介護

介護事業所様向け情報(労務)10月号②

短縮される雇用保険の基本手当の給付制限期間

会社を退職し転職活動をするような場合には、雇用保険の基本手当を受給するケースが多いかと思います。基本手当は就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、職業に就くことができない状態にある場合に支給されるものですが、離職理由によっては一定の期間、基本手当を受け取れない期間が設けられています。今回、この取扱いが変更されることとなりました。

1.待期期間と給付制限期間

雇用保険の基本手当は、会社がハローワーク(公共職業安定所)で手続きをした雇用保険被保険者離職票を、従業員が退職後にその住所地のハローワークに持参し、受給手続きをすることにより支給されます。

受給手続きを行った後には7日間の待期期間があり、待期期間後に原則として4週間に1回失業していることの認定を受けて、基本手当が支給されます。

ただし、自己の責に帰すべき重大な理由で退職した場合(以下「懲戒解雇による退職」という)と、正当な理由のない自己都合により退職した場合(以下「自己都合による退職」という)には待期期間後、一定期間基本手当が支給されない給付制限期間が設けられています。

2.短縮される給付制限期間

給付制限期間は3ヶ月間となっていますが、2020年10月1日以降の自己都合による退職の場合、この給付制限期間が2ヶ月間に短縮されます。短縮される退職は5年間のうち2回までであり、3回目の退職以降の給付制限期間は3ヶ月間となります。

なお、懲戒解雇による退職の給付制限期間は、これまでどおり3ヶ月間のままです。

3.正当な理由のある自己都合退職

給付制限期間が設けられるのは、1.で示したとおり正当な理由のない自己都合による退職ですが、退職理由には「正当な理由のある自己都合退職」もあります。例えば結婚に伴う住所の変更や、会社が通勤困難な場所へ移転したこと等がこれに該当します。正当な理由のある自己都合退職の場合には、給付制限期間は設けられていません。

 

給付制限期間は従業員が退職した後のことになるため、会社に直接関係はしませんが、自己都合による退職の場合であっても、給付制限期間なく基本手当を受け取りたいという従業員は多くいるものです。離職理由についてはトラブルになりやすいため、退職時にしっかりと確認するとともに、給付制限期間のルールも押さえておきましょう。

(次号に続く)

(厚労省が雛形を提示)従業員勤務体制と勤務形態一覧

先月末、全サービスの厚労省が発表した

介護サービス別 

 

“従業者勤務体制及び勤務形態一覧表”

 

の参考様式が公表されました。

事業所の勤怠、シフト管理、労働時間管理の雛形

として参考になるものと思いますので共有化させて

頂きます。

https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou/detail?gno=7443&ct=020060090

介護事業所様向け情報(労務)10月号①

2020年度の最低賃金40県で1円~3円の引上げに

1.最低賃金の種類と改定タイミング

賃金は都道府県ごとに最低額(最低賃金)が定められており、企業はその額以上の賃金を労働者に支払うことが義務付けられています。

この最低賃金には、都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。このうち「地域別最低賃金」は毎年10月頃に改定されることになっており、2020年度についても全都道府県の各地方最低賃金審議会で調査・審議が終了し、「地域別最低賃金」の改定額が決定しました。

2.今年度の地域別最低賃金と発効日

2020年度の地域別最低賃金と発効日は、下表のとおりとなっています。今年度は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、大幅な引上げはされず、40県で1円~3円の引上げ、7都道府県で据え置きとなりました。

パートタイマー・アルバイト等の時給者の賃金が最低賃金を下回っていないかを確認するとともに、月給者についても1時間あたりの賃金額を算出し、最低賃金を下回っていないかを確認するようにしましょう。

(次号へ続く)

9月に開催された“介護給付費分科会”のポイントを理解しておきましょう

9月に開催された“介護給付費分科会”のポイントを理解しておきましょう

2021年度法改正・報酬改定に向けた議論、いよいよ各論へ

2021年度介護保険法改正・報酬改定の議論が現在進行形で行われている“介護給付費分科会”。20206月より本格始動した本会は6月、7月は各2回、8月は3回、9月は2回開催されており、徐々に各サービスの具体的な法改正の論点が明らかになりつつあります。中でも今回特徴的なのは、「感染症や災害への対応力強化」というトピックスが独立したテーマとして掲げられていること。これらの情報を早めにインプットし、(心構えも含めた)然るべき準備を行っていく事を目的に、今回は、94日に開催された会で挙げられた論点について、内容を確認してまいります。

