医療・介護費6割膨らむ 40年に27兆円不足の試算 増税や給付抑制欠かせず(日本経済新聞記事より)

 

高齢者人口がピークを迎える2040年の医療・介護給付費は現状の6割増となる見通し

 

 医療費や介護費の膨張に歯止めがかからない。民間試算によると2040年の国民負担額は最大で27兆円増える見通しだ。仮に現役世代の2065歳がすべて負担すると、1人あたり年46万円の増額になる。若い世代の暮らしが厳しくなれば、少子化の反転は難しい。幅広く負担する増税や、給付の抑制を議論する必要がある。

 

 三菱総合研究所が政府の社会保障の改革工程案などを踏まえ試算した。近く発表する。18年時点の保険料や公費負担をもとにその後の経済成長を踏まえると、40年の医療・介護給付費は最大で23年の6割増となる89兆円まで膨らむと推計した。

 

 税収などから医療・介護に充てられる額は56兆~66兆円にとどまる。医療制度改革を実行することで6兆円超を手当てできると想定しても、差額の12兆~27兆円は財源が確保されない形となる。

 

 財源の不足に対し国債はあてず、最も多い27兆円をすべて保険料で徴収すると仮定して単純計算すると、2065歳の現役世代で1人あたり年46万円程度の負担増となる。企業で働く人の場合は労使折半となるため、毎月引き落とされる保険料が年間で23万円増えるイメージだ。

 

 経済成長に伴い物価や賃金も上がる。40年時点の国内総生産(GDP)は18年の1.32倍と想定しており、それに合わせて賃金も増えると想定すると、現在の感覚では1人あたり35万円ほどの負担増になる。

 

 試算は病床再編や高齢者の窓口負担の引き上げなどの実現を前提条件とした。医療機関や高齢者からの反対も予想され、改革が政府の計画通りに進むかは見通せない。

 

 高齢化に伴って社会保障給付費が増大する流れは避けられない。医療・介護の効率化や歳出削減に一段と踏み込まなくては、結果として国民負担として跳ね返る構図にある。

 

 とりわけ若い世代にしわ寄せがいく。医療費の財源は5割を保険料、4割弱を税金、1割強を患者の窓口負担で確保する。収入が多いほど支払う保険料は増えるため、現役世代の負担が重くなる。

 

 窓口負担も高齢者は診療費などの12割なのに対して現役世代は原則3割だ。

 

 世代間格差の是正を巡っては、政府の及び腰な姿勢が目立つ。介護保険で2割負担する高齢者の対象拡大は23年末に与党や事業者の反発を受けて3度目の先送りとなった。

 

 格差を放置すれば、政府の掲げる少子化対策とも矛盾する。政府は28年度までに年3.6兆円の財源を確保する方針だ。このうち医療保険料とあわせて集める「支援金」で1兆円を見込む。歳出改革で高齢化に伴う保険料の伸びを抑え、支援金が実質的な負担増とならないことを目指す。

 

 歳出改革に向けては給付抑制も欠かせないが、昨年末にかけての24年度予算や税制改正の議論では十分に進まなかった。財源がきちんと確保できるかは見通せない。

 

 政府は18年に公表した医療や介護、年金などの社会保障の将来見通しで、25年度の給付費はGDP比で21.8%140兆円程度とみていた。23年度の予算ベースですでに23.5%に達しており、推計を上回る負担増になっている。

 

 法政大の小黒一正教授は、政府は推計を修正して将来の負担増の姿を示す必要があると指摘する。その上で「子育てを担う現役世代の負担の限界も考慮しながら、公費で不足する分は増税も視野に検討すべきだ」と訴える。

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