物価高騰対応として無利子・無担保の優遇融資を拡充
独立行政法人福祉医療機構(WAM)は2025年4月より、物価高騰の影響を受ける医療機関等を対象とした無利子・無担保の優遇融資制度を大幅に拡充しています。人件費や物価の高騰で経営状況が悪化する医療機関を支援するものですが、「ベースアップ評価料の算定」などの条件がついている点に留意が必要です。
収支差額減少等を前提に対象施設は3類型
福祉医療機構が今回用意した制度は、経営資金または長期運転資金として最大7.2億円(病院の場合)を上限とする融資枠です。2024年末から実施されていた長期運転資金の枠組みを土台としつつ、依然として深刻な影響を受ける施設に対してより手厚い支援を行うと説明しています。厚生労働省医政局も4月23日、この融資に関する事務連絡を発出し、周知と活用を呼びかけています。
ベースアップ評価料の算定や地域医療構想に沿った再編・減床を行う医療機関には「最大5年間の据置期間」や「無利子措置」といった優遇条件を設けている点が特徴で、見方を変えると、据置期間や無利子措置といった条件を得るには「医療政策に沿った運営が求められる」とも言えます。
今回の優遇融資の対象施設は、次の3つの累計に分類されます。
- 前年同月などと比較して、物価高騰による費用の増加等のために収支差額の減少や経常赤字の状況にある施設・事業
- ①に加え、職員の処遇改善に資する加算等を算定し、職員の処遇改善の取り組みを行っており、経営改善計画書をご提出いただいた施設・事業
- ①②に加え、病床数適正化支援事業に係る事業計画(活用意向調査)の提出を行った施設または地域医療構想調整会議において合意を得て、地域のニーズを踏まえた再編・減床を行う施設・事業(医療貸付のみ)
②の「職員の処遇改善に資する加算等」としてベースアップ評価料、処遇改善加算の届出が挙げられています。融資の償還期間は原則として10年以内で、据置期間は施設の類型に応じて異なり、①では1年6ヵ月以内、②では2年以内、③では5年以内の据置期間が認められています。
また、②の施設には当初2年間、③の施設には当初5年間の無利子措置が講じられます。ただし、加算を算定していない①の施設では無利子期間は設けられていません。貸付利率は1.5%(2025年4月1日時点)を基本とし、無担保貸付限度額は①が500万円、②③は「500万円または医業収益の2ヵ月分」のいずれか高い額となります。総融資限度額、病院が7.2億円、介護老人保健施設と介護医療院1億円、その他の施設は4000万円とされています。①に該当する場合は、費用増加額の24倍という別基準も活用できます。
新規開業資金は対象外 「過去の返済状況」も対象
融資対象となるには、開業から1年以上経過し、決算期を迎えていることが条件で、新規開業資金としての利用は認められていません。また、過去に新型コロナウイルス感染症対応融資を受けている場合でも申請できますが、返済状況などに応じて融資額の減額や申請の却下となる場合があります。
融資の申請は施設単位で行なうことが原則ですが、法人全体での返済能力も確認対象となるため、申請額が調整される可能性があります。また、再申請も可能ですが、その場合は新たに借入申込書一式の提出が必要となります。
無利子枠を超えての申し込みについては有利子部分としての申請が可能で、その際は、担保条件や保証制度に基づいて審査されます。また、融資資金は原則として定められた使途に限定され、他法人への転貸や建築資金などへの流用が発覚した場合は、繰上償還や違約金が発生することがあります。
明確な制度設計 「ベースアップ評価料」が目安
医療機関には人件費や光熱費、物価などの高騰などが重くのしかかっていました。さらに、コロナ禍の2020年に福祉医療機構が設けた新型コロナウイルス対応支援資金の返済が7月から始まるだけに、資金繰り悪化を懸念する声は高まっています。
昨年10月に四病院団体協議会が加藤勝信財務大臣に申し入れた「病院への緊急財政支援についての要望」では、「コロナ禍における借入金の返済が始まることによりキャッシュフローが回らなくなり、今後、存続が危うくなる病院が増えることが予想されます」と述べ、緊急支援を求めていました。その具体策として福祉医療機構による優遇融資を期待する声もあっただけに、それを具体化したものとみることもできます。
ただし、今回の優遇融資制度は単なる資金支援にとどまらず、厚労省が推進する医療政策との連動を明確に打ち出している点を注視する必要があります。特に、ベースアップ評価料の算定や病床再編への協力といった政策的対応を「融資条件」として制度に組み込んでいる点が注目されます。「令和7年度(令和6年度からの繰越分)医療施設等経営強化緊急支援事業」では、前回お伝えした「病床数適正化支援事業」と並んで、「生産性向上・職場環境整備等支援事業」が設けられていますが、こちらでも「ベースアップ評価料を届け出ている」病院、診療所、訪問看護ステーションで業務の効率化や職員の処遇改善を図ることが要件となっています。
このように、融資の適性可否が経営方針や地域医療構想への参加姿勢によって左右されることとなり、経営判断の透明性が一層求められる状況となっています。
「ベースアップ評価料」が2026年度診療報酬改定や他の医療政策をみていくうえでのポイントの一つになっていることは確かだと言えそうです。
参考:MMPG医療経営ジャーナル2025、5