 

2020年9月開催の「介護給付費分科会」で示された論点(抜粋)とは

では、早速、中身を確認してまいりましょう。

 

まずは感染症対策等にかかる現状基準の確認です。施設サービスでは、下記のような対応が「義務(≠努力義務)」として定められています。

 

◯感染症または食中毒の発生、まん延の防止のための以下の措置を実施

①委員会の開催(概ね3ヶ月に1回)、その結果の周知 ②指針の整備 ③研修の定期的な実施

④「感染症及び食中毒の発生が疑われる際の対処等に関する手順」に沿った対応

※2020年9月4日 介護給付費分科会資料より抜粋

 

次に災害対策に関する現状基準の確認です。訪問系サービス及び居宅介護支援事業以外の全てのサービスにおいては、下記のような対応が同じく「義務(≠努力義務)」として定められています。

 

◯非常災害に関する具体的計画の策定

◯関係機関への通報・連携体制の整備、従業者への周知

◯定期的な避難等訓練

※2020年9月4日 介護給付費分科会資料より抜粋

 

また、上記に加え、介護サービスの安定的・継続的な提供のための、「業務継続計画(いわゆるBCP)」についての論点も確認しておきます。

 

○ 新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年法律第31号)では、特定接種の登録事業者(※1)について、業務継続計画(BCP)の作成が求められており、対象となりうる事業者に対し、「社会福祉施設・事業所における新型インフルエンザ等発生時の業務継続ガイドライン(※2)」が示されている。

○ また、社会福祉施設等は、災害等にあってもサービス提供を維持していくことが求められており、社会福祉施設等の事業継続に必要な事項を定める「事業継続計画」の作成が推奨され(※3) 、その作成に資するものとして「社会福祉施設等におけるBCP様式(※4)」が示されているところ。

○ 令和2年度第二次補正予算においては、介護サービス事業所のBCPの策定支援のため、各サービス類型に応じたガイドラインの作成や、BCP作成の指導者養成研修のための予算を確保。

※2020年9月4日 介護給付費分科会資料より抜粋

上記3点を踏まえた上で、今回の法改正に掲げられている「感染症や災害への対応力強化」についても確認しておきましょう。まずは、感染症への対応に関する現状整理についてです。

 

■感染症への対応として、運営基準においては、

・介護保険施設においては、感染症対策について取組を行うことの義務

・通所系・居住系サービスにおいては、感染症対策に関する努力義務

が設けられている。

また、介護保険施設に対しては、「高齢者介護施設における感染対策マニュアル(平成313月改訂)」を示している。

■今般の新型コロナウイルス感染症への対応においては、

・介護報酬において、一時的に人員基準等を満たせなくなる場合の柔軟な取扱いや、対面での実施が求められる会議の柔軟化、サービス毎の特性に応じた柔軟な取扱いを可能とするなど、臨時的な取扱いを行うとともに、

・補正予算等を活用し、衛生物品の確保や設備整備、サービス継続、応援体制の構築、感染症対策の徹底のための支援や、ICT化の支援を行っている。

・また、社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点や、高齢者施設における感染症発生に備えた対応等を示し、感染症対策の徹底と発生に備えた取組の促進を図っている。

■また、現在、「高齢者介護施設における感染対策マニュアル(平成313月改訂)」や今般の新型コロナウイルス感染症における「社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点」を踏まえ、全てのサービス類型が対象となる、感染症対策に関するマニュアルや、事業継続計画(BCP)に関するガイドラインの作成を進めている。

※2020年9月4日 介護給付費分科会資料より抜粋

 

次に、災害への対応に関する現状整理についてです。

 

