キャリアパス要件を満たす『本当に役立つ』人事評価制度の作り方(保育園専門社労士が解説)
令和7年度から処遇改善加算が一本化され、保育園でもキャリアパス要件への対応が一層重要になりました。
しかし、単に形式だけの制度づくりでは現場の負担が増え、不満や離職につながる恐れもあります。
キャリアパス要件は本来、職員の成長と定着を支える仕組み。
本記事では、保育園で「本当に役立つ」人事評価制度をつくるポイントを、専門社労士の視点で解説します。
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処遇改善加算とキャリアパス要件の基礎知識
処遇改善加算一本化の概要
令和7年度から、保育園における処遇改善等加算は「区分1〜3」に一本化されました。
これまで加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲと複数に分かれていた仕組みが整理され、よりシンプルな枠組みになった反面、キャリアパス要件を満たしていない場合のリスクは大きくなっています。
具体的には、令和7年度に限りキャリアパス要件を満たさない場合、区分1の「賃金改善分」が2%減算されるにとどまりますが、令和8年度以降は要件を満たさなければ区分1全体を取得できなくなるという厳格な扱いになります(区分3適用ない場合)。
キャリアパス要件とは具体的に何か
キャリアパス要件とは、職員がどのようなキャリアの道筋を歩めるのかを明確に示し、その成長を支援するための仕組みを整備することです。
保育園の場合、キャリアパス要件を満たすためには以下のような取り組みが求められます。
- 職位・職責ごとの勤務条件や賃金体系を就業規則等に明文化し、全職員に周知すること。
- 職員と意見交換を行い、資質向上の目標と計画を策定すること。
- その計画に基づき、研修機会や技術指導を提供し、フィードバックを行うこと。
- 資格取得を支援するための仕組みを設けること。
非常に大事な部分ですので、キャリアパス要件に関する資料を(図表1:キャリアパス要件とは 「出典:子ども家庭庁『令和7年度以降の処遇改善等加算について』より執筆者作成」)に掲載しましたので、不安な方は慎重にご確認ください。
図表1:キャリアパス要件とは
出典:子ども家庭庁『令和7年度以降の処遇改善等加算について』より執筆者作成
人事評価制度との関係性
キャリアパス要件を満たすためには、単なる研修計画や資格支援の整備だけでは不十分です。
実際には、人事評価制度そのものを整備・運用することが前提となっています。
つまり「キャリアパス要件=人事評価制度の構築」と言っても過言ではありません。
形だけの制度は「現場職員の不満」の温床になる
制度を「要件を満たすためだけ」に整備してしまうと、現場では次のような不満が噴出します。
- 昇格や昇給につながらず、単なる負担増になっている。
- 評価の基準や結果が不透明で、納得できない。
- フィードバックが機能せず、職員のやる気が下がる。
こうした状況が続けば、制度はむしろ離職の原因になりかねません。
人事評価制度は「納得感のある仕組み」でなければ意味がなく、構築後も継続的な見直しが不可欠です。
それでは次の章から、保育園で「本当に役立つ」人事評価制度を作るための具体的なポイントについて解説していきます。
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人事評価制度は「等級・評価・賃金」の三位一体で考える
人事評価制度は「等級制度」「評価制度」「賃金制度」の3つを切り離して考えるのではなく、三位一体の仕組みとして設計することが重要です。
この3つがバラバラに運用されると「評価しても給与に反映されない」「昇格しても職務が曖昧」など不満の原因となります。それぞれの関係性について、(図表2:等級・評価・賃金の三位一体イメージ 「出典:執筆者作成」)でご確認ください。
図表2:等級・評価・賃金の三位一体イメージ
等級制度=キャリアの道筋を示す
職員にとって「自分には何が求められていて、どこまでキャリアを積めるのか」を見える化する役割を果たします。
評価制度=日々の頑張りを見える化する
努力や成果を客観的に評価することで、モチベーションの源泉となります。
賃金制度=処遇改善と公平性を両立させる
評価を賃金にどう反映させるかを明確化することで、公平感が生まれます。
等級表作成のポイント(保育園キャリアパスに即した設計)
