医療
はじめに:その「なんとなくの残業」、放置していませんか?
医療機関、介護事業所、保育園の経営者・管理者のみなさま、日々の運営お疲れ様です。
スタッフの労務管理を行うなかで、以下のようなお悩みを抱えてはいませんか?
-
「終業時刻を過ぎているのに、なぜか帰らずに職場に残っている職員がいる」
-
「注意したいけれど、どこからを残業(労働時間)と判断すべきか迷う」
-
「タイムカードの打刻時間と実際の業務時間がズレていて不安だ」
医療・介護・保育の現場は、突発的な対応や業務の多層化、シフト制などにより残業が発生しやすい環境にあります。しかし、理由のない滞在や事前申請のない残業を放置していると、未払い残業代の過去遡及請求(過去3年分)や労務トラブル、さらには人件費や光熱費などのコスト増大という、事業所の存続に関わる大きな経営リスクへ直結しかねません。
本記事では、クリニック専門社労士、介護専門社労士、保育園専門社労士の視点から、実際のトラブル事例(訪問介護含む)を踏まえつつ、終業時刻を過ぎても退勤しない職員への適切な指導法とリスク防止策を徹底解説します。
1. 残っている職員の「理由」と「業務の緊急度」を確認する
職員が終業時刻を過ぎても職場に残っている場合、まずは「なぜ残っているのか」「その業務は今すぐ行うべきものか」という業務の緊急度・必要性を確認する必要があります。
(1)緊急度・必要性が高い場合
医療・介護・保育の現場では、突発的な対応が避けられない場面が多く存在します。
-
クリニック: 診療終了間際の駆け込み患者への対応、患者様の急変対応、検査結果の即時整理など
-
介護事業所(通所・入所・訪問): 利用者の急変・転倒対応、送迎トラブル、訪問先での緊急対応、サービス提供記録の緊急作成など
-
保育園: 園児の突発的なケガ・発熱、保護者からの相談・対応、延長保育の予期せぬ延長など
このように緊急性が高い場合は、時間外労働(残業)として認めざるを得ません。ただし、残業の運用方法には以下の2通りがあります。
-
管理者が残業命令を出す場合(指示型)
-
職員から事前申請を受け、管理者が承認する場合(申請型)
多くの施設で「②事前申請型」を採用していますが、ルールが形骸化し「申請なしで勝手に残業している」ケースが後を絶ちません。適切な指導とルールの再徹底が必要です。
(2)緊急度・必要性が低い場合
「業務時間内だと集中できないから」「明日の準備を余裕を持ってやっておきたいから」といった個人的な理由で残っているケースも少なくありません。
こうした自己判断による残業を曖昧に許容してしまうと、「ダラダラ残業」が日常化・固定化してしまいます。必要性の低い業務についてはその場で残業を認めず、「決められた時間内で効率よく業務を終わらせる」意識を持たせる指導を行い、速やかな退勤を促しましょう。
2. 業務以外の理由で残っている場合は「すみやかに退勤」させる
業務を行っていないにもかかわらず職場にとどまっているケースもあります。
-
退勤後のプライベートな予定(飲み会や習い事など)まで時間をつぶしている
-
先輩や同僚が残っていて「お先に失礼します」と言いづらい雰囲気がある
-
雑談や着替えをしたまま事務所やスタッフルームでダラダラと過ごしている
仕事をしていない様子であれば、「用事が終わっているなら速やかに退勤してください」とハッキリ指導することが重要です。
また、一見仕事をしているように見えても、事前に指示・承認を出していない残業であれば、「本日の業務はここまでにして、続きは明日に回して退勤してください」と業務を打ち切らせる指示を出しましょう。
管理者側が何も言わずに放置(不作為)していると、法的には「残業を黙認していた=残業を許可していた(黙示の指示)」とみなされ、後から残業代の支払いを求められる原因になります。
3. 「ダラダラ残業」が引き起こす経営リスクとトラブル事例
残業のルールがあいまいなまま放置されると、経営面・組織面で大きなリスクが発生します。ここで、実際の現場で起きたトラブル事例をご紹介します。
【事例1】クリニックにおける「慣習化したダラダラ残業」
事象: ある内科クリニックで、受付スタッフAさんが診療終了後も1時間以上スタッフルームで残業していました。院長は「今日の締め作業をやっているのだろう」と放置していましたが、実際は日中に終わる作業をゆっくり行ったり、雑談を交えたりしていただけでした。
リスク: Aさんの退職後、タイムカードの記録をもとに「未払い残業代」が請求されました。院長は「残業を命じていない」と主張しましたが、タイムカードの記録と放置していた事実から「黙示の指示があった」とみなされ、数十万円の残業代を追加支給することになりました。
【事例2】訪問介護事業所における「記録作成・移動時間の曖昧化による残業トラブル」
事象: 訪問介護事業所のヘルパーBさんは、すべての訪問サービスが終わった後、夕方に事業所に戻ってきてから「支援記録の作成」や「サ責への報告」をまとめて行っていました。事業所に残って他のヘルパーと話し込み、退勤打刻が毎晩1〜2時間遅れていましたが、サ責は「記録作成に時間がかかっているのだろう」と特に注意していませんでした。
リスク: Bさんが退職する際、事業所に戻ってからのすべての滞在時間について未払い残業代を請求されました。事業所側は「記録作成は15分程度で終わる内容であり、残りは雑談だった」と反論しましたが、事業所内にいた客観的な記録(タイムカード)があり、管理者も退出を促していなかったため、労働時間として認定されてしまいました。
【事例3】保育園における「持ち帰り・サービス残業の曖昧化」
事象: 保育園のC先生は、閉園後に園に残って日誌の記入や壁面装飾の作成を行っていました。園長は「残業申請を出していないから自主的な残業」と思っていましたが、業務量が多すぎて勤務時間内に終わらない構造になっていました。
リスク: C先生が体調不良で退職する際、労働基準監督署へ駆け込み。「残業を申請できる雰囲気ではなく、指示された業務量が勤務時間内に終わらない状況だった」として指導が入り、過去に遡って残業代の支払いを命じられました。
4. 最大の恐怖!過去に遡って残業代を請求されるリスク
「うちはアットホームだから」「今まで誰も残業代を請求してこなかったから大丈夫」と考えてはいませんか?
良好な人間関係が保たれている間や、給与に大きな不満がない時期は問題が表面化しないかもしれません。しかし、以下のような「きっかけ」ひとつで状況は一変します。
-
人間関係の不調や、上司・園長・院長・サ責とのトラブル
-
退職時のトラブルや感情的なこじれ
-
人事評価や昇給・賞与に対する不満
労働基準法の改正に伴い、未払い残業代の請求時効は「3年」となっています。もし過去3年分にわたる時間外労働の請求を受けた場合、未払い額は1人あたり数百万円、組織全体では千万円単位の膨大な金額に膨れ上がるケースも珍しくありません。
タイムカードの記載時間=労働時間とみなされる?
労務トラブルにおいて最も焦点となるのが、「タイムカードの打刻時間と、実際の労働時間に相違がないか」です。
打刻時間と実際の勤務状態にズレがある場合、以下のような具体的実務対応を日常的に行うことが求められます。
-
「残業事前申請・許可制」の書面・システム運用を徹底する
-
実際の勤務開始・終了時刻と実労働時間を定期的に本人と確認・照合する
-
照合した記録に対し、本人の確認印や承認記録を残す
-
「労働時間とは何か」「承認のない残業は認めない」ことを院長・園長・施設長自身が正しく理解し、職員へ周知する
日頃から職員の健康管理に留意し、「不必要な残業はさせない」「事前承認のない残業は禁止する」という姿勢を厳格に指導・徹底することが、最大の防衛策となります。
5. 専門家とともに「残業トラブルに強い職場環境」を作りませんか?
クリニック、介護事業所(訪問介護含む)、保育園における労務管理は、一般的な企業とは異なる特有の難しさがあります。
-
医療・看護・受付など多職種が入り交じるクリニック
-
移動時間・記録作成・直行直帰やシフトが複雑な訪問介護・介護現場
-
行事準備や持ち帰り仕事が発生しやすい保育園
これらの現場で「残業のルール」を浸透させ、未払い残業代リスクをゼロにするためには、業界の事情に精通した専門家による就業規則の見直しや残業許可制の導入・運用サポートが不可欠です。
当社にお任せください!