■非常災害対策として、運営基準においては、

・訪問系サービスを除く全てのサービスで非常災害に関する具体的計画の策定等が義務付けられているほか

・小規模多機能型居宅介護や認知症対応型共同生活介護においては、訓練に当たっての地域住民との連携の努力義務が設けられている。

また、交付金等を活用し、高齢者施設等の防災・減災対策を支援するため、耐震化や非常用自家発電や給水設備の整備を進めている。

■また、災害発生時においては、交付金等を活用し、災害復旧に要する費用についての支援を行うとともに、介護報酬の臨時的な取扱いを可能としている。

具体的には、平成30年度以降、7回、臨時的な取扱いの対象となった災害があったが、その際には、被災により一時的に人員基準等を満たせなくなる場合や、避難所等で生活している者に居宅サービスを提供した場合、被災した要介護高齢者の受け入れにより高齢者施設等で人員超過等した場合に柔軟な取扱いを可能とするなど、臨時的な取扱いを行ったところ。

■さらに、現在、全てのサービス類型を対象に、事業継続計画(BCP)に関するガイドラインの作成を進めている。

※2020年9月4日 介護給付費分科会資料より抜粋

 

これらを踏まえた、感染症や災害への対応力強化についての論点は下記の通りとなっています。

 

<論点>

■今般の新型コロナウイルス感染症や、昨今の自然災害における介護サービスの被災状況等も踏まえ、感染症や災害が発生した場合であっても、利用者に対して必要な介護サービスが安定的・継続的に提供される体制を構築していくため、日頃からの発生時に備えた取組や発生時における業務継続に向けた取組を推進する観点から、現行の運営基準等も踏まえて、どのような方策が考えられるか。

■各事業所において、災害や感染症が発生した場合でも業務を継続していくための業務継続計画(BCP)の策定を進めていくために、どのような方策が考えられるか。

■災害発生時や新型コロナウイルス感染症への対応における介護報酬の臨時的な取扱いについて、災害や感染症への対応力強化や生産性向上等の観点から、ICTの活用をはじめ、平時からの取扱いとすべきものについて、どのように考えるか。

※2020年9月4日 介護給付費分科会資料より抜粋

 

「感染症対策や災害対策を強化すれば、加算が取れるようになるのでしょうか?」過去、そのような質問を幾度かいただく機会がありました。考え方としては「~という対策をしている法人には〇〇単位」という“一対一対応”型の加算が新設されるのか、或いは体制加算(特定事業所加算やサービス提供体制強化加算等)の充実という形で評価・インセンティブが新たに設計されるのか、いずれかのパターンが想定されるかと思いますが(勿論、それ以外の方法もあるかもしれませんが)、どんな形になるにせよ、社会的使命から介護施設には「感染症対策や災害対策の強化」が強く求められてくることは間違いなく、同時にそれらの充実は職員確保・ご利用者確保に対しても影響を及ぼしてくるものと思われます。そのような観点を総合的に斟酌した上で、今後の対策・対応について検討を重ねておく必要があるのではないでしょうか。

 

議論のプロセスから関心を持って情報を追いかけておくことが大切

上記情報はあくまで「現時点における議論のプロセスから得られる示唆」であり、今後、時間の経過と共に、更に内容が煮詰められたり、或いは、場合によっては議論の風向きがいきなり転換するような状況も発生するかもしれません。介護経営者としては「こうなりました」という最終的な結論だけでなく、「何故このような内容に着地したのか?」という、言葉の裏に潜む意図や背景を温度感も含めて理解する姿勢が重要となってくるのではないでしょうか。

そのためにも早め早めに情報をキャッチアップし、頭の中で“PDCA”を回しておく事が重要だと思われます。「もし上記が実行された場合、自社にはどのような影響が出てくるか?」「それら想定される影響に対し、どのような対応を行う事が最適なのか?」幹部育成の視点も含め、そのような議論を社内で始めていかれる事を是非、おススメする次第です。

私たちも今後、有益な情報を入手出来次第、どんどん情報を発信してまいります。

 