等級制度はキャリアパスの基盤です。等級表を整備することで、職員は「次に求められる役割」が分かり、成長意欲につながります。
あくまでも一例ですが、子ども家庭庁のモデルを参考にすると、以下のような等級区分が考えられます。等級表は園ごとの規模や人員配置に応じてアレンジ可能ですが、「新人→担任→リーダー→副主任→主任→園長」という道筋を明示することで、職員は安心してキャリアを積むことができます。具体的な作成ポイントについては、(図表3:保育園の等級表のポイント 「出典:執筆者作成」)でご確認ください。
- 一般職3級:新人(新卒・経験浅い職員、補助的業務中心)
- 一般職2級:熟練者(クラス担任を持ち、一定の裁量で保育を担う)
- 一般職1級:職務分野別リーダー(行事準備、保護者対応、特定分野を主導)
- 指導職2級:副主任保育士、専門リーダー(園内の人材育成、複数クラスを横断的にサポート)
- 指導職1級:主任保育士(園全体の指導、園長補佐)
- 管理職:園長(経営とマネジメント全般を統括)
図表3:保育園の等級表のポイント
評価シート作成のポイント(納得感ある仕組み)
保育園の人事評価制度の中で最も重要なのが「評価シート」の設計です。
評価シートは、単に点数をつけるためのツールではなく、園の理念を日々の実践にどう反映させるかを可視化するための仕組みでもあります。
評価制度が「不満の温床」とならないようにするためには、評価の納得感を高めることに加え、園の理念や方針と職員一人ひとりの行動をつなぐ“共通のものさし”として設計することが重要です。
以下では、理念に基づく評価の考え方を含め、納得感を高めるためのポイントを解説していきます。
「納得感」を高める5つの原則
以下の原則を念頭に置きながら、評価制度や評価シートを実際に作成してゆくことが「納得感」につながります。シンプルに見やすくまとめた以下の(図表4:評価の納得感を高める5原則 「出典:執筆者作成」)もあわせてご参照ください。
- 評価軸の透明化
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職務ごとに求められる行動・役割責任を文書化して周知。
例:「保護者対応」「安全管理」「後輩指導」などを具体的に評価項目化。
主観を最小限に抑えることで不公平感を防ぐ。
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職務ごとに求められる行動・役割責任を文書化して周知。
- 評価プロセスのオープン化
- 自己評価を必ず導入(自分の努力を可視化できる)。
- 主任+園長の複数評価者制で、1人の主観に依存しない。
- 評価の根拠(エピソード・観察記録)を事前共有。
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フィードバックの質を高める
- 面談は、単に「評価の結果を伝える場」ではなく「育成の対話の場」に。
- 良かった点を具体的に伝え、改善点は次年度の目標と結びつける。
- 保育士は承認欲求が強いため、「感謝→成果→改善点」の順に伝えると受け入れられやすい。
- 面談時間は1人15〜20分を確保。
-
キャリアパスと連動させる
- 評価が昇格・昇給・賞与に確実につながるように制度設計。
- 「評価=給与査定」だけでなく「成長支援の仕組み」と理解してもらう。
-
公平性を担保する仕組み
- 年度初めに評価基準を説明会で周知し、資料を配布。
- 期中に中間面談を実施し、方向性のズレを修正。
- 苦情対応ルールを設け、園長判断のみで終わらせない仕組みを確立。
図表4:評価の納得感を高める5原則
法人理念の浸透を評価制度に結びつける
保育園における人事評価制度の目的は、単に処遇を決めることではなく、「園の理念を日々の保育実践に反映させること」です。
法人理念を形だけ掲げても、職員一人ひとりがその意味を理解し、行動に移せていなければ、園の方針は実現しません。
そこで重要なのが、「理念に基づく求める職員像」を明確化し、それを評価項目の中に落とし込むことです。
たとえば「思いやり」「報告・連絡・相談」「チームワーク」といったキーワードを設定し、それぞれに対応する具体的な行動例を職員自身の言葉で整理していくと、理念が日常の業務に根づいていきます。
さらに、面談時に上司と職員が対話を通して振り返ることで、理念が単なるスローガンではなく行動指針として機能するようになります。
