医療
深刻化する「看護師不足」…離職率も高止まりで「定着」が課題に
厚生労働省の将来推計(「医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会 中間とりまとめ案」)によると、2025年に必要とされる看護師の数は188万~202万人であるのに対し、供給推計は175万~182万人程度にとどまる見込みです。その結果、最大で約27万人の看護師が不足する恐れがあるとされています。
また、日本看護協会の「2024年病院看護実態調査」によると、看護職員の離職率は11.3%で、離職率は依然として2ケタ台で横ばいを続けています。
高い医療需要の一方、慢性的な看護師不足にある昨今、看護師不足は採用の問題だけでなく、いかに長く働き続けてもらうかが大きな課題となっています。
特に、小規模な体制のクリニックでは、1人ひとりの看護師への業務依存度が高く、欠員が出るとすぐに診療体制に支障をきたす恐れがあります。
離職につながりやすい「人間関係」の悩み
看護師の離職理由はさまざまです。労働環境や待遇面への不満、結婚や妊娠・親の介護といったライフステージの変化、職場の人間関係……。
「私の経験や周りの看護師仲間と話す限り、看護師の離職理由として一番大きいのは、職場の人間関係だと感じます。特に、看護師同士の関係性です」
こう語るのは、キャリア30年以上のベテラン看護師、ケイコさん(仮名・50代)です。看護専門学校を卒業後、西日本の総合病院に約20年勤務。主にオペ室(手術室)や外科病棟でキャリアを積んだ後、「肉親の介護のため」退職を決意。その後、病院併設の介護施設などを経て、7年ほど前から現在のクリニックで看護師として働いています。
「急性期医療の現場でキャリアをスタートしたので、どちらかというと自分には急性期が向いていると思っていましたが、いまでは生活に根ざしながら高齢者をケアする在宅医療も好きになりました。うちのクリニックはホワイトなので非常に働きやすく、長く勤める看護師が多いですね」
こう話すケイコさんですが、入職当初は人間関係に悩まされたといいます。
「いまのクリニックは看護師が十数人いますが、入職当時は規模も小さく、組織体制も少しゴタついていました。私はキャリアこそ長いですが、クリニックによって勝手も違うので、教えてもらわないといけないことがたくさんありました。でも、人間関係がよくなかったのでなかなか上手くいかず、苦労した記憶があります」
具体的にはどんなことに苦労されたのでしょうか。
「たとえば私の場合は、水面下で意地悪をされていたといいますか……プリセプター(先輩看護師)が感じの悪い人で、『この前言いましたよね?』とか“『質問するな』オーラ”のようなものをずっと出していました」
しかし、そこはベテラン看護師のケイコさん。うまく下手に出ながら、できる限り自力で仕事を覚える努力を続け、半年ほどでひとり立ちすることができたそうです。
「特にクリニックの場合、看護師はみな育った環境やキャリアが違いますから、それぞれに看護師としての常識みたいなものがあります。それは仕方のないことだと思いますが、その違いを互いに理解し合ったうえでコミュニケーションを取ることが大切だと思います。そこは私自身、常に気をつけたいと思っているところです」
「良好な人間関係」が「良好な医療」を支える
現場の看護師同士の関係性が悪いと、医療の質の低下を招きかねません。それは、クリニック経営にも大きなダメージを与えます。だからこそ、クリニック経営者にはスタッフの人間関係を円満にし、良好なコミュニケーションが取れる職場環境を整える努力が求められるのです。
では、看護師の視点から考えたとき、どのような取り組みが望ましいのでしょうか。
「看護師同士の人間関係が悪いといっても、表面化していない場合も多いと思います。みな大人ですし、医療職として誇りを持っていますから、そこはぐっと我慢して表面的には取り繕います。だけど、我慢できない人は辞めてしまうかもしれません。
院長にお願いしたいのは、1人の看護師の意見だけを鵜呑みにせず、平等に話を聞いてほしいということです。立ち回りや口がうまい人もいますし、情報操作というか、うまく上にとり入って、気に入らない人を悪者に仕立てるようなケースもみてきました。
また、揉めている当事者もそれぞれが自分の正義を持っています。その言い分を公平に聞いて、客観的に判断していただきたいです。そして『常に全員を見守っている』という姿勢を示してもらえれば、看護師も安心して働けると思います」
クリニック経営を強化するうえで、優秀な看護師の確保は大きな課題です。そのための施策として、給与待遇や福利厚生の充実、ライフステージにあわせた育児休業・介護休業制度、キャリアアップ支援など、さまざまな切り口があります。
しかし、こうしたハード面の整備とともに、あるいはそれ以上に、ケイコさんが指摘する「職場の人間関係をいかに良好なものにしていくか」が、クリニック経営者には求められているのかもしれません。
「医療現場はどこも忙しいですし、大変なことや辛いことも少なくありません。でも、医師や看護師、事務スタッフなど、みんなのチームワークがよければ、お互いに協力し合って、困難なことも乗り越えていけると思います。これは、これまでの経験から実感していることです。
看護師は基本的に医療従事者として、患者さんに質の高い医療・看護を提供したいと思っています。しかし、ギスギスとした職場環境ではそれは難しく、結果的に忙しいばかりでやりがいを失い、精神的にすり減っていき、離職することになりかねません」