当社には、各業界の課題に特化した「クリニック専門社労士」「介護専門社労士」「保育園専門社労士」が多数在籍しております。
-
「ダラダラ残業をなくすための『残業事前許可制』を導入・運用したい」
-
「訪問介護ヘルパーの移動時間や事業所滞在時間の労務ルールを整理したい」
-
「現在のタイムカード運用や就業規則にリスクがないか診断してほしい」
-
「終業後になかなか帰らない職員への指導方法や面談について具体的に相談したい」
このようなお悩みをお持ちの管理者・経営者様は、ぜひ一度当社へご相談ください。現場の実情に合わせた最適な労務ソリューションをご提案いたします。
労働時間管理・残業対策に関するご相談・お問い合わせ
自院・自事業所の労務リスク診断や、残業許可制の運用導入に関するご相談は、下記のお問い合わせフォームまたはお電話よりお気軽にご連絡ください。
👉 [お問い合わせ・無料労務相談はこちら]
お問い合わせ | 社会保険労務士法人ヒューマンスキルコンサルティング
介護事業所の施設長、保育園の園長、クリニックの事務長や主任看護師など、現場で「管理者」と呼ばれる役職者の方々の労働時間管理や給与計算で、次のようなお悩みを抱えていませんか?
-
「管理者として残業代を支給していないが、遅刻してきた分を給与から減額(遅刻控除)してもいいのだろうか?」
-
「介護保険法や児童福祉法上の『管理者』だから、労働基準法上の『管理監督者』として扱って問題ないはずだ」
-
「主任やリーダーにも『役職手当』を出しているから、残業代は不要ではないか?」
結論から申し上げますと、労働基準法上の「管理監督者」であっても、遅刻・早退による給与減額は原則として認められません。 もし遅刻控除を行ってしまうと、その人物は管理監督者ではなく「一般社員」であるとみなされ、過去3年分に遡って多額の未払い残業代の支払いを命じられる(是正勧告を受ける)リスクが生じます。
本記事では、介護・保育・医療(クリニック)業界に特化した社会保険労務士の視点から、労働基準法第41条における「管理監督者」の正しい定義、介護・保育・クリニック特有の混同しやすいポイント、そして遅刻・早退・欠勤時の給与の取扱いについて分かりやすく解説します。
1. 労働基準法第41条における「管理監督者」とは?
労働基準法第41条第2号では、「事業の種類にかかわらず監督又は管理の地位にある者(以下、管理監督者)」について、労働時間、休憩、休日に関する規定を適用しないと定めています。
つまり、管理監督者に該当する場合、時間外労働(残業)手当や休日出勤手当を支払う必要がありません(※ただし、深夜労働手当の支払いは必要です)。
しかし、単に社内で「店長」「施設長」「リーダー」といった役職名をつけているだけでは、法的な管理監督者とは認められません。裁判例や厚生労働省の通達において、管理監督者と認められるためには以下の3つの要件を「勤務の実態として」すべて満たしている必要があります。
① 経営者と一体的な立場での「十分な職務権限」があるか
経営方針の決定に関与しているか、採用・解雇・人事評価・シフト作成などの重要な人事権限を持っているかどうかが問われます。現場のシフト調整程度しか権限がない場合は、これに該当しません。
② 労働時間について「自由な裁量」があるか
始業・終業時刻に縛られず、自分の判断で出退勤を決める自由があるかどうかが重要です。タイムカードで出退勤を厳密に管理され、遅刻や早退に対してペナルティがある働き方の場合は、「時間の自由裁量がない」と判断されます。
③ 職務の重要性にふさわしい「適切な待遇(給与・手当)」が支払われているか
基本給や役職手当が、一般社員に比べて十分に高額である必要があります。「残業手当を払わない代わりに、数万円程度の役職手当を支給しているだけ」という状態では、待遇要件を満たしているとは言えません。
これら3つの要件は、契約上の形式ではなく「具体的な勤務実態」で判断されます。
2. 介護・保育・クリニックで多発する「名ばかり管理職」の落とし穴
特に介護事業所、保育園、医療機関(クリニック)においては、業界特有の事情から「名ばかり管理職」が発生しやすい構造があります。代表的な注意点を3つ挙げます。
介護保険法・児童福祉法上の「管理者」と労基法上の「管理監督者」の混同
介護保険制度(指定基準)や保育所の設置基準、医療法では、事業所ごとに「管理者」や「施設長」「園長」の配置が義務付けられています。 ここで注意したいのは、行政上の「配置義務のある管理者」と、労働基準法上の「管理監督者」は全く別物であるということです。
行政上の要件を満たすために置かれた「施設長」や「サビカン(サービス管理責任者)」「園長」「事務長」であっても、経営上の権限がなく、日々の現場業務に追われている場合は、労基法上は「一般社員」と判定されます。
シフト勤務に入っている管理者は「管理監督者」になれない?
多くの介護施設や保育園、クリニックでは、1か月単位のシフト制で勤務を回しています。 もし、管理者が「常態として特定の勤務シフト(日勤・夜勤・早番など)に組み込まれ、欠勤すると現場が回らない状態」にある場合、出退勤の自由裁量がないとみなされ、管理監督者性が否定される可能性が極めて高くなります。
主任、副主任、リーダー階層への残業代不払いリスク
一般的な組織において、労基法上の管理監督者に該当する可能性があるのは、理事長、社長、施設長、事業所長、事務長といった経営トップ・幹部クラスに限られるケースがほとんどです。
もし、それ以下の役職である「主任」「副主任」「リーダー」「看護師長」などを管理監督者として扱い、残業手当を支給していない場合、労基署の調査(労働基準監督署の立ち入り調査)が入ると、ほぼ確実に「名ばかり管理職(未払い残業)」として指摘を受けることになります。
【是正勧告による企業リスク】 労基署から是正勧告を受けた場合、未払い残業代は**「過去3年分(法改正により延長)」に遡って支払う義務**が生じます。対象者が複数名いる場合、支払額は数百万円〜数千万円規模に膨れ上がり、法人の資金繰りに重大な打撃を与えることになります。
3. 管理監督者の「遅刻・早退・欠勤」に関する給与の取扱い
ここで、今回のメインテーマである「管理監督者に対する遅刻・早退・欠勤時の給与の取扱い」について整理します。
遅刻・早退:給与減額(遅刻控除)はNG
該当者が労基法上の管理監督者であることを前提とした場合、遅刻や早退による給与減額(控除)は認められません。
管理監督者は「労働時間について自由な裁量を持っている」ことが前提だからです。例えば、定刻より2時間遅れて出社した場合であっても、「遅刻したから2時間分の給与を引く」ということはできません。 もし遅刻控除をしてしまうと、「この職員には時間の自由裁量がない(=管理監督者ではない)」という自社に不利な証拠を自ら作ることになってしまいます。
欠勤:就業義務違反として「欠勤控除」はOK
一方で、丸1日休んだ場合の「欠勤控除」は認められます。
管理監督者であっても、雇用契約・委任契約に基づく「就業義務(働く義務)」自体は存在するためです。1日も労働を提供しなかった日については、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、給与から1日分を減額(控除)しても労働基準法上問題ありません。
遅刻を繰り返す管理監督者への正しい対処法
「遅刻控除ができないなら、遅刻を繰り返す管理者をどう指導すればいいのか?」というご質問をよくいただきます。 給与の減額(遅刻控除)はできませんが、管理者としての「職責を果たしていない」として、人事評価を下げる、役職手当を減額する、あるいは懲戒処分の対象とすることは可能です。
4. 残業代が出ない管理監督者でも「労働時間管理」は必須!