こうした仕組みは、職員同士の価値観共有を促し、園全体に一体感を生み出します。
評価制度と理念浸透を連動させることが、結果的に「納得感のある評価」と「組織文化の醸成」の両立につながります。
よくある失敗例(注意すべき落とし穴)
評価制度の導入時に多く見られる失敗は、以下のようなケースです。
以下の失敗例をシンプルに見やすくまとめた(図表5:評価制度のよくある失敗例 「出典:執筆者作成」)もあわせてご参照ください。
失敗①:評価項目を詰め込みすぎる
-
「子ども対応」「保護者対応」「行事運営」「安全管理」など全てを細かくチェック項目化しすぎると、評価者が負担を感じ、形骸化しやすくなってしまいます。
→解決策:園の方針に沿って「特に重視する3〜5項目」に絞ることが大切です。
失敗②:給与や昇給に結びつかない
-
「評価はするけれど給与には反映されない」となると、職員は「結局形だけ」と感じてしまいます。
→解決策:評価は必ず賞与・昇給の一部にリンクさせる。少額でも反映させることが信頼につながります。
失敗③:フィードバックが一方通行
-
面談で「評価結果の通達」だけに終始すると、不満が溜まる原因に。
→解決策:双方向の「育成対話」として、本人の意見や自己評価をしっかり取り入れることが重要です。
失敗④:評価者の主観に依存
-
評価者の好みや相性によって評価が変動する事例が多いです。
→解決策:複数評価者制を導入し、客観性を担保することが不可欠です。
失敗⑤:制度を見直さない
-
制度導入後に放置すると、現場の変化に合わず、徐々に不満が増幅します。
→解決策:最低でも年1回は制度運用を振り返り、改善点を取り入れる仕組みを設けるべきです。
図表5:評価制度のよくある失敗例
専門社労士が関与するメリット(運用面も含む)
保育園の評価制度づくりにおいて、保育園専門社労士が関与することには以下のような大きなメリットがあります。
1. あいまいな評価基準を防ぐ(言語化の課題解決)
保育士の業務は「子どもとの関わり」「保護者対応」など、数値化が難しいものが多いです。
専門社労士が関与することで、経験に基づいた客観的な表現に整理し、評価基準のあいまいさを防ぐことができます。
2. 評価項目の漏れを防ぎ、網羅性を確保できる
他園や他業界の評価事例を知っている専門社労士が関与することで、「安全管理」「コンプライアンス」「チームワーク」など、現場だけでは見落とされがちな視点を補うことが可能です。
3. 職員参加型の制度づくりをサポート(ファシリテーター役)
専門社労士がファシリテーターとなり、意見交換の場を設けることで職員の声を制度に反映。
「自分たちでつくった制度」という実感を持てるため、導入後の定着率が高まります。
4. 運用段階での伴走支援
制度構築後も「ワークを交えた評価者研修」「評価者間の目線合わせ研修」など、豊富な実践サポートが可能です。単に制度を設計するだけでなく、実際に運用が始まってから「評価がぶれないように支援する」ことが専門社労士の強みです。初年度は特に評価者が迷いがちなので、研修や面談シナリオづくりをサポートすることでスムーズな定着につながります。
制度構築後の運用時の取り組みとして、誰に対してどんな研修等を行う必要があるかを以下(図表6:制度構築後の運用研修(弊社例) 「出典:執筆者作成」)でご案内しますのでご確認ください。
- 評価者への研修(評価の目的、方法、注意点等を共有)。
- 被評価者への研修(評価の目的、自己評価や目標設定の方法を説明する)。
- 評価の目線合わせ研修(評価者同士で評価の甘い辛いをすり合わせる)。
- 評価を賞与等の処遇へ反映させる方法研修(経営者、人事総務担当者)。
- 評価項目の見直し(経営者、園長、評価者)
図表6:制度構築後の運用研修(弊社例)
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賃金制度見直しのポイント
等級・評価と連動した昇給・賞与設計
一例として、以下にご紹介するような方法で、賞与や昇給の一部に評価結果を反映することで、「評価制度の形骸化」を防ぎ、職員のモチベーションアップを図ることが可能となります。
- 例えば、賞与は「基本給×一律〇ヶ月+評価反映分」とし、基本給×一律の支給率に加えて、評価結果が賞与に一部反映する「仕組み」にする。
- 年1回の昇給も「等級×評価結果」で一部を反映させて、勤続年数のみでの自動昇給を避ける。
例えば、評価反映部分としては、評価結果に応じて(図表7:昇給表サンプル 「出典:執筆者作成」)のようにシンプルに設定することも可能です。