良好な人間関係を含めて、スタッフが働きやすい環境をつくることで、医療や看護の質が高まり、患者満足度も向上します。それが患者数の増加につながり、その利益はまた、スタッフの待遇や福利厚生などに還元する……。
このような「好循環」を続けることが、優秀なスタッフを定着させる秘訣なのでしょう。そしてそれが、クリニックの安定経営にもつながっていくのではないでしょうか。
- © Medical LIVES / シャープファイナンス
新たな補助金や新年度の介護報酬の臨時改定がトリガーになった。訪問介護や通所介護、居宅介護支援などの「処遇改善加算」の取得要件に、その利用が明確に位置付けられたことで先行きも決まった。今後、在宅領域ではケアプー対応がマストになる。
ただ、実際に導入したものの「従来の業務慣習から脱却できない」「現場の負担が減らない」と戸惑う事業所は少なくない。持てる機能を有効に使い、真の生産性向上につなげるためには何が必要か。
ケアプー活用で内閣総理大臣表彰も受けた株式会社トライドマネジメントの長谷川徹代表に聞いた。
《 ケアプランデータ連携システム 》
顕在化する生産性の二極化
「幅広い介護従事者を対象とする形で、新年度から処遇改善加算が拡充されるインパクトは非常に大きい」
長谷川代表は新年度の臨時改定をこう評価した。処遇改善加算の取得要件を満たす最適解は、もはや「ケアプー一択」と言っても過言ではない。
《 居宅介護支援「トライドケアマネジメント」|2025年9月撮影 》
しかし、その「導入」は単なる通過点に過ぎない。何より大切なのは、これから全国で本格稼働されていく「介護情報基盤(*)」への対応を含め、ケアプーをうまく「利用」していくことにほかならない。
* 介護情報基盤=介護保険証や要介護認定、主治医意見書、ケアプランといった現場で必要な情報を、利用者、事業所、医療機関、市町村などがオンラインで迅速に閲覧・共有できる新たなインフラ。厚労省は今年4月から活用を順次スタートし、2028年4月までに全国すべての市町村で運用を始める準備を進めている。
注)この記事では配信当初、上記の補足説明中の記載が「来年4月から活用を順次スタート」となっておりましたが、正しくは「今年4月から活用を順次スタート」でした。お詫びして訂正いたします。この記事はすでに訂正を反映済みです(2026年3月23日14時04分)。
「今ここで、ケアプーを導入するにあたって四苦八苦している事業所は、少し取り組みのスピードを上げた方がいいかもしれない」
長谷川代表は警鐘を鳴らす。地域では事業所間のデジタル格差が広がり、生産性の二極化が進行している。この地平の先で、時代の変化を前に立ち止まったままの事業所が淘汰されていく未来を予見し、「あまり猶予はない」という焦燥感を強めているようだった。
「土台がなければ進まない」
ケアプーの有効活用に向けて、長谷川代表は真っ先に必要なことに「対話」をあげた。
「なぜ導入しなければならないのか」「これからどうなりたいのか」
現場と徹底的に話し合う場を持つべきだという。
経営層が現場にタスクを与え、「これやっといて」と指示するだけの手法は通用しない。自ら現場に入り、旗振り役として積極的にコミュニケーションの機会を設けることが不可欠だ。
長谷川代表は「業務フローの転換はデジタル化と捉えられがち。もちろん間違いではないが、実はローカルの準備、環境整備といった土台がなければ進まない」と語る。
《 トライドケアマネジメント・長谷川徹代表|2025年9月撮影 》
業務フローの転換は、とりわけその初期に必ず一定の負担を伴う。新たなシステムの導入などでやり方を変えれば、どうしても一時的に生産性が低下してしまう。
必然的に、職員はこれを「忙しいのに仕事が増えた」と捉える。取り組みを敬遠したり先送りしたりするほか、「無駄だ」「意味がない」などと強調することもある。
生産性を向上させたその先に、自分にどんな見返りがあるのか。もっと仕事をさせられるだけではないか。ここが不明確だと真剣に取り組まない職員もいる。
つまり、現場への丸投げで業務フローをうまく転換させることは難しい。経営層が明確な意思と方向性を示し、事業所内の共通理解を醸成していかなければならない。
ケアプーの場合、相手の事業所の対応状況も大きく影響する。こちらがデータで送っても、先方が紙で返してくることも「あるある」だ。長谷川代表は、「環境が十分に整うまではどうしても一定の時間がかかる。ここを無駄にせず、自社の業務フローをしっかり再構築する備えをしておくといい」と呼びかけた。
新たな仕組みがうまく回り始めれば効果は絶大だ。トライドマネジメントでは、利用者数が増えているにもかかわらず、FAX送信にかかる時間が月5時間弱から2時間弱へと大幅に短縮された。
長谷川代表は、「自社の課題解決にも合っているツールだと思ったし、厚生労働省や国保中央会というキーワードが出てくる以上、このツールが時代を変えることは間違いないと確信した。ケアプーのメリット・デメリットを分析しながらもこのツールを軸に、数ヵ月をかけて、どうすれば効率の良い業務フローが作れるかを、スタッフみんなで考えて実践した結果、次々と成果につながっていった」と笑顔を見せた。
ケアプーでは様々な書類を.pdfや.jpgなどで送受信するため、これを適切に保存することが不可欠となる。全て紙に印刷し、それぞれファイルに綴じるといった方法を抜本的に変えなければならない。
このため、多くの事業所がクラウドストレージを使うようになる。トライドマネジメントでは、事業所番号の記載やタグ付けなどのルールで必要な書類をすぐに引き出せる環境を作っており、これも業務負担の軽減につながっているという。長谷川代表は、ファイル管理の工夫も中長期的には重要な運用ポイントになると指摘した。
