「人を大切にする会社しか残らない」 ケア21に学ぶ職員が集まる介護現場の作り方

《 株式会社ケア21・依田平代表取締役会長/CCO 》

「企業文化は戦略に勝る」。ピーター・ドラッカーの言葉だ。これを大切にして成長を続けている介護事業者がいる。ケア21。主力は訪問介護、グループホーム、有料老人ホームなどで、他のサービスも合わせた施設・事業所の総数はグループで全国550件超にのぼる。

掲げている企業文化の1つが、「人を大事にし、人を育てる会社」。激化する人材確保の競争とどう向き合うべきか学ぶため、依田平会長を尋ねた。あわせて、今後の業界の変遷をどう予見しているかも伺った。


「これからは人を大事にする会社しか残らない」。そう笑顔で語った依田会長は、100年続く老舗企業を創りたいと意欲をみせた。

◆ 原点は小4の時の作文


  −− こんにちは。はじめまして、どうぞよろしくお願いいたします。


ありがとうございます! どうぞよろしくお願いいたします。


  −− 現在はCCO、最高文化責任者というお立場ですが、主にどのような職責と向き合っておられるのでしょうか?


このCCOという役職を設ける企業は、アメリカはもちろん日本でも増えてきています。我々もやはり、優れた経営戦略を策定・遂行していくことだけでなく、より良い社風を持つことが非常に大切だと考えています。企業として業績を上げ、幅広く社会に認めて頂けるように成長するためには、多くの方に支持される社風づくり、文化づくりが欠かせません。


我々は「人を大事にし、人を育てる」「福祉理念と市場原理の融合」「常に考え、変わり続ける」「最高のサービスの提供」などを掲げ、その具体化を目指してきました。これらを体現することが、弊社で働く職員の皆さんの幸せにつながり、サービスを受ける利用者さんの喜びにつながり、結果として社会全体を良くすることにつながっていく − 。そんな良い循環を生み出すことを主な仕事にしています。


  −− 介護・障害福祉の事業をはじめたきっかけを教えてください。


私は商売人の家系に生まれました。会社を経営している身内が多く、食事の時もいつも仕事の話ばかりしているような家族でした。


原点はおそらく、小学4年生の時の作文ですね。将来の夢として「株式投資で大儲けする」と書いて、当時の先生に呼び出されたんです。

《 株式会社ケア21・依田平代表取締役会長/CCO 》

「金儲けもいいが、人間はそんなことのためだけに生きるんじゃない。世のため人のために尽くすことが、人間の生きがい、喜びなんだ」。そんな趣旨のことを力説されました。最初は「この人なに言ってんだ」という気持ちだったのですが、やがてよく理解できるようになったんです。


その先生からは本当に多くのことを教わりました。私はこれまで様々な仕事をしてきましたが、先生の言葉がいつも心の奥底にあったんです。


  −− 現在、目標としていることがあれば教えて下さい。


これは創業の時からなのですが、長く続いていく老舗企業を作りたいなと思っています。少なくとも100年続く会社にしていくことが目標です。


実はそのために、世にある老舗企業を私なりに真剣に調査・研究したんですよ。なぜ長く続けることができるのか、見つけた共通点は大きく3つでした。

《 株式会社ケア21・依田平代表取締役会長/CCO 》

1つは経営理念に重きを置くこと。利益を出すことを目的とせず、理念を達成するために利益を出すと考えることが大切なんですね。


2つ目は、人を大事にするということ。お客さんはもちろん、取り引き先の方々、従業員の方々、広く社会の方々、全てです。


3つ目は常に変わり続けるということ。老舗は不変というイメージがありますが、実は改善すべきところをドラスティックに変えている企業が多いんです。我々の会社では、私なりに見つけたこうした老舗の特徴を取り入れています。


◆ カギは「貢献」と「成長」


  −− 今の介護業界の課題をどうみていますか?


そうですね…。かなりたくさんありますが、やはり人材不足が最も深刻ではないでしょうか。介護報酬の水準が十分でない、ということが大きな要因の1つだと捉えています。


国にはぜひ改めて頂きたいですし、業界としても一致団結して訴えていかなければいけません。事業者としては厳しい環境ですが、とにかくできることを精一杯するしかありません。

《 株式会社ケア21・依田平代表取締役会長/CCO 》

  −− 御社では人材確保にどう向き合っているか、教えて下さい。


給与面も含めて働く条件、環境を良くしていくことがやはり重要です。テクノロジーの有効活用など施策を総合的に講じるわけですが、私は多くの職員が気持ちよく、楽しく働ける職場を作ることが非常に重要だと考えています。


それをどう実現していくのか − 。例えば人生の喜び、または仕事の充実感などは「貢献」と「成長」に起因するという教えがあります。この2つが満たされると幸せを感じる、という話ですが、これは的を得ているのではないでしょうか。


