スタッフ定着でクリニックを強くする!人事評価制度でつくる「採用コスト削減」と「やる気の連鎖」

スタッフがなかなか定着せず、採用に追われていませんか?

人事評価制度は、職員のモチベーションを高め、離職を防ぎ、採用コストの削減と待遇改善の好循環を生み出す仕組みです。本記事では、専門社労士が小〜中規模クリニックで「本当に機能する」人事評価制度の作り方を解説します。

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目次

「スタッフがなかなか定着しない」「採用してもすぐ辞めてしまう」——。

そんな悩みを抱えるクリニックは少なくありません。
院長先生や事務長(ご親族様など)が日々のマネジメントに追われ、採用・教育・退職対応を繰り返しているうちに、気づけば「採用コストが膨らむ一方」という声も多く聞かれます。

しかし、人が辞め続ける原因の多くは「仕組みがないこと」。
人事評価制度を整えることで、職員一人ひとりが自分の将来像を描き、どんな力を伸ばせば評価されるのかを明確にできます。

その結果、モチベーションが高まり、スキルアップと定着が進みます。
定着が進めば、無駄な採用コストを削減でき、その分を待遇改善にまわすことが可能に。
待遇改善はさらなる定着を生み、クリニック全体の質を引き上げていく——そんな「好循環」をつくるのが人事評価制度の本来の力です。

なお、既に介護事業所や保育園では、処遇改善加算の取得要件として「キャリアパス要件」に基づく人事評価制度の導入が義務化されています。
こうした流れは医療分野にも確実に広がりつつあり、クリニックにおいても、職員のモチベーション向上と定着のために「評価制度の整備」は今後ますます重要になります。

本記事では、専門社労士が現場で培ったノウハウをもとに、クリニックで「本当に機能する」人事評価制度の作り方を、具体的なステップに沿って解説します。

人材定着が経営を強くする——人事評価制度の役割

定着が生む「採用コスト削減と待遇改善」の好循環

離職が続けば採用コストが増え、教育や引き継ぎの負担が積み重なります。
しかし、逆に職員が定着すれば、経験とノウハウが蓄積し、チームワークが安定します。
その結果、患者対応の質が上がり、口コミ・リピート率にも好影響が生まれます。

この「定着→コスト削減→待遇改善→再定着」という流れは、まさにクリニック経営の好循環モデル。
これを仕組みとして支えるのが人事評価制度です。

(図表1:人材定着の好循環モデル「出典:執筆者作成」)を参照ください。

図表1:人材定着の好循環モデル

離職を防ぐ仕組みとしての「評価制度」

多くのクリニックで離職が起こる背景には、「何を頑張れば評価されるのか」が不明確な点があります。

人事評価制度を導入することで、

  • 評価の基準を「見える化」し、納得感を高める
  • 昇給・昇格・賞与などへの反映ルールを明確化する
  • 評価面談を通じて、上司と部下の信頼関係を築く

ことができ、結果として離職防止につながります。

制度づくりが経営を支える3つの理由

  1. 「職員が育つ仕組みになる」
    評価制度が明確になることで、職員が自ら課題を把握し、成長目標を立てられます。
  2. 「マネジメントの属人化を防ぐ」
    院長や事務長の経験・勘に頼らず、管理者が一定の基準でスタッフを育成・評価できるようになります。また特に、小〜中規模クリニックでは、開院後の慌ただしい中で採用したベテラン職員や管理職が「自己流」で動き、院長・事務長の意図とズレが生じるケースも少なくありません。役割・責任・期待行動を評価基準として明文化することで、立場に関わらず同じルールで運用され、管理者個人の裁量が暴走しない「統一されたマネジメント」が可能になります。
  3. 「経営の持続可能性を高める」
    定着が進むことで採用コストが減り、その分を待遇改善や教育投資に回すことが可能になります。

