保育施設で広がる「定員割れ」 預けやすくはなったけれど…

保育現場に“大きな変化”が起きています。

少し前まで子どもたちを預けたくても空きがなかったのに、いま多くの保育施設で「定員割れ」が相次いでいるのです。

それって預けやすくなるからいいことでは…?と感じるかもしれませんが、定員を大きく割り込むと施設の運営がたちゆかなくなるリスクがあるのです。

(おはよう日本 ディレクター 谷圭菜、蓮見那木子
首都圏局 記者 浜平夏子、氏家寛子)

入ったばかりなのに「閉園」

新宿区に住む寺田牧子さんはおととし、生後5か月の娘を認可外の保育施設に入園させました。

しかしそのわずか1か月半後、施設から「今年度をもって閉園する」と伝えられたのです。

寺田牧子さん

「入ってまだ1か月半だったので、そんな急に閉園を伝えられるなんてと驚いた」と語る寺田さん。

その保育施設は当時、定員の6割しか埋まっておらず、運営会社からは「定員割れで採算が取れなくなった」と説明されたといいます。

保活はもう一度やり直し。

新しい保育施設はみつかるか、そこで子どもはうまくやっていけるのか。

寺田さんは大きな不安を感じました。

結局、寺田さんは区内では条件に合う保育施設を見つけられず、今は隣の区にある施設に子どもを預けているといいます。

“定員割れ”した保育施設には厳しい運営事情が…

 

“定員割れ”した保育施設には厳しい運営事情が…
2年前の0歳児クラスは子どもたちでいっぱい

定員割れが保育施設の閉園につながるのはなぜなのか。

この写真は、東京都台東区にある認可の保育施設で2年前に撮られた0歳児クラスの教室です。

定員は40人で、例年教室は子どもたちでいっぱいでした。

同じクラスの現在の様子

しかし、現在入園しているのは28人。大幅な定員割れを起こしています。

この保育施設の理事長の遠藤正明さんは、「子どもに対して保育士が多くいるのは良いことだと思うが、通常の風景からするとさみしい。例年に比べても、こんなことは異例な状態です」と語ります。

さらに、遠藤さんはこの定員割れによって施設の経営に危機感を募らせているといいます。

遠藤正明さん

「定員割れ」によって経営が厳しくなる理由は、今の東京都の保育制度にあります。

まず、施設にとって支出の大きな割合を占めるのが保育士の人件費。保育士の配置人数は「定員」と「実際に入園している園児の数」を比べたときに、どちらか多い方の数に合わせることが東京都の要綱では決まっています。

例えば、先ほど紹介した台東区の施設の0歳児クラスでは大幅な定員割れが起きているため、実際に入園している園児の数よりも「定員数」の方が大きくなります。

そのため、定員の40人に合わせて保育士14人を配置しなければなりません。

一方、施設の収入は「実際に入園している園児の数」で決まります。園児が定員どおり40人いれば月の収入は補助金込みで1000万円となりますが、定員割れで28人になると700万円におちこみます。

収入が減少しても、14人分の保育士の人件費や施設費用などの固定費は変わらないため、「定員割れ」は経営への大きなダメージとなるのです。

この施設では、保育士の人件費に対して区から補助金が出ているため何とか打撃は抑えられてきましたが、10月以降はその補助金もなくなります。

「定員割れしている12人分もの保育収入が見込めなくなるとすると、なかなか経営的には厳しい。定員割れに対して、施設としてもいち早く対応していかなくてはいけない」と遠藤理事長は口にしていました。

“待機児童対策”の成果と少子化で…50%以上が「定員割れ」に

「定員割れ」がどのくらい広がっているのか調べるため、私たちは待機児童が特に問題となってきた東京23区にアンケート調査しました。

自治体が状況を把握している認可の保育所と小規模保育施設を対象にしたところ、0歳児クラスでは53%、1歳児クラスでは31%、2歳児クラスでは40%の施設で「定員割れ」が起きていることがわかりました。

その理由を複数回答で尋ねたところ、多かったのは「少子化の影響」、「新たな保育施設の開設で定員が埋まりにくい」、「新型コロナの感染不安などによる利用控え」などでした。

保育施設の在り方が社会問題となったのは6年前でした。

匿名ブログへの「保育園落ちた日本死ね」という投稿をきっかけに大きな議論となりました。

以来、国や東京都は待機児童問題を解消するため、保育施設の新規開設を後押しし、保育の「受け皿」を拡大してきました。

一方で東京都では5年連続で出生数が減り、10万人を切りました。

保育の受け皿が大幅に増える一方で子どもの数が減った結果、「定員割れ」となっていたのです。

利用者にとって“定員割れは「余裕」だが「リスク」でもある”

保育施設の「定員割れ」という現象をどう見たらよいのか。

子どもの政策に詳しい日本総研の池本美香さんに伺いました。

池本さんは、待機児童問題を解決するために保育施設を増やしてきた自治体の努力を評価したうえで、定員割れにはメリットとデメリットがあると語ります。

定員割れ」のメリットは…
「保護者にとって『定員割れ』は年度途中から子どもを預けられる機会が増えることでもあります。そもそも保育現場の感覚として、園児の定員を満たした状態の保育はいっぱいいっぱいだという声も聞きます。多少定員が空いている状態の方が保育しやすく、子どもにとっても落ち着いて過ごせる環境だという側面があります」
「定員割れ」のデメリットは...
「保育施設に対する運営費(補助金)は入園児数に対して出ているので、定員割れした施設は運営面で厳しくなります。また、NHKのアンケートでは認可保育施設を調査の対象としているが、すでに東京都の認証保育所や認可外保育施設はかなり減少して閉園が増えてきています。そういう保育施設に子どもを通わせる保護者にとっては保育の継続が不安だろうし、子どもたちにとっては閉園で突然の環境の変化が起こる可能性もあります」

保育施設の定員割れ どう考える?

一方で、これまで深刻だった待機児童の問題もなくなったわけではありません。

待機児童数はピーク時の5分の1にまで減少したもののいまだ5000人余りいるのが現状です。

せっかく保育施設を新設しても不便なところだと希望者が集まらず、駅に近いところなどには希望者が集中してしまい、ミスマッチが起きているといいます。

このため、自治体によっては待機児童と定員割れの両方の問題が起きています。

これまで保育の受け皿の拡大に奔走してきた国や自治体は、今後どのように保育の問題に対応していけばいいのか、対応に苦慮しているのが実情です。(NHK WEBニュースより)

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