介護の仕事は日頃から、「貢献」を感じやすいという特徴があるんです。利用者さんやご家族から「ありがとう」と言われると嬉しくなる、という職員は少なくないですよね。

−− そうですね。


では「成長」はどうか。資格取得など様々な方法がありますが、重要な要素の1つは他の職員に仕事を教える立場につくことではないでしょうか。それが「成長」を最も感じられる機会だ、と我々は捉えています。


ですから、キャリアアップの仕組みを作って積極的にリーダーになって頂く。最小単位のリーダーから副主任、主任、管理者、施設長など立場が上がるに連れて、もちろん処遇も上がっていく仕組みです。

最近の若い人の中には、できればリーダーになりたくない、管理職になりたくないという人もいますよね。それはきっと、仕事の量と重い責任だけがついて回るイメージがあるからではないでしょうか。


そうではなくて、人生を豊かにするために、仕事を楽しく続けるために「成長」が不可欠で、それを実現する最も良い方法がリーダーになることなんだ、と理解して頂くことに尽力しています。


  −− 人材確保の具体策として、他に何か力を入れていることはありますか?


そうですね。大前提として処遇改善、賃上げが重要なのですが、他に1つあげるとすれば定年制の撤廃でしょうか。弊社では基本的に元気なら何歳でも働けます。


今、他の業界で年齢を重ねてきた方、近く定年を迎える方など50代以上の応募が増えています。可能なら早めに定年制のない会社へ移ろう、と考える方が多いんですね。


我々はそうした人材を、本人が希望すれば正社員として採用しています。70歳まで、75歳まで、あるいはもっと先まで、可能な限り働いていこうとやる気のある方も少なくありません。自分の定年って本来、自分で決めるべきことですよね。我々はそういう方々を応援しており、貴重な戦力として活躍して頂いています。

−− 中高年は人口も多いですから、活躍してもらえればありがたいですよね。


はい。例えば年金の受給開始年齢など、彼らには彼らの事情があるわけです。できるだけそれに合った環境を用意することが重要、と言えるでしょう。


いずれにせよ、人を大事にしない限り人は集まってきません。人材確保が難しさ増す中でこれは必須条件。これからは人を大事にする会社しか残れないでしょう。


◆「大規模化の流れには戸惑いも感じる…」


  −− それでも人材難は徐々に深刻化していく見通しです。業界の今後をどうみていますか?


将来を見通すことは簡単ではありません。ただ、生き残りをかけた戦いが更に激しくなっていくことは考えられます。規模の小さな事業者は、どうしてもより厳しい戦いを強いられるでしょう。

小規模な事業者は、ICTなどテクノロジーの導入、職場環境の改善に向けた十分な先行投資ができません。職員の教育・研修にかけられるリソースも限定的で、良い待遇を用意してあげる余力がほとんどないんですね。一方で大手は違います。これから選ばれる環境作りに力を入れており、その差は開いていかざるを得ないでしょう。


  −− そうかもしれません。


小規模な事業者が淘汰される、吸収されるという傾向は既に顕在化しています。M&Aなどが盛んに行われている現状も、業界の方ならよく知っていることでしょう。国も大規模化を推進する立場で、この流れが大きく変わる可能性は低いと考えられます。

私は戸惑いも感じます。その規模は小さくても、きらりと輝いている事業所、欠かせない活躍をしている方々がいることはご存知でしょう。地域で良質なサービスを提供している志ある方々が軽視され、厳しい立場に追いやられていく状況は好ましくありません。効率化の名のもとに、そうした方々の思いが失われていくような事態になれば、結果として地域共生社会は成り立たなくなると危惧します。


ただ、今の介護報酬の水準が大きく変わるようなことが起きない限り、そうした大規模化の流れは止まらないでしょう。悲しいことではありますが、私が懸念することも現実になりかねません。


  −− 今後、大企業の御社はどのように事業を展開していきますか?


我々はいわゆる上場企業ですが、「福祉理念と市場原理の融合」という理念も掲げています。主力事業として介護・福祉サービスを提供しているということもあり、弱肉強食の世界を勝ち抜くということだけでない価値を創造したいと思っています。


「新しい資本主義」という言葉もありますが、社会も徐々にそうした方向を求めるようになってきているのではないでしょうか。競争で相手に勝てばいい、お金を稼げばいいということではない、と感じる方が増えています。我々もそうした信念を持って、皆で支え合う社会を作る前向きな動きにコミットしていきたいと思います。


  −− ありがとうございました。(介護ニュースより)

介護業界の経営 | 社会保険労務士法人ヒューマンスキルコンサルティング (hayashi-consul-sr.com)

お電話でのお問い合わせ

03-6435-7075(平日9:00~18:00)

営業時間外のお問い合わせはこちらから

相談・ご依頼の流れはこちら