改めてBCP(業務継続計画)について ~作成にとどめず、発動に向けた組織内の共有を~

 

昨年の8月、宮崎県で発生した地震をきっかけに、将来起きるとされる南海トラフ巨大地震について、国として初めての「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発せられたことは、読者の皆様の記憶にも新しいところだと思います。

■ 多くの園で、BCPは「作成されたまま」の状況となっている

 本稿でもたびたびふれていますが、2022(令和4)年12月の厚生労働省の事務連絡により、保育所を含む児童福祉施設等には、感染症と自然災害の発生を想定したBCP(業務継続計画)の作成が求められることとなりました。

  上述の事務連絡と併せて、同計画のひな形も示されており、以降、第三者評価でお訪ねする各園でも、作成にあたってはこれが最も多く用いられています。

  安全計画とは異なり、BCPの作成は努力義務にとどまっていますが、行政の指導検査への対策とも相まって、ほとんどの園で作成までは済んでいます。

  ただし、事務連絡でも要請されている「必要な研修及び訓練を定期的に実施すること」「定期的に業務継続計画の見直しを行うこと」については、特に前者の研修・訓練は、多くの園で行われていないままの状況です。

■ 実際の災害では、避難を終えた後にも、日常と異なる様々な状況が待っている

  災害に関して言えば毎月の避難訓練、感染症については日々の清掃・消毒や定期的に行う下痢・嘔吐発生時の対応に関する実技研修など、平時の対策や「起こった時」の対応については、どの園でも取り組みが行われています。

  しかし、避難訓練の場合、一連の職員・子どもの動きなどを確認した後は、いつもの日常の生活に戻るまでであるのに対し、実際の大規模災害では、避難し終えた後も、日常とは異なる様々な状況が生じ、それがいかなるものであるか、災害が起こってみるまでわかりません。

  その中で子どもや職員の安全を守り、時にはライフラインが途絶しているなかで、子どもたちと共に一定期間を園で過ごしたり、地域とも連携し、福祉避難所として園を開放したりする必要も生じます。

  また、園の立地などによっては、避難したまま別の場所で、各家庭にすべての子どもを引き渡し終えるまで、保育や種々のケアを継続することとなるでしょう。

  BCPはそのための計画であり、平時の避難訓練では想定されていない、「起こった後」の体制や行うべき事柄が定められるものです。

■ BCPを組織全体で共有し、有事の際の運営の継続をあらかじめ想定しておこう

  災害が開所時間中に発生するか、夜間や休日に起きるかにもよりますが、開所中の発災であれば、一連の避難行動を終えてから初めてBCPを組織内で確認するよりは、事前に概要を共有しておいたり、その後の対応の流れを各職員があらかじめ知っていたりするほうが望ましいことは言うまでもないでしょう。

  今年お訪ねしたある園では、実際の災害を、施設の損傷や電気・ガス・水道の停止、けが人の発生などまで具体的に想定して、BCPに定める対策本部を設置し、取るべき対処をシミュレーションする訓練を行っていました。

 こうした訓練は、多くの園で毎年行っているであろう、保護者との通信や子どもの引き渡しに関する連携確認、あるいは心肺蘇生・応急手当等の実技研修などと組み合わせて行うことも可能ではないかと思います。発災から避難、避難終了後は園内の状況の確認と、負傷したり、ショックを受けたりしている子ども・職員の手当て、園内の関係者全員の安否確認などを並行して行い、その時点で利用可能な通信手段によって子どもの状況を保護者へ連絡するとともに、それ以降の業務継続について検討する、といった一連の流れを、模擬体験してみるイメージです。

  感染症に関しては、先の新型コロナウイルス対策に忙殺された数年間の園運営から、概ねの運用は想定可能ではないかとも思いますが、園内の発生・まん延状況に応じた継続的な対応について、BCPに基づいて実際の措置を検討しておくとよいのではと思います。

■ 様々な情報を収集し、BCPの計画としての有用性を高める工夫も

  上記の国のひな形は、項目別に記入欄が設けられているだけのごく簡素なものであるため、園によっては作成に苦心することもあるでしょうし、内容の質というか、計画としての実用性・有用性には、園ごとにばらつきが生じるのではという印象も否めません。

  そうした場合は、介護施設向けの各ガイドライン(※)など、インターネット等で入手可能 なほかの資料も参考として、計画内容の具体化を図ることも一策でしょう。

お電話でのお問い合わせ

03-6435-7075(平日9:00~18:00)

営業時間外のお問い合わせはこちらから

相談・ご依頼の流れはこちら

YouTube チャンネル

メールマガジン無料登録

当社代表林正人の著書『社労士が書いた 介護「人材」の採用・育成・定着のための職場作り』が出版されました。

SRPⅡ認証は、社会保険労務士事務所の「信用・信頼」の証です。
社労士法人ヒューマンスキルコンサルティングは、全国社会保険労務士会連合会より社会保険労務士個人情報保護事務所として認証を受けています。【認証番号第1602793号】
→SRPⅡ認証(全国社会保険労務士連合会)
menu