《 トライドケアマネジメント・長谷川徹代表|2025年9月撮影 》
あるべき姿のために
まださほど多くはないが、一部の市町村では新年度から介護情報基盤の運用がスタートする。これが全国で始まると、また新たな業務フローへの転換がすべての事業所に求められるようになる。
新年度の処遇改善加算には「誓約」などの経過措置があるが、今なお猶予期間がたっぷりあるかと言うとそうでもない。ケアプーの有効活用を早めに実現しないと、その先の対応がすべて後手後手に回ってしまうリスクが高い。
長谷川代表は、「介護情報基盤の本格運用(2028年度から)を見据えると、さすがにもう時間が少なくなってきた。今のうちから対話を重ね、しっかりとした土台を作っていくことが欠かせない」との認識を示した。その上で「そうした取り組みはやがて事業所の成長につながり、地域の高齢者を支えることに結びつく」と呼びかけた。
2026年6月施行予定の介護報酬改定は、「処遇改善加算の抜本的強化」を中心とした異例の期中改定として位置付けられています。人材不足が深刻化する中で、単なる賃上げではなく「人材確保と定着を両立させる制度」へと大きく進化しています。
1.最大月額1.9万円の賃上げインパクト
今回の改定では、介護従事者全体に対して月額1万円のベースアップを基本とし、生産性向上等の取り組みに応じて最大1.9万円まで引き上げる設計となっています。
これは従来の「一部職種・一部配分」から脱却し、業界全体の底上げを狙ったものです。特に重要なのは、「加算額=賃上げ原資として確実に充当」が原則化された点であり、経営判断の自由度はむしろ制限されています。
2.対象の拡大:介護職員から“介護従事者”へ
最大の制度変更は、対象範囲の拡大です。
従来の「介護職員中心」から、事務職や補助職も含む介護従事者全体へと広がりました。
さらに、これまで対象外だった
・居宅介護支援
・訪問看護
・訪問リハビリ
などにも加算が新設され、サービス横断型の処遇改善制度へと進化しています。
これは、現場のチームケアの実態に即した制度設計と言えます。
3.生産性向上との連動が鍵
今回の改定で最も重要なキーワードが「生産性向上」です。
ICT導入や業務効率化を進めた事業所には、
・訪問介護:最大28.7%
・通所介護:最大12%
といった高い加算率が適用されます。
つまり今後は、
「人件費を上げるために生産性を上げる」構造が制度として明確化されました。
これは裏を返せば、
・ICT未導入
・アナログ運営
・非効率なシフト
のままでは、加算の取りこぼしが発生することを意味します。
4.2027年改定への“布石”としての位置付け
今回の改定は単発ではなく、2027年度の本格改定への準備段階とされています。
したがって、短期的な対応ではなく、
・人事制度
・評価制度
・賃金体系
を含めた「構造改革」が求められます。
5.社労士視点:今後の実務対応のポイント
介護事業所が取るべき実務対応は以下の5点です。
① 配分ルールの明確化
・基本給への反映か
・手当配分か
・賞与対応か
→「見える賃上げ」にしなければ離職防止効果は薄い
② キャリアパス要件の再設計
処遇改善加算は引き続き
・キャリアパス
・研修制度
・昇給ルール
が必須です。
→ 名ばかり制度では監査リスクあり
③ ICT・DX投資の意思決定
・見守り機器
・記録システム
・ケアプラン連携
→ 加算取得の前提条件化
④ 全職種型人事制度への移行
対象拡大により、
「介護職中心の制度」は限界
→ 事務・リハ・看護を含めた統合設計が必要
⑤ 採用戦略との連動
「処遇改善=採用ツール」として活用
→ 求人票・LPでの訴求が重要
6.まとめ:処遇改善は“経営改革ツール”
2026年改定の本質は、単なる賃上げではありません。
✔ 人材確保
✔ 生産性向上
✔ 組織改革
これらを同時に進めるための政策です。
したがって今後は、
「加算を取るかどうか」ではなく
「どう活かして経営を変えるか」
が問われる時代になります。
新年度の介護報酬の臨時改定で拡充する「処遇改善加算」について、厚生労働省は19日、申請に欠かせない計画書の記入方法を解説する動画をYouTubeの公式チャンネルに投稿した。
動画は約9分。全4シートからなるエクセル様式の具体的な入力手順を解説している。まずは「基本情報入力シート」から、4・5月分の個表、6月以降分の個表と続き、最後に総括表をまとめるプロセスが提示されている。
フォーマットは、必須の入力項目が自動で色付けされる仕組み。記載漏れや要件の未達があれば、濃いオレンジ色のセルに「×」が表示される仕様となっている。
今回留意すべきことの1つは、対象月によるシートの使い分けだ。6月から臨時改定で処遇改善加算が拡充されるため、4・5月分(別紙様式2-2)と6月以降分(別紙様式2-3)で記入先が分かれている
人工知能(AI)を活用し、介護に関する人手不足問題を打破する中小企業がある。これまで膨大な人手が必要だった介護支援計画の作成や事務処理にかかる作業をAIに代替させることで、新しい施設の開業や現場サービスの向上につなげる考えだ。
関西中心に100以上の介護付き有料老人ホームを運営するチャーム・ケア・コーポレーションは1月から、半年ごとに更新する入所者の介護スケジュールの原案を生成AIが作成するシステムを試験導入した。
新規開業に人材
従来はケアマネジャー(介護支援専門員)が介護記録や睡眠データ、本人・家族・かかりつけ医師へのヒアリングをもとにケアプランを手作業で策定していた。新システムでは、人は原案の確認や修正を担う。1人あたり最大4時間ほど要していたプラン作成は2時間程度まで短縮した。
