「辞める」と言い続ける職員にどう対応する?退職扱いにできるかを社労士が解説

 

「少し気に入らないことがあるとすぐに『辞める』と言い出す職員がいる」
介護施設、保育園、クリニックの現場で、このような相談は非常に多く寄せられます。

周囲の士気を下げ、業務にも支障をきたすため、「いっそ本当に辞めてもらえないか」と考える経営者・管理職も少なくありません。

では実務上、「辞める」と発言した事実だけで退職扱いにすることはできるのでしょうか。
結論から言うと、一定条件を満たせば可能ですが、慎重な判断が必要です。

本記事では、トラブルを防ぎながら適切に対応するためのポイントを、判例と実務の視点から解説します。


退職の成立は「誰に伝えたか」で大きく変わる

まず重要なのは、「辞める」という発言が誰に対して行われたかです。

権限者に伝えた場合

院長、施設長、理事長、事務長など、人事権を持つ者に対して退職の意思を伝えた場合は、口頭であっても退職の申し出と評価される可能性があります。

つまり、この時点で「退職の意思表示」が成立していると判断される余地があります。

同僚や先輩に話しただけの場合

一方で、同僚や先輩職員などに対して「もう辞める」と話しただけでは、
法的な退職意思表示とは認められません。

現場ではよくあるケースですが、この段階で会社側が「辞めると言っていたから退職扱いにした」という対応をすると、後にトラブルになるリスクが高いです。


判例から見る「退職の成立」と「撤回」

退職を巡るトラブルでは、過去の裁判例が重要な判断基準となります。

① 退職が成立し、撤回できないケース

最高裁判例(昭和62年9月18日)では、

人事部長が退職願を受理したことは、会社側の承諾にあたる

とされ、退職は合意解約として成立し、その後の撤回は認められないと判断されています。

つまり、

  • 労働者が退職の意思を示す
  • 使用者側がそれを承認する

この2つが揃えば、退職は確定します。


② 撤回が認められるケース

一方、岡山地裁(平成3年11月10日)では、

人事権のない職員が退職届を預かっただけでは承諾とはいえない

とされ、退職の撤回が認められました。

この判例から分かるのは、

👉「誰が受け取ったか(承認権限の有無)」が極めて重要

という点です。


「辞める発言」で退職扱いにするための実務ポイント

では、問題の職員が会議や面談で「辞めます」と発言した場合、どう対応すべきでしょうか。

結論として、適切な手続きを踏めば自己都合退職として扱うことは可能です。

ただし、以下の対応を怠ると、後で「言っていない」「本気ではなかった」と争われるリスクがあります。


① 退職意思の“念押し”を必ず行う

感情的な発言なのか、本気の意思なのかを明確にする必要があります。

具体的には、以下のように確認します。

  • 「今の発言は退職の意思で間違いありませんか?」
  • 「正式に退職するという理解でよろしいですか?」

この確認を曖昧にすると、後で撤回を認めざるを得ない可能性が高まります。


② 退職日をその場で確定させる

退職意思が確認できたら、退職日を具体的に決めることが極めて重要です。

  • 「いつ付けで退職しますか?」
  • 「最終出勤日はいつにしますか?」

退職日はトラブルの火種になりやすいため、その場で明確に合意しておく必要があります。


③ 必ず書面(退職届)を提出させる

口頭でも退職は成立する可能性がありますが、実務上は非常に危険です。

必ず以下を行いましょう。

  • 退職届の提出
  • 日付・署名の確認
  • コピー保管

これにより、「言った言わない」の争いを防ぐことができます。


よくある誤解:「口頭だから無効」は間違い

現場では、

「書面がないから無効では?」

という誤解が多く見られます。

しかし実際には、口頭でも退職の意思表示は有効です。

重要なのは、

  • 明確な意思表示があったか
  • 会社側が承認したか

という点です。


注意点:安易な“退職扱い”は逆にリスク

「辞めると言ったから辞めさせた」と安易に処理すると、以下のリスクがあります。

  • 不当解雇と主張される
  • 損害賠償請求
  • 労基署・労働局対応

特に、感情的発言をそのまま退職扱いにするのは危険です。


実務対応の結論(現場で使える判断基準)

問題職員への対応としては、次のように整理できます。

  • 同僚への発言 → 無効(様子見)
  • 管理職への発言 → 要確認
  • 明確な意思+承認 → 退職成立

そして最も重要なのは、

👉「記録を残すこと」

です。


まとめ:感情的な「辞める」に振り回されないために

「辞める」と繰り返す職員への対応は、現場のストレス要因になりがちです。

しかし、法的にはシンプルで、

  • 誰に言ったか
  • 本気かどうか
  • 承認されたか

この3点で判断されます。

適切に対応すれば、不要なトラブルを防ぎながら、組織運営を安定させることができます。


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