小さくても勝てる〉介護人材不足、AIで打破
人工知能(AI)を活用し、介護に関する人手不足問題を打破する中小企業がある。これまで膨大な人手が必要だった介護支援計画の作成や事務処理にかかる作業をAIに代替させることで、新しい施設の開業や現場サービスの向上につなげる考えだ。
関西中心に100以上の介護付き有料老人ホームを運営するチャーム・ケア・コーポレーションは1月から、半年ごとに更新する入所者の介護スケジュールの原案を生成AIが作成するシステムを試験導入した。
新規開業に人材
従来はケアマネジャー(介護支援専門員)が介護記録や睡眠データ、本人・家族・かかりつけ医師へのヒアリングをもとにケアプランを手作業で策定していた。新システムでは、人は原案の確認や修正を担う。1人あたり最大4時間ほど要していたプラン作成は2時間程度まで短縮した。
1人のケアマネジャーがプラン作成を担当する入所者数は、現在の約60人から100人程度まで増やせるとみる。6月末には全施設で本格導入を予定する。遠藤圭太・経営企画室長は「ケアマネジャーは業界全体で不足感が強い。省人化できれば質の高い人材を吟味して採用できる」と語る。
2026年6月期の売上高は前期比4%増の485億円、営業利益は16%増の44億円を見込む。既存施設の省人化は利益率を高め、新規開業の施設に人を回すなど成長も追い求めやすくなる。
現在はケアマネジャーごとにプランの作成手法にばらつきがあるものの、大野世光・介護DX推進室長は「AIを使えば質を標準化できる」とみる。将来はAIが過去の記録を分析し、入所者の行動変化を介護職員に伝えるような機能を導入する構想を持つ。
高齢化が進む日本では介護の需要が急増している。厚生労働省によると、要介護(要支援)認定者数は24年3月末時点で初めて700万人を突破した。過去20年の間に約300万人も増え、介護給付によって国の財政負担が増している。
同時に介護関連の人手不足は一段と進む恐れがある。厚労省は26年度に必要な介護職員は約240万人とみる。40年度には約272万人に跳ね上がる見通しだ。待遇面や働きやすさなどの問題から、人手の確保は年々厳しくなっている。
介護関係職種の有効求人倍率は24年度に4.08倍。この指標は1倍を超えると求人の数が多いことを示し、全職業の倍率は同年度に1.14倍だった。介護の求人数が突出して高い現状を映す。人手が極端に足りない業界だからこそ、AIを賢く導入し現場サービスを高める知恵が欠かせない。
九州で介護付き有料老人ホームや訪問介護事業などを手掛ける、あおぞらケアグループ(鹿児島市)は25年11月、介護業界をAIで支援するケアチャット(大阪市)と資本・業務提携した。
介護施設で負担が重い作業の一つは、ファクスで届く利用者ごとの書類の整理だ。利用者ごとに介護器具や服薬指導など、最大60種類に及ぶ異なる書類を受け取らなければならない。
約800人の利用者がいる、あおぞらケアのある施設では、これまで月1万枚程度の書類をファクスで受信。介護職員が書類を手作業で仕分けするのに月約190時間かかっていた。
ファクスで受信した書類をAIが自動で解析・整理するシステムを導入し、事務処理時間を約9割削減した。ケアチャットの城戸勇人社長は「AIで生まれた時間を利用者のサービス改善につなげなければいけない」と力を込める。
あおぞらケアの大牟禮康佑代表は「現場の残業はほとんどなくなった。介護人材の不足を防ぐためにも、やりがいと経済的豊かさの両立が欠かせない」と話す。実業家の堀江貴文氏らと組み、介護業界で生成AIをどう使うか教えるオンラインスクールも25年から運営している。
意識改革に時間
ロボットを活用し、介護現場で専門人材不足に対応する中小もある。
精密部品メーカーのサンコール(京都市)は歩行学習支援ロボットを開発した。足に装着するロボットが人の歩行を感知し、タブレットで事前に設定した最適な足の動かし方に導くよう設計した。歩行に障害を抱える人がリハビリテーションなどで使っており、介護施設や病院への納入を進めている。
介護施設でリハビリにつきそう理学療法士らの専門人材は地方に少ない傾向がある。こうした現状を踏まえ、遠隔操作型のロボットを試験している。理学療法士が離れたところからロボットを設定し、標準的な介護職員が歩行を支援できる環境整備を目指す。個人により適合するようAIの活用を視野に入れる。
もっとも、介護の事務と異なり現場にAIが浸透するにはなお時間がかかるとの見方もある。
チャームケアは24年に携帯型エコーを全施設で導入。AIがエコー画像を深層学習し、ぼうこうの大きさを計測して尿のたまり具合を判定したり、直腸での便の位置を知らせて予期せぬ排せつを防いだりする。しかし「エコーは医療従事者が使う」との意識が現場での普及を阻み、導入から1年半がたっても使用率は6割弱にとどまる。
介護業界に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの丹羽麻一子氏は「AIを積極的に導入することは業務の効率化に加え、採用面でも若年層へのアピールにつながる」と話す。そのうえで「現場の抵抗感を軽減するため、業務フローを踏まえて導入を進める必要がある」とみる。(3月18日 日本経済新聞)