1人のケアマネジャーがプラン作成を担当する入所者数は、現在の約60人から100人程度まで増やせるとみる。6月末には全施設で本格導入を予定する。遠藤圭太・経営企画室長は「ケアマネジャーは業界全体で不足感が強い。省人化できれば質の高い人材を吟味して採用できる」と語る。
2026年6月期の売上高は前期比4%増の485億円、営業利益は16%増の44億円を見込む。既存施設の省人化は利益率を高め、新規開業の施設に人を回すなど成長も追い求めやすくなる。
現在はケアマネジャーごとにプランの作成手法にばらつきがあるものの、大野世光・介護DX推進室長は「AIを使えば質を標準化できる」とみる。将来はAIが過去の記録を分析し、入所者の行動変化を介護職員に伝えるような機能を導入する構想を持つ。
高齢化が進む日本では介護の需要が急増している。厚生労働省によると、要介護(要支援)認定者数は24年3月末時点で初めて700万人を突破した。過去20年の間に約300万人も増え、介護給付によって国の財政負担が増している。
同時に介護関連の人手不足は一段と進む恐れがある。厚労省は26年度に必要な介護職員は約240万人とみる。40年度には約272万人に跳ね上がる見通しだ。待遇面や働きやすさなどの問題から、人手の確保は年々厳しくなっている。
介護関係職種の有効求人倍率は24年度に4.08倍。この指標は1倍を超えると求人の数が多いことを示し、全職業の倍率は同年度に1.14倍だった。介護の求人数が突出して高い現状を映す。人手が極端に足りない業界だからこそ、AIを賢く導入し現場サービスを高める知恵が欠かせない。
九州で介護付き有料老人ホームや訪問介護事業などを手掛ける、あおぞらケアグループ(鹿児島市)は25年11月、介護業界をAIで支援するケアチャット(大阪市)と資本・業務提携した。
介護施設で負担が重い作業の一つは、ファクスで届く利用者ごとの書類の整理だ。利用者ごとに介護器具や服薬指導など、最大60種類に及ぶ異なる書類を受け取らなければならない。
約800人の利用者がいる、あおぞらケアのある施設では、これまで月1万枚程度の書類をファクスで受信。介護職員が書類を手作業で仕分けするのに月約190時間かかっていた。
ファクスで受信した書類をAIが自動で解析・整理するシステムを導入し、事務処理時間を約9割削減した。ケアチャットの城戸勇人社長は「AIで生まれた時間を利用者のサービス改善につなげなければいけない」と力を込める。
あおぞらケアの大牟禮康佑代表は「現場の残業はほとんどなくなった。介護人材の不足を防ぐためにも、やりがいと経済的豊かさの両立が欠かせない」と話す。実業家の堀江貴文氏らと組み、介護業界で生成AIをどう使うか教えるオンラインスクールも25年から運営している。
意識改革に時間
ロボットを活用し、介護現場で専門人材不足に対応する中小もある。
精密部品メーカーのサンコール(京都市)は歩行学習支援ロボットを開発した。足に装着するロボットが人の歩行を感知し、タブレットで事前に設定した最適な足の動かし方に導くよう設計した。歩行に障害を抱える人がリハビリテーションなどで使っており、介護施設や病院への納入を進めている。
介護施設でリハビリにつきそう理学療法士らの専門人材は地方に少ない傾向がある。こうした現状を踏まえ、遠隔操作型のロボットを試験している。理学療法士が離れたところからロボットを設定し、標準的な介護職員が歩行を支援できる環境整備を目指す。個人により適合するようAIの活用を視野に入れる。
もっとも、介護の事務と異なり現場にAIが浸透するにはなお時間がかかるとの見方もある。
チャームケアは24年に携帯型エコーを全施設で導入。AIがエコー画像を深層学習し、ぼうこうの大きさを計測して尿のたまり具合を判定したり、直腸での便の位置を知らせて予期せぬ排せつを防いだりする。しかし「エコーは医療従事者が使う」との意識が現場での普及を阻み、導入から1年半がたっても使用率は6割弱にとどまる。
介護業界に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの丹羽麻一子氏は「AIを積極的に導入することは業務の効率化に加え、採用面でも若年層へのアピールにつながる」と話す。そのうえで「現場の抵抗感を軽減するため、業務フローを踏まえて導入を進める必要がある」とみる。(3月18日 日本経済新聞)
介護事業所、保育園、クリニックの経営者から、近年特に増えている労務相談があります。それが「問題社員への対応」です。
例えば次のようなケースです。
-
何度注意しても遅刻や欠勤を繰り返す
-
職場の人間関係を悪化させる
-
利用者や患者への対応が不適切
-
指導しても態度が改善しない
人手不足の業界では「辞められると困る」という理由で、問題社員を放置してしまうケースも少なくありません。しかし実務経験上、問題社員を放置すると職場環境が悪化し、優秀な職員から先に辞めていくという現象が起こります。
労働政策を所管する厚生労働省も、職場環境改善やハラスメント対策を重要な政策課題として掲げています。つまり、問題社員への適切な対応は、これからの組織運営において避けて通れないテーマなのです。
本稿では、介護・保育・クリニックなど医療福祉分野の現場を支援してきた社労士の視点から、問題社員への適切な対応方法を解説します。
問題社員とはどのような職員か
まず整理しておきたいのは、「問題社員」とは必ずしも能力が低い職員だけではないということです。実務上、問題社員と呼ばれるケースにはいくつかのタイプがあります。
