【医師の実体験】「患者を見殺しにするのか!」「訴えてやる!」…理不尽な要求を繰り返すモンスターペイシェントとの“壮絶バトル”

スーパーマーケットや飲食店における「クレーマー」や教育現場における「モンスターペアレント」と同様、医療現場においても自己中心的で理不尽な要求を繰り返す「モンスターペイシェント」が現れスタッフを疲弊させていると、高座渋谷つばさクリニック院長の武井智昭氏はいいます。今回は筆者の実体験をもとに、モンスターペイシェントの実態と対策についてみていきましょう。

「モンスターペイシェント」とは

「モンスターペイシェント」とは、医師や看護師、医療事務などのスタッフに対して暴力や暴言をふるう、理不尽な要求を繰り返す、診療費を踏み倒す、診療行為を邪魔するなど、自己中心的な行動により医療機関の機能低下をもたらす迷惑な患者のことを指します。

医療スタッフを心身ともに疲労困憊させるモンスターペイシェントですが、境界性パーソナリティー障害など精神疾患をもっているケースも散見されます。実際に遭遇した場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

ここでは、筆者が経験した実体験をもとに、モンスターペイシェントに遭遇した際の対策を考えていきましょう。

「どうしてくれる!」…高圧的な態度で理不尽な要求を繰り返した48歳男性

48歳の男性患者Aさんの当院受診の契機は、市町村で実施している特定健診でした。

通常であれば電話予約で日時を決めて実施するものですが、Aさんは初診にもかかわらず「一緒に腹部超音波検査を実施しろ。これまで受診していた病院では健診とセットでしていたからできるだろ。それと、健診だから当然待ち時間もないよう配慮しろ」と、高圧的な口調であり得ない要求をしてきました。

筆者は、対応した医療事務から要求をのむべきか相談を受けました。

一瞬迷いましたが、「なにかの基礎疾患があるのだろう、そのフォローができれば大丈夫か……」と思い予約を受けつけることにしました。

振り返れば、これが「最悪な事態」のはじまりだったのです。

1週間後、予定通りAさんが来院されました。Aさんの依頼内容は、特定健康診断と肺がん検診(胸部レントゲン2枚)、そして腹部超音波検査の3つです。事前の電話の様子から、「対応注意」として慎重な対応を心がけました。

初めの問診も丁寧に行い、その後のレントゲン撮影まではスムーズでした。そう、レントゲン撮影までは……

“腎臓が悪いのは知っているはずだ!保険診療で検査しろ!”

その後、血液検査を行う際、看護師に対して次のように言いました。

患者A「私の腎臓が悪いのは知っているはずだ。特定健康診断の項目では電解質や腎機能の評価は対象ではない。保険診療で同時にやれ」

……無茶な要求です。

看護師から報告を受けた筆者はAさんを再び診察室に呼び入れ、「健康診断と慢性腎不全の同時検査は保険診療と健康診断との混合診療になるので、腎機能障害の検査と腹部超音波に関しては保険が認められず、すべて自費になります」と説明しました。

すると、Aさんは声を荒げて「この病院はぼったくりだ!」「金がない病んでいる患者から儲けている!」「民間企業ではありえない!」「院長を始めスタッフのカスタマーサービスの基本がなっていない!」などと、わめき始めました。

やむなく警察のお世話になるかと思いましたが、他のスタッフなどが集まってきたことや、他の患者からの視線を気にしたのか、やがて収まりました。結局、腎臓超音波検査と特定健康診断で含まれない腎機能検査は後日行う旨を伝え、なんとか説得した形です。

しかし、その後血液検査で針を刺して抜いた際「ああ、しびれた。左手が全然動かない。これじゃ仕事にならない。どうしてくれるんだ」と言いがかりをつけてきました。筆者は再び看護師から相談を受け、すぐに診察室に案内しAさんのクールダウンを図ります。

「こちらの落度があるかもしれませんが、実際のところは判断できません。こちらは適切に検査を実施したので、改善しなければ客観的な判断を仰ぐため、他医療機関へ紹介して評価します」と、担当したスタッフをフォローしながら返答しました。