人事評価制度は「等級・評価・賃金」の三位一体で考える

人事評価制度は、「等級制度」「評価制度」「賃金制度」をそれぞれ別に作るのではなく、三位一体で設計することが不可欠です。
この3つの仕組みが噛み合うことで、初めて「評価が賃金に反映される」「昇格がキャリアにつながる」という納得感が生まれます。

(図表2:等級・評価・賃金の三位一体イメージ「出典:執筆者作成」)では、3者が循環的に作用する仕組みを表しています。

図表2:等級・評価・賃金の三位一体イメージ

等級制度=キャリアの道筋を明確にする

等級制度は、職員の成長ステップを見える化する仕組みです。
たとえば、「新人スタッフ」「担当者」「リーダー」「主任」「管理職」といった段階を設定し、
それぞれに求められるスキル・役割・責任を明確化します。

この「キャリアの道筋」を示すことは、職員の安心感につながり、「このクリニックで成長していける」という将来イメージを持てるようになります。

評価制度=日々の頑張りを見える化する

評価制度は、日常の努力をきちんと可視化し、公正に伝えるための仕組みです。
単なる査定ではなく、職員と上司が対話を通して「成果と課題を共有する」ことで、信頼関係が深まります。
評価の目的を「処遇を決めるため」だけにとどめず、「職員を育てるため」に位置付けることが大切です。

この考え方を共有しておくことで、評価がマイナス感情を生むのではなく、「成長支援」の機会へと変わります。

賃金制度=処遇改善と公平性を両立させる

等級と評価を賃金に反映させることで、職員は自分の努力がどのように報われるのかを理解できます。
また、等級ごとに給与レンジ(上限・下限)を設定することで、経験年数や資格だけに依存しない「実力・役割に応じた処遇」を実現できます。
これにより、職員同士の納得感が高まり、昇格意欲・定着率の双方が向上します。

等級表作成のポイント(クリニック職種に即した設計)

等級表は制度の「骨格」です。
クリニックでは医師・看護師・医療事務など、職種ごとに求められる役割が異なるため、それぞれの職種特性に応じた等級設計が必要になります。

(図表3:職種別の等級表作成時のポイント「出典:執筆者作成」)を参照ください。

図表3:職種別の等級表作成時のポイント

医療職・看護職・事務職など各職種に対応する等級設計

たとえば、医療事務では「事務スキル+接遇対応力」、看護師では「医療技術+チーム連携力」といった評価軸を明示し、各職種の各等級ごとに必要な行動特性を整理しておきます。

この設計により、異なる職種間でも等級ごとの公平性が担保され、「自分だけが損をしている」と感じる不満を防ぐことができます。

昇格要件の明確化と透明性の確保

昇格の基準は、明文化が鉄則です。
「資格取得」「経験年数」「直近の評価結果」など、客観的な条件を設定し、誰が見ても同じ判断ができるようにします。

昇格要件を明確にすることで、上司の主観や好みで評価が左右されるリスクを避けられ、「頑張れば報われる職場文化」を育てることができます。

職務・資格・経験とのバランスをとる設計

クリニックでは、同じ看護師でも勤務年数や担当業務が大きく異なります。
したがって、年功序列型ではなく、スキルと役割の両面でバランスをとることが重要です。
具体的には、

  • 新人:指示を受けて行動する段階
  • 中堅:主体的に判断・行動できる段階
  • リーダー:他者に指導・助言できる段階

といったレベル分けを行い、各職種で共通言語化します。

定着を生む評価制度(評価シート)設計のポイント

評価制度の中心となるのが「評価シート」です。
これは単なる採点表ではなく、クリニックの理念や行動指針を職員の行動に結びつけるツールです。
評価シートが納得感を持って運用されれば、「職員のやる気」と「定着率」は確実に上がります。