第一に、勤務態度に問題があるケースです。遅刻や欠勤を繰り返す、指示に従わないなど、基本的な勤務姿勢に問題がある職員です。
第二に、職場の人間関係を悪化させるケースです。陰口や対立を生み、チームワークを乱すタイプです。介護・保育・医療の現場はチームワークが重要なため、この問題は非常に深刻です。
第三に、業務遂行能力に課題があるケースです。ミスが多い、指導しても改善しないなどのケースです。
このような職員がいる場合、経営者や管理職は早期に対応を検討する必要があります。
問題社員を放置するリスク
問題社員を放置すると、次のようなリスクが発生します。
まず職場のモラルが低下します。「あの人は注意されないのに、なぜ自分だけ」という不公平感が生まれるためです。
次に、優秀な職員の離職につながります。真面目に働いている職員ほど、職場環境の悪化に敏感です。
さらに、利用者・患者・保護者へのサービス品質が低下する可能性があります。介護・保育・医療の分野では、サービス品質の低下はそのまま経営リスクにつながります。
つまり、問題社員への対応は単なる人事問題ではなく、経営問題なのです。
問題社員への対応で重要な3つの原則
問題社員への対応には、感情的な判断ではなく、法的リスクを踏まえた手順が必要です。
① 事実を記録する
最も重要なのは、問題行動を客観的に記録することです。
例えば
などを文書として残しておく必要があります。
記録がない場合、後にトラブルになった際に会社側が不利になる可能性があります。
② 指導と改善機会を与える
いきなり解雇などの厳しい処分を行うことは、労務リスクが高くなります。
まずは
-
口頭指導
-
文書指導
-
改善計画
という段階的対応が重要です。
このプロセスを踏むことで、職員本人にも改善の機会を与えることができます。
③ 就業規則に基づく対応
懲戒処分や退職勧奨などを行う場合は、就業規則の規定に基づく必要があります。
例えば
などです。
就業規則が整備されていない場合、適切な対応が難しくなるため注意が必要です。
【事例】問題社員対応で職場環境が改善したケース
ある介護事業所では、遅刻や勤務態度に問題がある職員がいました。
当初は人手不足のため、注意のみで対応していました。しかし、次第に職場の雰囲気が悪化し、複数の職員が退職を検討する状況になりました。
そこで管理者と社労士が連携し、
を行いました。
結果として、その職員は改善が見られなかったため退職となりましたが、その後職場環境は大きく改善しました。
小規模事業所ほどルールが重要
介護事業所やクリニック、保育園は比較的小規模な組織であることが多く、経営者と職員の距離が近いという特徴があります。
そのため、感情的な判断や個別対応が増えやすい傾向があります。
しかし、小規模組織ほど
が重要になります。
これらが整備されていれば、トラブルを未然に防ぐことができます。
社労士としての実務的アドバイス
問題社員への対応で最も多い失敗は、次の2つです。
一つは「我慢しすぎる」ことです。問題を先送りすると、状況は悪化します。
もう一つは「感情的に対応する」ことです。怒りに任せて発言してしまうと、後で労務トラブルになる可能性があります。
重要なのは、
冷静に、段階的に、記録を残しながら対応すること
です。
まとめ
介護、保育、クリニックなどの医療福祉分野では、人材不足の影響もあり、問題社員への対応に悩む経営者が増えています。
しかし、問題社員を放置すると
-
職場環境の悪化
-
優秀な職員の離職
-
サービス品質の低下
につながる可能性があります。
そのため、
という基本的な対応を行うことが重要です。
もし問題社員への対応で悩んでいる場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。適切な対応を行うことで、職場環境を守り、組織の安定につなげることができます。
深刻化する「看護師不足」…離職率も高止まりで「定着」が課題に
厚生労働省の将来推計(「医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会 中間とりまとめ案」)によると、2025年に必要とされる看護師の数は188万~202万人であるのに対し、供給推計は175万~182万人程度にとどまる見込みです。その結果、最大で約27万人の看護師が不足する恐れがあるとされています。
また、日本看護協会の「2024年病院看護実態調査」によると、看護職員の離職率は11.3%で、離職率は依然として2ケタ台で横ばいを続けています。
高い医療需要の一方、慢性的な看護師不足にある昨今、看護師不足は採用の問題だけでなく、いかに長く働き続けてもらうかが大きな課題となっています。
特に、小規模な体制のクリニックでは、1人ひとりの看護師への業務依存度が高く、欠員が出るとすぐに診療体制に支障をきたす恐れがあります。
離職につながりやすい「人間関係」の悩み
看護師の離職理由はさまざまです。労働環境や待遇面への不満、結婚や妊娠・親の介護といったライフステージの変化、職場の人間関係……。
「私の経験や周りの看護師仲間と話す限り、看護師の離職理由として一番大きいのは、職場の人間関係だと感じます。特に、看護師同士の関係性です」
こう語るのは、キャリア30年以上のベテラン看護師、ケイコさん(仮名・50代)です。看護専門学校を卒業後、西日本の総合病院に約20年勤務。主にオペ室(手術室)や外科病棟でキャリアを積んだ後、「肉親の介護のため」退職を決意。その後、病院併設の介護施設などを経て、7年ほど前から現在のクリニックで看護師として働いています。