「管理監督者には残業代を払わないから、タイムカードを打刻させなくていい」と誤解されている経営者様・園長様が今でも少なくありません。
結論として、管理監督者であっても労働時間の把握・管理は法律上の義務です。
給与計算のためではなく「健康確保措置」のため
2019年4月の労働安全衛生法改正により、「高度プロフェッショナル制度適用者を除くすべての労働者(管理監督者を含む)」の労働時間の状況を客観的な方法で把握することが事業主に義務付けられました。
管理監督者はその責任の重さから長時間労働・過重労働に陥りやすく、精神疾患(メンタルヘルス不調)や脳・心臓疾患を引き起こすリスクが高いためです。
経営者・人事担当者が取り組むべき安全配慮義務
経営者や人事担当者は、管理監督者のタイムカードやPCログなどを確認し、過重労働になっていないかを常にチェックしなければなりません。万が一、管理監督者が長時間労働によってうつ病などを発症した場合、法人側は「安全配慮義務違反」として多額の損害賠償責任を問われるリスクがあります。
5. 介護・保育・クリニックの労務管理なら専門社労士にご相談ください
介護事業所、保育園、クリニックなどの現場は、一般企業以上に労働時間管理やシフト編成、加算制度(処遇改善加算など)の運用が複雑です。
自社の管理者が労基法上の「管理監督者」に該当するかどうかは、単なる知識だけでなく、過去の裁判例や労基署の指導傾向を踏まえた専門的な法的判断が必要となります。
「自社の役職手当や管理者扱いが適切かどうか不安だ」 「未払い残業代のリスクを事前に回避したい」 「医療・介護・保育に特化した就業規則の見直しを行いたい」
このようにお考えの法人様・オーナー様は、ぜひ一度、介護・保育・クリニック専門の社会保険労務士法人(弊所)までお気軽にご相談ください。現場の実態に即した最適な労務管理体制の構築をサポートいたします。
本記事のまとめ
-
労基法上の管理監督者は「職務権限」「時間の自由裁量」「相応の待遇」の3つの実態で判断される(役職名だけでは不可)。
-
介護・保育・クリニックの「管理者」は行政上の要件であり、労基法上の管理監督者と混同すると残業代未払いリスクが生じる。
-
管理監督者に対して遅刻・早退控除は原則不可(行うと管理監督者性を否定される)。ただし欠勤控除は可能。
-
残業代の支給対象外であっても、健康管理のために労働時間の把握は義務である。
介護施設、クリニック、保育園など、慢性的な人手不足に悩む現場において、スタッフの「採用」と「退職」は経営を大きく左右する重要課題です。
こうしたなか、経営者や人事担当者を悩ませるのが、「一度は退職願を出したスタッフから『やっぱり辞めるのを止めたい(撤回したい)』と言われた」というトラブルです。
すでに次のスタッフの採用活動を進めていたり、人員配置を決めていたりする場合、急に退職を撤回されると現場のシフトや経営に大きな支障が出ます。では、法律上、スタッフからの退職願の撤回を拒否することはできるのでしょうか?
今回は、福祉・医療業界の労務管理に精通する「介護専門社労士」「クリニック専門社労士」「保育園専門社労士」の視点から、退職願の撤回の可否や、口頭での意思表示の有効性、現場で実践すべきトラブル防止策を分かりやすく解説します。
1. 結論:退職願の撤回はできるのか?
結論から言うと、「人事権を持つ経営者や管理職が退職願を受理(承諾)した後は、原則としてスタッフ側から一方的に退職を撤回することはできない」というのが法律上のルールです。
しかし、まだ受理していない段階(会社が承諾する前)であれば、スタッフは退職の申し出を撤回することができます。
つまり、「すでに受理したかどうか」というタイミングと状況によって、撤回ができるかどうかが決まります。まずはこの仕組みを正しく理解するために、法的な背景を確認していきましょう。
「退職願」と「退職届」の違い
実務上、混同されやすいのが「退職願」と「退職届」の違いです。この2つは法的な性質が大きく異なります。
-
退職願(合意解約の申し入れ): 「退職させてほしい」という会社への“お願い(労働契約の合意解約の申し込み)”です。会社が「分かりました」と承諾するまでは、原則として撤回が可能です。
-
退職届(辞職の意思表示): 「〇月〇日をもって辞めます」という、労働者からの“一方的な通告(辞職)”です。原則として、提出した時点で会社の承諾なしに効力が発生するため、出した後は原則として撤回できません(民法第627条)。
ブログの相談にある「退職願」の場合は、会社側が「承諾(受理)」したかどうかが運命の分かれ道となります。
2. 退職願の撤回の可否を決める「受理」の基準(判例解説)
では、どのような状態になれば「受理(承諾)」したとみなされ、撤回ができなくなるのでしょうか。過去の重要な裁判例をもとに解説します。
① 人事権を持つ者が受理した後は「撤回不可」
最高裁判所の判例(昭和62年)では、「退職願を人事部長が受理した時点で、労働契約の合意解約が成立した(承諾された)とみなされるため、その後の撤回は認められない」とされています。
介護施設であれば施設長や理事長、クリニックであれば院長、保育園であれば園長や理事長など、「採用や退職を決定できる権限(人事権)を持つ人」が退職願を受け取り、承認した時点で契約解除が確定します。
この段階以降であれば、スタッフ側から「転職先のクリニックから内定を取り消された」「やっぱり今の保育園で働き続けたい」と言われても、経営者は拒否することができます。
② 人事権のないスタッフが預かっただけなら「撤回可能」
一方で、岡山地裁(平成3年)の判例では異なる判断が下されました。 院長(人事権を持つ人)以外の、人事権を持たない一般的な先輩スタッフや、単に書類の受取次ぎをするだけの事務員が退職願を預かった段階では、まだ退職の承認(承諾)はなされていないと判断されたのです。
この場合、退職願が人事権を持つ経営者の元へ届き、承認される前であれば、スタッフは「やっぱり辞めるのを止めます」と退職を撤回することができます。
福祉・医療現場で起こりがちな落とし穴
介護、クリニック、保育園の現場では、リーダーや主任、婦長、副園長などがスタッフから退職願を直接手渡されるケースが多々あります。 もし、人事権を持たない主任が「分かりました、預かっておきますね」と言っただけで、経営者(院長や理事長)が中身を確認していない状態であれば、まだ法律上は「受理」されていません。その間にスタッフの気が変われば、撤回を認めざるを得なくなるため注意が必要です。
3. 「辞めます」という口頭のみの意思表示は有効か?
