保育士の倍率が13倍!転職希望者殺到する保育園 そのわけは シリーズ保育現場のリアル(働き方の工夫編)~NHKニュース~

「国の基準の2倍以上の保育士を配置することで、保育者が心にゆとりをもって保育ができています。離職率も低く保育の質の向上も実現できています。取り組みを共有させてください」

保育現場の厳しい現状を伝え続けている私たちの元に、この投稿を寄せてくれたのは、東京・杉並区で、6つの保育所を運営する法人の統括、野上美希さんです。
「ここで働きたい」という保育士の応募が殺到し、中途の採用倍率は13倍にも上るといいます。いったいどのような工夫をしているのか、取材しました。
(首都圏局/記者 氏家寛子)

配置基準の2倍以上 メリハリある働き方

訪ねたのは、杉並区にある「ピコナーサリ新高円寺」という保育所です。
国の基準の2倍以上の保育士を配置しています。

正午、給食の時間に4歳児の部屋をのぞくと、2人の先生が見守るなかで、15人の子どもたちが落ち着いた様子で食事をとっていました。国の配置基準では4歳児の場合、保育士1人に対する子どもの数は30人なので、それを上回る体制となっています。

4歳児の給食

同じ時間に1階の休憩室では、保育士たちが食事をとっていました。休憩時間は1時間。そこに、子どもたちの姿はありません。連絡帳を書いたり事務作業したりする時間は、保育時間の中で確保できるので、持ち帰りや残業もないということでした。

職員の休憩室

これらは私(記者)にとって驚きの光景でした。
NHKの保育現場のリアルのウェブサイトに保育士から寄せられる投稿には、「休憩時は、子どもが昼寝をしている横で、連絡帳を書きながら過ごす」など、業務の傍ら休憩をとらざるをえない厳しい現状を訴える声が多いからです。

目が離せない年齢の子どもたちと過ごす職場だからこそ、子どもと離れた場所での休憩が必要だといいます。また、同僚の保育士とコミュニケーションをとる余裕があると、新たな気づきも生まれるといいます。

20代の保育士
「以前勤めていた園では休憩がとれず、業務量が多くて時間に追われて余裕がなかった。休憩時間に他の先生とお話しすることで、保育のやり方をこうしてみようという気づきがあり、自分の成長につながっていると思う」

どうやって手厚い配置を “地味な作業で”

野上さんは、民間のシンクタンクなどを経て夫の実家の幼稚園の経営に加わり、9年前に保育園を開園。今は、IT企業から転職した夫とともに、杉並区内の6つの園を運営しています。

開園当初は、国基準通りの人員配置でしたが、保育士は多くの業務を抱えて疲弊。離職者が相次ぐ厳しい状況に直面し、手厚い保育士配置を目指すことを決断しました。

そのために取り組むのが、経費の削減のための業務見直しです。
保育所の見学や地域向けの催しは、電話ではなく、HPで受け付けたり、手書きの書類をパソコンで入力したりするなど、事務作業にかかるコストをICTの活用で効率化しました。

一方、人件費を捻出するための経営努力もしています。
自治体が用意する補助金はしっかりと調べて請求。子育て中の家庭を支援する催しを複数回開くともらえる補助金で年間60万円、小中高校生の職場体験受け入れで年間60万円など、プラスαの事業にも取り組むことで、6つの園であわせて4人分の人件費を確保しました。

野上美希さん
「補助金は何十万円という単位のものをコツコツと積み上げるということで、その事業を例えば5つ、6つ行う、それを園ごとにすべて行うことで、(私たちが運営する)6園の中で4人分の補助をいただけるというように、1人分ずつ積み上げて最終的に2倍まで達成するという、とても地味な作業です。活用できるものがないか情報は能動的に探すことが必要だと思います」