「急性期医療の現場でキャリアをスタートしたので、どちらかというと自分には急性期が向いていると思っていましたが、いまでは生活に根ざしながら高齢者をケアする在宅医療も好きになりました。うちのクリニックはホワイトなので非常に働きやすく、長く勤める看護師が多いですね」
こう話すケイコさんですが、入職当初は人間関係に悩まされたといいます。
「いまのクリニックは看護師が十数人いますが、入職当時は規模も小さく、組織体制も少しゴタついていました。私はキャリアこそ長いですが、クリニックによって勝手も違うので、教えてもらわないといけないことがたくさんありました。でも、人間関係がよくなかったのでなかなか上手くいかず、苦労した記憶があります」
具体的にはどんなことに苦労されたのでしょうか。
「たとえば私の場合は、水面下で意地悪をされていたといいますか……プリセプター(先輩看護師)が感じの悪い人で、『この前言いましたよね?』とか“『質問するな』オーラ”のようなものをずっと出していました」
しかし、そこはベテラン看護師のケイコさん。うまく下手に出ながら、できる限り自力で仕事を覚える努力を続け、半年ほどでひとり立ちすることができたそうです。
「特にクリニックの場合、看護師はみな育った環境やキャリアが違いますから、それぞれに看護師としての常識みたいなものがあります。それは仕方のないことだと思いますが、その違いを互いに理解し合ったうえでコミュニケーションを取ることが大切だと思います。そこは私自身、常に気をつけたいと思っているところです」
「良好な人間関係」が「良好な医療」を支える
現場の看護師同士の関係性が悪いと、医療の質の低下を招きかねません。それは、クリニック経営にも大きなダメージを与えます。だからこそ、クリニック経営者にはスタッフの人間関係を円満にし、良好なコミュニケーションが取れる職場環境を整える努力が求められるのです。
では、看護師の視点から考えたとき、どのような取り組みが望ましいのでしょうか。
「看護師同士の人間関係が悪いといっても、表面化していない場合も多いと思います。みな大人ですし、医療職として誇りを持っていますから、そこはぐっと我慢して表面的には取り繕います。だけど、我慢できない人は辞めてしまうかもしれません。
院長にお願いしたいのは、1人の看護師の意見だけを鵜呑みにせず、平等に話を聞いてほしいということです。立ち回りや口がうまい人もいますし、情報操作というか、うまく上にとり入って、気に入らない人を悪者に仕立てるようなケースもみてきました。
また、揉めている当事者もそれぞれが自分の正義を持っています。その言い分を公平に聞いて、客観的に判断していただきたいです。そして『常に全員を見守っている』という姿勢を示してもらえれば、看護師も安心して働けると思います」
クリニック経営を強化するうえで、優秀な看護師の確保は大きな課題です。そのための施策として、給与待遇や福利厚生の充実、ライフステージにあわせた育児休業・介護休業制度、キャリアアップ支援など、さまざまな切り口があります。
しかし、こうしたハード面の整備とともに、あるいはそれ以上に、ケイコさんが指摘する「職場の人間関係をいかに良好なものにしていくか」が、クリニック経営者には求められているのかもしれません。
「医療現場はどこも忙しいですし、大変なことや辛いことも少なくありません。でも、医師や看護師、事務スタッフなど、みんなのチームワークがよければ、お互いに協力し合って、困難なことも乗り越えていけると思います。これは、これまでの経験から実感していることです。
看護師は基本的に医療従事者として、患者さんに質の高い医療・看護を提供したいと思っています。しかし、ギスギスとした職場環境ではそれは難しく、結果的に忙しいばかりでやりがいを失い、精神的にすり減っていき、離職することになりかねません」
良好な人間関係を含めて、スタッフが働きやすい環境をつくることで、医療や看護の質が高まり、患者満足度も向上します。それが患者数の増加につながり、その利益はまた、スタッフの待遇や福利厚生などに還元する……。
このような「好循環」を続けることが、優秀なスタッフを定着させる秘訣なのでしょう。そしてそれが、クリニックの安定経営にもつながっていくのではないでしょうか。
参考© Medical LIVES
満足度の高いクリニックの「7つ」の共通点
1.「ありがとう」が飛び交っている
「良い組織」を作りあげていくうえで、組織内部の「承認欲求を高めること」が非常に重要です。
お互いに「なにかをしてもらって当たり前」ではありません。「当たり前」の反対は「有難し」です。この、「有難い=滅多にない」というのが「ありがとう」の語源ですから、筆者の所属するクリニックでは仕事が終わったら「お疲れ様でした」ではなく「ありがとうございました」と言うようにしよう、と決めています。
離職の多くは「人間関係」に起因するとよくいわれます。その人間関係の基盤は、コミュニケーションです。
「ありがとう」という言葉は、人に対する感謝とともに、自分にもいい影響を与えます。感謝の気持ちは、人の心の豊かさや心身の安定などにいい影響があると考えます。「ありがとう」をはじめとするポジティブな言葉が飛び交う職場にすることで、スムーズなコミュニケーションが可能になるのです。
2.「5S」が揃っている
5Sとは、「S」の頭文字をもつ「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」という5つのキーワードからとった言葉です。医療機関ですから、清潔にしていることで患者さんも働く医師や職員も気持ちよく過ごせます。