※本ニュースレターの引用元資料はこちら

第184回社会保障審議会介護給付費分科会(web会議)資料

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13243.html

【介護・保育】人材定着ブログ10月号~ 「福祉事業所のキャリアパスとは⑯」

【介護・保育】人材定着ブログ9月号~ 「福祉事業所のキャリアパスとは⑮」

の続きです。

今回も前回同様、制度構築と同様に重要な「キャリアパスの運用」についてお伝えします。

運用における課題は事業所によって異なると思われますが、その中でも比較的共通している課題を下記のようにQ&A形式にてご紹介したいと思います。

Q2頑張っている職員を評価してもポストが少なく、昇進と昇給が思ったようにできていない

A2、例えば、パートさんやヘルパーさんを含めて10人規模の訪問介護事業所や、通所介護(デイサービス)事業所でも十分にキャリアパスは構築できます。規模が小さい事業所は職責や組織のポジションが少なく、また給与財源が限られているという理由で、キャリアパスを作っても、意味がないとお考えの事業所は多いようです。ただ、社内のポジションで考えてみると、資格等級制度における「昇進」と「昇格」は異なります。「昇進」は確かにポジションが空かなければ上に進むことはできませんが、「昇格」は等級要件がクリアできれば全員昇格するのが、キャリアパスにおける資格等級制度の考え方です。例えば、取得した資格のレベル、勤続年数、人事評価などで、各等級の要件を定め、その昇格要件を決め、給与や時給に連動させれば、立派なキャリアパスです。また、昇給財源ですが、前述の処遇改善加算金を、財源に充当させることも十分可能ですし、むしろ国もそれを奨励しています。もしかしたら、従業員教育に時間をかけられない小規模事業所だからこそ、その仕組みにより自発的に能力を高めるようになるといった、キャリアパス効果は大きいかもしれません。

Q3、現場での仕事が好きで、管理者にはなりたくない(なれない)職員には、

キャリアアップの仕組みを適用できない?

A3、キャリアパスは個人の能力・適正に応じて、「指導・監督層」になるコースとは別に「専門職」コースを準備し、専門職のキャリアステップと昇給制度で運用しています。

現場では、「優秀な職員ほど役職にはつきたがらない」とか、「知識・技術面でわからないことについて、皆が教えてもらえる職員は決まっており、しかもその職員は役職者ではない」、といった話がよく聞かれます。そこで考えるべきなのが、キャリアパスにおける「複線化」です。つまり、キャリアパスに描かれた昇格ラインによらずに、役職にはつかずに専ら専門性を高め、組織に貢献するキャリアパスを作ることです。この階層を「専門職」として、上級介護職の水準を超える水準をもって処遇します。この場合、当該職員はマネジメント業務を行わず、専ら好きな介護の道を追い続けても、相応の処遇が保障されることになります。専門性の高さを認められてこその処遇なので、職員のプライドも充足することができます。

また、優秀な人材を滞留させては離職につながりかねません。中小企業の中には職員が自らポストの数を読んで、諦めムードが漂っているようなケースも散見されますが、「専任職」を設けて、「当法人は、管理上の役職だけがポストではない。専任職というスキル面のリーダーもあり、相応に処遇する」と周知すれば閉塞感が一気に変わるはずです。

下記に専門職群の役割と業務の参考例を示します。

Q4、人事評価の項目は「一般的」「抽象的」な評価項目が多いため、評価が難しく、どうしても評価者の主観で評価してしまい、職員の納得が得られない。

A4、評価項目を具体的な「行動表現」にすることで、評価がより客観的になり、また職員の課題を具体的に指導できる。

評価することは非常に難しく、評価者訓練を受けないと評価は出来ないと言われています。しかしそれは、評価項目が抽象的で何を評価すればいいのかわからないという原因が考えられます。

評価を行う難しさには、①人によって評価が変わる ②評価項目が不明確なので評価する人も、される人もわかりにくい、さらに③誤評価の原因(ハロー効果、偏り傾向、寛大化など)評価するということに困難さが付きまとっています。例えば「協調性」という表現で終わってしまう評価項目の場合、何が協調性なのか評価者が判断しなければなりません。抽象的な表現は職員をいろいろな視点から評価できることになり有用ですが、評価の公平性や客観性からみるとかなり深い問題が含まれています。具体的な行動

表現にすることで、だれでも同じ理解とすることが大切です。

 

