2026年に向けた「人件費高騰」とどう向き合うか
はじめに|「人件費が限界」という院長の本音
ここ数年、院長先生方から最も多く聞く言葉があります。
それは――
**「もうこれ以上、人件費は上げられない」**という本音です。
最低賃金は毎年のように引き上げられ、看護師・医療事務の採用市場は売り手優位。
一方で、医療報酬は簡単には上がらず、収益構造は大きく変わらない。
「職員には辞めてほしくない」
「でも賃上げ原資はない」
このジレンマに、多くのクリニックが直面しています。
2026年を見据えたいま、院長が知っておくべきなのは、
**“賃上げ一択ではない人件費対策”**です。
1.なぜ今、クリニックの人件費はここまで重くなったのか
最低賃金の上昇は「点」ではなく「流れ」
最低賃金は一時的な政策ではありません。
政府は明確に「持続的な賃上げ」を掲げており、今後も上昇基調が続くことはほぼ確実です。
特に影響を受けやすいのが、
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医療事務
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看護助手
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パート職員
といった時間給中心の職種です。
「新しく入る人の時給が、長く勤めている職員を追い抜いてしまう」
そんな逆転現象が、すでに多くの現場で起きています。
採用コストも“見えない人件費”
さらに見落とされがちなのが、採用コストの高騰です。
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求人広告費
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紹介会社への手数料
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採用後の教育・引き継ぎ時間
これらはすべて、人件費の一部です。
「賃上げはできないから、辞めたらまた採用すればいい」
この考え方が、結果的に最もコストがかかる経営になっているケースは少なくありません。
2.「賃上げできない=ブラック」ではない時代の考え方
最近は、SNSや口コミサイトの影響もあり、
「賃上げしないクリニック=悪」という短絡的な見方が広がりがちです。
しかし、社労士の立場から断言できるのは、
賃上げをしないこと自体が問題なのではないという点です。
問題になるのは、次のような状態です。
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なぜ給与が上がらないのか説明がない
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評価の基準が不明確
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頑張っても報われるイメージが持てない
職員が不満を感じる本質は、
「金額」そのものよりも、納得感の欠如にあります。
3.人件費をコントロールしながら満足度を上げる3つの視点
視点① 給与を「固定費」から「設計できる費用」へ
多くのクリニックでは、給与が
「なんとなく決めた金額」のまま固定化されています。
しかし、今後は次のような設計が不可欠です。
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基本給は抑え、役割・責任で差をつける
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手当の意味を明確化する
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昇給ルールを“感覚”ではなく“仕組み”にする
これにより、人件費の総額をコントロールしながら、
頑張る人が報われる構造を作ることができます。
視点② 「評価制度がない」ことが最大のコストになる
評価制度がないクリニックでは、必ず次の問題が起きます。
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真面目な職員ほど不満を溜める
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声の大きい職員が得をする
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院長が毎回、判断に悩む
結果として、
優秀な人から辞めていくという最悪の循環が生まれます。
評価制度は、大企業のためのものではありません。
むしろ、少人数のクリニックほど効果が大きいのです。
視点③ 「お金以外の報酬」を本気で整える
実務の現場で感じるのは、
「給与以外で満足している職員」は想像以上に多いという事実です。
たとえば、
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シフトの融通
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院長との関係性
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役割を任されている実感
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成長している感覚
これらが整っているクリニックでは、
多少の賃金差があっても、離職率は低くなります。
4.社労士が見てきた「人件費で失敗するクリニック」の共通点
人件費で悩み続けるクリニックには、共通点があります。
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問題が起きてから制度を考える
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職員の不満を「わがまま」と捉える
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就業規則や給与規程が何年も更新されていない
これらはすべて、
経営判断の遅れによるものです。
人件費は、削るものではなく、
**“設計し直すもの”**なのです。
5.2026年に向けて、院長が今やるべきこと
今すぐ大幅な賃上げをする必要はありません。
しかし、次の3点は必ず着手すべきです。
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給与・手当・評価の「見える化」
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職員に説明できる昇給ルールの整理
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院長一人で抱え込まない体制づくり
これらを整えることで、
人件費の不安は「経営のコントロール下」に置くことができます。
おわりに|人件費対策は「守り」ではなく「攻め」
人件費対策というと、
「我慢」「節約」「抑制」というイメージを持たれがちです。
しかし本来は、
**クリニックを安定成長させるための“攻めの経営戦略”**です。
職員が安心して働ける環境は、
患者満足度にも、院長自身の働き方にも直結します。
もし今、
「人件費の話題が出ると気が重くなる」
そう感じているなら、それは仕組みを見直すサインかもしれません。
クリニックの規模や診療科に合った方法は、必ずあります。
一人で悩まず、専門家の視点を活用することも、立派な経営判断です。