アメリカの犯罪学者ジョージ・ケリング博士が提唱した「割れ窓理論」をご存知でしょうか。かつて、ニューヨークは「犯罪多発都市」といわれ、列車の窓ガラスが割れていることも日常茶飯事でした。しかし、当時の市長が窓ガラスをはめ直したところ、それとは一見関係のない「街中の落書き」が消えたというのです。
1つの綻びから思わぬところにまで悪い影響はどんどん連鎖しますから、「5S」で職場環境を整えることは非常に重要といえます。
3.仕事を「チーム」として行っている
クリニックでの業務は、診察や受付、会計、検査など、複数の人間が絡みチームで連携して行うものがほとんどです。したがって、もし医師が最高の診察を行ったとしても、最後に会計時の職員の対応がよくなかった場合、患者にとって「あまりよくない病院だった」という印象になりかねません。
ですから、それぞれがそれぞれの役割を尊重しあい、連携して働く意識が重要です。
受付時や会計時の対応について、医師は把握しきることができません。「診察するドクターがこういう人だから」などと諦めるのではなく、それぞれのポジションとしてどんな価値を提供できるかということを考えて行動していく必要があります。
4.「短時間で最大の価値を提供する」工夫
これは3つ目の「連携」がキーワードです。クリニックに訪れたすべての患者さんが最大の満足感と安心感を得て、患者さんに納得して帰ってもらうことが、クリニックで働く医師・スタッフ全員の願いでしょう。
とはいえ、限られた時間のなかで、仮に医師だけに業務が集中してしまうと、そこが「ボトルネック」になってしまいます。看護師やスタッフなど、医師以外のメンバーでも業務を分担できるような仕組みをつくることが大切です。たとえば、「医師ではなくスタッフに問診を書いてもらう」「検査や処置、点滴などはスタッフにお願いする」などです。
こうすることで、短時間でも最大の価値を患者さまに提供できるようになるはずです。
5.業務のアップグレード=「DX化」
クリニック業務のなかで、「自動精算機の導入」「キャッシュレス決済の利用開始」「処方箋の電子認証化」など、最新機器や機能の導入で業務がアップグレードしているクリニックも多いのではないでしょうか。これらは、PDCAサイクル(Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善))を回すうえで非常に重要です。
クリニックにとってメリットのあるシステムは積極的に導入し、また利用するスタッフがそれに適応していくことで、業務の効率を上げ、患者の満足度を上げ、双方にとっていい影響をもたらすはずです。
6.アウトプット
職場環境を整えたり、業務をDX化するなど、上記を参考に行動を変えた結果いい効果を生んだら、最終的にそれらをマニュアルにしたり報告書に書くなどしてアウトプットし、周知しておくといいでしょう。
物事は、実はインプットよりもアウトプットのほうが大事です。なにごとも、学習の際は「インプット2:アウトプット8」の割合がいい結果を生みます。アウトプットを重視する組織にしていきましょう。
職場環境を整えたり、業務をDX化するなど、上記を参考に行動を変えた結果いい効果を生んだら、最終的にそれらをマニュアルにしたり報告書に書くなどしてアウトプットし、周知しておくといいでしょう。
物事は、実はインプットよりもアウトプットのほうが大事です。なにごとも、学習の際は「インプット2:アウトプット8」の割合がいい結果を生みます。アウトプットを重視する組織にしていきましょう。
7.「考えて生み出す」人であれ
「言われたことをそのままやる」、「過去と同じことを繰り返す」などは、いまの時代AIでもできることです。過去にはできなかったことやまったく新しい事象に対して行動する組織こそ、AI時代に生き残る組織といえます。
言われてやるだけの人間の集まりではなく、自分の頭で考え、課題にぶつかったときは「なにが根本的な原因になっているか」を考え、ただ問題を「対処」するのではなく「解決」するような組織にしていきたいものです。
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梅岡 比俊(うめおか ひとし)
医師
医療法人梅華会 理事長
- 提供:
- © Medical LIVES
「看護師や医療事務が診療開始30分前に来て準備をしています。本人は“自主的にやっています”と言っていますが、その分の時給は支払う必要がありますか?」
クリニックの院長先生から、非常に多いご相談です。
結論から申し上げます。
業務をしている以上、“自主的”であっても原則として賃金支払い義務が発生します。
本コラムでは、クリニック専門社労士の立場から、医療現場特有の実務リスクと具体的対策を解説します。
1.労働時間の基本原則|「自主的」でも支払い義務が生じる理由
労働時間の判断は、労働基準法に基づきます。
ポイントは明確です。
「使用者の指揮命令下にある時間」かどうか
たとえ院長が「早く来なくていい」と言っていても、
-
実際に業務を行っている
-
管理者がそれを把握している
-
暗黙に期待している
この場合、労働時間と認定される可能性が高いのです。
2.クリニックでよくある“自主的早出”の実態
医療機関では、次のような行為が典型例です。
■ 看護師の場合
-
診療器具の準備
-
ワクチン管理
-
点滴準備
-
カルテ確認
■ 医療事務の場合
-
レセコン起動
-
予約確認
-
前日の未収金処理
-
保険証確認準備
■ リハビリスタッフ等
これらはすべて「診療業務に直結する行為」です。
「自主的」「善意」「責任感」では、賃金支払い義務は消えません。
3.なぜクリニックは未払い賃金リスクが高いのか?