【具体的行動表現の実例】

評価項目:「感謝の気持ちをもってご利用者、職員に接する」

を具体的な評価項目にした場合に、例えば下記のような例となります。

例1:ご利用者や職場の仲間に感謝の気持ちで接することが出来、「○○さんのおかげです」や「ありがとう」が素直に笑顔で言える。

例2:ご家族様や見学、来訪者の目を見て、笑顔でお名前を添えて「ありがとうございます」と伝えている。

例3:他部署等の協力や理解があって自分が仕事ができる事に感謝して、相手の状態を配慮し、「お手伝いしましょうか」「何か私にできる事はないですか」と声掛けしている。

 

 

次回も引き続き運用に関するQ&Aをお伝えいたします。

介護事業所様向け情報(経営)9月号③

福祉施設でみられる人事労務Q&A
『職員が退職する際の業務引継ぎと年次有給休暇の取得』

Q:

先日、職員から1 ヶ月後に退職したいと申し出がありました。その職員には重要な業務を任せていたので、後任への引継ぎを確実に行ってもらう必要がありますが、残りの年次有給休暇(以下、年休)をすべて取得してから退職したいという希望が出ています。年休を取得することによって、後任への引継ぎが終えられない事態となる場合、年休の取得を拒否することはできるでしょうか。

A:

施設には、年休取得時期を変更できる権利がありますが、退職日までまとめて年休を取得し、退職日以降に変更する出勤日がない場合、本人からの年休取得を拒否することはできません。よって、まずは退職日が変更できないか、年休を取得しながら引継ぎに協力してもらえないか、など職員と十分話し合いましょう。また、こうした事態を避けるためにも、重要な業務を分担できる体制を整備する、日頃から年休の取得促進をはかる、などの対策を講じておくことが重要です。

詳細解説:

1.退職日までの年休取得

日常的に年休を取得しない職員のなかには、年休が数十日も残っているというケースが少なくありません。施設には、事業の正常な運営を妨げる場合、年休取得日を変更できる「時季変更権」がありますが、退職時にまとめて年休を取得するケースでは、変更する出勤日がないため、時季変更権を行使することはできません。

そのため、まずは退職日を変更できないか本人と話し合いを行い、可能であれば、引継ぎをしながら、並行して本人の希望する範囲で年休を取得してもらうようにします。

2.退職時に引継ぎを確実に行ってもらうために

就業規則等へ「1 ヶ月前までに退職の申し出をすること」と規定している施設が多いと思いますが、年休の残日数の多い職員の退職や、1 ヶ月に1 回しか実施しない業務の引継ぎがあると、十分な引継ぎが実施できないことがあります。退職の申し出は、自身の業務内容や年休取得の予定を考慮して、場合によっては1 ヶ月前より前に行うよう、あらかじめ職員に周知しておきましょう。

また、特定の人にしかわからない業務を作らない体制や、業務内容や作業手順がわかるようなマニュアルを整備しておくなど、業務の属人化を回避し、急な引継ぎとなった場合であっても、滞りなく進められるよう、日頃から対策を講じておくことが重要です。

 

職員の退職時に引継ぎを確実に行ってもらわないと、後任担当者が困ることになり、ひいては利用者様へ悪影響を及ぼすことになりかねません。職員それぞれに事情があるため、やむを得ず急な退職の申し出となる場合もありますが、業務に支障が出ないよう確実に引継ぎを行いながら、本人の希望する年休取得ができるような職場づくりが求められます。

(来月に続く)

介護事業所様向け情報(経営)9月号②

福祉施設等の職員が自信のある能力と向上させたい能力

8 月号では、福祉施設等が職員に求める能力やスキル(以下、能力)について、ご紹介しました。ここでは、福祉施設等の職員が自信のある能力や向上させたい能力をみていきます。

チームワークには自信あり

厚生労働省が今年5 月に発表した調査※によると、福祉施設等(以下、医療,福祉)の正社員で自信のある能力があるとした割合は83.7%、正社員以外では、80.3%となりました。また向上させたい能力がある割合は、正社員が95.6%、正社員以外が88.5%となっています。具体的な自信のある能力と向上させたい能力を、正社員と正社員以外の別にまとめると下表のとおりです。