スタッフのなかには、書面を出さずに「もう限界なので辞めます」「来月で退職します」と口頭だけで伝えてくるケースもあります。こうした口頭での意思表示には、どのような法的効力があるのでしょうか。
法的には「口頭」でも有効
法律上、退職の意思表示は書面でなければならないという決まりはありません。そのため、人事権を持つ経営者(院長や理事長など)に対して直接向けられた言葉であれば、口頭であっても直ちに退職の申し出としての効果が発生します。
経営者がその場で「分かりました、承諾します」と答えれば、その瞬間に退職の合意が成立することになります。
なぜ口頭だけでは危険なのか?(トラブルのリスク)
しかし、実務において口頭のみの退職処理を進めるのは非常に危険です。 スタッフが一時的な感情や、業務上の混乱、人間関係の誤解から突発的に「辞める!」と言ってしまったようなケースでは、後から大きな紛争に発展することがあります。
トラブルが発生した場合、スタッフ側から以下のような主張をされるリスクがあります。
-
「あの時は頭に血が上っていただけで、本気で辞めるつもりはなかった」
-
「口頭での軽いやり取りであり、退職という重大な決断を真に望んだものではなかった」
-
「辞めると言った覚えはない。会社から『来なくていい』と言われた(=不当解雇だ)」
口頭での意思表示は「言った・言わない」の水掛け論になりやすく、法的な効力が曖昧になりがちです。特に「辞める」と言った翌日からも通常通りシフトに入って勤務を続けているような場合、周囲から見ても「本当に退職の合意があったのか」が不透明になります。 最悪の場合、「自主退職ではなく、会社から強制的に辞めさせられた(解雇された)」と主張され、不当解雇を理由に慰謝料や未払い賃金を請求される労務トラブルに発展しかねません。
そのため、どれだけ親しい間柄であっても、法律上で退職を確実なものにするためには、必ず「書面(退職願または退職届)」を提出してもらう必要があります。
4. 介護・クリニック・保育園で退職トラブルを防ぐための実務対策
介護施設、クリニック、保育園は、いずれも「人」が最大の経営資源であり、配置基準(人員基準)が厳格に定められているという共通点があります。スタッフの退職対応を曖昧にすると、経営へのダメージが直撃します。
トラブルを未然に防ぐため、経営者が実践すべき3つの実務対策をお伝えします。
対策①:就業規則に「退職手続き」を明記する
まずは、就業規則の退職規定を整備しましょう。 「退職を希望する者は、退職予定日の〇ヶ月前までに、所定の退職願(届)を人事権を持つ者(理事長・院長等)に提出しなければならない」といった具体的なルールを明記しておきます。これにより、スタッフも「まずは書面を出さなければならない」と認識し、突発的な口頭トラブルを減らすことができます。
対策②:退職願を受け取ったら速やかに「受領印」または「承諾通知」を出す
スタッフから退職願が提出され、それを受け入れる(引き留めをしない)と決めた場合は、人事権を持つ経営者が速やかに確認し、受理した旨を記録に残しましょう。 「〇月〇日に退職願を受領し、これを承諾した」という書面(承諾書)を交付するか、提出された退職願の控えに受領印と日付を押して本人に渡すことで、法的に「これ以降の撤回は不可」という状態を確定させることができます。
対策③:専門の社会保険労務士(社労士)に相談できる体制を整える
福祉や医療の現場は、労働基準法だけでなく、介護保険法や医療法、児童福祉法といった独自の業界特有のルール(人員配置基準など)が絡み合う複雑な環境です。
スタッフの退職に伴うトラブルや就業規則の変更、人間関係の改善など、日常的な労務問題が発生した際には、それぞれの業界に特化した専門家に相談するのが最も確実です。
-
介護専門社労士: 訪問介護、通所介護、サ高住など、介護報酬改定や複雑なシフト管理、人員基準を理解した上で、スタッフの離職防止や労務管理をサポートします。
-
クリニック専門社労士: 医師、看護師、医療事務など、少人数の職場だからこそ起こりやすい人間関係のトラブルや、院長の負担を減らすための労務手続き、採用・退職の実務をサポートします。
-
保育園専門社労士: 保育士の配置基準やキャリアアップ研修、処遇改善等加算の仕組みを踏まえ、保育士が安心して長く働ける職場環境づくりと、退職時の円満な手続きをサポートします。
独自の雇用環境を持つ業界だからこそ、一般的な社労士ではなく、それぞれの専門知識を持った社労士をパートナーに選ぶことで、より実効性の高いトラブル対策が可能になります。
5. まとめ
今回の内容を重要なポイントとして3つにまとめます。
-
退職願の提出後、人事権を持つ者(院長・理事長・園長など)が受理(承諾)した後は、原則としてスタッフ側から退職を撤回することはできない。
-
人事権を持たないスタッフ(主任や事務員など)が退職願を預かっただけの状態では、まだ承認されたとは言えず、スタッフ側からの退職の撤回が認められる可能性が高い。
-
「辞めます」という口頭のみの意思表示も法律上は有効だが、「言った・言わない」のトラブルや「不当解雇だ」と主張されるリスクを防ぐため、必ず書面(退職願)を提出してもらうべきである。
スタッフの退職は、残されたメンバーのモチベーションや日々の業務運営に大きな影響を与えます。だからこそ、手続きは感情論ではなく、法律に基づいた正確なステップで行うことが大切です。
「退職の撤回を求められて困っている」「スタッフとの間で退職を巡るトラブルが起きそう」とお悩みの経営者様は、ぜひ一度、介護専門社労士・クリニック専門社労士・保育園専門社労士などの専門家へご相談ください。適切なアドバイスにより、貴園・貴院の健全な経営を守るサポートをいたします。
はじめに:採用後の「こんなはずじゃなかった…」に悩む経営者・管理職の皆様へ
-
「面接では『即戦力として動ける』と言っていたのに、指示待ちばかりで業務が回らない」
-
「『前職でリーダー経験がある』という言葉を信じて採用したのに、現場の人間関係を引っかき回されている」
-
「高度なスキルがある前提の給与設定にしたのに、実務レベルが低すぎる」
介護施設の施設長、保育園の園長、そしてクリニックの院長の皆様、このような「採用ミスマッチ」に頭を悩ませていませんか?
人手不足が深刻な福祉・医療業界において、優秀そうな人材の応募は喉から手が出るほど欲しいものです。しかし、いざ入社してみると、面接時に申告していたスキルや能力を全く持っていない職員だった……というトラブルは後を絶ちません。
経営者や管理職としては「騙された」「すぐにでも辞めてほしい」と思うのが本音かもしれませんが、感情に任せて「解雇」に踏み切るのには極めて高いリスクが伴います。
本記事では、医療・福祉業界の労務管理に精通する「介護社労士」「保育園社労士」「クリニック社労士」の視点から、スキル不足の職員を解雇できるのかという疑問にお答えし、リスクを最小限に抑える現実的な解決策を解説します。
1. 【結論】スキルや能力の不足を理由とした解雇は「極めて難しい」
結論から申し上げますと、「資格の有無」のように客観的に判断できるケースを除き、単なる「スキル不足」「能力不足」を理由に職員を解雇することは、日本の労働法において現実的には極めて困難と言わざるを得ません。
〇 資格や経歴の「詐称」は解雇事由になり得る
客観的な事実の有無は、白黒がはっきりしているため解雇の正当な理由になりやすいです。 例えば、クリニックにおいて「診療報酬の算定(専門看護師など)に必要な専門研修等の履修実績がある」と偽っていた場合や、介護施設・保育園で必須となる資格(介護福祉士、保育士など)を実は持っていなかったというケースです。これらは明らかな経歴詐称であり、業務に直接的な支障をきたすため、解雇事由に該当する可能性が非常に高くなります。
× 曖昧な「スキル不足」での解雇はリスク大
一方で、以下のようなケースは非常に厄介です。
【よくあるトラブル例】 「在宅医療の経験が3年以上あり、一通りのことはできる」と面接で言っていたのに、実際に勤務させてみると、3年も経験してきたとは到底思えないような低いスキルしか持ち合わせていなかった。
このような場合、「3年経験した」「一通りのことができる」という基準は主観的な要素を含みます。本人が「自分の中ではできている」と主張した場合、客観的にそれを否定して解雇の要件(客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であること)を満たすのは非常に難しいのが現実です。
仮に強引に解雇してしまうと、後から「不当解雇」として訴えられ、多額のバックペイ(解雇期間中の給与)を支払う羽目になるリスクがあります。
2. リスクを最小限に抑えるなら「試用期間中」のアプローチが鍵
どうしても能力不足の職員に辞めてもらう、あるいは改善を促すのであれば、試用期間(一般的には3ヶ月〜6ヶ月)が終了するまでのタイミングが勝負となります。
なぜなら、試用期間を経て一度「正職員」として本採用してしまうと、「貴院(貴施設)は試用期間を通して、本人のスキルを含めて正職員として適格だと認めた」ということになり、解雇のハードルがさらに跳ね上がるからです。