① 少人数運営による属人化
クリニックは5〜15名規模が多く、
で運営されがちです。
② 院長の“無意識の期待”
「診療開始時にはすぐ診られる状態にしておいてほしい」
この期待が、早出文化を生みます。
しかし、準備時間が勤務時間外なら、法的には残業になり得ます。
4.支払い義務が生じる判断基準
以下に該当すれば、支払い義務が生じる可能性が高いです。
| 状況 |
支払い義務 |
| 診療準備をしている |
高い |
| 院長が知っている |
高い |
| 他職員も慣例的に早出 |
高い |
| 完全私的行為 |
低い |
重要なのは、
「医院として黙認していなかったか」
という視点です。
5.未払い賃金になった場合の経営インパクト
例えば、
の場合、
月16,500円 × 24か月 = 396,000円
10名いれば約396万円。
さらに、
-
遅延損害金
-
付加金(裁判時最大同額)
-
労基署是正勧告
-
求人応募減少
-
院内の信頼関係悪化
といった影響があります。
特に医療機関は地域密着型のため、評判低下は致命的です。
6.クリニックが取るべき具体的対策
① 始業前業務の明確な禁止
就業規則に
「許可なく始業前に業務を行わないこと」
と明文化します。
② 打刻=業務開始の徹底
-
タイムカード打刻前の業務禁止
-
早すぎる打刻を制限
-
クラウド勤怠導入
③ 診療体制の再設計
もし準備に30分必要なら、
-
始業時刻を前倒し
-
準備時間を正式労働時間に組込み
-
早出手当制度化
といった設計変更が必要です。
7.「支払わない」運用のリスク
支払わない場合には、
✔ 明確な禁止命令
✔ 書面周知
✔ 指導履歴
が不可欠です。
しかし実態として業務が行われていれば、否認は困難です。
8.クリニック専門社労士の実務事例
ある内科クリニックでは、
-
看護師が毎日20分早出
-
医療事務が診療前にレセコン準備
-
院長は把握していたが黙認
という状況でした。
改善策として、
-
始業時刻を20分前倒し
-
診療時間を微調整
-
勤怠ルール再設計
-
管理職ミーティングで周知
を実施。
結果として、
につながりました。
9.本質は“文化”と“構造”の問題
自主的早出の背景には、
があります。
問題は「支払うか」ではなく「発生させない設計」です。
まとめ|院長が守るべきは医院の未来
「自主的だから問題ない」
この認識は、将来の労務トラブルの種になります。
クリニック経営において重要なのは、
✔ 勤怠の可視化
✔ 明確なルール
✔ 診療体制設計
✔ 就業規則整備
です。
クリニックの未払い残業対策は専門家へ
医療機関には、
といった特殊性があります。
クリニック専門社労士として、
-
未払い残業診断
-
勤怠制度再設計
-
就業規則整備
-
院長向けマネジメント研修
を通じ、医院経営の安定化を支援しています。
善意に頼る経営から、仕組みで守る経営へ。
今一度、貴院の「始業前の実態」を確認してみてはいかがでしょうか。
昨年末に成立した令和7年度補正予算は、「医療・介護等支援パッケージ」として1兆3,649億円、うち医療分野には1兆円超が組まれる大型予算となりました。今回は、どのような支援策が実施されるのか、その内容を確認します。
①賃上げ・物価上昇に対する支援 5,341億円
病院・有床診療所は1床あたり、医科無床診療所・歯科診療所・保険薬局・訪問看護ステーションは1施設あたりで支援が行われます。
②施設整備の促進に対する支援 462億円
医療提供体制施設整備交付金等の交付対象となる新築、増改築等を行う医療機関に対し、㎡数に応じた建築資材高騰分等の補助です。
③(独)福祉医療機構による優遇融資等の実施 804億円
医療機関等の資金繰り支援のための無利子・無担保等の優遇融資や、民間病院に対する資本性劣後ローンを行うための財源です。
④医療分野における生産性向上に対する支援 200億円
一定の要件のもと、業務効率化・職場環境改善のためにICT機器等の導入等の取組を行う病院に対し、必要経費が支援されます。
⑤病床数の適正化に対する支援 3,490億円
「病床数適正化緊急支援基金」を創設し、病床数の適正化を進める医療機関に対し、一床あたりの一定交付額の財政支援が行われます。
⑥出生数・患者数の減少等を踏まえた産科・小児科への支援 72億円
分娩数が減少している分娩取扱施設、分娩取扱施設の少ない地域に所在する施設、近隣施設と連携し産前・産後診療を行う施設、小児医療の拠点となる病院に対する補助事業です。
③を除き、窓口は都道府県となります。
また、同補正予算では「重点支援地方交付金」でも、医療等に対するエネルギー・食料品価格の高騰分への対応が盛り込まれました。窓口は、都道府県、市町村です。
詳細は、各自治体の発信情報でご確認ください。