図表7:昇給表サンプル
給与レンジの公開と説明責任
等級ごとの給与レンジ(上限&下限)を公開し、処遇が「評価と役割」によって決まることを職員に周知します。
また、給与レンジの設定方法の一例として(図表8:給与レンジとプロット図「出典:執筆者作成」)のように現状の各等級の賃金額をプロットしたものに、検討中の給与レンジをグラフで示しながら各等級のレンジ幅を調整すると全体のバランスにも配慮でき、同時に、課題点にも気付きやすいと思います。
図表8:給与レンジとプロット図
専門社労士によるサポート
給与制度の見直しについては、社労士の得意とする分野でもあります。
- すべての手当の精査を行った上で、手当の統廃合や基本給への組入れ等をご提案し、評価結果が適切に反映される給与制度とすることが可能です。また弊社では、トラブル防止の観点からも、各手当の精査は必ず給与制度見直し時に行うようにしております。
- 賃金規程改定の支援。規程の整備はキャリアパス要件クリアの必須事項です。制度の設計や見直しに携わった専門社労士が行うことで、制度の趣旨にあった適切な規程改定が可能です。
- 労務トラブル防止のための制度設計。給与に関するトラブルは非常に多く、厄介でもある為、制度設計+規程の整備で可能な限りの防止策をご提案します。
まとめ:キャリアパス要件を「現場で生きる制度」にするために
保育園のキャリアパス要件対応では、単なる「制度整備」ではなく、職員が納得感を持てる評価制度にすることが最大のポイントです。
評価制度は園の文化や方針を反映するものであり、「処遇改善加算を取るため」だけでなく、職員のモチベーションと定着を高めるための投資と捉える必要があります。
「キャリアパス要件=人事評価制度の構築」。
この視点を忘れずに、現場で本当に役立つ制度をつくっていきましょう。
補足:よくある質問(Q&A)
以下の質問は、子ども家庭庁のFAQをシンプルに要約したものです。詳細な質問と回答については、以下の(図表9:キャリアパス要件のFAQ 「出典:子ども家庭庁『処遇改善加算FAQ(第4版)』より執筆者作成」)をご確認ください。
Q1. キャリアパス要件に必要な研修はどの程度のものですか?
Q2. フィードバックは必ず5段階評価など数値化が必要ですか?
Q3. 資格取得支援はどこまでやればよいですか?
| Q | A |
|---|---|
| キャリアパス要件で必要となる「研修」は、どの程度のものであれば認められるのでしょうか。また、施設・事業所職員のフィードバックとはどのようなもので、どのような内容が必要でしょうか。 | 施設・事業所職員の職位、職務内容等に応じた研修(所長研修、主任保育士研修など職位に応じた研修、或いは職務内容に応じた研修など)を実施、又は研修の機会を確保していればよく、研修内容は、社会通念上、明らかに職員の研鑽目的でないものを除き、施設の実情に応じて取り組んでいれば認められるものになります。また、フィードバックについては、個別面談や、自己評価に対し施設長や管理職の職員等が評価を行うなどが考えられます。 施設・事業所の職員が業務や能力に対する自己評価をし、その認識が事業者全体の方向性でどのように認められているのかを確認し合うことが重要であり、この趣旨を踏まえて適切に運用されているのであれば、要件を満たしていると考えられます。 |
| キャリアパス要件で必要となる「フィードバック」について、「個別面談や、自己評価に対し施設長や管理職の職員等が評価を行う」とは、例えば、職員ごとに、A~Eなどの5段階評価を付けるなどの必要があるのでしょうか。 | フィードバックとは、研修や技術指導の効果が、職員の資質の向上に繋がっているかどうかについて、個別面談をするなどにより確認することでも足り、5段階評価等を行うことまでは求めません。 |
| キャリアパス要件で必要となる「資格取得のための支援」は、例示されている「研修受講のための勤務シフトの調整や休暇の付与、交通費、受講料等の費用負担の援助」の全てを満たす必要があるのでしょうか。 | 資格取得のための支援とは、幼稚園教諭免許状・保育士資格等の取得を促すためのものですが、必ずしも例示されている全ての取組を満たすこと想定しているものではありません。 |
出典:こども家庭庁 『 処遇改善加算FAQ(第4版)』より執筆者作成
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