Aさんはお金のことになるとスイッチが入るようで、「自分が受診する時間と診察費用、返してもらうからな」と吐き捨てられましたが、なんとかその場をしのぎました。

院長vs.モンスター…「直接対決」の結末は

衝撃の「待ち伏せ」

それから2週間後、Aさんは特定健康診断の結果を聞きに来院されましたが、診療受付時間を10分過ぎていました。

受付スタッフが、その日は対応ができない旨を話したところ、「診療時間外でも普通は診るだろう。患者を見殺しにするのか」と言い残し、去って行きました。

しかし、なんとクリニックの裏口でAさんの妻と思われる女性と落ち合い、筆者が出てくるのをストーカーのように待ち伏せていたのです。診療が終わり、医師会の休日夜間診療所の当番に向かおうと思った矢先、Aさんの顔を見た筆者は唖然としました。

やむなく、その場で話し合いです。「診療時間をもっと延ばせ、診療受付時間と実際の診療時間が異なるのは詐欺だから、しかるべきところに通報するぞ」とAさんは口調を高くしていましたが、筆者が警備員に電話で通報するふりをしたところ、逃げ出しました。

“弁護士に訴えてやる!”

その2週間後、肺がん検診の結果がまだ出ていないにもかかわらず、夕刻にAさんから電話がありました。「院長と話したい。17時に行く。空いているだろう」と一方的に切られ、その後いきなりクリニックに現れたのです。

この時点で、特定健康診断の結果は判明していたため、筆者はAさんに高脂血症があることを伝えました。「内服治療は行わず、生活習慣を改善して検査データを定期にフォローアップしていくと説明し、納得していただきました。

しかし、検査結果を渡す指定の用紙に記載した「判定 3:要医療」という文がお気に召さなかったのか、後日、病院と院長宛てにメールが届きました。

「『判定 3:要医療』とはどういうことだ。院長は『経過観察』と言った。でも要医療ということは、無駄な薬を出そうとしているに違いない」

その後、診察中に電話もかかってきたので、筆者はやむなく話を聞きました。Aさんは、「話の内容は録音しているし、メールも記録を残している。これを弁護士にいって法的に訴え、Google Mapで多数の最低な口コミを書いて受診患者を減らしてやる」と言います。

筆者は考えを巡らせ、患者やスタッフがいない時間外を指定し、警備会社をスタンバイした状態でお越しいただきました。

筆者も録音器具を用意しており、Aさんの「法的に訴える」という言い分は同じでしたので、感情的にならず記録をとり「気に入らなければ管轄の医師会や、保健所、県の医療安全相談にも通告してください。こちらも法的に対処しますし、いまこの場で弁護士さんに電話してもよろしいでしょうか?」と伝えました。

「私の腎臓のフォローはどうしてくれるんだ」というAさんには、「他医療機関へどうぞ」と。肺がん検診の結果に緊急性がない場合、信頼関係がなく医療ができない場合には他医療機関への紹介が妥当で適切であることを示しました。

下記判決※や他クリニックの事例など、客観的な法的根拠を文書などで示したところ、Aさんは以後突然訪問して長く話し込んだり、理不尽な言いがかりをつけたりすることは一切なくなりました。

※ 弘前簡易裁判所(平成23年12月16日判決)では、「診療行為には信頼関係が必要であり、信頼関係が失われたときには、患者の診療・治療に緊急性がなく、他に対応できる医療機関等が存在する場合には、医師がこれを拒絶しても、正当事由がある」と判断された。診療契約が結ばれている場合においても、「基本的な患者医師の信頼関係が破綻しているか」がポイントである。

まとめ

「モンスターペイシェント」に対しては、こちらが感情を乱すことなく、院内スタッフと相談し、また院外の相談窓口を利用し、さらに緊急時に備えて警備会社と連携して、とにかく1人で抱え込まないことが重要です。

また、患者の訴えを無下にせず、同時にスタッフを守るという姿勢を貫くことが難局を乗り越えるポイントになるのだと、身をもって学びました。

今回の事例を参考にされてはいかがでしょうか。

著者:
武井 智昭(たけい ともあき)

小児科医・内科医・アレルギー科医。2002年、慶応義塾大学医学部卒業。
多くの病院・クリニックで小児科医・内科としての経験を積み、現在は高座渋谷つばさクリニック院長を務める。
感染症・アレルギー疾患、呼吸器疾患、予防医学などを得意とし、0歳から100歳まで「1世紀を診療する医師」として地域医療に貢献している。
提供:
© Medical LIVES / シャープファイナンス

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