試用期間中であれば、正職員登用後よりも「留保解約権の行使」として、一定の合理的な理由があれば本採用を拒否(解雇)することが認められやすい傾向にあります。ただし、それでも一発退場(即解雇)はできません。以下のプロセスを必ず踏む必要があります。
試用期間中に踏むべきステップ
-
定期的な面談と証拠の記録 「あなたには、今の時点で〇〇というスキルが不足しています」と具体的に指摘し、話し合いの場を設けます。口頭だけでなく、指導内容や面談記録を必ず書面(またはデータ)で残してください。
-
試用期間の延長と教育の機会提供 必要に応じて、就業規則の規定に基づき「必要なスキルを身につけるまで」試用期間を延長します。会社として教育や改善の機会を与えたという事実が重要です。
-
条件変更の提案(解雇回避努力) 延長期間内でも改善が見られない場合、いきなり解雇するのではなく、「業務上このまま正職員として継続するのは難しい。一度退職するか、あるいは給与(職位)を下げて契約社員などとして残りますか?」と本人に選択肢を提示します。
これらの一連の「解雇回避努力」を尽くした上で、それでも本人が退職にも条件変更にも応じず、かつ業務の遂行が著しく困難な場合に初めて、試用期間満了に伴う本採用拒否(解雇)という流れに進むことができます。
3. 実務上最も現実的な解決策は「退職勧奨(話し合い)」
解雇は会社側にも労働者側にも大きな傷が残ります。そこで、介護施設長、保育園長、クリニック院長が実務上で選択すべき最も現実的な手段は、解雇ではなく「退職勧奨(たいしょくかんしょう)」です。
退職勧奨とは、会社から労働者に対して「辞めてもらえないか」と打診し、お互いの合意のもとで退職してもらう手続きを指します。
退職勧奨を成功させるポイント
-
本人のプライドに配慮しつつ客観的事実を伝える 「あなたの能力が低いからクビだ」ではなく、「当院(当施設)が現在求めているスピード感や業務レベルと、あなたの得意分野の間にミスマッチが生じている。ここにいても、あなたが力を発揮して活躍するのは難しいのではないか」と、お互いのためを思ってのアプローチであることを伝えます。
-
解決金(退職金の上乗せ)を用意する 円満な合意を促すため、給与の1ヶ月〜2ヶ月分程度の「解決金」を準備することが一般的です。次の仕事が決まるまでの生活保障という名目で提示すると、本人も納得しやすくなります。
-
必ず「退職合意書」を取り交わす ここが最も重要です。合意退職が成立した際には、必ず「退職合意書(合意書)」を作成してください。 書面には「今後、本件(退職の経緯や労働契約)に関して、労働審判や裁判などの法的な手段を含め、一切の請求や異議申し立てを行わない」という「清算条項」を必ず盛り込みます。この合意書があれば、仮に後から本人が「やっぱり納得いかない」と訴えてきたとしても、裁判で極めて強い抑止力・証拠能力を持ちます。
4. 今後のトラブルを未然に防ぐ!「入り口」での賢い契約テクニック
ここまで「入社してしまった後」の対策をお伝えしてきましたが、最も理想的なのは、このような労務トラブルを「未然に防ぐ仕組み」を作っておくことです。
そこでおすすめしたいのが、採用時の「ステップアップ型有期雇用」という手法です。
【トラブル回避の具体策】 正職員としての採用を前提とする場合であっても、最初の「入社後6ヶ月間」は正職員ではなく**「契約期間6ヶ月の有期雇用契約(契約社員)」**として採用します。
求人票や面接の段階から、「当院(当施設)では、最初の6ヶ月間は有期雇用契約となります。期間中の勤務態度やスキル、周囲との協調性を評価した上で、双方の合意があれば、7ヶ月目から正職員として登用(または契約更新)します」とはっきりと伝えておくのです。
この方法のメリット
このスキームをしっかりと構築できれば、もし面接時のアピールとは裏腹に全くスキルが足りない職員だった場合、「期間満了に伴う更新終了(雇止め)」という形で、契約を終了させることができます。
解雇や退職勧奨のように、激しい心理的摩擦や法的な解雇規制のリスクを背負う必要がなくなるため、経営者・管理職にとって非常に精神的負担の少ない、おすすめの防衛策です。 (※ただし、有期雇用であっても「更新を期待させるような言動」を日常的に行っていると、雇止めが認められないケースもあるため、事前の契約書作成と運用には注意が必要です)
まとめ:医療・福祉の労務トラブルは専門の社労士にご相談を
介護施設、保育園、クリニックは、いずれも「人」が最大の財産であり、同時に人間関係や労働環境のコントロールが難しい職場です。一人のスキル不足や協調性の欠如した職員によって、現場全体のモチベーションが低下し、既存の優秀なスタッフが離職してしまうことこそが最大の恐怖ではないでしょうか。
しかし、焦って無理な解雇を行えば、今度は法的リスクという別の火種を抱えることになります。
-
現在の就業規則の「試用期間」や「解雇事由」の規定は万全か?
-
退職勧奨を行う際の「退職合意書」の文面は法的に有効か?
-
「最初の6ヶ月を有期雇用にする」ための契約書や求人票の文面はどう作ればいいか?
これらの判断や対策には、業界特有の働き方(シフト制、夜勤、資格要件、診療報酬・介護報酬への影響など)を深く理解している専門家のサポートが不可欠です。
採用ミスマッチや職員の処遇にお悩みの経営者様は、ぜひ一度、業界の特性を熟知した「介護社労士」「保育園社労士」「クリニック社労士」などの専門特化した社会保険労務士へご相談ください。貴院・貴施設の健全な運営と、大切なスタッフの職場環境を守るための最適なリスクマネジメントをご提案いたします。
介護事業所・施設や自治体の職員らを対象とする今年度のLIFE(科学的介護情報システム)研修会を、国立長寿医療研究センターが開催する。
厚生労働省は23日、この研修会を周知する介護保険最新情報Vol.1514を発出。LIFEの一層の有効活用につなげるべく、関係者へ広く参加を呼びかけた。
この研修会は、「基礎編」と「実践編」の2本立てで構成される。
「基礎編」では、LIFEの概要や評価項目に関する基礎知識、フィードバックデータの読み解き方、介護計画の立案方法などを解説する。
一方の「実践編」は、2024年度の介護報酬改定に伴う評価項目の追加点・変更点の解説などが柱。LIFEの有効活用の具体的な方法を、介護現場で活躍する講師が分かりやすく伝える講演なども予定されている。
※ この研修会の内容は、昨年12月と今年1月に実施された内容と同じとなる。
開催方式は、全国3都市での対面形式とオンデマンド配信のハイブリッドとなる。
対面形式は9月から10月にかけて、秋田、広島、東京の各会場で実施される。参加費は無料で事前の登録が必要。
また、7月1日からはWebでのオンデマンド配信の視聴も可能となる。ただし、配信される動画は過去の年度に実施・撮影されたもので、今年度の対面形式とは内容が一部異なる点に留意が必要だ。
参加の申し込みは、国立長寿医療研究センターの公式サイトから行える。
Q) 当院では、遅刻や欠勤をする職員が増えていることから、皆勤手当の支給を考えています。この皆勤手当を残業代の計算に含める必要はありますか?また改めて、残業代の計算における賃金に含めるもの・含めないものを確認しておきたいと思っています。
A) 残業代にあたる割増賃金は、所定労働時間に対して支払われる 1 時間あたりの賃金を基に算出します。その際、皆勤手当は、算出する賃金に含める必要があります。なお、法律で定められている一定の賃金は除外できます。
詳細解説:
1.割増賃金の計算方法労働基準法では、法定労働時間を超えた労働に対して、割増賃金を支払うことを義務付けています。その割増賃金額の計算方法は、以下のとおりです。
割増賃金額
=1 時間あたりの賃金 × 時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数 × 割増賃金率月給で支払われる賃金については、毎月支払われる賃金を 1 ヶ月の平均所定労働時間数で除して、1時間あたりの賃金を算出します。
2.1時間あたりの賃金の算出
1 時間あたりの賃金の算出では、基本給のみでなく、各種手当も含みます。ただし、次の①~⑦に限って、算出する賃金から除外できます。
① 家族手当(扶養家族の有無・人数に応じて算定するもの)② 通勤手当(通勤の距離・実費に応じて算定するもの)③ 別居手当④ 子女教育手当⑤ 住宅手当(家賃、持ち家のローン月額・管理費用など、住宅に要する費用に応じて算定するもの)⑥ 臨時に支払われた賃金⑦ 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
除外できる手当は、名称にかかわらず、実質に照らして判断されます。質問にある皆勤手当は、①~⑦のいずれにも該当しないことから、算出する賃金に含める必要があります。
一般的に皆勤手当は、欠勤や遅刻・早退の有無によって支給の有無や支給額が変動する仕組みとします。そのため、皆勤手当の支給の状況に従い、月ごとに1時間あたりの賃金が変動することもあります。