(図表4:納得感を生む評価シート構成例「出典:執筆者作成」)を参照ください。

図表4:納得感を生む評価シート構成例

理念・行動指針を評価項目に落とし込む

クリニックの理念や方針を「日々の行動レベル」で表現することが、定着を促す鍵になります。
たとえば理念に「患者様第一」「チーム医療の推進」があるなら、評価項目に「笑顔での応対」「報・連・相の徹底」「他職種との連携姿勢」などを具体的に落とし込みます。

職員自身が「理念を体現する行動とは何か」を考えるプロセスを取り入れると、制度への納得感がさらに高まります。

納得感を高める5つの原則

  1. 「評価軸の透明化」
    職務ごとに求められる行動・成果を文書化し、全員に周知する。
  2. 「評価プロセスのオープン化」
    自己評価と複数評価者制を導入し、主観を排除。
  3. 「フィードバックの質を高める」
    良かった点を具体的に伝え、改善点は次年度の目標と結びつける。「感謝→成果→改善点」の順に伝えると受け入れられやすい。面談時間は1人15〜20分を確保。
  4. 「キャリアパスと連動させる」
    評価結果を昇給・昇格・賞与に確実に反映。
  5. 「公平性の担保」
    期初説明・中間面談・苦情対応ルールを整備して不満を防ぐ。

(図表5:評価の納得感を高める5原則「出典:執筆者作成」)も参照ください。

図表5:評価の納得感を高める5原則

面談とフィードバックでモチベーションを高める

評価結果は「伝えるだけ」では意味がありません。
フィードバック面談で「良かった点」「成長課題」「今後の期待」を具体的に共有し、職員の承認欲求を満たすことが重要です。

看護職・医療事務職とも、承認されることでモチベーションが高まり、「次も頑張ろう」という前向きな行動につながります。

職員参加型の評価づくりで「自分たちの制度」に

評価制度は、上から押しつける形ではなく、職員が関わることで定着します。
ワークショップ形式で評価項目を意見交換しながら作成すると、「自分たちで作った制度」という実感が生まれ、運用への抵抗がなくなります。

専門社労士が関与するメリット(評価制度構築・運用面)

専門社労士が入ることで、次のようなメリットがあります。

  1. 言語化の支援:あいまいな行動基準を、現場になじむ言葉で明文化できる。
  2. 公平性・網羅性の担保:他業種・他院事例を踏まえて、評価漏れや偏りを防ぐ。
  3. 職員参加型づくりのファシリテーション:話し合いを導き、職員の納得を引き出す。
  4. 運用サポート:初年度の評価者研修やフィードバック支援により、評価のブレを防止。

このように、専門社労士の伴走により「形だけで終わらない評価制度」が実現します。

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賃金制度見直しのポイント(昇給・賞与への反映)

評価と等級を賃金へ連動させる仕組みが整うと、「評価が給与に反映されない」という不満がなくなり、職員の信頼が高まります。

評価・等級と連動した昇給・賞与設計

昇給は、勤続年数だけで自動的に上がるのではなく、「等級×評価結果」に応じて決まる設計にします。
賞与も「基本給×一律支給率+評価反映分」とすることで、少額でも評価が反映される仕組みを明確化できます。

これにより、職員は「努力が報われる職場」と実感でき、モチベーション維持と定着促進の両方に効果を発揮します。

給与レンジの公開と説明責任

等級ごとの給与レンジ(上限・下限)を設定・共有することで、処遇決定の透明性が高まり、不信感を防ぎます。

面談時にレンジの考え方を丁寧に説明し、「どうすれば次の等級に上がれるのか」を具体的に示すことで、将来設計が描きやすくなります。

給与レンジの設定方法の一例として(図表6:給与レンジとプロット図「出典:執筆者作成」)のように現状の各等級の賃金額をプロットしたものに、検討中の給与レンジをグラフで示しながら各等級のレンジ幅を調整すると全体のバランスにも配慮でき、同時に、課題点にも気付きやすいと思います。

