少子化と向き合う 惑う現場(上) 「誰でも通園」足りぬ保育士

「誰でも通園制度」に向けたモデル事業が始まった

 

 「異次元の少子化対策」で現場に困惑が広がっている。誰でも子どもを預けられる保育事業はテスト段階から保育士が足りない。児童手当の増額は25年からと、あと1年半も待たねばならない。17月の出生数は再び過去最少ペースだ。現場の体制を整えなければ、少子化に歯止めはかけられない。

 

 誰でも子どもを預けられる保育所に、順番待ちの列ができている。

 

 有田焼で知られる佐賀県有田町は人口19000人の小さな町だ。あかさかルンビニー園は両親の働き方を問わず子どもを受け入れる「こども誰でも通園制度」(仮称)のモデル事業を始めた。週あたり10人の定員はすべて埋まり、これ以上の受け入れは難しい。

 

 高齢化が進む町で子どもは少ない。そして子ども以上に、保育士が足りない。

 

 「若い人は給料が高い都市の保育所に行ってしまう」。同町の川原聡美課長はこう漏らす。すでに保育士の3割は65歳以上の高齢者だ。離職した高齢の保育士に再び働いてもらうよう頼むケースも多い。子どもは誰でも受け入れたいが、保育士のなり手は見つからない。

 

 こども家庭庁は23年度、保育所の定員の空きを利用して週12回、未就園の子どもを預かるモデル事業を31自治体で始めた。いわゆる「ワンオペ育児」でふさぐ親も少なくなく、希望する人数の子どもを持てる環境作りは急務と言える。

 

 都市部では希望者があふれた。東京都文京区では61日の募集開始直後から応募が殺到し、今は150人程度がキャンセル待ちだ。

 

 現行のモデル事業では利用する曜日と時間を固定しているが、それでも希望者を受け入れきれない。「誰でも通園制度」は親が希望する日時に自由に預けられる仕組みを目指している。文京区の担当者は「日によって利用者数に偏りが出れば保育所の運営は難しい。人員確保も課題になる」と話す。

 

 異次元の少子化対策は誰もとりこぼさないことを意味する。しかし、現時点ではお金も人材も足りない。

 

 誰でも通園制度のモデル事業は国が費用の9割を負担しており、あかさかルンビニー園は月2000円前後で利用できる。全国展開になると国の負担が下がる可能性がある。財政規模の小さい町は多くの負担はできず「利用料が上がるかもしれない」(有田町の川原氏)。

 

 お金に余裕がある都市部でも人材確保は難題となる。品川区は子どもの安全確保のために職員の増員が必要になると気づいた。担当者は「園児1人分の空きがあるから1人受け入れられるという単純な話ではない」とため息をつく。(日本経済新聞 朝刊 経済・政策(5ページ)2023/9/27)

 

 あかさかルンビニー園の王寺直子園長は「保育士資格を持つ人だけでなく、保健師や栄養士などの専門職の保育も認めてほしい」と話す。毎日預かる子どもたちと違い、家庭で育つ子どもの面倒を見るのは専門的な知識のある人のほうが良いこともあるという。

 

 こども家庭庁は21日、「誰でも通園」の制度化に向けた検討会を立ち上げた。制度の概要案では生後6カ月~2歳の未就園の子どもを対象とする。事業者は自治体が選び、親が施設に直接予約する。

 

 病児保育などを手掛ける認定NPO法人フローレンス(東京・千代田)の赤坂緑代表理事は「円滑な導入に向けては、補助金のあり方や自治体の介入度合いなど、事業者の声を聞いた上での細やかな制度設計が重要になる」と語る。(日本経済新聞 朝刊 経済・政策(5ページ)2023/9/27)

 

 

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