なお、診療報酬には、医療機関などに勤務する職員の処遇改善を目的とした「ベースアップ評価料」などの仕組みがありますが、これに基づいて「ベースアップ手当」などの形で毎月支払われる手当も、除外できる手当には含まれていません。
カスタマーハラスメントから介護従事者を守る対策をすべての介護事業者に義務付ける方針を改めて示した。
厚生労働省で介護保険制度を所管する老健局の黒田秀郎局長は18日の参議院・厚労委員会で、カスタマーハラスメントから介護従事者を守る対策をすべての介護事業者に義務付ける方針を改めて示した。
各サービスの運営基準を厳格化する考え。来年度の介護報酬改定を念頭に審議会で詳しい検討を進める。
ケアマネジャーが利用者宅で殺害された埼玉県川口市の事件を受けて、介護従事者を守る体制をどう強化するか問われて改めて説明した。公明党の川村雄大議員の質問に対する答弁。
カスハラの防止に向けた雇用管理上必要な措置をすべての事業者に義務付ける改正労働施策総合推進法が、今年10月から施行されることを見据えた動き。厚労省は昨年末の審議会で、すべての介護事業者にカスハラ対策を義務付ける意向を明らかにしていた経緯がある。
黒田老健局長は厚労委で、「介護従事者が利用者やその家族などからハラスメントを受けることなく、安心して働ける環境の整備が重要」と強調。「介護事業者が取り組むべきことの運営基準への位置付けなど、必要な措置を検討して講じる」と明言した。
「スタッフが寝坊して遅刻した際、『時間単位の有給休暇(有休)に振り替えてほしい』と言われたが、認めるべきだろうか……」
クリニックの院長先生や、介護施設・保育園の運営者様から、このようなご相談をいただくケースが増えています。人手不足が深刻な医療・福祉業界において、スタッフのモチベーション維持と職場規律のバランスに悩む経営者の方は少なくありません。
結論から申し上げると、寝坊による遅刻を時間単位有休へ振り替えるかどうかは、クリニックや施設のルール(就業規則)および経営者の判断に委ねられます。しかし、職場の規律を守るためには「原則として認めない」とするのが適切です。
本記事では、近年導入が進む「時間単位有休」の正しいルールや、寝坊・突発的な遅刻に対する適切な労務管理のポイントについて、医療・介護・保育業界に特化した社労士が分かりやすく解説します。
1. そもそも「時間単位有休」とは?導入時の法的ルールと留意点
働き方改革の一環として、仕事と生活の調和(ワークライフバランス)を図るために導入されたのが「時間単位有休」です。 1日単位ではなく時間単位での取得を認めることで、通院や子どもの送迎、役所の手続きなど、スタッフの柔軟な働き方をサポートできるメリットがあります。
しかし、この制度は「法律によってどの職場でも自動的に使えるもの」ではありません。 導入にあたっては、以下の法的要件とルールを厳守する必要があります。
① 労使協定の締結が必須(就業規則への記載も必要)
時間単位有休を有効に機能させるためには、事前に「労使協定」を締結しなければなりません。労使協定が締結されていない状態では、たとえスタッフから要望があっても、時間単位での有休を取得させることは法律上できません。
② 年間の取得上限は「5日以内」
時間単位有休として取得できる上限は、1年で5日以内と法律で定められています。 具体的な時間数は、そのスタッフの1日の所定労働時間によって計算されます。
-
1日の所定労働時間が8時間の場合: (年間40時間まで)
-
1日の所定労働時間が7時間の場合: (年間35時間まで)
この上限を超えた場合は、時間単位での取得は認められず、通常の「1日単位」または「半日単位」で取得させる必要があります。
2. 寝坊による遅刻を「時間単位有休」に振り替えるべきか?
では、本題である「スタッフが寝坊して遅刻した時間を、時間単位有休に振り替えたい」と申し出てきた場合の対応について考えてみましょう。
有給休暇は「事前申請」が原則
法律上、有給休暇は労働者が「事前に時期を指定して請求するもの」です。そのため、遅刻が確定した後や、出勤後に行われる「事後申請」を認めるかどうかは、基本的にはクリニックの院長や施設長の裁量(判断)に委ねられます。「事後申請の有休は一切認めない」というルールにすることも、法的には可能です。
現実的な運用と「寝坊」の境界線
実際のクリニックや介護施設・保育園の現場では、突発的な体調不良や、子どもの急な発熱、公共交通機関の遅延といった「やむを得ない理由」による遅刻・欠勤に対しては、事後申請であっても有休への振り替えを認めるケースが一般的です。
しかし、「寝坊」に関しては、有休への振り替えを認めるべきではありません。
なぜ寝坊による有休振り替えを認めてはならないのか?
最大の理由は、「職場の規律(モラル)が乱れる原因になるため」です。
「遅刻をしても、有休に振り替えれば給与も減らないし、怒られない」という安易な考え方がスタッフの間に蔓延してしまうと、遅刻に対する罪悪感が薄れ、真面目に出勤している他のスタッフのモチベーション低下を招きます。特にクリニックや介護・保育の現場は、1人の遅刻が現場の回し方(患者対応、シフト、園児の受け入れなど)に直結するため、チーム全体の負担に繋がります。
事後申請であっても「理由によっては有休への振り替えを認めない(欠勤または遅刻控除とする)」という運用を、事前に就業規則などで明確に規定しておくことが重要です。
3. 院長・経営者が必ず知っておくべき「時間単位有休」3つの注意点
時間単位有休を運用・管理するにあたり、クリニックの院長や施設長が勘違いしやすい、法的・実務上の注意点を3点解説します。
① 1日単位への変更を「強制」することはできない
スタッフが「時間単位有休(例:2時間)」を申請してきた場合、経営者側の都合で「中途半端だから1日休んでほしい」と、1日単位への変更を強制することはできません。逆のパターン(1日有休の申請を、時間単位に変更させること)も同様に不可です。有休の単位を変更できるのは、あくまでスタッフ本人の同意・希望がある場合に限られます。
② 「年5日以上の有休取得義務」の5日分にはカウントされない
2019年から、年10日以上の有休が付与される従業員に対して「年5日以上の有休を取得させること」が義務化されました。 ここで非常に重要なのが、時間単位で取得した有休は、この「義務化された5日」には一切カウントされない(含めることができない)という点です。
例えば、あるスタッフが年間で計24時間(日換算で3日分)の時間単位有休を取得したとしても、別途「1日単位」または「半日単位」で5日以上の有休を取得させなければ、法律違反(罰則の対象)となってしまいます。
③ 前年度の繰り越し分があっても、上限は「年間5日以内」
有休には2年間の時効があるため、前年度に使い切れなかった有休は翌年度に繰り越されます。しかし、時間単位有休の取得上限は、前年度の繰り越し分を含めても「年間5日以内」となります。
【間違えやすい具体例】
前年度の使い残し:2日と4時間
今年度新規付与分の枠:5日
この場合、足し算をして「今年は7日と4時間まで時間単位で取れる」ということにはなりません。前年の残りがあろうとなかろうと、その年度に時間単位として消化できるのは「最大5日分まで」となります。
4. 医療・介護・保育の現場に求められる適切な就業規則と労務管理
クリニック、介護施設、保育園は、いずれも「人」がサービスを提供する業界です。スタッフが安心して働ける環境を整えつつ、健全な組織体制を維持するためには、グレーゾーンを作らない明確なルール設計が不可欠です。
-
遅刻や欠勤時の有休振り替えルールを明確にする(どのような場合に事後申請を認めるか、就業規則やマニュアルに明記する)
-
時間単位有休の労使協定を正しく締結・運用する
-
有休管理簿を整備し、義務化された「年5日」の未達を防ぐ
これらの労務管理を誤ると、スタッフ間の不公平感から離職に繋がったり、労働基準監督署からの是正勧告を受けたりするリスクが高まります。
まとめ:業界特化の社労士へお気軽にご相談ください
時間単位有休は、正しく運用すればスタッフの定着や採用力の強化につながる素晴らしい制度です。しかし、通常の有給休暇とは異なる複雑なルールが多いため、トラブルを未然に防ぐためには制度設計を正確に行う必要があります。
「うちのクリニックの就業規則で、寝坊のペナルティは課せる?」 「介護・保育のシフト制現場で、時間単位有休をスムーズに回すには?」
このようなお悩みがございましたら、業界特化の社労士である当事務所へお気軽にご相談ください。それぞれの業界特有の事情に合わせた、最適な労務管理ソリューションをご提案いたします。
💡 関連ページのご案内(あわせてお読みください)
ベースアップ評価料は6月から、「継続的に賃上げを実施している医療機関かどうか」で評価が分かれる仕組みとなります(2026年5月号参照)。まだ届出をしていない医療機関等にも、高い点数を算定できる道が示されました。
「継続的な賃上げ実施」を満たすには?
