職員に問題行動を起こさせない採用とマネジメントのポイント
理念や方針に従わない。他の職員に悪影響を及ぼす。院内の雰囲気を悪くする 。問題職員に頭を悩ませる医療機関は多いのではないでしょうか。職員の問題行動を防ぐにはどんな取り組みを行うべきなのか。医療法人社団SEC新宿駅前クリニックの蓮池林太郎院長に問題職員対策について解説してもらいました。
問題職員の入職を防ぐ4つの基本的対策
問題職員対策としてはまず「問題職員を採用しない」ことです。「人事の8割は採用」と言われるほど採用は重要で、どれだけ優秀な経営者や管理職でも、問題職員を教育で変えることは非常に困難です。
とはいえ、優秀な採用担当者でも書類選考や面接だけで本質を見抜くことは難しいというのが実情。ただ、問題職員を採用する確率を下げる方法はあります。最低限、次の4つは行うべきです。
■トライアル勤務
トライアル勤務で能力や人柄がある程度わかります。主な職種の確認すべきチェックポイントは次の通りです。
医師=能力(判断力、説明力、患者さんからのフィードバック、診療スピード)、人柄(患者対応、看護師や医療事務への対応)
看護師=能力(点滴、注射などの手技、臨床知識など)、人柄(患者対応、同僚との相性、医師や医療事務への対応、業者への対応)
医療事務=能力(受付対応、入力速度と正確性、レセプト、電話対応など)、人柄(患者対応、同僚との相性、医師や看護師への対応、業者への対応など)
トライアル勤務には応募者にもメリットがあります。どのような人がいるのか、どんな仕事内容なのかなどを体験しながら確認することができるからです。トライアル勤務を挟むと本人から辞退の申し出があるなど入職率は下がりますが、ミスマッチを防ぐという意味では互いにメリットがあります。
もちろん、トライアル勤務ですべてはわかりませんが、予防策としては優れています。
■同職種を含めた複数人面接
1人での面接の場合、どうしても見落としがでてしまう可能性が高くなります。人柄や能力、性格や相性などは複数人で確認すべきです。看護師や医療事務職は面接については素人ですが、業務スキルや経験、相性の確認などは現場職員のほうが長けていると言えます。また、「自分も一緒に選んだ」という責任感から、入職後の面倒をみたり問題行動を指摘したりしてくれるようにもなります。
■相場より高い給与での募集
当たり前のことですが、給与が高いと優秀な人材の応募確率は上がりますが、注意が必要なのが事務職です。医師や看護師などの専門職は地域の医療機関の求人情報などを確認すれば相場は把握できますが、事務職の場合、一般企業の相場も確認したうえで設定すべきです。たとえば事務長などの場合、500万円以上にしないと優秀な人は応募してこないと思います。また、新しく募集する職員の給与を上げた場合、既存職員の給与も上げる必要があります。
■「長く働いてほしい」を強調
求人広告やホームページ、面接時やトライアル勤務時にも「長く働いてほしいので合わないと思うなら辞退してほしい」と強調するのも大切。人手不足の現在、他にも職場はあるため「合わない」という人は応募してこなくなる可能性が上がります。大切なのは応募者を増やすことではなく、自院に合う人材に応募してもらうことです。
面接時に注意したい問題化しやすい人の傾向
経験則になりますが、問題化しやすい人の特徴も挙げておきます。
■攻撃性が強い
面接の質問に対してはっきりとものを言う「攻撃性が強い」人は、積極的な言動もあり頼りになりそうな印象を受けます。仕事ができる人も多いのですが、同僚にも攻撃的な姿勢をとる傾向があります。攻撃性が強い人が入ってきたことで離職者が増え、ひどい場合は組織が崩壊してしまうこともあります。攻撃性が強い人は、チームワークが重要な医療機関には向いていないと思います。
■転職を繰り返す
転職を繰り返している人は採用後、すぐに辞めてしまう傾向があります。また、仕事を辞めることに抵抗がなく、職場の輪を乱すなど問題化の確率も上がります。仕事をしていない期間が長い人も要注意です。子育てなどきちんとした理由がある場合は問題ありませんが、試用期間途中に退職を繰り返していたことなどを隠している可能性もあるからです。履歴書を見て、きちんとチェックすべきです。
■副業をしている
副業自体は非難されることではありませんが、採用する際には確認する必要があります。なかには副業が主業で、医療機関での勤務を「副業」とみなしている人もいます。こうした場合は副業優先となり、嫌なことがあると辞めてしまいやすい傾向があります。医師や看護師などは資格があり給与が良いのでやっているだけで、本当はやりたくないという場合もあります。
■持病がある(精神疾患)
当たり前かもしれませんが、精神疾患に罹患している人は、仕事を休んだり、辞めたりしやすい傾向にあります。
問題行動の予防には緊張案とルール順守が必要
問題職員を入職させないことが最も重要ですが、職員に問題行動を起こさせないための仕組みづくりも必要です。これに関しては次のような方法があります。
■誓約書の提出
誓約書にルールや禁止事項を記載しサインしてもらいます。そうすれば「きちんとルールで運営されている」「変なことはできない」という印象を与えることができます。
■身元保証書の提出
誓約書と同時に身元保証書も提出してもらいます。身元保証人は親が良いでしょう。連絡先として電話番号も記載してもらうと抑止力にもなります。なお、身元保証人の損害額の上限記載がない身元保証書は無効ですので注意が必要です。
■マニュアル化する
業務内容や患者対応などをマニュアル化しておきます。ルールを決めるといちいち指摘する回数が減り、無駄な軋轢が減らせます。また、マニュアルからずれた対応をした場合も指導しやすくなります。
■定期的なコミュニケーション
定期面談や食事などのコミュニケーションも有効です。悩みごとやトラブルをいち早く察知でき、モチベーションを上げるために感謝の気持ちを伝えられます。「勤務時間外は・・・」という人もいるので、勤務時間中に場を設けるなど本人の希望を優先させます。
■人事評価を行う
いくら仕事ができて価値観が合致していても、信頼して任せっきりにするとさぼったりやる気をなくしたりすることもあります。常に緊張感が必要で、定期昇給以外に働きを評価し、賞与や特別手当等を支給する人事評価も効果があります。緊張感により「常に評価されている」という意識が芽生えます。
問題職員が発生した場合は速やかに辞めてもらうことが重要ですが、職員に落ち度があっても正職員を解雇するのは難しいのが現状です。仕事を突然何日か欠勤しても、勤務時間中にスマホゲームをしても、院長の悪口を言っていても、すぐに解雇することはできません。退職勧奨も間違えると労働争議につながる恐れがあるので、必ず、弁護士や社会保険労務士の指導の下で行ってください。
労務トラブルをネットで検索すると、多くの情報が出てきます。無料でメール相談を行っている弁護士事務所もあるので、医療機関側としては注意する必要があります。
労務トラブル回避の一番の予防策はきちんと法令順守すること。当たり前のことですが、きちんとできていないところは少なくないと思いますので気をつけてください。