育児中でも無理なくやりがいある仕事を

さらに、人を増やすだけではなく、長く働いてもらうための仕組みも導入しました。
保育士が子育てをしながらキャリア形成できるよう工夫しているのです。

6歳の男の子の母親で、保育士歴10年の池田みゆきさんです。

もともと飲食店で働いていましたが、保育士の仕事に憧れ、専門学校に通って保育士の資格を取得。この保育所で4年前から正規の職員として働いています。

保育の現場では、子育て中の保育士がパート勤務になるケースは少なくないですが、仕事にやりがいを感じている池田さんは、キャリアを継続したいと考えたといいます。

池田みゆきさん
「“正規の職員で働いてクラスの担任を持ちたい”という気持ちが強くありました。一方で、自分の子どもとの時間も大切なので、持ち帰りの仕事があったら両立できないのではないかと不安な気持ちはありました。この職場では残業がなく有給がとりやすいので助かっています」

池田さんは今、1歳児クラスの担任を持って、8時から18時の中でシフトを組んで勤務しています。
担任として送り迎えの時間帯に保護者に対応することは、保護者と関係をつくる上で大切なことで、今後の業務の幅や活躍の場を継続し、広げることにもつながるからです。

この保育所では、子育てや介護など事情を抱えた人も柔軟な働き方ができるよう、シフトの組み方を工夫。15分刻みで、9パターンから選ぶことができます。

さらに、育児中の保育士が朝夕のシフトに入る際に、自身の子どもを預ける保育園で延長保育料がかかる場合には、その料金を全額補助する制度を導入しました。
若手の保育士に偏りがちだった朝夕のシフトに子育て中の保育士も入りやすくすることで、みんなが公平に働ける職場づくりにつながっているといいます。

池田みゆきさん
「自分も保育士でありながら子育てに悩むことはたくさんあるので、保護者の方とわかりあえることもあるのかなと思います。自分の子どもだけではなく、ほかの子どもの成長もそばで見守ることができることに喜びを感じられるこの仕事がとても楽しいです。サポート体制が整っているからこそ、これからもキャリアを積んでいきたいと感じられます」

倍率13倍 応募者が殺到する園に

こうした保育現場の働き方改革によって、この保育所では離職者が減ったことで、採用のために費やすコストを下げることにも成功しました。
こうした取り組みが保育士たちの間に広まり、2022年度の採用倍率は新卒が7倍、中途は13倍にも上り、希望者が相次いでいるというのです。

実は、保育士登録をしていながら働いていない“潜在保育士”といわれる人は資格保持者全体の3分の2に上ります。

子どもの安全に関わる重大な責任を負っているにもかかわらず、「待遇が悪い」「勤務が過酷」といったことが背景にあるといわれています。野上さんは、保育業界で働き方改革が進むことで、保育所が、“潜在保育士たちが戻ってきたい”と思える職場になるのではないかといいます。

野上美希さん
「保育士の働き方や仕事へのやりがい、そして心のゆとりは子どもに返ってくることだと思います。子どものために日本の未来の社会のためには、保育士の配置の手厚さは非常に重要なことだと思います。配置さえしっかり改善されれば、保育って本当に楽しめるので、保育士を辞めた方も戻ってきたいと思えるようにしたい。自治体によっては補助を積み上げていくことも難しいと思うので、全国的にそういった環境が整えられるよう国にもお願いしたいです」

取材後記

異業種から転身した野上さんは、保育の現場は子どもの命を預かり、緊張感のある仕事をしながらも休憩さえもとれないことに驚いたといいます。そこで、先生たちのやりがいによって支えられる園ではだめだと思い、改革に着手したということです。

厳しい保育現場を取材してきた私は、取材した保育所のような手厚い配置の実現には、なにか“秘策”があるのではないだろうかと考えていました。しかし、取材を通じて、そういうものはないことがわかりました。野上さんが、「はじめはかなりの話し合いが必要でした」と打ち明けてくれたからです。

働き方改革を進めていく中で、“残業をなくすことでみんなが同様に活躍できる組織を目指したい”と根気よく伝え続けたといいます。それを伺い、新たな保育園の形を目指すためには、現場でしっかりと議論し、さまざまな試行錯誤を積み重ねていくことが大切なんだと思いました。(NHK首都圏ニュースより)

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