6 月からは「継続的に賃上げを実施する保険医療機関」が高い点数を算定できます。ここに含まれるのは、まず「2026年3月31日時点でベースアップ評価料を届け出ている保険医療機関」です。この場合、同日時点でベースアップ評価料を算定している必要があります。
2026 年3月までにベースアップ評価料を届け出ていなかった場合でも、それに相当する賃上げを行った場合には、同様の高い点数を算定することができます。この場合、2026年度改定においてベースアップ評価料で求められる賃上げ水準(①)に、2024年度改定で求められていた賃上げ水準2.3%(②)を加えた水準の賃上げを行うことが条件となります。
■2026年3月までに届け出ていなかった場合の
「継続的に賃上げを実施する保険医療機関」の要件
①2026年度改定
が求める水準
+
②
2024年度改定
が求める水準
=
継続的な
賃上げ実施
の要件
このとき、算定対象となる職員(医師・歯科医師は含まれません)を、「看護補助者・事務職員」群と「それ以外の職員」群に分け、基本給等の総額を2024年3月時点と比較し、改善額を算出します。この改善額が、下表に示す割合以上※のとき、「相当する賃上げを行った」と判断されます。
■2026年度 (2026年6月~2027年5月)
看護補助者・事務職員 ①5.7%+②2.3%=8.0%
それ以外の職員
①3.2%+②2.3%=5.5%
■2027年度 (2027年6月~2028年5月)
看護補助者・事務職員 ①11.4%+②2.3%=13.7%
それ以外の職員
①6.4%+②2.3%=8.7%
両群を合わせた改善額が、両群に求められる額の合計以上となっていれば、要件を満たすことになります。
なお、2026 年 3 月までにベースアップ評価料を届け出ていない場合は、改善額について、2024 年 3 月時点との比較を算出し、所定の様式に記載して届け出ることが必要となります。手続きや様式等の詳細は、厚生労働省のホームページでご確認ください。
参考:厚生労働省 令和8年度診療報酬改定について
財務省としての意見を発信する「財政制度分科会」が開催
年度が変わり、いよいよ2027年度法改正に向けての各論議論が展開され始めようとしている2026年5月。そんな折、「持続可能な社会保障制度の構築」というテーマに基づき、財政制度分科会が4月28日に開催されました。“国の金庫番”とも呼べる財務省が介護業界に対し、どのような改革案を突き付けているのか?今回は同省が作成した資料の中で特に介護事業者に関連するであろう論点の中から抜粋し、特に注視・認識しておいた方が良いと思われる10個の内容を採り上げ、お届けしてまいります。
財政制度分科会で採り上げられた、財務省から見た介護業界に対する見立て(意見)とは
では、早速、中身に移ってまいりましょう。ここでは本分科会で示された資料から抜粋・紹介する形で進めてまいります。先ずは、利用者負担の2割負担の範囲拡大についてです。(財務省の意見として認識しておいた方が宜しい箇所を太字・下線で強調しておりますのでご確認下さい)。
|
○介護保険制度が2000年に創設されてから四半世紀が経過した。高齢者を社会全体で支え合うという役割を果たしてきた一方で、高齢化の進展により介護費用・保険料は大幅に増加しており、制度の持続可能性が危ぶまれる状況にある。 ○今後、現役世代の保険料負担の増加を抑制しつつ、制度の持続可能性を確保するため、令和9年度介護報酬改定に当たり、高齢化・人口減少下での負担の公平化や、給付の効率化・適正化を実施すべき。特に、保険料が増加する一方で、利用者負担がほぼ横ばいで推移していることを踏まえると、負担能力に応じた負担の在り方について検討するべき。 |
|
○介護保険の利用者負担については、2割・3割負担の導入を進めてきたが、今後も、高齢化による介護費用の増加が見込まれる中で、給付と負担のバランスを確保し、保険料の伸びの抑制を図る観点から、利用者負担の更なる見直しを進めていくことが必要。 ○具体的には、負担能力に応じて、増加する介護費用をより公平に支え合う観点から、2割負担の対象者の拡大を図るべき。 |
|
○利用者負担の2割負担の範囲拡大については、年収基準を引き下げ、配慮措置について、案1:負担増を当分の間、最大月0.7万円に抑える、案2:預貯金が一定額以下の者は、申請により1割負担に戻す、という案で検討を進めてきた。令和8年度予算の大臣折衝において「令和9年度の前までに結論を得る」とされたことに基づき、早急に結論を得て実施すべき。 ○今回の範囲拡大の目安とされた年金収入230~260万円という層は、介護サービスの利用者に占める割合としては限定的であり、現役時代の給与収入が730~870万円だった、大企業の課長~部長級まで昇進した層に相当し、こうした層は相応の金融資産を保有していることが多く、(2号保険料を負担する現役世代と比べても)一定の負担能力があると考えられる。 |
|
○新たに2割負担になる際の負担増に関して、介護保険には、高額介護サービス費という、利用者負担額が上限(4.4万円/月)を超えた場合、超えた分を払い戻しする制度があるため、相対的に利用者負担が大きい施設介護の利用者(利用者負担は平均3.2万円/月)については、負担額が上限に達し、負担増額が抑えられる(負担増額は平均1.2万円/月)ことに留意が必要。 ○医療保険と合わせた負担に関しては、高額医療介護合算サービス費という、医療・介護の利用者負担額が上限(56万円/年。月換算で4.7万円)を超えた場合、超えた分を払い戻しする制度があるため、負担額が高額介護サービス費の上限(4.4万円/月)に達しているような利用者については、追加で負担する医療保険の負担額は限定的であり、外来特例の見直し等の医療保険の給付と負担の見直しと合わせても、過度な負担増にはならないと考えられる。 ○利用控えに対する懸念に関しては、過去、2割負担・3割負担導入による介護サービス利用への影響は限定的であり、一定以上の所得・資産のある利用者に対して、2割負担の範囲を一定程度拡大したとしても、介護サービスの利用控えに与える影響は限定的と考えられる。 |
続いて、ケアマネジメントの利用者負担と給付の在り方についてです。
|
○ケアマネジメントについては、利用者負担を求めてこなかったが、登録制の対象となる住宅型有料老人ホームの入居者に係る新たな相談支援の類型を設けた上で、利用者負担を導入することとしている(今国会に提出している「社会福祉法等の一部を改正する法律案」に規定)。住宅型有料老人ホームについては、ケアマネジメントの利用者負担の導入に関する、施設介護と在宅介護との不均衡や、ケアマネジメントの役割軽視が、特に問題となっており、確実に利用者負担を導入すべき。 ○介護報酬は、利用者の要介護度が進むにつれて報酬が高くなる構造(注)だが、利用者のwell-beingや給付費抑制の観点からは、本来、要介護状態からの自立や、要介護度の改善を促進する構造にすべき。ケアマネジメントの報酬における自立・要介護度改善へのインセンティブ付けを検討すべき。 (注)例えば、ケアマネジメントの労働投入時間は、要支援1に対して要介護5は1.4倍だが、基本報酬は3.0倍となっている。 |
続いて、補足給付の見直しについてです。
|
○介護施設に入居する低所得者の食費・居住費を軽減する仕組みである「補足給付」については、2005年にそれまで介護給付とされてきた食費・居住費が給付の対象外となったところ、介護施設に低所得者が多くいることを踏まえ、経過的に設けられたもの。その後、預貯金要件の追加や、所得区分の設定の精緻化など、累次の見直しが実施されてきた。令和8・9年度においても、所得区分の設定の精緻化と負担限度額のバランスをとる措置を実施する。 ○在宅で暮らす介護サービス利用者は、食費・居住費を全額自己負担していることを踏まえると、補足給付は公平性を欠く制度といえる。また、介護給付の対象外となった食費・居住費を軽減するという、低所得者対策としての側面が強い施策を、介護保険財源で実施し続けることは合理性を欠いており、引き続き見直しを実施するべき。 |
続いて、老健施設等の多床室の室料負担の見直しについてです。
|
○介護施設の費用については、2005年度に、食費と個室の居住費(室料+光熱水費)を介護保険給付の対象外とする見直しを実施(多床室は食費と光熱水費のみ給付対象外)。2015年度に、介護老人福祉施設(特養老人ホーム)の多床室の室料負担を基本サービス費から除く見直しを実施。 ○しかし、介護老人保健施設・介護医療院の多床室については、室料相当分が介護保険給付の基本サービス費に含まれたままだった。2024年度介護報酬改定において見直しが行われたが、新たに室料負担が導入された対象施設は一部に限定。 |
