人事制度(キャリアパス制度)はなぜ人材定着を左右するのか?
― 介護専門社労士が語る「辞めない組織」の設計図 ―
介護事業所の経営者から、最も多くいただく相談の一つがこれです。
「処遇改善もしている。研修もやっている。それでも人が辞めるのはなぜか?」
この問いに対する私の答えは明確です。
人が辞める本当の理由は、“給与の額”ではなく“将来の不透明さ”にある。
その鍵を握るのが、**人事制度(キャリアパス制度)**です。
介護業界における人材定着の現実
制度設計を行う厚生労働省は、処遇改善加算の要件としてキャリアパスの整備を求めています。
しかし、多くの事業所では「加算取得のために作った制度」がそのまま眠っています。
形式上はある。
しかし、機能していない。
この状態では、人材定着にはつながりません。
なぜキャリアパス制度が人材定着に直結するのか?
人が辞める理由の上位は常に次の3つです。
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将来が見えない
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評価が不透明
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成長実感がない
キャリアパス制度は、この3つを同時に解決できる仕組みです。
① 将来が見える
「3年後にどんな役割になり、どれだけ給与が上がるか」が明示されている。
② 評価が透明
感覚評価ではなく、役割基準で判断される。
③ 成長が実感できる
昇格=責任と報酬の増加が明確。
【具体例】制度が機能していなかった特養のケース
ある特別養護老人ホームでは、離職率が18%。
処遇改善加算は取得済みでしたが、問題はここにありました。
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主任と一般職の役割が曖昧
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給与差が月1万円程度
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昇格基準が不透明
結果、若手はこう感じていました。
「頑張っても変わらない」
そこで実施したのが、
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役割等級の再設計
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昇格要件の数値化
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面談制度の導入
1年後、離職率は11%まで改善。
特に入社3年未満の離職が減少しました。
キャリアパス制度がない組織で起きること
① ベテラン依存が進む
② 中堅が育たない
③ 管理職が疲弊する
これは“人材不足”ではなく、制度不足です。
「賃上げ=定着」ではない理由
厚生労働省の政策により、処遇改善は今後も続きます。
しかし、単純な賃上げは一時的効果しかありません。
なぜなら、
給与は「不満の解消」にはなるが、「動機づけ」にはならない
からです。
動機づけを生むのは、
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承認
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成長
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役割の拡大
つまりキャリア設計です。
定着する事業所のキャリアパス設計3原則
1. 役割基準で等級を作る
年功ではなく「何を担うか」で区分する。
2. 昇格基準を数値化する
例:
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事故報告書の質
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後輩指導実績
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加算取得への貢献度
3. 面談を制度化する
年2回の評価面談を必須化。
制度は“紙”ではなく“運用”で価値が決まります。
離職率1%改善の経営効果
職員80名の法人で、平均採用コスト40万円と仮定。
離職率15% → 14%
削減効果:40万円
さらに教育コスト・残業代を含めると、実質100万円以上の改善になることも。
キャリアパス制度は、コストではなく投資です。
2026年以降の介護経営で求められる視点
制度改正の流れは明確です。
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加算要件の高度化
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生産性向上の義務化
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組織マネジメント重視
つまり、
「制度を整備している事業所だけが評価される時代」
に入っています。
よくある誤解
□ 制度を作ると硬直化する
□ 小規模事業所には不要
□ 管理が大変になる
実際は逆です。
制度がない方が、
属人化し、トラブルが増え、離職が進みます。
介護専門社労士としての本音
人が辞める理由を「本人の問題」にしている限り、改善はしません。
辞めるのは、
未来が描けないからです。
キャリアパス制度は、
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人材定着
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生産性向上
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人件費率適正化
を同時に実現できる経営ツールです。
もし、こんな不安があれば
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キャリアパスはあるが機能していない
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若手が3年以内に辞める
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管理職候補が育たない
一度、制度の設計を見直す時期かもしれません。
介護専門社労士として、
人事制度診断・キャリアパス再設計支援を行っています。
制度は作ることが目的ではありません。
“辞めない組織”を作ることが目的です。
2026年以降も選ばれる介護事業所になるために。
いまこそ、人事制度を経営戦略として見直してみてはいかがでしょうか。