正社員、正社員以外ともに、チームワークに自信があるとする割合が最も高くなりました。また、自信のある能力の上位3 つは正社員、正社員以外ともに同じで、チームワークの他は職種に特有の実践的スキルと、コミュニケーション能力の割合が高くなりました。

正社員はマネジメント能力の向上を望む

向上させたい能力は、正社員ではマネジメント能力の割合が最も高く、次いでIT を使いこなす知識と能力、課題解決スキルが上位3 つになりました。正社員以外ではコミュニケーション能力と職種に特有の実践的スキル、高度な専門的知識・スキルとなりました。

医療,福祉の社員が自信のある能力の上位3つは、回答割合の違いがあるものの、正社員と正社員以外で同じとなりました。医療,福祉の事業所では、これらの能力に関する研修などが多く行われていることがうかがえます。

職員教育について悩まれている施設では、職員に求める能力だけでなく、職員が向上させたい能力に関する研修なども実施してみてはいかがでしょうか。

※厚生労働省「令和元年度能力開発基本調査」
常用労働者30 人以上を雇用している企業・事業所および調査対象事業所に属している労働者を対象にした、2019 年(令和元年)10 月1 日時点の状況についての調査です。詳細は次のURL のページからご確認ください。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450451&tstat=000001031190&cycle=8&tclass1=000001140208&tclass2=000001140212&tclass3=000001140217&cycle_facet=cycle

(次号に続く)

介護事業所様向け情報(経営)9月号①

介護施設の労働環境改善のための支援

8 月号では、オンライン面会の環境整備に活用できる地域医療介護総合確保基金のICT 導入支援事業をご紹介しました。今回は、同じく地域医療介護総合確保基金より、今年度拡充された労働環境改善の支援事業をご紹介します。

介護ロボットの導入支援

移乗支援、移動支援、排せつ支援、見守り、入浴支援等で利用する介護ロボットの導入に利用できます。

介護事業所に対する業務改善支援

今年度予算による拡充で、都道府県が開催する介護現場革新会議が必要と認めた経費について助成されることとなりました。

経費の例(都道府県の決定によります)

  • タイムスタディ調査による業務の課題分析等、第三者による取組支援費用
  • 介護ロボットやICT 機器等のハードウェア・ソフトウェアの導入費用(インカム機器、介護記録ソフトウェア、通信環境整備等に係る費用を含む。)

外国人介護人材受入れのための整備

今年度予算により新設された補助事業です。次の3 つの環境整備等にかかる費用の一部が助成されます。

コミュニケーション支援

日本人職員、外国人介護職員、介護サービス利用者等の相互間のコミュニケーション支援に資する取組

資格取得支援・生活支援

外国人介護人材の資格取得支援や生活支援の体制強化に資する取組

教員の質の向上支援

介護福祉士養成施設における留学生への教育・指導の質の向上に資する取組

 

これらの補助事業の窓口は、各都道府県です。詳細は都道府県までお問い合わせください。

参考:厚生労働省「令和2 年度予算の資料」
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000579288.pdf

(次号に続く)

介護事業所様向け情報(労務)9月号④

改めて確認したい休憩時間の基礎知識

労働時間管理では時間外労働に注目が行きがちですが、意外な落とし穴となるのが休憩時間です。休憩時間に業務をしていれば労働時間として扱う必要があり、賃金の不払いの問題につながります。労働基準法の規定を知り、従業員に休憩時間を確実に確保してもらうことも重要となることから、ここでは休憩時間の与え方と確保についてとり上げます。

1.休憩時間の与え方

休憩は、労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも60分を与えなければならないと、労働基準法で規定されています。

この休憩時間は、労働時間の途中に与えなければなりませんが、その休憩時間数について、一括して与えなければならないという定めはありません。そのため、例えば60分の休憩を15分と45分に分けたり、午前に10分、お昼に40分、午後に10分といったように3回与えることでも差し支えありません。

一方で、休憩時間は食事の時間や疲労の回復を目的としているため、過度に細かく分断するとその目的を達成することが難しくなります。どのようなタイミングで、どのくらいの時間数を設定するのが良いのか、確実に休憩時間を確保するためにはどのようにするとよいのかについて検討する必要があります。

