する
これは“人材不足”ではなく、制度不足です。
「賃上げ=定着」ではない理由
厚生労働省の政策により、処遇改善は今後も続きます。
しかし、単純な賃上げは一時的効果しかありません。
なぜなら、
給与は「不満の解消」にはなるが、「動機づけ」にはならない
からです。
動機づけを生むのは、
-
承認
-
成長
-
役割の拡大
つまりキャリア設計です。
定着する事業所のキャリアパス設計3原則
1. 役割基準で等級を作る
年功ではなく「何を担うか」で区分する。
2. 昇格基準を数値化する
例:
-
事故報告書の質
-
後輩指導実績
-
加算取得への貢献度
3. 面談を制度化する
年2回の評価面談を必須化。
制度は“紙”ではなく“運用”で価値が決まります。
離職率1%改善の経営効果
職員80名の法人で、平均採用コスト40万円と仮定。
離職率15% → 14%
削減効果:40万円
さらに教育コスト・残業代を含めると、実質100万円以上の改善になることも。
キャリアパス制度は、コストではなく投資です。
2026年以降の介護経営で求められる視点
制度改正の流れは明確です。
-
加算要件の高度化
-
生産性向上の義務化
-
組織マネジメント重視
つまり、
「制度を整備している事業所だけが評価される時代」
に入っています。
よくある誤解
□ 制度を作ると硬直化する
□ 小規模事業所には不要
□ 管理が大変になる
実際は逆です。
制度がない方が、
属人化し、トラブルが増え、離職が進みます。
介護専門社労士としての本音
人が辞める理由を「本人の問題」にしている限り、改善はしません。
辞めるのは、
未来が描けないからです。
キャリアパス制度は、
-
人材定着
-
生産性向上
-
人件費率適正化
を同時に実現できる経営ツールです。
もし、こんな不安があれば
-
キャリアパスはあるが機能していない
-
若手が3年以内に辞める
-
管理職候補が育たない
一度、制度の設計を見直す時期かもしれません。
介護専門社労士として、
人事制度診断・キャリアパス再設計支援を行っています。
制度は作ることが目的ではありません。
“辞めない組織”を作ることが目的です。
2026年以降も選ばれる介護事業所になるために。
いまこそ、人事制度を経営戦略として見直してみてはいかがでしょうか。
Q 当院は始業8時30分・終業18時30分(休憩2時間)で、1日の所定労働時間が8時間です。先月、私用で1時間遅刻した職員がいます。その日に1時間30分の残業がありましたが、残業代はどのように計算すればよいでしょうか?
A、労働基準法では、法定労働時間を超えて実際に労働した時間(以下、実働時間)に対して、割増賃金の支払いを義務づけています。よって、実働時間が法定労働時間である8時間を超えた30分のみ、25%以上の率で計算した割増賃金の支払いが必要となります。ただし、就業規則等で終業時刻以降の労働に対し割増賃金を支払うと規定している場合には、その規定に従うこととなります。
解説
1.割増賃金の支払い義務労働基準法では、使用者は、原則、1日8時間(以下、法定労働時間)を超えて労働させてはならないと定めています。そして、法定労働時間を超えて労働させた場
合、医院は、法定労働時間を超えた労働に対し割増賃金を支払わなければなりません。この割増賃金の支払い義務は、実働時間で判断します。
今回のケースで考えると、下図のように1時間遅刻した場合、終業時刻である18時30分までの実働時間は7時間となり、19時30分までは実働時間が 8 時間を超えないので、割増賃金は発生しません(法定内残業)。8時間を超える19 時 30 分から 20 時までの労働に対し、割増賃金が発生します(法定外残業)。
2.法令を上回る場合の支払い義務
1.にかかわらず、就業規則等で「終業時刻を超えて労働した場合に割増賃金を支給する」といった労働基準法を上回る定めをしていることがあります。この場合には、実働時間が8時間を超えていなかったとしても、終業時刻以降の労働に対して割増賃金の支払いが必要です。今回のケースでは18時30分が終業時刻であるため、18時30分以降の労働に対し割増賃金を支払うことになります。労働基準法の考え方をおさえた上で、就業規則等の定めを確認し、適切な割増賃金の支払いが必要です。
厚生労働省は18日、介護報酬を話し合う審議会(社会保障審議会・介護給付費分科会)のもとに設けている専門家会議を開き、2024年度改定の効果を検証する調査の結果を報告した。
新設された「生産性向上推進体制加算」について、特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの介護施設では、下位区分の加算(Ⅱ)の取得率が3割強となっていることが分かった。
一方で、上位区分の加算(Ⅰ)の取得率は低い。見守り機器の全床導入などがハードルとなっている実態が浮かび上がった。
「生産性向上推進体制加算」は、すべての介護施設が無視できない重要なインセンティブだ。来年度の介護報酬の臨時改定で、介護職員の賃上げを図る「処遇改善加算」の施設系サービスの取得要件(上位区分)に組み込まれる。委員会の設置や課題の見える化、業務改善の実施、テクノロジーの導入などが取得要件となっている。
※ 2026年2月19日11時12分に、上記段落に(上位区分)を追記しました。
「生産性向上推進体制加算」の主なサービス類型ごとの取得率は以下の通り。加算(Ⅱ)の取得率は老健が最も高かった。
◯ 特養:加算(Ⅱ)は31.9%、加算(Ⅰ)は2.8%
◯ 老健:加算(Ⅱ)は33.2%、加算(Ⅰ)は3.0%
◯ 介護付きホーム:加算(Ⅱ)は27.4%、加算(Ⅰ)は7.9%
※ 昨年4月から9月に請求実績のある施設を分母として、昨年8月に各加算を取得している施設の割合を取得率として算出。





