保育園人事制度(キャリアパス制度)はなぜ人材の定着を左右するのか?

― 保育園専門社労士が語る「辞めない園」の設計戦略 ―

保育園経営者から頻繁にいただくご相談があります。

「処遇改善もしている。研修も実施している。それでも若手が辞めてしまうのはなぜか?」

この問いに対する答えは明確です。
保育士が辞める本当の理由は“給与水準”ではなく“将来の見通しの不透明さ”にある。

そして、その解決策こそが人事制度(キャリアパス制度)の設計と運用です。


保育業界における人材定着の現状

制度設計を担うこども家庭庁厚生労働省は、処遇改善等加算の要件としてキャリアパスの整備を求めています。

しかし実際には、

  • 加算取得のために形式的に作成した

  • 等級表はあるが運用していない

  • 昇格基準が曖昧

という園が少なくありません。

これでは人材定着にはつながりません。


なぜキャリアパス制度が保育士の定着率を左右するのか?

保育士の離職理由で多いのは次の3点です。

  1. 将来像が描けない

  2. 評価が曖昧

  3. 成長実感がない

給与水準だけでは、これらは解決しません。

キャリアパス制度は、

  • 「何年後にどんな役割を担うのか」

  • 「主任・副主任になるには何が必要か」

  • 「専門性を高めたらどう評価されるのか」

を明確にする仕組みです。

つまり、“未来の可視化”が定着を生むのです。


【具体例】若手が定着しなかった認可保育園のケース

園児定員90名の認可保育園。
離職率は年間20%近く。

原因をヒアリングすると、

  • 主任と一般保育士の役割が不明確

  • 給与差が小さい

  • 昇格基準が園長の主観

という構造的問題がありました。

そこで、

  • 役割等級の再設計

  • 昇格要件の明文化

  • 年2回の評価面談制度

を導入。

結果、翌年度の離職率は12%に改善。
特に入職3年未満の若手離職が大きく減少しました。


キャリアパス制度がない園で起きる3つの問題

① ベテラン依存

仕事が特定の職員に集中する。

② 中堅層の停滞

「どうせ上が詰まっている」と感じる。

③ 管理職の疲弊

園長・主任に業務が集中する。

これは人手不足ではなく、制度不足です。


「処遇改善=定着」ではない理由

こども家庭庁の方針により処遇改善は継続しています。しかし、賃上げだけでは定着は実現しません。

給与は“不満の解消”にはなりますが、“やりがい”や“将来性”は生みません。

保育士が求めているのは、

  • 専門性の承認

  • キャリアアップの道筋

  • 自分の成長実感

です。


定着する保育園のキャリアパス設計3原則

1. 役割基準の明確化

例:

  • 一般保育士

  • リーダー保育士

  • 副主任

  • 主任

それぞれの役割・責任範囲を明文化。

2. 昇格要件の数値化

  • 指導計画作成能力

  • 保護者対応力

  • 後輩指導実績

  • 園内研修講師経験

曖昧さを排除します。

3. 面談制度の仕組み化

年2回の評価面談を制度として固定化。

制度は「作る」より「運用する」ことが重要です。


離職率1%改善の経営効果

職員30名の園で、平均採用コスト1人30万円と仮定。

離職率15% → 14%

削減効果:約30万円
加えて、

  • 教育コスト削減

  • 残業削減

  • 保護者満足度向上

を考慮すると、経営効果はそれ以上になります。

キャリアパス制度はコストではなく、経営安定の投資です。


小規模園こそ制度が必要

「うちは小規模だから制度は大げさ」

という声もあります。

しかし実際は逆です。

人数が少ない園ほど、

  • 属人化

  • 不公平感

  • 感情的評価

が起きやすい。

だからこそ、公平性を担保する仕組みが必要なのです。


2026年以降の保育経営に求められる視点

政策の方向性は明確です。

  • 専門性の高度化

  • 組織マネジメント強化

  • 持続可能な園運営

これからは「人を集める園」ではなく、
「人が辞めない園」が生き残る時代です。


保育園専門社労士としての本音

人が辞める原因を「本人の性格」や「最近の若者気質」にしている限り、定着は改善しません。

辞めるのは、未来が見えないから。

キャリアパス制度は、

  • 人材定着

  • 組織力向上

  • 保育の質向上

  • 経営安定

を同時に実現できる経営ツールです。


もし、こんな課題があれば

  • 若手が3年以内に辞める

  • 主任候補が育たない

  • 評価が感覚的になっている

制度の見直しが必要かもしれません。

保育園専門社労士として、
人事制度診断・キャリアパス再設計支援を行っています。

制度の目的は加算取得ではありません。
「辞めない園」を作ることです。

これからの時代に選ばれる保育園になるために、
今こそ人事制度を経営戦略として再設計してみませんか。

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