急患26人診療、2人みとり…でも休息扱い 宿日直の「特例」急拡大

「宿日直許可がおりた後も、宿直のときは毎回多くの救急患者を診ている」と話す男性医師

医師が宿直や日直をしても、労働時間とみなさない特例が医療現場に広がっています。来年4月からの「医師の働き方改革」に逆行しかねない動きですが、国や病院も後押ししています。なぜなのか、現場から伝えます。 宿直をこなしていても「休息」扱いに…その違いはどこから? 酷暑が続いていた8月上旬の夕方、東日本にある救急病院(約300床)に勤める40代の男性医師は、もう一人の医師と翌朝9時までの宿直に入った。 午後8時前、尿管結石の合併症で腎臓に炎症を起こした高齢女性が救急車で運ばれて来た。敗血症性ショックを起こす恐れがあった。

 

すぐ専門治療が必要と判断し、近くの病院3カ所に1時間かけて電話したが、「夜なので医師を呼び出せない」と受け入れを断られた。 女性に問診、血液や尿の検査、抗生剤の点滴、尿道カテーテルなどの処置をして入院してもらい、夜中は23回様子を見に行った。翌朝、泌尿器科がある病院に転院するのを見届けた。 午前0時前、急性アルコール中毒で意識のない若い男性が搬送されてきた。午前2時前に来たのは、ほかで受け入れを9回断られたという熱中症の中年男性だった。 朝までに受け入れた救急患者は計26人。男性医師は「夜間の救急では一人として手を抜ける患者などいない」と話す。 合間を縫って、病棟の約300人の入院患者も見回った。2人の末期がん患者をみとり、家族を呼んで説明し、死亡診断書を書いた。

 

死亡診断書を書き、病棟を見回り…でも「休息時間」に 午前4時前に仮眠室に入り、起きたのが午前7時。睡眠は3時間だった。 ところが、この宿直は一定の手当が出るものの、病院から労働時間ではなく、「休息時間」とみなされた。男性医師は翌日も休めず、夜まで通常診療をこなした。 これらが可能になったのは、この病院が今年に入り、労働基準監督署から「宿日直許可」を得たからだ。

 

許可があれば、夜間や土日、入院患者の急変や外来患者に対応するため医師が待機する「宿直」や「日直」について、特例的に労働時間としてみなさなくてもよくなる。 来年4月から「医師の働き方改革」が始まり、時間外労働が原則年960時間(月80時間相当)に罰則付きで規制されるのを前に、いま多くの病院が宿日直許可を申請している。 地域の病院は人手不足のため、宿日直は主に地元の大学病院から派遣される医師が担っている。時間外労働の上限は、大学病院と派遣先での労働時間を合計した上で適用される。

厚労省も促進の「宿日直許可」、浮上した二つの課題 許可がない病院では宿日直の時間すべてが労働時間とみなされるため、大学病院は上限超えを心配し、派遣医師を引きあげる動きがある。各病院は宿直を回せなくなり、救急や出産の対応が止まってしまう事態を避けようと許可を申請している。 地域医療の崩壊を防ぎたい厚生労働省も、病院に宿日直許可の申請を促している。労基署による許可は2021年が233件、22年が1369件と約6倍に急増した。

ただ、宿日直許可をめぐって、二つの課題が浮上している。 厚労省の基準では、許可には「軽度または短時間の業務」「十分な睡眠がとれる」などの条件を満たす必要があるが、表現があいまいなため、厳密には基準に該当しないような病院も許可されることがある。 また、許可の取得後でも、宿日直中に通常業務が発生すれば、病院は労働時間として扱い、時間相応の手当も支払わなければならないが、適切に運用していないケースがある。 これらが原因で、実際には働いているのに労働時間とみなされない「隠れ宿日直」が存在すると専門家は指摘する。 男性医師は訴える。

「労基署は病院の実態をよく把握せずに許可したのではないか。長時間労働の医師が患者を治療すれば、事故も起きかねない。働き方改革に逆行している」    朝日新聞社

お電話でのお問い合わせ

03-6435-7075(平日9:00~18:00)

営業時間外のお問い合わせはこちらから

相談・ご依頼の流れはこちら