2.生産性向上のための活用法

所定労働時間が6時間で、時間外労働が発生しないときには、労働基準法で定める休憩時間を与える必要はありませんが、6時間を継続して勤務することで、疲労が蓄積したり、空腹になり生産性が低下したりすることが想像されます。

また、午前9時始業、正午から1時間の休憩を挟んで、午後6時終業という8時間労働の会社が多くあります。

こちらも法的には何の問題もありませんが、午後の勤務時間を見ると、途中休憩もなく、5時間の勤務となっています。一般的に、人の集中力が持続する時間は長くても2時間と言われています。午後の5時間連続勤務の場合には、集中力がとぎれた状態で仕事を続けることにもなりかねません。

こうした場合には例えば昼休憩を45分とし、午後3時から15分間に休憩を設けることで、集中力の低下を防止し、午後の勤務の生産性を向上させることもできます。

製造現場や建設業では、事故等を防止するため午前と午後にそれぞれ10分の休憩が設定されていることがよくありますが、ホワイトカラーなどでも同様の休憩の設定を検討し、生産性の向上を目指すとよいでしょう。

労働基準監督署が事業所の調査を行うときには、労働基準法で定める休憩時間を与えているかの確認が行われ、与えていないときは是正勧告が行われることがあります。この機会に休憩時間が確保されているか点検し、問題があればその改善に向けて取組みを行いましょう。

(来月に続く)

介護事業所様向け情報(労務)9月号③

2020年9月より変わる複数就業者の労災保険給付の取扱い

このコーナーでは、人事労務管理で問題になるポイントを、社労士とその顧問先の総務部長との会話形式で、分かりやすくお伝えします。

社労士:

働き方改革の一つとして兼業・副業が推進されていますが、それに関連して、9月より複数就業者の労災保険給付の取扱いが変わります。

総務部長:

実は、ある従業員から副業したいという相談があったところです。どのように変わるのでしょうか?

社労士:

労災事故が発生した場合、これまでは発生した勤務先の賃金額のみを基礎に給付額等が決定されていました。これが、9月よりすべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎として給付額等が決定されることになります。

総務部長:

当社で25万円、副業先で5万円の賃金が支払われている場合、当社で災害に遭った場合には25万円、副業先の場合には5万円が基礎となり労災給付がなされたものが、9月からはどこで被災したとしても合算した30万円が基礎となるということですね。

社労士:

その通りです。労災事故が発生した場合のセーフティネットを強化するために今回の改正が行われています。脳・心臓疾患や精神障害に関する労災認定についても、勤務先ごとに労働時間やストレス等の負荷を個別に評価して、労災認定の判断をし、それぞれの評価で労災認定されない場合は、すべての勤務先の労働時間やストレス等の負荷を総合的に評価して労災認定の判断が行われます。

総務部長:

なるほど。当社では残業がほとんどなく、労働時間やストレス等の負荷がないと判断されても、副業先での労働時間やストレス等の負荷を加味して、労災認定が判断されるということですね。今後、当社で副業を認めていく方針となった場合、どのようなことに注意が必要でしょうか?

社労士:

やはり過重労働とならないように注意が必要です。例えば副業先で働くことができる時間数を設定し、その範囲で働いてもらうといった対応が考えられます。その他、副業を始めた後には、定期的に面談を行い、本来の業務に支障が出ていないか、過重労働となっていないか、状況を確認した方がよいでしょう。

総務部長:

確かに、継続的に管理していくことは重要ですね。ただ、実際に副業先も含めた労働時間の管理や把握をすることは難しく、副業を認めることに対して慎重になりますね。

社労士:

そうですね。2020年7月に行われた未来投資会議の成長戦略実行計画案の中では、兼業・副業の普及に向けて、労働時間の管理方法が議論されていました。今後の動きに注目しましょう。

【ワンポイントアドバイス】

  1. 2020年9月より、労働災害が発生した場合、すべての勤務先の賃金額を合算した額を基礎に給付額等が決定される。
  2. 労働時間やストレス等の負荷についても、勤務先ごとに評価して労災認定できない場合は、総合的に評価して労災認定の判断が行われる。

(次号に続く)

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