図表6:給与レンジとプロット図

専門社労士による賃金制度見直し支援のメリット

賃金制度の見直しについては、社労士の得意とする分野でもあります。
すべての手当の精査を行った上で、手当の統廃合や基本給への組入れ等をご提案し、評価結果が適切に反映される賃金制度とすることが可能です。また弊社では、トラブル防止の観点からも、各手当の精査は必ず賃金制度見直し時に行うようにしております。

  1. 手当の整理・統合:調整手当・資格手当などを整理し、シンプルな体系に。
  2. 昇給・賞与ルールの整合性確保:評価表との整合を取り、トラブルを防止。
  3. 規程改定支援:賃金規程の法的観点からの見直しも合わせて実施。
  4. 労務リスクの軽減:不利益変更・説明不足による訴訟リスクを予防。

制度構築と法的整備を一体で進めることで、安全で納得感のある賃金制度を実現できます。

図表7:専門社労士による賃金制度見直し支援のメリット

制度運用と定着を支える仕組み

制度は作って終わりではありません。
導入後こそ、運用と改善を繰り返しながら「生きた制度」へと育てることが大切です。

弊社では、制度構築後も「ワークを交えた評価者研修」「評価者間の目線合わせ研修」など、豊富な実践サポートが可能です。
単に制度を設計するだけでなく、実際に運用が始まってから「評価がぶれないように支援する」ことが専門社労士の強みです。

初年度は特に評価者が迷いがちなので、研修や面談シナリオづくりをサポートすることでスムーズな定着につながります。

制度構築後の運用時の取り組みとして、誰に対してどんな研修等を行う必要があるかを以下(図表8:制度構築後の運用研修(弊社例)、「出典:執筆者作成」)でご案内しますのでご確認ください。

  • 評価者への研修(評価の目的、方法、注意点等を共有)。
  • 被評価者への研修(評価の目的、自己評価や目標設定の方法を説明する)。
  • 評価の目線合わせ研修(評価者同士で評価の甘い辛いをすり合わせる)。
  • 評価を賞与等の処遇へ反映させる方法研修(院長、事務長、人事総務担当者)。
  • 評価項目の見直し研修(院長、事務長、評価者)

図表8:制度構築後の運用研修(弊社例)

説明会とフィードバック面談の徹底

制度導入時には必ず説明会を開催し、目的・流れ・評価基準を丁寧に説明することが重要です。
フィードバック面談は年2回を基本とし、定期的に振り返りを行うことで、職員が制度を「使いこなせる」ようになります。

PDCAサイクルで制度を育てる

制度運用後は、少なくとも年1回、評価基準や運用ルールの見直しを行います。
現場の変化や意見を反映し、継続的に改善していくことで、制度が組織文化として定着します。

まとめ——人事評価制度でつくる「やる気と定着の循環」

制度づくりはゴールではなくスタートです。

人事評価制度を軸に、職員のキャリア形成を支援しながら、定着→コスト削減→待遇改善→再定着という好循環をまわすことが、小〜中規模クリニック経営の最大の成功要因になります。
評価制度を通じて、職員は「何を頑張ればいいか」を理解し、経営者は「どう評価し、どう処遇するか」の基準を持てるようになります。

その結果、

  • 職員のモチベーションと定着率が上がる
  • 採用・教育コストが下がる。
  • 既存職員の処遇改善により、更に定着化が進む。
  • 経営の安定と患者満足度が向上する

という、理想的な好循環が実現します。

最後に忘れてはならないのは、制度の目的は「人を評価すること」ではなく、「人を育て、組織を育てること」。

人事評価制度を通じて、職員とともに成長するクリニックをつくっていきましょう。

この記事を書いた人

吉田 航(特定社会保険労務士/1級DCプランナー〈企業年金総合プランナー〉)

社労士法人ヒューマンスキルコンサルティング所属
介護事業所、保育園、医療クリニックの人事評価制度の設計・運用支援を中心に従事。

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