|
○介護医療院は、介護老人福祉施設(特養老人ホーム)と同様、家庭への復帰は限定的であり、利用者の「生活の場」となっている。 ○介護老人保健施設は、施設の目的が「居宅における生活への復帰を目指すもの」とされ、少なくとも3か月毎に退所の可否を判断することとされているが、一般的な医療機関でも長期入院の基準が180日となっている中、介護老人保健施設の平均在所日数は400日を超えている状況。 ○さらに、入所当初の利用目的が「他施設への入所待機」等という利用者が3割となっており、長期入所者の退所困難理由でも「特養の入所待ちをしている」が38%、「家族の希望」が25%となっている。 ○こうした利用実態等を踏まえ、居宅と施設の公平性を確保する観点から、介護老人保健施設・介護医療院のうち、2024年度介護報酬改定において室料負担の導入が見送られた類型についても、多床室の室料相当額を基本サービス費等から除外する見直しを実施することが考えられる。 |
続いて、令和9年度介護報酬改定に向けてについてです。
|
○令和9年度介護報酬改定において、賃金・物価動向の変化に的確に対応する必要がある。 ○賃金に関しては、令和9年度の定例改定を待たず、令和8年度に期中改定を行い、介護現場の生産性向上を促進しつつ、介護分野の職員の処遇改善を実施する措置を講じた。介護人材の確保と、保険料負担の抑制の両立に向けて、介護報酬による賃上げのみならず、介護現場が生産性向上に取り組み、対応可能な利用者が増え、収益が増加することで、職員の賃上げと、さらなる生産性向上投資につながる、という好循環を実現することが重要。 ○介護サービスの利益率については、足元で、物価上昇の影響がある中でも、過去や他産業と比較して高い水準にあり、かつ、サービス類型ごとに大きな差がある状況。令和9年度改定においては、サービス類型や、サービス提供の実態に応じて、介護報酬を適正化する必要。 |
続いて、介護現場の生産性向上(経営の協働化・大規模化)についてです。
|
○介護現場の生産性向上に向けては、事業所ごとの介護テクノロジーの導入(前回の財審で詳述)に加えて、事業所間のデータ連携により、ケアプランのやりとりをオンラインで完結する仕組みである「ケアプランデータ連携システム」の導入や、複数の社会福祉法人が参画し、各法人の自主性を保ちながら経営を協働化する「社会福祉連携推進法人」の設立等による経営の協働化・大規模化を推進していくべき。 ○こうした観点から、R7補正・R8改定における介護職員の賃上げの上乗せ措置について、訪問・通所系サービスでは、「ケアプランデータ連携システム」の導入か、「社会福祉連携推進法人」への所属が要件とされたところ。(注) このことを受けて、「ケアプランデータ連携システム」の導入割合が足元で顕著に上昇しており、職員の賃金の部分で生産性向上の取組をインセンティブ付けすることが効果的であることが示唆される。R9改定では、こうした取組の効果を踏まえて、さらなる生産性向上につながるよう、例えば、訪問・通所系サービスについて、介護記録ソフトなどの介護テクノロジーの導入も要件に追加するなど、要件の在り方を検討すべき。 (注)施設系サービスについては、介護テクノロジーの導入等が要件となっている「生産性向上推進体制加算」の取得か、「社会福祉連携推進法人」への所属が要件とされた。 |
続いて、住宅型有料老人ホームにおける介護報酬の適正化についてです。
|
○住宅型有料老人ホームにおいては、併設しているケアマネジメントや訪問介護の事業所によるサービス提供が行われるケースが多く、点在する利用者宅に個別に訪問する場合と比べて、一カ所で集中的にサービス提供ができるため、移動時間をはじめ、利用者1人当たりの労働投入時間が少ない。 ○事業所と同一敷地内に居住する利用者にサービス提供する場合、「同一建物減算」が適用されるが、減算率は限定的(注)であり、住宅型有料老人ホームでサービスを提供する事業者は、利用者宅に訪問する事業者に比して、対労働投入時間で多く介護報酬を得ており、収支差率も良い傾向にある。(注)同一建物減算の減算率は、ケアマネジメントは▲5%、訪問介護は▲10~15%。 ○令和9年度介護報酬改定において、住宅型有料老人ホームにおいて提供されるケアマネジメント(新たな相談類型)・訪問介護について、点在する利用者宅に個別に訪問する場合との、サービス提供の実態の違い等を踏まえて、介護報酬を適正化すべき。 |
続いて、インセンティブ交付金の在り方の見直しについてです。
|
○インセンティブ交付金(保険者機能強化推進交付金・介護保険保険者努力支援交付金)は、市町村・都道府県の、平均要介護度の変化等のアウトカム指標等に応じて交付する、介護予防等の事業に活用できる交付金である。 ○平均要介護度の変化等は、地域ごとの人口構造等の変化による部分も大きく、自治体の取組により改善するかは不透明であり、改善するとしても一定の期間を要すると考えられる。したがって、自治体が、交付額を増やすために介護予防に取り組むというインセンティブ構造が機能していないのではないか。 ○また、インセンティブ交付金は、毎年交付額が異なるため、自治体にとって安定的な財源と見なすことができず、事業の拡充や新規事業にはほとんど活用されずに、その8割以上が第1号保険料の削減のために活用されており、交付金により介護予防に取り組むという好循環が生まれていない。 ○したがって、インセンティブ交付金は縮小の上、自治体独自の取組を促進する役割を果たしている保険者機能強化推進交付金の「成果指向型配分枠」に重点化するなど、効果的な介護予防の推進と、保険者機能の発揮に資する見直しを実施すべき。 |
続いて、軽度者に対する生活援助サービス等の地域支援事業への移行についてです。
|
○要支援者に対する訪問介護・通所介護については、地域の実情に応じた多様な主体による効果的・効率的なサービス提供を行う観点から、地域支援事業へ移行(2018年3月末に移行完了)。 ○今後も介護サービスの需要の大幅な増加が見込まれる中、生活援助型サービスをはじめ、全国一律の基準ではなく、人員配置や運営基準の緩和等を通じて、地域の実情に合わせた多様な人材や資源の活用を図り、必要なサービスを効率的に提供するための枠組みを構築する必要。 ○介護の人材や財源に限りがある中で、要介護者の中でも専門的なサービスをより必要とする重度の方へ給付を重点化していくとともに、生活援助等は地域の実情に応じて効率的に提供していく必要。このため、軽度者(要介護1・2)に対する訪問介護・通所介護についても地域支援事業への移行を目指し、段階的に、生活援助型サービスをはじめ、地域の実情に合わせた多様な主体による効果的・効率的なサービス提供を可能にすることが考えられる。 |
最後は、保険外サービスの活用についてです。
|
○今後も増大し続ける多様な介護需要に対して、介護保険事業と介護保険外の民間企業による関連サービスで対応していくことが有益と考えられる。 ○介護保険事業者が保険内と保険外のサービスを柔軟に組み合わせてサービス提供することは、高齢者の多様なニーズに応え、国民の利便性向上に資するだけでなく、事業者にとっても効率的なサービス提供や、収益の多様化、経営基盤の強化に資すると考えられ、職員の賃上げにも還元可能。 ○現在、利用者保護や保険給付の適正な担保の観点から、サービスの明確な区分や説明責任の徹底といったルールを順守することで、介護事業者は保険内外のサービスを組み合わせて提供可能。しかし、介護事業者による保険外サービスの活用に当たっては、自治体によってルールの解釈が異なり、保険外サービスが認められないところもある(いわゆるローカルルール)、といった声も聞こえる。 ○ 自治体のローカルルールの実態把握を行った上で、国民の利便性向上に資するよう、介護保険外サービスの柔軟な運用を認めるべき。 |
国策の“風”を読み取り、早め早めの準備を
以上、財政制度分科会内の資料「持続可能な社会保障制度の構築(財政各論Ⅱ)」より、介護事業者に直接関係のある部分から抜粋してお伝えさせていただきました。本内容は国全体の方針ではなく、あくまで「財務省」という一省庁の意見である、ということはしっかり認識しておく必要はあろうかと思いますが、それでも財務省の挙げる声には一定の重みがあることも否めない事実だと思われます。
事業者としては上記内容を踏まえつつ、「もしこれらの施策が実行された場合にどう対応するか?」について事前に頭を働かせておくことが重要だと言えるでしょう。私たちも今後、引き続き、本テーマを含め、より有益な情報や事例を入手出来次第、皆様に向けて発信してまいります。
※上記内容の参照先URLはこちら
↓






